「未来永劫見捨てる心か、伊右衛門さん」
作・鶴屋南北、演出:森新太郎
色悪・伊右衛門に内野聖陽、怨念を抱くお岩に秋山菜津子
こ、こ、これは最強!!
あえての敬称略でご紹介したくなる!それくらい興奮とゾクゾクが抑えられない
新国立劇場『東海道四谷怪談』の舞台写真と感想が届きました。
【舞台写真&感想を追記しました】
写真左より)伊右衛門:内野聖陽さん、お岩:秋山菜津子さん
歌舞伎の四谷怪談を観慣れているのですが、今回の作品の方が、ずっと嫌な気持ちにさせられました。褒め言葉です。
生のダイレクトな感情がビリビリするかんじで。怪談としての怖さというよりも、人の念や情といったものの怖さが凄まじかった。伊右衛門の愚かさや残忍さ、幼児性、でも
抗えない男の魅力を持つ人物の表現を余すところなく演じ切った内野さんにノックアウトされました。
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幕があがり、なにもない舞台に驚きつつ、役者さんの演技に引き込まれてあっという間の3時間でした。
要所要所、圧倒される演出でした。
特にお岩さん役の
秋山さんの、豹変する演技とお岩さんの恨みが体現するシーンでは演出効果も相俟って鳥肌が立ちました。
写真左より)内野聖陽さん、小野武彦さん
期待を裏切らない役者陣の上手さは言うまでもありませんが、
今回は特に演出が良かった!いわゆるセットらしいものはほとんどないのに
全ての場面が見事に成立していて、
敢えて空間を広く使わない芝居小屋っぽさがあるかと思えば、ダイナミックで派手な演出、照明や色を効果的に使ったインパクトのある演出など、とにかく緩急のつけ方がとっても巧み。
様式美と人間くささが同居した、エネルギーに満ち満ちた作品でした。
意表をつく音楽・音響も面白かった!
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お梅役に有薗さんをキャスティングしたのは大正解だったと思います(笑)
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鶴屋南北の世界を、現代に演出し直すこころみ、森新太郎氏の斬新な演出に、釘付けでした。ジャパニーズ古典ホラーの面白さを体感できる舞台。
内野さんの伊右衛門は悪だが憎めず魅力的。
秋山さんのお岩、グロテスクな執念に引き込まれる。ほぼ男性の出演者が演じ分ける登場人物、時には笑いもあり、やがて、妄執に満ちた世界へ観客も誘われていきます。
古典でありながら新しい四谷怪談、オススメです。
写真左より)お梅:有薗芳記さん、お弓:下総源太朗さん、伊藤喜兵衛:小野武彦さん
お岩さん以外は出演者全員が男性、という陣容。これが効いていました!不思議な可愛さ溢れるお梅、迫力満点の母や乳母。
歌舞伎、宝塚を観る時に感じるカラッとした爽快感がありました。
故に、ただ1人の女優・秋山さんのお岩の異様な運命がよりクッキリと鮮やかに浮かび上がってドキドキ。
極悪非道の伊右衛門をこんなにチャーミングに魅せて下さった内野さんに拍手でしたし、
平さんと陳内さんの美しいカップルもファンには嬉しいプレゼント。
ラストの演出にも感動でした。
写真左より)お袖:陳内 将さん、与茂七:平 岳大さん
歌舞伎の台詞もそのままに、現代風に話しても違和感の無い言葉が溢れてきます。
何と言っても内野聖陽さんの伊右衛門、こんなにゲスで無茶苦茶色っぽい伊右衛門は初めてです。
秋山菜津子さんのお岩、誇り高き武士の妻を滲み出る様な切なさで演じていました。
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暗闇の中に浮かび上がる小さな空間で情念たっぷりに演じられる前半。
中劇場全てを使いきりスピーディーに演じられる後半。この対比が素晴らしかった。
特に後半は歌舞伎で使われる場面転換のニュアンスが上手に取り入れてあって感心しました。
美術素晴らしいです。ストーリーは歌舞伎の四谷怪談にほぼ忠実。
通し狂言でもあまり見られない場面が入っていて歌舞伎好きの方も楽しく見られると思います。
内野さんは色悪似合いますね。ヒドイやつですが可愛いくて憎めないです。
秋山さんは素晴らしく格好良かったです。
写真左より)お岩:秋山菜津子さん、伊右衛門:内野聖陽さん
ラストまで惹き付けられました。シンプルなセットの映像、
照明、動きなどでの変化に驚かされ、ラストで感心!意外な楽曲も良かったです。
