イギリスの劇作家アラン・エイクボーンの傑作コメディが新翻訳で甦る!7月17日より六本木トリコロールシアターで上演される
『嘘と勘違いのあいだで』にご出演される
水夏希さん、
辻本祐樹さんにお話をうかがいました。
(辻本さんの「辻」は一点しんにょうが正式表記となります)辻本祐樹さん、水夏希さん
-ものがたり-
グレッグ(辻本祐樹)とジニィ(新垣里沙)は結婚間近のカップル。ある日、グレッグはジニィに別の男がいるのではと疑い始める。そして、「両親に会いに行く」というジニィの後をつけることに。実はジニィは年上の不倫相手・フィリップ(栗原英雄)との関係をキッチリ終わらせようとしていた。なぜかジニィよりも先に「両親の家」に到着してしまったグレッグは、フィリップの妻・シーラ(水夏希)をジニィの母親だと勘違い。チャッカリ意気投合してる二人のところへジニィが到着、そしてジニィの突然の来訪に驚くフィリップ。さぁ、4人の運命はいかに!!
【この二人が揃うと破壊力が…!】
──本作でお二人が演じる役についてお話いただけますか。水:私が演じるシーラはとてもポジティブな可愛らしい人。あんな風に生きられたら素敵だなぁと思う女性です。
辻本:シーラは懐が深いというか、何もかも受け止めてしまう人間的な大きさがあります。本当に旦那のフィリップはバカだなぁと思います(笑)。僕が演じるグレッグについては、もしかしたら原作とは少し違う捉え方になっているかもしれませんが、何でもかんでも信じる男です。信じたい気持ちがそうさせるのかな。恋愛にも疎くて真っ直ぐで。こういう真っ直ぐなキャラクターを演じるのは難しいですね。
水:グレッグはとてもピュアなんです。見ていると(辻本さんに)ぴったりな感じがしますが意外と最近はこういう役はなかったということで。まぁ、ご本人がどういう方かはわかりませんけどね(笑)。ちなみに私はシーラとは全然違います。
辻本:笑!
──シーラは専業主婦と言うことで、先ほどおっしゃったように水さんにとって新境地ですね。水:そうなんです。ロンドン郊外でスローライフを楽しんでいるという、私の人生にはありえないタイプの生活を送る女性です。私は完全に生き急いでいるタイプの人間なので(笑)。でも、彼女は有り余る時間を持て余すのではなく、そんな生活を心から楽しんでいるんです。小さなことにも楽しみを見出して幸せを感じ、いつも笑っている人です。
──そんなシーラが暮らす家を恋人ジニィの実家だと勘違いして訪れるのがグレッグです。(実際は、そこはジニィの不倫相手フィリップの家庭!!)お二人ともどちらかと言うと勘違い担当ですか。辻本:僕はもう完璧に勘違い一直線です(笑)。
水:二人とも思い込みが激しいタイプ、性質としては似ていますよね(笑)。
辻本:だから勘違いしつつも、かなり意気投合するんですよね(笑)。
──そうやって勘違いが重なり、意図せずして物語をかき回す。そんなキャラクターを演じていかがですか。水:最初はすごく難しかったです。相手の様子がおかしいことを感じてはいけないので。芝居の基本のような、その場で相手役が醸し出す空気を感じることが禁じられる役。自分をちょっと違う次元のところに置かなくてはいけないんです。
辻本:それ、すごくわかります!昨日の稽古でも台詞としては頭に入っているはずなのに、芝居の中で言葉が出てこないという状況に陥りました。お互い違う次元でしゃべっているので、自分の中の生理としてしゃべり続けないといけないんです。相手の話を聞きすぎてしまうと全然出てこなくなってしまって。
──噛み合ってはいけないというのは確かに難しいですよね。水:そうなんです!噛み合ってはいけないのですが、それぞれの生理としては合っている。自分の役として突っ走らないといけないんです。ただ、特に私たちは二人して突っ走るので、あまりに勢いがつきすぎてお客様を置いていくようなことがあってはいけない。その塩梅が難しいですね。この二人が揃うと破壊力がすごいので(笑)。
【演劇的な笑いを追求】
──続いては、シーラとグレッグそれぞれのパートナーをご紹介いただけますか。 水:夫のフィリップさんは、仕事熱心で家庭も大事にしてくれるイギリス紳士の代表のような方です。ふふっ。
辻本:そうなんですね(含み笑い)。
水:はい。それは裏を返せばよくある夫婦の形。夫のほうは自分がすべてを掌握していると思っているけれど奥さんのほうが一枚上手。実は奥さんの掌の上で転がされているような。そうやって家庭は円満。お隣のクーパーさんとも仲良く暮らすアッパーミドルの夫婦。そんな感じです(笑)。
辻本:グレッグの恋人ジニィはグレッグとは真逆の人。
水:真逆のカップルってうまくいくんですかね。
辻本:ちょっとわからないですね。どちらかが完全譲歩しないとダメというか。この二人で言うとグレッグが…(笑)。
水:そうですよね。見ているといつもグレッグが「ああしたい」「こうしたい」と欲求を募らせてはグーッと我慢していますよね。
辻本:嫌われたくないんですよ。ジニィは魅力的な女性、こんなに可愛くてモテる女性が恋愛馴れしていない自分の彼女だなんて!グレッグにとっては憧れの人なんです。
