2016年、旗揚げから10周年を迎えた劇団「柿喰う客」。
昨秋に募集した新メンバー6名を加え、13名となった新生・柿喰う客による新作本公演『虚仮威(こけおどし)』。三重、仙台での公演を経て、ついに始まる東京公演を前に作・演出を手がける、劇団代表の中屋敷法仁さんにお話をうかがいました。
村を支配する地主の一族が、突如あらわれた未知なる生命体とともに、戦中戦後の動乱を駆け抜ける!?【演劇界に対してどれくらいの“虚仮威”ができているか】
──では、早速、10周年記念の新作が『虚仮威』。そのココロは? 「10周年を迎えました」「メンバーも増えました」「10万人動員宣言」…劇団のこういったメッセージは、みんな虚仮威なんじゃないかなと(笑)。僕らは演劇の思想家の集団なので、“このタイトルの戯曲”をやるのではなく、演劇はかくあるべきというようなマニフェストでタイトルを決めるところがあります。
それを“集大成”とか、そういう言葉でくくるとダサいなと思って(笑)。僕らが、演劇界に対してどれくらいの“虚仮威”ができているかを描きました。
そうなってくると、お客様も、そこにある真実を観にいくようで、どこかで、どうせこいつらは言っているだけだろう、中身なんてないんじゃないか、というシニカルな視点も生まれるのかなと。──どのようなお話になりますか。 ファンタジーです。舞台となるのは大正時代の日本、東北地方。明治から大正にかけて、文明開化・戦争景気・大正デモクラシー、日本が最高に虚仮威だった時代じゃないかな。「これから時代が変わっていく!」「ハイカラだ!」「モダンだ!」と言って、ダンスを踊れないのにダンスホールを作ったり、同時に、部落解放運動、婦人解放運動、社会主義運動などさまざまな運動が起こった時代でもあります。 ──とはいえ、届いた舞台写真と大正時代がどうにも結びつかず(笑)、そこにも興味がわきます。 大正時代の話をやるからといって、大正時代の風景を模写するのではないんです。スタイリッシュな舞台と音楽、テーマもそうなんです。僕らから見た100年前の世界、当時の人は最先端だと思っていることが、僕らから見てどうか。なるほどと思うこともありますし、セクシャリティや外見至上主義、現代では当然のことがそうでない時代、それらをどう見せるか。
10周年に100年前の日本を描いてみることにワクワクする、そうやって始まる演劇の世界、心地よい亜空間にみなさんを誘おうと思っています。それが演劇の力だと思うんです。──柿喰う客の作品は、演劇の虚構性を打ち出していますが、気が付くと、今の、私たち自身の物語だと感じることが多いです。それも演劇の力なんですね。 ファンタジーはリアリズムと相反するようで、実は親和性が高いんです。「アリス・イン・ワンダーランド」も日常生活から出発していますし、「ピーターパン」も、いきなりネバーランドだったらファンタジーにならないですよね。『虚仮威』も100年前の話と現在が交錯する構成になっているので、そのことが劇場で引き起こす演劇効果を考えています。──10周年に虚仮威す。なんだかますます興味がわいてきました。 現代では、現実社会の厳しさがものすごいスピードで襲ってきます。物事を暴く力が強すぎて、ハッタリをかますこともできない。嘘でもいいじゃん、むしろ、嘘でいてほしいってところもあるんじゃないかな。“虚仮威”というのはネガティブな言葉ですが、でも、どこかに虚仮威したい気持ちがあるんです。それが夢を抱くことになるような。──公演に話を戻しますと、三重、仙台公演を経て、いよいよ東京公演ですね。 この作品には、神様や妖怪が出てきます。伊勢神宮があり神様を身近に感じるであろう三重と、僕の出身地でもあり、遠野が近く、妖怪がいそうな東北でやってきて、次が東京です。東京には神様や妖怪の匂いは感じませんよね。もしかしたら、居るのに鳴りを潜めている?その意味では、地域性より個人の価値観がぶつかり合っているであろう東京の反応が楽しみでもあり、怖くもあります。
でも、決して閉じた表現ではないんです。それぞれの中に眠っている神や異形のものへの価値観、社会への不信感でもいい。お客様の思想でどうぞという作品、どこに行っても届く表現だと信じています。 【不信感や猜疑心の行き着くところは、お客様との一体感】
──中屋敷さんの創作のインスピレーションはどこから。 猜疑心と不信感だと思っています。日常生活を送る上では、その2つはネガティブに作用しますが、こと演劇表現、アートに関してはそれがすべて。本当にこの椅子って、椅子かな。みんながあたり前のようにコーヒーを飲んでいるけど、これって本当においしいのかなとか。もしかしたらみんなが飲んでいるから飲んでいるだけなのかとか。前作の『天邪鬼(あまのじゃく)』も近いテーマの作品でしたが、みんなが当たり前だと思っているものが実は当たり前じゃなかったり、みんなが嘘だと思っているものの中に真実が潜んでいたり。そういう風に考えています。──それは演劇創作だけでなく、社会を見る上でも? はい、自分たちを見るときも、ほかを見るときも。敬意を持った不信感です(笑)。
きっとこの不信感や猜疑心の行き着くところは、ちょっと自分で言うと恥ずかしいですが、お客様との一体感につながると思うんです。そうだよね、みんなやっぱりそこまで信じられないよね、そのぐらいでいいんだよねって。
