2011年、シアタークリエで、今でも忘れられない衝撃の観劇体験をしました。
それは栗山民也さん演出、大竹しのぶさん主演の舞台『ピアフ』。 ♪愛の讃歌 ♪バラ色の人生 ♪水に流して……ピアフが歌ったナンバーと共に紡がれる、フランスが最も愛した歌手エディット・ピアフの人生。
パム・ジェムス作の傑作戯曲(1978年)を、2008年のロンドンでの上演のためにジェムス自身が決定版として書き下ろした戯曲が、俳優大竹しのぶさんの肉体を得て実現した日本版初演。大竹さんのピアフは当たり役となり、その年の読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞、その後繰り返し上演されることになります。この大竹さんとピアフの結びつきは、やがて、ピアフの楽曲の紅白歌合戦での歌唱、アルバム制作へと繋がっていったのです。
初演から10年、5演目となる『ピアフ』は2月24日~3月18日に日比谷シアタークリエにて、3月25日~28日は大阪・森ノ宮ピロティホール、そして4月1日~10日は初上演となる福岡・博多座にて上演されます。公演に先立ち行われた製作発表会見をレポートいたします。
会見には大竹しのぶさん、初演以来、ピアフの親友トワーヌを演じる梅沢昌代さん、新キャストでいずれもピアフと愛で結ばれるマルセル・セルダン役の中河内雅貴さん、イヴ・モンタン役の竹内將人さん、テオ・サラポ役の山崎大輝さんがご登壇されました。
──初演から10年、5演目という節目を迎える舞台『ピアフ』への思いは。エディット・ピアフ役:大竹しのぶさん
大竹さん) 節目ということはまったく考えていません。一度目も、二度目も、次があるとは思わずやってきました。それこそ2か月の本番の中でも、毎日、「今日、一回だけ」という思いで、3時間、無我夢中でピアフの人生を生きるということしかないです。ただ、大切な人との別れも含め、歳を重ね経験を積むことで、愛の深さとかはわかるようになるのかな……とは思います。でもその分だけ、若い人との歳の差が激しくなって「どうもすみません」って感じ(笑)。 ね、梅ちゃん、とても困るよね。だって、私たち、私は歌を歌って、梅ちゃんは身体を売って生きている“少女”なんですよ。見えない!(笑)
ピアフの親友トワーヌ役:梅沢昌代さん
梅沢さん) 初演から見えていません、10年なんてくそくらえ!(笑)
より下品に、たくましく、そしてずっとエディットのことを心にかけているトワーヌを全力で演じたいと思っています。
大竹さん) 本当ですね(笑)。10年だろうが20年だろうが関係ないわという感じね!
──新キャスト、ピアフを愛した男たちを演じるみなさんに。ピアフの愛に生きた生涯についてどのように感じていますか。ピアフと最も熱い恋をしたボクサー、マルセル・セルダン役:中河内雅貴さん
中河内さん) マルセルは妻子がいながらもピアフを愛します。互いに支え合い、やっと独りぼっちでなくなる瞬間、二人の間にとても大切な温かい愛があったのではないか。魂と魂が深いところで絡み合う、真剣で純粋で誠実な愛。台本を読んでそう感じました。
ピアフが見出す、フランスの偉大な歌手イヴ・モンタン役:竹内將人さん
竹内さん) 皮肉な人生だなと思います。もしピアフが一人の男性を愛して幸せに生きたとしたら、ここまでの苦しみがなかったとしたら、このように遠く離れた国で舞台化されるような伝説的な歌手になったのか。愛し、苦しんだことで、感情がピアフの呼吸や唇に乗ってお客さんに届いた。彼女が愛した男性たちなしに、伝説的な歌手エディット・ピアフはなかったのではないかと思います。
傷つき果てたピアフの人生に訪れた天使、最後の恋人テオ・サラポ役:山崎大輝さん
山崎さん) 僕が演じるテオが晩年のピアフと結婚するのが26歳。僕は、今、テオと同じ26歳です。この年齢で、病を抱えたかなり年上の方、(大竹さんのほうを見て)いやいや、なんて言うか……。そんなピアフに対してテオは「(病を)僕が治す」と言う。その心意気たるや。そこまでにならなければということを稽古に入る前から考えていました。まとめますと、愛の力はすごい!
