デヴィッド・ビントレー芸術監督シーズン最終公演
新国立劇場バレエ団『パゴダの王子』リハーサルレポート&大澤裕舞台監督によるみどころ解説!
2011年、新国立劇場バレエ団にて世界初演の幕が開いたビントレー版『パゴダの王子』が、今年2月のバーミンガム・ロイヤルバレエ団での公演を経て再び新国立劇場に戻って参ります!
【リハーサルレポート】
王なき国を救う姫と王子のファンタジー!!
3組の
さくら姫&サラマンダー(王子)ペアのリハーサルに潜入。
まずは今年2月のバーミンガム公演での客演も大好評だったこちらのお二人!
小野絢子さん音楽が始まるとすっとその世界へ導いてくれる小野さんは可憐だけど芯が強い!
さくら姫のひとりぼっちのさみしさにキュ~ンとしてしまいました
小野絢子さん、福岡雄大さんビシッと決まって、
“鉄板” なペアです!
そして福岡さんはダイナミック!かなり間近で力強いダンスを見せてくださったのですが・・・申し訳ないです、あまりの迫力にカメラに収まり切らず・・・。
というわけで、こちらのショットを
続いてはこちらのペアも2011年に続いてのご出演!
米沢唯さん米沢さんの透明感が好きなのですが、それに加えて目が離せないような
心に迫りくる表現力で取材班の心鷲掴みでした
菅野英男さん、米沢唯さん兄妹の絆が
さわやか~に伝わるお二人です
菅野さんの溢れ出す王子オーラ。一挙手一投足がとてもノーブルなのです。
それだけに・・・サラマンダー姿がとっても楽しみ!
そして3組目は今回初役となるお二人!
全幕主役デビューとなる
奥田花純さん初役に挑むひた向きな姿がさくら姫のイメージとぴったり重なります!
意志の強さを感じる凛々しいさくら姫です
奥田花純さん、奥村康祐さんおとぎ話から抜け出てきたようなお二人にドキドキ
奥村さんはしなやかで優しい、少年っぽさのある王子!
フレッシュペアのキラメキ必見!
今回は主役ペアのお稽古を中心に拝見いたしましたが、連続して3組を見ると同じ振りなのにそれぞれ微妙に受ける印象が違うんです。
もちろんキャリアによる違いもあるのでしょうが、誰が正解ということはなく、ダンサーさんそれぞれの個性や表現があるんですね。
3人のさくら姫からは “儚げだけど芯が強い” “無垢な真っ直ぐさ” “意志の強さ” などそれぞれにハッとさせられました。
こうしてそれぞれのキャストを見比べたくなっていくのですね・・・笑。
デヴィッド・ビントレー芸術監督
そしてこの公演はビントレー氏が芸術監督として関わる最後の公演です。
きっとビントレー氏ご自身もバレエ団のみなさんも特別な思いを持っての公演となることでしょう。
そう思うと取材中もウルウルしてしまいました。
あっ、気が早すぎますね。
まずはさくら姫とサラマンダーのアドベンチャーにワクワクしましょう!
続いてはこの作品の立ち上げ時から携わっている
舞台監督・大澤裕さんの制作秘話、見どころ解説!
【舞台監督インタビュー】
さてここからは、この作品の立ち上げ時から携わっている舞台監督・大澤裕さんによる制作秘話&見どころ解説!(舞台写真提供:新国立劇場 2011年公演より)
舞台監督:大澤裕さん
-『パゴダの王子』2011年の公演は新制作、いわば
“世界初演”!何もないところから立ち上げる中でのご苦労もたくさんあったかと思います。
(過去にブリテンの音楽、異なる振付で上演されたことはありましたが、ビントレー版としては初演)
大澤)
確かにわれわれにとっては何もない状態でした。
でも、ビントレーさんの中では長い間構想を練っていた作品です。
その間、幾度も壁にぶつかっていたのが、日本で
歌川国芳の浮世絵に出会ったときに一気に解決したとプレゼンテーションのときにビントレーさんがお話されました。その世界観に “これだ!” とね。
そうして誕生したのがこの『パゴダの王子』です。
-日本が舞台となったのにはそういういきさつが!そうして制作が始まったのですね。具体的にはどのような形で動きだすのでしょうか。
大澤)
この作品の装置や衣裳のデザインは
レイ・スミスさんが手がけられておりますが、スミスさんとビントレーさんのお二人は話し合いを重ね、練りに練ったアイデアを持って日本に来られました。
たとえば衣裳に関しては、
古の日本が舞台ですので、衣裳は着物ということになります。着物でバレエです(笑)。
彼らの考えをくみ取りつつ、
時代考証はもちろん、素材も含め衣裳を作る方の立場、着付ける方の立場に立ったつもりで意見交換を重ねました。激しく踊ることもあるので着くずれなども考慮しないといけませんからね。ほかにもカツラや小道具など、お二人がどんどん僕らにアドバイスを求めてくれたので、
プランの最初の段階から一緒に会話をしながら歩むことができました。大変でもありましたが、非常にやりがいがありました。
小野絢子さん、福岡雄大さん
-そもそもこの作品はビントレー氏が率いる2つのカンパニー、新国立劇場バレエ団とバーミンガム・ロイヤルバレエ団の合作なんですよね。
大澤)
そうそう、合作を象徴するセットをご紹介しましょう。
舞台セットの中にずっとある
各景共通の額縁。それはイギリスの古いペン画家の手法を使ってレイさんがデザインしたものなのですが、その額縁の中で景によって転換していく部分はまさに
国芳の日本画的な表現なんです。
つまり
額縁はイギリスで中身は日本、それを同居させるというビントレーさんの試みに彼の日本への思いが表れているように感じました。
-ビントレーさんがおっしゃる「日本へのオマージュ」の表れのひとつですね。
大澤)
では、もうひとつ(笑)。
ビントレーさんは歌舞伎を愛する方ですので、この作品では
歌舞伎的手法も用いています。
幕の振りかぶせ、振り落としと呼ばれる手法で、ようするにバサッと幕が下りたり、そうかと思うとその幕が一気に落ちたりという歌舞伎ではおなじみの手法です。
一瞬のうちに場面が転換する、まるでどこかへワープするような感覚がしますよね。
この作品の中でも
2か所ほどこの手法を使っています。
-それはどこか・・・伺いたいところですが、本番で確かめます!