──お話をうかがっているとグレッグが報われますようにと思えてきます。辻本:そうなりますよね。
水:グレッグはもちろん、この作品に登場する人々はみんなそれぞれ魅力がありますし悪い人はいません。だからこそ保科(由里子)さんがおっしゃる“演劇的な笑い”が大きな意味を持っていると思います。誰かを落とすような悪意のある笑いではないので。そこを追求していきたいと思います。
──今、保科さんの稽古場はいかがですか。(保科さんは本作の翻訳・上演台本・演出を手掛けられています)辻本:僕はめちゃめちゃ楽しんでいます。みなさんに甘えて(笑)。
水:「(辻本さんが)こんなにしゃべる人だと思わなかった」と(新垣)里沙ちゃんが言っていました(笑)。
辻本:明るい作品ですし、ついつい楽しくなって。
水:賑やかな稽古場ですが、基本的に私たち2人と保科さんがしゃべっている感じです(笑)。
辻本:え?でも、そう言われると、そうですね(笑)
水:あとはとにかく保科さんの稽古はスピーディー。稽古中はずっと頭がぐるぐる回り続けています。
【お客様は全てを知っている】
──ご紹介いただいた通り登場人物は4人、お客様は4人の関係の全てを知っているという状況です。辻本:だからこそ「あ~、ここでそう言ったら勘違いしちゃうよね」とか「それ言っちゃダメ~」とか、お客様がツッコミを入れたくなる気がします。いわゆる“志村、後ろ!後ろ!”状態というか(笑)。
水:それをきっちりと会話劇として成立させる、本当によくできた戯曲なんですよ。元は2幕仕立てで今回上演するものより長いものでしたが、保科さんが1幕ものの上演台本に書き換え、よりテンポの良い展開にしてくださっています。
──作者のアラン・エイクボーン氏はラジオドラマのプロデューサーでもあったことから、会話・対話でドラマを展開させていくのが巧いのでしょうね。辻本:4人芝居と言っても全員が顔を揃えるのは後半。それまでは特に僕はすべての登場人物と1対1で会話していきます。
水:グレッグはそこも大変ですよね。ほかにも2人のシーンで2人とも勘違いしていたり、2人ともわかっていたり、3人いて2人はわかっていて1人がわかっていないという状況も…、いろいろな組み合わせの妙があります。
──4人の登場人物で若者、壮年、夫婦、恋人、男、女…様々な関係性を描いているので、それこそ老若男女が楽しめる作品になりそうですね。辻本:はい!おそらくご覧になる方それぞれの置かれている状況・立場によって。見える景色が違ったり、共感するところが違ったりすると思います。
水:夫婦間のあるある、恋人同士のあるある、そんな“あるある”が散りばめられています。そしてこの作品は50年くらい前にかかれた戯曲ですが今の時代でもとても共感できるんです。
辻本:好きゆえに嫉妬心が芽生えたり、大人になるってこういうことなのかとか。そして、いつの時代も男はバカだな、女性はしっかりしているなと思います(笑)。
【勘違いも悪くない?!】
──お二人が感じるこの作品の魅力は。辻本:ちょっとユニークな状況ですが、この作品で描かれているのは些細な日常。そこでの勘違いが巻き起こす面白さがあります。グレッグ役を演じていて見えてきたのは、人を信じる心って大事だなということです。
──信じる心、“勘違い”ももしかしたら悪いことばかりではないのかもしれませんね。邦題『嘘と勘違いのあいだで』というのも面白いですし。辻本:そう思いますね!知らなくてもいいことってありますよ(笑)。
水:そうそう、何もかも真実を追求することだけが正解ではない!それは生きる上でとても大切なことなのかもしれません。
辻本:思い切り笑えるコメディですが、そこに潜んでいる真実・教訓は思っていた以上に大きなものに思えてきました。しかもそれを声高に提示しているのではなく笑いに包んでいるところが巧みなところですよね。笑って油断しているとズキューンと打たれるところがあるかもしれませんよ!!
水:時代も国も超えて上演され続けるのにはやっぱり理由があるということです。
辻本:だからこそ、ぜひたくさんの方にご覧いただきたいですね。難しいことは一切ありません、お客様はノー準備でいらしてください。ただ、思いっきり楽しんで、思いっきり笑えるように体調万全で!
水:この時期、ちょっとジメジメした日が続きますが、劇場には7月のロンドン郊外のさわやかな風が吹いておりますので!劇場でお待ちしております。
──本番、楽しみにしています。後記:本作の原題は『Relatively Speaking』、これまでにも『パパに乾杯』『とりあえず、お父さん』などの邦題で上演されてきたアラン・エイクボーンの傑作コメディです。直訳だと『比較的には』というタイトルが「父親」を示すワードで表現されるのは元のタイトルが『Meet My Father』だったことに起因するかと思いますが、今回は『嘘と勘違いのあいだで』と題しての上演。そのココロは。これは劇場で確かめないといけませんね!
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人