【井上ひさし×栗山民也×野村萬斎!】
悪党、だけど魅力的。
“見えない” けれど
“見える” 江戸の町。
井上ひさしさんが生み出した
異色作にして
最高傑作のひとつとも評される
『藪原検校』。
生まれながらに悪の宿命を背負った盲目の少年が悪事を重ね、ついには江戸時代の盲人の最高地位・検校にまで上り詰めていく「悪の一代記」に、
野村萬斎さんが再び挑みます!
盲目で生まれた杉の市は、盗みや脅しは当たり前、ついには人を殺めてしまう。
殺し殺してまた殺し、その手を血に塗れさせ、悪の限りを尽くしながら、
己の身と金の力を頼りに、盲人社会の最高位である検校にまで登りつめる。
東北の地から江戸へと流れてきた少年は、運命の大きな流れに流される―。
二代目藪原検校の、その悪行三昧、闇の世界の一代記。
「来世は目明きに 生まれてくるぜ。そうして、おっかさんの顔をしみじみと拝ませてもらわあ。」
(劇場公式サイト/チラシより)稀代の大悪党でありながら、どこか愛嬌があり憎めない主人公・
杉の市。
能楽・狂言師でもある野村萬斎さんの飄々とした魅力と、井上戯曲との相性がぴったりです。
陰惨なストーリー展開ながら、どこかユーモラスで楽しい雰囲気すら漂ってくる井上戯曲×野村萬斎の出会いは、演劇ファン必見の組み合わせ!
この日まず拝見したのは、杉の市が故郷・塩釜を離れ、江戸を目指す道中で出会った旅人に手をかける場面。
目の見えない杉の市が旅人のふところを探るしぐさは、まるで人形芝居のような印象です。
どこから見ても、誰が見ても、わかりやすく伝わる【型】がきっちりとキマっていて、気持ちがいい!
読み物としても楽しめる井上作品の圧倒的なおもしろさ。
その魅力を体現するには確かな芸が必要なことを改めて感じさせるひと場面でした。
それと同時に、わかりやすく飄々とした動きのなかで時折ぎらっと暗く光るものを感じさせるのは、俳優・野村萬斎さんのもうひとつの魅力でしょうか。
型がしっかりとあるからこそ伝わる、杉の市の残酷さと愛嬌…。
これはぜひ劇場でお確かめください!
【耳で楽しむ「江戸見物」】
写真中央は物語の語り手・盲太夫役の山西惇さん。
この日の稽古場で印象的だったのは、杉の市をはじめとした “目が見えない” 登場人物たちが “見ている世界” を表現する、俳優たちの
「声」。
日本橋に到着した杉の市が出会うのは、「江戸っ子たちの話し声」「魚売りの声」「罪人の呻き」「鐘の音」…。
声、声、声で構成される江戸の町。
それはまさに
「耳で楽しむ江戸見物」のよう!
音楽はギター奏者・千葉伸彦さんによる生演奏。
江戸の町にしっくりとくるその音色も芝居の一部です。
杉の市が阿武隈川を渡る場面でうたわれる舟唄も、アクセントのつけ方や動きのひとつひとつまで、作品の時代背景に沿ってこまかく指導が入ります(振付は田井中智子さん、歌唱指導は伊藤和美さん)。
演出の栗山民也さんを中心に、スタッフ、キャストそれぞれが自分の力を出しきる様子に、この作品のクオリティの高さを保証されたような気がしたおけぴスタッフ。
演劇でしか体感できない何かが、確かに稽古場にありました。
演出中の栗山民也さん。
【むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく】
ところでみなさま。
この作品のタイトル
『藪原検校(やぶはらけんぎょう)』、そして主人公の名前
「杉の市(すぎのいち)」、そのほか作中に登場する
「勾当」「座頭」といった、当時の盲人社会に存在した位をあらわす名称の意味、ご存知でしたでしょうか?
「検校ってなに?」「座頭って?」
聞きなれない言葉かもしれませんが、大丈夫です。
「検校」とは、当時の盲人社会の最高位のこと。
そして「座頭」は…、おっとこれ以上の説明は、物語の語り手・
盲太夫(
山西惇さん)にまかせましょう。
ときにナレーターの役割を、ときには芝居の登場人物を、そしてときには物語へのツッコミ役(!)を務める
盲太夫。
その見事な語りっぷりで、物語の背景にある当時の盲人社会の仕組や、生活ぶりなどが、無理なくすっと頭に入ってくるんです。
その上で見えてくるのは、極悪人でありながら、あくまでも社会の仕組みのなかで出世していく杉の市の姿。
盲人社会の頂点にまで上り詰める彼の姿になにを感じるか?
井上ひさしさんが観客にのこした、問いかけなのかもしれません。
主人公の「運命の鍵」を握る女・お市役の中越典子さん。
出演はほかに、杉の市と心をかよわす
“正義の人” 「塙 保己市(はなわ ほきいち)」役に
こまつ座の辻萬長さん。
杉の市の運命を変える女性「お市」役に、井上作品初登場の
中越典子さん。
さらに
大鷹明良さん、
酒向芳さん、
春海四方さん、
明星真由美さん、
家塚敦子さん、
山﨑薫さんら実力派キャストがさまざまな登場人物に扮します。
盲目に生まれ、差別を受けながらも、己の才覚と “悪の素質” を武器に這い上がった杉の市の生涯。
悪の限りを尽くしながら、どこか憎めないその生き様に込められたメッセージとは?
おもしろくて、ぞっとして、笑って、愕然とする
『藪原検校』。
ぜひ劇場で、井上ひさし作品の最高峰をお楽しみくださいませ!
写真提供:こまつ座/世田谷パブリックシアター
撮影:熊切大輔
おけぴ取材班:mamiko 監修:おけぴ管理人