大澤)
どこで飛び出すか、お楽しみに(笑)。
-では、ここからはこの作品に登場するユニークなキャラクターたちのお話を聞かせてください。以前紹介映像を観て “タコ” のような女性に衝撃を受けました。
大澤)
タコ、いますよね。それぞれのキャラクターについては、
どういう振りにするのかというところから話が始まりました。
求めるイメージなどの話をもとに実際に衣裳が創られましたが、それらはそれぞれの身体にフィットした見事な出来栄えだと思います。そして、その出来上がった衣裳を着けて稽古をする中で、ビントレーさんが衣裳がこう動くなら、振りを変えようかな!なんてことも。そうやって一緒に試行錯誤しながらの制作体験はすごく勉強になりました。
そうして出来上がったのがあのキャラクターです。
-ほかに大澤監督のお気に入りのキャラクターはいますか。
大澤)
国芳の絵からそのまま飛び出してきたような
コミカルな妖怪たちですね。
平面の絵から3Dで飛び出して、しかも目が光ったりして(笑)。
ミニチュアにしてデスクに飾っておきたくなるくらいかわいいですよ。
国芳という人はユニークな絵を描かれた方ですが、これには
びっくりするだろうなぁ。ぜひ21世紀に招待して見ていただきたいくらいです!
妖怪たちもダンサーさんが演じます!
-ではここからは、『パゴダの王子』みどころ講座!!を開講いたします♪
ずばり作品の魅力は!
大澤)
初演、再演にかかわらずこの
作品の魅力は3つ挙げられます。
(本音を言えば、魅力はもっともっといっぱいあるんですが・笑)
その1)20世紀英国最高の作曲家ベンジャミン・ブリテンの音楽クラシックといえども
さまざまなジャンルの音楽をパッケージしている!
特に印象的なのはバリやジャワの民族音楽・
ガムラン的な音楽です。
ブリテンはそれを西洋の楽器で見事に表現、音楽ファンも必聴なのです。
また
全幕を通して、日本でも有数のオーケストラによって演奏されるということも音楽ファンにはたまらないのではないでしょうか。この作品に限らず、「白鳥の湖」や「眠れる森の美女」なども通しで演奏されるコンサートはまずないですからね。
その2)英国バレエの至宝デヴィッド・ビントレーの振付多様な音楽に合わせた振りも、
クラシックにとどまらずモダンやコンテンポラリー、そして僕らは
ビントレー節と呼ぶ、ビントレー氏独特の動きなどがどんどん展開していくダンス!そしてもちろん、
それを踊るダンサー!
その3)トニー賞(『War Horse』セット、衣裳、デッサン)オリビエ賞に輝くレイ・スミスによる装置・衣裳その音楽・ダンスに合わせて
舞台装置もどんどん変わっていきます。
舞台上が見える形でぐゎ~っと変わる
明転(⇔暗転)にもご期待ください!見える分だけわれわれ裏方は
ハラハラドキドキなんですけどね(笑)
おまけ)初めてバレエを見る方へ・・・ご存じのように、
バレエはセリフを発しない、歌も歌わない。そこに不自然さや不安を感じる方も多いかと思います。
でも、じっとダンサーの動きを見ていると
言葉がきこえてくるような感覚が生まれるんです。
オペラは字幕が出ますよね、でもそれを見ていたら舞台上の出来事を見逃してしまった!なんて経験ありませんか。
でも、バレエは
じっとダンサーを見て、音楽に身をゆだねていられるんです。
音楽にのってダンサーの身体が語り、そこに装置、照明、衣裳などが加わって・・・なかなかのものですよ!!
-見る人それぞれの感性で面白ポイントが見つかりそうですね!
楽しいお話をありがとうございました!
『パゴダの王子』2011年の公演の様子
【公演情報】
新国立劇場バレエ団『パゴダの王子』
2014年6月12日(金)~15日(日)
<スタッフ>
芸術監督・振付:デヴィッド・ビントレー
指揮:ポール・マーフィー
装置・衣裳:レイ・スミス
<あらすじ>
菊の王国の皇帝は息子の早すぎる死を嘆き、その悲しみから立ち直れない。
時は流れ、妹のさくら姫に4つの王国の王が求婚。さらに現れた5番目の求婚者は、
実は継母の呪いでサラマンダー(とかげ)に姿を変えられてしまった、さくら姫の兄であった。
さくら姫は様々な試練を受けながらもサラマンダーとともに
彼の王国パゴダにたどり着き、そこでサラマンダーが兄だと知る。
兄妹は力を合わせて王国を元の平和な地に戻そうとするが…。
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人
舞台写真提供:新国立劇場バレエ団