現代能楽集シリーズの記念すべき第10弾、
長田育恵 × 瀬戸山美咲のタッグが、
現代に生きる人々の幸福について描き出す!「今って、これまで散々描かれた大きな幸福論が脆くも崩れ去った世界に生きるような感覚」(長田)
「『幸福論』をアップデートできない人たちの話のような気がしています」(瀬戸山)
~長田育恵×瀬戸山美咲対談より~
撮影:ヤン・ブース
世田谷パブリックシアター芸術監督・野村萬斎が企画・監修を務める「現代能楽集」シリーズは、古典の知恵と洗練を現代に還元し、現在の私たちの舞台創造に活かしていきたいという考えから、生まれたシリーズです。
記念すべき第10弾となる今回は、近年、演劇賞を立て続けに受賞している、気鋭の劇作家/演出家・瀬戸山美咲と、たぐいまれな筆力をもつ劇作家・長田育恵により、今を生きる私たちのための現代演劇を創作。出演者6名は「道成寺」「隅田川」でそれぞれ異なる役を演じ、それぞれの幸福論を立ち上げます。
「道成寺」では、父・母・息子の幸福な家族がさらなる幸福を激しく求めた結果の悲劇を描き、「隅田川」では、運命的に出逢う3世代の女たちが、誰の目も届かない社会の片隅でありえるかもしれない物語が紡がれます。
現代に生きる人々の幸福とは何なのか。是非劇場でご体感ください。
【長田育恵×瀬戸山美咲対談】
──能狂言の謡曲を土台に現代演劇を立ち上げる「現代能楽集」。瀬戸山さんは、山伏への恋慕のあまり大蛇の姿となった娘を描く「道成寺」を、順風満帆な人生を送る青年を軸に、家族の物語として立ち上げるとか。瀬戸山 女の執念や激しい恋といった要素のある謡曲ですが、発端部分で娘に父が「毎年うちに寄宿しているあの山伏は、お前の夫になる男だ」と聞かされていた、という部分に着目しました。親から刷り込まれた幸せのイメージが不幸の始まりとも言えますし、それって現代でも十分あり得る感覚ですから。
──確かに “外側の価値観”に自分を合わせてしまった不幸と考えると、近代にもある病にも感じられます。長田さんは「隅田川」を選ばれました。旅路の果てに我が子の死を知る母の悲しさを描いた謡曲ですが、10代の少女、順調にキャリアを積む女性、老女、3世代の物語として紡がれるそうですね。長田 「隅田川」は旅の物語ですよね。旅から戻って日常に帰るけれど、以前とは景色が全く変化してしまう……これって深く理解できる感覚ですし、一つの答えにたどり着いて、再び自分の世界に帰っていく部分に心惹かれました。女が舟の渡し守に「面白く狂わなければ乗せない」と言われる場面も印象的。やりたくてやるのではなく、試練の中に何かを発見していく姿も、よく考えると普遍的だと思いました。
──お二人とも女性が主人公(シテ)の謡曲を選択されましたが、現代的でリアルな葛藤を持つ人間の姿が浮かび上がりそうです。今回、長田さんの戯曲は瀬戸山さんが演出です。長田 これは今、初めて言うんですけど……瀬戸山さんが演出されることを意識し、自分の中で一つ、大きな挑戦があるんです。一人の女性の、極私的な小宇宙を書きたいと思っていて。これまで私が描いてきた戯曲は、物語や、全体を貫くテーマが先にあり、その中で登場人物たちが役割を果たしていくような構成が多かった。でも今回は、一人の人間を中心に据えて、主人公のパーソナルな関係性を見つめて書いていく作業になりそう。
瀬戸山 私の興味の中心は「人間が二人いたらどんな力学が働くか」なので、いつも四畳半で描けちゃう世界(笑)。長田さんは一瞬で違う景色が思い浮かぶような壮大な世界を描く作家ですから、極私的であっても、やっぱり「小宇宙」なんだろうな……と期待が高まります。
長田 瀬戸山さんは演出家でもあるから、「俳優が二人いれば物語が生まれる」というリアルな手応えがあるんでしょうね。
──タイトルには「幸福論」と謳われています。瀬戸山 「論」と言うほど、大きく構えたことを言うつもりはないんですけれど(笑)。
長田 打ち合わせで「どの人物も幸福を探しているんだよね」って盛り上がったんですよね(笑)。私たちが悩まされているコロナ禍は、さまざまな分断を生みました。例えば「新しい生活様式」にすぐ対応できる人と、取りこぼされる人たち、つまり変化に対応できない人たちが、ますます声を上げられなくなってしまった。今回私が書く物語は、そんな彼らの「幸福論」になりそうな気がしています。今って、これまで散々描かれた大きな幸福論が脆くも崩れ去った世界に生きるような感覚。じゃあ自分が心から信じられるものってどれくらい残っているんだろう?と考えると、それはものすごく小さいものかもしれない。そんな一人ひとりの「小さな幸福論」を見つける旅を描けたらと思っています。
瀬戸山 多分、私が書く物語は、物質的には豊かで「ある幸福」は体現しているけれど、「幸福論」をアップデートできない人たちの話のような気がしています。イメージとしてはシニカルで笑える作品になればいいな、と。その後、お客様には、長田さんの作品で人間の内面にグッと潜ってもらう。演出家としては、そんなコントラストを生み出せたらと考えています。
この記事は公演主催者の情報提供によりおけぴネットが作成しました