BTLive「エンターテイナー」×新国立劇場演劇7月『怒りをこめてふり返れ』 ~翻訳家 水谷八也さん〈ジョン・オズボーン〉を語る~トークショーレポート

 BTLive『エンターテイナー』(ジョン・オズボーン作)にて、新国立劇場とのコラボレーションイベント~翻訳家 水谷八也さん〈ジョン・オズボーン〉を語る~トークショーが行われました。というのも…新国立劇場7月公演は、同じオズボーン作の『怒りをこめてふり返れ』、その翻訳を手掛けられるのも水谷さんなのです。

 「怒れる若者たち」のムーブメントを起こした問題作!気になるけれど、どんな作品かわからないなぁ。そんなときは、知っている方のお話をうかがうのが一番。それを実感するトークショーをレポートいたします。


水谷八也さん


【2つのジョン・オズボーン作品~イントロダクション~】


この日、上演されたのが『エンターテイナー』(初演1957年)
 第二次大戦後のイギリスを舞台に、古びたミュージックホールであらわにされるライス一家の興味深い人間関係を、ケネス・ブラナーを主演に迎えて描く。

新国立劇場7月公演は『怒りをこめてふり返れ』(初演1956年)
 かつての栄光が陰り国際的にも経済的にも低迷していた50年代の大英帝国への焦燥、不満、怒りをぶちまける姿が観客を挑発し、「怒れる若者たち」という呼び名で社会現象を起こした作品。それまでの英国演劇では取り上げられなかった、労働者階級社会を初めて描いたといわれています。


【若く生意気な作家~英国演劇界に衝撃をもたらしたオズボーン~】


 英国演劇界は、大きくオズボーン登場の前と後に分けられるといっても過言ではないほどの衝撃をもたらした、若く生意気な作家ジョン・オズボーンの代表作『怒りをこめてふり返れ』が初演されたのは1956年。




水谷)
 イギリスはご存知のように階級が明確にあります。オズボーンは、いわゆる労働者階級の出身。それまではいわゆる客間劇、お芝居で扱われているのは上流階級ばかりでした。ノエル・カワードやテレンス・ラティガンの作品のように、「この人たちはどうやって生活をしているのだろう」、つまり働かない人たちのお話が描かれていました。

 それに対してオズボーンはそんな生活とは無縁の人。当然、彼の芝居も、全く毛色の違うものとなりました。

 『怒りをこめてふり返れ』は、イギリスの中部の小さな都市を舞台に、ひと組の夫婦、ジミーとアリソン、そして同じアパートに住むクリフという人物が登場します。アリソンは中産階級、ジミーは労働者階級の出身です。劇中で、ジミーはアリソンを四六時中罵るんですよ。当然、品のない言葉使いで。

 ただ、すべてを罵っているわけではなく、希望もあります。『怒り…』ではジミーが、『エンターテイナー』では主人公の娘ジーンが、貧しく無教養な人物を見捨てない。それは同情でもなく、なんていうか、豊かさや幸せの基準にもなるような何かがあるんです。また、『エンターテイナー』でのミュージックホールのような、廃れゆく文化の重要性も説いているんです。古いものを壊そうとしながら、その中にものすごく自分が信頼できるものもある、相反する二つが共存する複雑性もあるのがオズボーン作品です。



【現代演劇の面白さ~持ち帰るもののある演劇~】


 『エンターテイナー』の上映で、まず感じたのはセリフの応酬。言葉の洪水に飲み込まれたような感覚でした。それについてもお話が!

水谷)
 本を読んだだけではわからなかったのですが、舞台映像を見てわかったことがあります。あんなにお酒を飲んでいたんですね。膨大なセリフ、そして怒りはつまり酔いに任せていたということです。

 そして、人は論理立てて怒らない。火花のように様々な方向に怒りが出てくるものです。そのひとつひとつを論理で分かろうとはしないほうが良いということです。すべてトータルで何を感じるか。特に現代演劇では、答えは提示しません。問題を提示するのです。
 オズボーンがやったことは、そういうことなんだと思います。


司会)
 ひとつの作品を見て、帰る道々、その作品について言葉を交わす。起承転結がはっきりしたものより、その後の議論の甲斐があり、そうしなければ作品が完結しない。それが現代劇の魅力でもあります。持ち帰るもののある演劇です。

水谷)
 その“問い”ですが、『怒りをこめてふり返れ』で彼らが怒っていたのは何なのか。それは、今も成立する問いなのです。現代においても、何か必ずこちらの心の中をノックするもの。それが古典の強さなのです。なので、オズボーンの作品は、若い人たちがいる限り成立する芝居。若い人にとって必ず響くもがあると思います。若者が既成の体制に対する不満をぶつける、大人たちに不平不満を持つ。これは普遍的に繰り返され、だからこそこの作品が常に上演されているのでしょう。



【社会性の高さ~50年代のイギリス、現代のイギリス、そして日本~】


なぜ今、ケネス・ブラナーがオズボーン作品を上演しようとしたか。



水谷)
 時代が働きかけたといえるのではないでしょうか。『エンターテイナー』初演は1957年、前年にスエズ動乱があり、イギリスは決定的にヨーロッパ列強から脱落。大英帝国の斜陽のなかで書かれた作品です。