劇場空間で、お客様との共犯関係で生まれている心地よいセッション。お互いのイマジネーションで出会う、僕らはそれを目指しています。──イマジネーションというのも創作のキーワードですね。 創作に際しては、演劇でしか許されない、演劇であるべき表現でなくてはならないと思っています。たとえば宝塚は女性が男性役をやることを互いに受け入れ、能・歌舞伎では年配の能楽師、俳優、つまりおじいちゃんが少女を演じるんです。そんなふうに、俳優のアクティングエイジやアクティングセックスに関係ない虚構の世界に飛び込みたい。お客様をどんどんイマジネーションの世界に引きずり込みたい。そのためにお客さんの価値観を探っていくんです。──中屋敷さんが思う、小劇場の魅力は。 これは劇場の大小にかかわりませんが、劇場空間だから成立する、共犯関係。内輪受けじゃなく、今、この空間だから成立するものを感じてほしいですね。毎日、同じパフォーマンスができるほうが強いと思われがちですが、僕は、今日と明日で変化できるほうが強いと思います。天気も湿度もお客様も違うんだから、そこから何かを受け取って変わらないと。
だから、いつでもお客様の顔色をうかがいながらやっています(笑)。学生が来たなと思ったら、ご飯を大盛りにする定食屋のおばちゃんみたいになれたらいいな。小劇場はお客様との距離が近い。実演家として、そこにアジャストしていかないと!──それを続けてきた10年ですか。 劇団として、10年経っても作品について疑える関係。面白いかつまらないかの二元論ではなく、演劇って何だっけ?というところにいつでも帰れたらいいなと思ってやってきました。そうすると、やればやるほど探求心が出てくるんです。
柿喰う客のメソッド、こういう方式でやりましょうということ、それを1年後に淘汰するべくやり続ける。去年の『天邪鬼』を最高傑作だなと思った時に、じゃあ1年後にこれを超えないといけない。革新、更新を止めてはいけないと思っています。
話は変わりますが、宝塚とかすごい変化していると思うんですよね。決して懐古主義じゃない。『仁』を見たとき、こんなにお客様にとってたまらない舞台があるんだと思ったんですよね。もっと泣かせるのかと思っていたのを裏切られました。遊女も町火消しも新撰組も坂本龍馬も出てくる、見たい衣裳が全部見られるんですよね(笑)。ただヒットしたドラマやマンガをやるのではなく、そこに宝塚的なショーの魅力も入れ込む。そうそう、オープニングは白衣ですし、革新だな~。──宝塚もご覧になるんですね。ちょっと意外です。 最近は観に行けていないのですが、観なくてもどういう演目にチャレンジしているのかを必ずチェックしています。『ルパン三世』とかもやっちゃいますしね。観たことがない人が考えている“宝塚ってこんなんじゃないかな”という予想を大体超えてきますからね。常に新しいものに挑戦していて、まさに伝統と革新ですよね。【演劇界はこれからどこへいくのか…、僕らはそんな時代を軽やかに生きたい】
──これからの柿喰う客、中屋敷さんは。 お客様にとって、たまらなく必要とされる作品を作っていきたいですね。観なきゃ、観ないでいいではなく、誰かがどうしても必要としてくれるような。宝塚ってもしかしてそういうところがあるのかな。
劇団というものにとって、難しい時代かもしれませんが、僕らがダメだと言っているわけにはいけないと思っています。演劇表現のたすきは紡いでいかないといけない。僕らの後に演劇が残るように。だって僕らがこれまで続いてきた演劇の歴史の中で生きているんですから。だから、一喜一憂してはいられない、強い信念を持ち、新しい表現、お客様に出会っていかなくてはならないと思っています。──演劇の歴史といえば、2.5次元系という新しいジャンルも登場しました。先日、中屋敷さんが脚本を担当された『ハイキュー‼』も拝見しましたが、面白いですね! 面白いですよね、そして大変(笑)。演劇的な表現をどれだけ更新できるかに挑戦していますよね。前やったことはやらないとか。現場ではみんな大変なんです。──本当にハイパー! さぁ、これから演劇はどこへ向かっていくのでしょうか。 僕が演出をした『黒子のバスケ』では映像は使わなかったんです。そして、ボールを使った。そうしたら「すごいビックリしました」という反応があったんです。そうか!今や映像を使わないほうがびっくりするんだ。本物のボールを使ってパスしている方が不思議なんだって。ミュージカル『テニスの王子様』が誕生したのが2003年、あれから始まって、僕らが思う演劇の常識非常識はどんどん変わっていることを実感しました。
そういうことも含め、技術革新、伝統の強さ、演劇界はこれからどこへいくのか…、これはとても愉快な時期に差し掛かっているのかな。僕らはそんな時代を軽やかに生きられる劇団でありたいと思っています。──ありがとうございました!今年は10周年、そして1月1日からは11周年に突入、これからも私たちを圧倒的虚構の劇空間へ誘ってください!!
舞台写真提供:柿喰う客
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人