劇団青年座『わが兄の弟 ―贋作アントン・チェーホフ傳―』観劇レポート

マキノノゾミ(作)×宮田慶子(演出)コンビ最新作は
チェーホフの「…だったかもしれない」青春時代に迫る“贋作アントン・チェーホフ傳”!




三人姉妹、ならぬチェーホフ家の三人兄弟!(正確には三人、ではありませんが…)
写真中央:三男ながら家長として家族を支えるアントン(アントーシャ)役の横堀悦男さん
写真左:酒に溺れる画家・次兄ニコライ(コーリャ)役の大家仁志さん
写真右:夫のいる女性と事実婚状態の長兄アレクサンドル(サーシャ)役の石母田史朗さん



 与謝野晶子(『MOTHER』)、寺田寅彦(『フユヒコ』)、小説「坊っちゃん」の登場人物(『赤シャツ』)、老舗ホテルに集まる人々(『横浜短編ホテル』)に続いて、青年座×マキノノゾミのタッグが取り上げる人物は…ロシアを代表する作家、劇作家の【アントン・チェーホフ】

 『かもめ』『ワーニャ伯父さん』『三人姉妹』『桜の園』…演劇ファンならきっと一度は触れたことのあるチェーホフ作品の数々ですが、今回の舞台で描かれるのはこの傑作群を生み出す“前”、チェーホフがまだ何者でもなかった青春時代から、謎のサハリン行(※)の時期までに“あったかもしれない”エピソード(だから“贋作”♪)。

※チェーホフ30歳のときに、誰にも理由を告げず出発したシベリア・サハリンへの取材旅行のこと。病を押してまで出かけた理由はいまも謎のまま。その後、ルポルタージュ作品の先駆けともいわれる『シベリアへの旅』『サハリン島』が書かれました。


 商業演劇の大作から新劇、小劇場作品、音楽劇まで幅広く手がけるマキノノゾミさんの「作家としての真心」が、アントン・チェーホフの姿と重なるような気がした観劇体験!

 劇団青年座 第226回公演『わが兄の弟 ―贋作アントン・チェーホフ傳―』観劇レポートを、舞台写真とおけぴ会員のみなさまの感想コメントとともにお届けいたします。

(以下、◆太字はおけぴ会員から届いた感想コメント)



医師、そして作家として地位を固めつつあったチェーホフが、突然たった1人で流刑地サハリンへと旅立ったのはいったいなぜだったのか。
ひとつの文学的謎が“芸術家の苦悩”を絡めて描かれます。



面白かった!
チェーホフの20歳から謎のサハリン行までを描いた芝居。
題名からも分かるように半分はマキノさんの創作です。
とにかくチェーホフが魅力的。
純情で、冷静で、ひたむきで、がむしゃらで、我慢強い。
でも冷めている。
彼はなぜ一歩引いた目で世の中を見ていたのか、
彼が得られなかったものは何なのか、終演後にそこを考えると胸が痛みます。
素晴らしい脚本でした。
演じる役者さんもたいそう魅力的。
チェーホフを演じた横堀さんのチャーミングなこと。オススメです。




20歳の誕生日に“恋に落ちた(?)”アントンと、年上の女性ニーナ(安藤瞳さん)。
“ニーナ”といえば、そうおわかりですね? このほかにも「あ、この名前! このエピソード!!」とチェーホフ作品を思わせる設定が随所に登場。
知っている人は小さく頷き、知らない人はきっとチェーホフ作品を読んで、観てみたくなるはずです♪
 


1880年代のロシアが舞台のお芝居なので、当時の政治背景が理解出来ると更に深くお芝居に感情移入出来るかも。
日々の暮らしに政治が大きく反映されている為、刹那的な生き方をしている人が多かったのかと感じた。
最初と最後にだけ出てくるニーナが印象的。




「結婚、愛とは?」「芸術とは?」
アントンが持っていないものを追い求めるふたりの兄。
特に次兄コーリャとの関係は「本物の芸術家とは何か」という問いかけを観客に、そしてもしかしたらこの戯曲を書いたマキノノゾミさん本人にも突きつけているようです。



若きアントンの10年に及ぶ燻る恋を、家族との関わりの中で描くフィクション。
医師として作家として既に名声を手に入れたクールなアントンは、もはや完成された存在。
足掻いて悩み苦しんで生きる周りの人物達のほうがよっぽど魅力的。
チェーホフ作品の人物劇場を彷彿とさせる佳作。