大竹さん) みなさんの役に対する思いを聞いて「大丈夫だな」と思いました。やっぱり舞台上で、お互いに本当の愛を感じ合いながらではないとお芝居はできないと思っていて。私は照明とか当たっているので大丈夫だと信じ(笑)、思い切り愛するので、愛して欲しいと思います。
中河内さん) もちろん最上の愛でお返します。はじめましてから始まり、すごく深いところまで行くというのが芝居の醍醐味。そこでいろんな変化を楽しみながら、お互いがいろんな感情を持ち合ってキャッチボールができる、僕はそんな“お芝居”が大好きなので、大竹さんとしっかりと愛を結びたいと思います。
竹内さん) 僕も、今までのどの愛よりも強い愛を。イヴ・モンタンはある意味でピアフを踏み台にしていくような役なので、舞台上で、彼がピアフを心から愛するところまでいくかは……ですが、しっかり愛したいと思います。
山崎さん) テオは、初めて会ったときからピアフに憧れを持った状態なので、愛の度合いとしては僕が一番。マックスの状態で愛を与え、それを受け取ってもらえるように頑張ります。
──ピアフを演じている中で感じること。大竹さん) ポスターにもある“あたしが歌うときには、あたしを出すんだ。全部まるごと。”という台詞がすごく好きです。台詞を言いながら、その一瞬一瞬、全てに愛を捧げるというピアフの生き方には、いつも教えられています。でもそれと同時にピアフの人生を演じているといつも孤独も感じます。孤独と愛との繰り返し。
──ピアフとして、歌手として歌う「愛の讃歌」について。大竹さん) ピアフとして芝居の中で歌うときは、自分の中にある大きく深いマルセルへの愛を感じながら歌います。歌というより芝居、芝居で言葉を発しているという感覚のほうが強いです。
芝居を離れて歌うときも、天国に行ってしまった人たちの大きな愛を感じながら歌っています。ピアフの歌を歌うとき、お客様に向かってではなく、天に向かって歌うような錯覚に陥ることがあります。彼女の歌には天と地を結ぶような役目があり、それをお客様が見ているような……。ほかの曲もほとんど愛の歌なので、ずっと愛を叫んでいる人だなということを感じます。
──栗山さんの演出の特色は。大竹さん) 栗山さんの中にはいつも明確な絵があって、全て計算されている。それを私の肉体で体現する。絶対的な信頼を置いています。たとえば、登場のカーテンから手を出すシーン。その一瞬をお客さんは、5年は忘れないだろうという景色をたくさん作ってくださる方です。
──新キャストのみなさんは大竹さんとの共演についてどのように感じていますか。 中河内さん) メチャメチャ嬉しいのとドキドキがありますが、ドキドキが勝っていますね。栗山さんの演出も初めてですし、本当に初めてご一緒する方が多いので、どういう稽古場になるのかワクワクドキドキしています。この素晴らしい役で、大竹さんとお芝居できることを光栄に思っています。
竹内さん) 素人みたいな感想ですが、子どもの頃からテレビで見ていた大竹さんと舞台上で、生で共演できるというのが、本当に楽しみです。稽古では、純粋に、真っ直ぐ、挑んでいきたいと思います。
「子どものころから」いうコメントに「ん?」という表情を見せるも
大竹さん:正直でいいと思います (笑) !
大竹さんと梅沢さん、お二人の間では「しのぶちゃんと梅ちゃん」のやりとりが本当に仲のよい親友同士のそれで、なんとも微笑ましい会見でした!
山崎さん) 同じく僕も子どもの頃から……すみません!でも、大竹さんとこの作品で共演させていただけることを本当に嬉しく思っています。栗山さんと『スリル・ミー』に続いてまた一緒に作品作りができることも嬉しく思っています。
──大竹さんからひと言。大竹さん) 5度目の『ピアフ』。何回もやれば慣れるのかなと思うのですが、そんなことはなくて。やればやるほど前よりもいいものを作らなければというプレッシャーが大きくなっています。初演から一緒にやっている梅ちゃんこと梅沢昌代さんや、新キャストのみなさんと一緒に「また新しいピアフに出会えた」「新しい感動に出会えた」と思っていただけるようにと心しています。こういう状況にもかかわらず劇場に来てくださるお客様に、なにかひとつでも心に残るものをお渡ししたいと思います。
◆ 大竹しのぶさんが16曲のシャンソンを歌いながら演じる「シャンソンの女王」エディット・ピアフの人生。初演時から「ピアフが大竹しのぶに舞い降りた」と称された本作。
会見ご登壇のみなさんのほかにも、マレーネ・ディートリッヒは彩輝なおさんが初演から5演連続で演じ、シャルル・アズナブールは上原理生さん、ルイ・バリエは川久保拓司さん、ブルーノは前田一世さんが演じます。また、初演以来辻萬長さんが演じてこられたピアフを見出したルイ・ルプレは、たかお鷹さんに引き継がれます。
あたしが歌うときには、
あたしを出すんだ。
全部まるごと。それを生で、肌で感じることのできる舞台『ピアフ』。
5演目にしてまた新たな世界を見せてくれる。そう確信した会見でした。
ものがたり
エディット・ピアフ──本名エディット・ガシオンはフランスの貧民街で生まれ、路上で歌いながら命をつないでいた。
ある日、ナイトクラブのオーナーがエディットに声をかける。
「そのでかい声、どこで手に入れた」
「騒がしい通りで歌っても、歌をきいてもらうためよ!」
“ピアフ”──“小さな雀”の愛称がついたエディットの愛の歌はたちまち評判となる。
華やかで順風満帆な人生にも見えたピアフだが、私生活では切実に愛を求めていた。
ピアフが見出し、愛を注ぎ、国民的歌手へと育てあげたイヴ・モンタン、シャルル・アズナブール。
ボクシング・チャンピオンのマルセル・セルダン、生涯最後の恋人となる若きテオ・サラポ……。
最愛の恋人を失った時も──病が身体と心を蝕んだ時も──エディット・ピアフは愛を求めて、マイクに向かい続けるのだった。
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人