 昨年はイギリスのEU離脱が国民投票で決まりました。それも、なんだかよくわからないうちに決まり、これからどうなっていくのかわからない。そんな時代背景は似ています。

 そして、日本でも同じようなことが起こっているのではないか。熱い議論の果てにたどりついた結論ではなく、どこか無気力無関心なうちに、多くの大切なことがらが粛々と決まっていく。

 オズボーン作品がもつ怒りは、そんな世の中への怒りに通じるものがあります。


 今年、日本で『怒りをこめてふり返れ』が上演されることにも、大きな意味がありそうですね。


【おまけエピソード~駆け出しの作家のもとを訪れた大物~】


 映画『エンターテイナー』にて主人公アーチを演じたのは、ローレンス・オリヴィエ。それに至るまでのエピソードも大変興味深いものでした。

水谷)
 『怒りをこめてふり返れ』初演をシェイクスピア劇の大御所、国宝級ともいえる俳優のローレンス・オリヴィエが観に行ったのです。初めて見たときは、こういう芝居か、という程度だったのですが、2度目に見たときには、オリヴィエは作品を気に入り、楽屋にいるオズボーンのもとを訪ね、彼の作品への出演を申し出たんです。ちなみに、その時は、評判を聞きつけてやってきた『セールスマンの死』のアーサー・ミラーに誘われて当時のミラーの妻マリリン・モンローとともに観に行ったという!!
(まず、それがスゴイ!)

 その時に、1幕まで描き終えていたのが『エンターテイナー』。こうして駆け出しの生意気な作家の作品に、オリヴィエが出演することになるのですが、さらに衝撃的なのは、そこで演じるのはイギリスの斜陽を象徴するアーチという人物。国宝級の役者がそんな役をやるというのはものすごいことだったんですよ。






 ブラナー・シアター・ライブ、多くの再演希望に応え、新たに公開が決定!(上映館・日程は下記のとおり)
 世界最高峰の才能が集結した本格舞台を、日本に居ながらお近くの映画館でご体験できるチャンスです。

【上映劇場及び上映日】

シネ・リーブル池袋
『ロミオとジュリエット』:2017年1月7日(土)~2017年1月13日(金)

YEBISU GARDEN CINEMA
2017年2月25日(土)〜2017年3月10日(金)に『冬物語』と『ロミオとジュリエット』を上映
(※各作品の上映スケジュール詳細は劇場にお問い合わせください)

名演小劇場
『冬物語』:2017年2月4日(土)~2017年2月10日(金)
『ロミオとジュリエット』:2017年2月18日(日)~2017年2月24日(金)

静岡シネギャラリー
ケネス・ブラナー・シアター・カンパニーが贈る英国大ヒット舞台、待望のアンコール決定!
ブラナー・シアター・ライブ<今後の上映のご案内>
『冬物語』:2017年2月20日(月)~2月25日(土)
連日13:00〜
『ロミオとジュリエット』:2017年2月26日(日)~2017年3月3日(金)連日13:00〜

BTLive HP(本国)
BTLive HP(日本)
BTLive Twitter

【BTLive ラインナップ】

『冬物語』
作:ウィリアム・シェイクスピア
出演:ジュディ・デンチ
演出:ロブ・アッシュフォード、ケネス・ブラナー
ストーリー:
時代を超えて親しまれるシェイクスピアによる強迫観念、贖罪にまつわる悲喜劇を、トニー賞とエミー賞の受賞振付家ロブ・アシュフォードとアカデミー賞ノミネート俳優ケネス・ブラナーが新たな息吹を吹き込んだ。アカデミー賞助演女優賞の受賞歴をもつジュディ・デンチがポーリーナを演じ、ケネス・ブラナーが嫉妬と怒り、そして贖罪に苦しむリオンディーズを演じている。

『ロミオとジュリエット』
作:ウィリアム・シェイクスピア
出演:リリー・ジェームズ、リチャード・マッデン
演出:ケネス・ブラナー
ストーリー:
大ヒット映画「シンデレラ」で主役シンデレラを演じたリリー・ジェームズと王子を演じたリチャード・マッデンが、世界で最も有名な悲恋ドラマで再び共演。トニー賞受賞俳優デレク・ジャコビがロミオの友人マキューシオを演じ、本格的な舞台作として脇を固めている。
【公演情報】
JAPAN MEETS…-現代劇の系譜をひもとく-XII
新国立劇場『怒りをこめてふり返れ』
2017年7月12日(水)~30日(日)@新国立劇場 小劇場

<スタッフ>
作:ジョン・オズボーン
翻訳:水谷八也
演出:千葉哲也

<キャスト>
中村倫也 中村ゆり 浅利陽介 三津谷葉子 真那胡敬二

公演HPはこちらから

おけぴ取材班:chiaki(撮影・取材・文) 監修:おけぴ管理人

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