モスクワを離れ、郊外の美しい自然のなかで夏を過ごすアントンたち。
いかにも“チェーホフっぽい!”設定、舞台装置、照明…そのなかで描かれるアントン・チェーホフ本人の姿。
「演劇だからできる表現」を堪能できます。



チェーホフ四大戯曲のうち、三作品は観たことがあるが、今一つ掴みきれないもどかしさを感じたままでした。
今回、チェーホフの人間性に触れるような演出はさすがに宮田慶子さんだなと感じ入りました。いとおしささえ感じるものです。
まだ観る機会のない「ワーニャ伯父さん」を観てみたくなりました。


「かもめ」「三人姉妹」「桜の園」など、年がら年中、どこかで上演しているチェーホフですが、何でもアリの学生演劇や、人気俳優が主演する商業演劇などから観劇人生が始まった人には、ある種の堅苦しさ、重苦しさを感じさせて、敷居が高い部分もあります。
ちょっとのウソも含めた作家の本人像に触れ、時代を超えて上演され続けているチェーホフ作品に、多少なりとも親近感を持つようになるのではないでしょうか。







 「物語が盛り上がるポイントや、テーマがわからない」

 チェーホフ作品に触れるとき、多くの人が持つのがこんな感想ではないでしょうか。それでもなぜか、彼が描き出す人々の姿に心をつかまれる。それはいったいなぜなのか? この作品で描かれるアントンや家族たちの姿を見て、そのヒントが見つかるかもしれません。

 次兄コーリャ役の大家仁志さん、郊外の屋敷に住む女医ジナイーダ役の津田真澄さん、チェーホフ家の老父を演じる山本龍二さんら、出演者たちの確かな演技も青年座作品の大きな魅力です。特に「声」の表現力、その心地よさはぜひ劇場で生の響きで確かめていただきたい! 

 人生は悲劇なのか、喜劇なのか。「この世のことなんか、なにひとつわかりっこない」というセリフが耳に残り、コーリャ役のほか、もう一役を演じる大家さんの登場場面に、アントンとともに観ているこちらの魂もそっと救われるような気がした舞台『わが兄の弟』。そのタイトルに込められた意味も、観劇後にじわじわと心に染み込みます。

 大作ミュージカルなどを観る興奮とはまた違う、演劇的・文学的高揚感を味わうひととき。終演後にきっとあれこれと語り合いたくなる作品です。16日まで紀伊国屋ホールにて上演中。お見逃しなく!


【公演情報】
劇団青年座 第226回公演『わが兄の弟 ―贋作アントン・チェーホフ傳―』
2017年4月7日(金)~16日(日)
紀伊国屋ホール

作=マキノノゾミ
演出=宮田慶子
 
ものがたり:
アントン・チェーホフの祖先は農奴であり、
祖父の代に自由市民の身分を得て、
父はタガンローグで小さな食料雑貨店を営んでいた。
しかし、アントン16歳の時に雑貨店は破産し、
一家はモスクワへと移住することになる。
1880年、アントン20歳の誕生日の翌朝・・・・・・、物語はここから始まる。
モスクワ大学医学生の頃から多数のユーモア短編小説を雑誌に寄稿し、
その原稿料でチェーホフ家の暮らしを支えていたアントン。
やがて、作家として名声が高まってきた30歳の時、
何を求めてか、何から逃れたかったのか、
家族を残して一人極東の地サハリン島へと旅立つのだった。
帝政ロシア体制が動揺する19世紀末を背景に、
医者であり作家であった若きアントンの人間像に迫る

キャスト:
アントン(チェーホフ家の三男)=横堀悦夫
ニーナ=安藤瞳
パーヴェル(父親)=山本龍二
エヴゲーニャ(母親)=大須賀裕子
アレクサンドル(長兄)=石母田史朗
ニコライ(次兄)/ポポフ=大家仁志
マリヤ(妹)=野々村のん
ミハイル(末弟)=松田周
アーニャ=坂寄奈津伎
ジナイーダ(リントワリョーフ家の長女)=津田真澄
エレーナ(次女)=小暮智美
ナターリア(三女)=那須凜
スマーギン(三姉妹のいとこ)=豊田茂
グレゴーリイ(老従僕)=名取幸政
マリューシカ(小間使い)=田上唯
ドールゴフ中尉(コルサコフ監視所の軍医)=高松潤

劇団青年座公式サイト

舞台写真提供:青年座  撮影:坂本正都
感想コメント:おけぴ会員のみなさま
おけぴ取材班:mamiko  監修:おけぴ管理人

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