お岩の秋山菜津子さんは恨みの中に哀れさ切なさ、そしてラストの叫びに消しきれない伊右衛門の愛を感じました。
伊右衛門は許されざる悪い男ですが、内野さんが演じているせいか色っぽく可愛さもあり、どこか憎みきれなく、
大立ち回りに向かう伊右衛門のかっこ良さは格別です
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こんなに潔い四谷怪談は初めてでした。楽しかったです。
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今回の伊右衛門は私が観た中で、一番、まがまがしく、どこまでも身勝手でお金に目が無く欲深い伊右衛門でした。
そんな伊右衛門を内野さんが憎たらしく演じていて、ぴったりでした。
対する最後に伊右衛門を討つ与茂七は、まっすぐで正義感が強く、妻のために伊右衛門を討つ!その心意気が清く爽やかです。
普段は、テレビで悪役をされることもある平さんが爽やかに演じていました。
これまた、
本当に、素敵な与茂七でした。
最後は雪が降る中、伊右衛門と与茂七が刀を交えますが、そのシーンの美しいこと。
あの雪の風景のために用意された雪吹雪の量にも感激しました。すばらしい演目でした。
伊右衛門:内野聖陽さん
黒子さん、大活躍!とても面白い演出でした。
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中劇場の広い空間に舞台装置といえば、大きな板と行燈くらい。
その中で
欲望を丸出しにした登場人物たちにより、衣装は江戸時代だけれど、時代を越えていつの時代も変わらない人間の性(さが)が浮かび上がってきました。
シンプルな舞台装置だからこそ
役者さんたちの力量を楽しめる舞台になっています。
お岩だけを女性が演じ、あとはすべて男性という配役により、
お岩の悲しみや恨みがより際だって感じられました。
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奥行きのある舞台にシンプルかつ大胆なセット。最小限に抑えられた照明のせいで、一寸先は闇の世界が広がる。
江戸時代の暗闇を感じられました。
それ故に
お岩の怨念と群がるねずみがとてもリアルに迫ってきました。
写真中央)花王おさむさん
稽古場レポートでご紹介した、冒頭の伊右衛門と左門のシーンもこのように!!
写真左より)伊右衛門:内野聖陽さん、左門:山本 亨さん
新国立劇場・中劇場の大きな舞台空間を活かしたり、逆手にとったり、森新太郎が描き出す四谷怪談ワールドに身をまかせると…最後に思わぬ境地へたどり着く?!
さあ!
2015年の『東海道四谷怪談』、当代きっての色悪(!!)内野伊右衛門、紅一点の秋山お岩をお見逃しなく!【稽古場レポート】
民谷伊右衛門役:内野聖陽さん
『四谷怪談』と聞いて、「はいはい、うらめしや~でしょ。知ってる知ってる!」と思ったのですが、実のところ、そのお話の筋自体は若干あやふや。
そんな方もいらっしゃるかと思いますので、まずは作品紹介から。
作者は、ご存じ江戸期を代表する
歌舞伎作者・四世鶴屋南北。
当時すでに古典だった
『仮名手本忠臣蔵』の世界を南北がその外伝として芝居にしたてたのがこの
『東海道四谷怪談』。
表に当たる『忠臣蔵』が
忠義の世界なら、その裏にある無頼の男、底辺に生きる人々を主人公にした、
情、欲、業の世界を描いたのがこの『四谷怪談』なのです。
この日の稽古は冒頭、序幕からスタート!まずはこちら↓の伊右衛門と左門の言葉の応酬からの…という場面。
-あらすじ(HPより)-
塩冶(えんや)の浪人、民谷伊右衛門は、自分の過去の悪行故に離縁させられていた女房、お岩との復縁を舅の四谷左門に迫り、それが叶わぬとみるや、辻斬りの仕業に見せかけ惨殺する。左門の死体を見て嘆くお岩に伊右衛門は親切めかして仇討ちを誓い、それに乗じて復縁する。
浅草の境内での乱闘騒ぎ、やいのやいの言うその言葉のせいか
お稽古着の浴衣のせいか(単純・笑)、そこはあっという間に江戸時代に
捉えられているのは伊右衛門の妻・お岩の父、左門
その騒動を遠巻きに見ていて、満を持して助けに入る一人の男!
「イヤイヤ、ちと待たれよ待たれよ」
まずこの登場がイイ!絶対にただの通りがかりじゃない、その企みオーラ?!
四谷左門役:山本 亨さん 伊右衛門役:内野聖陽さん
舅である左門にお岩との復縁を迫る伊右衛門、しかし左門にかつての罪をとがめられ…。
ここで突き詰められていくのは、言葉(セリフ)、気持ち、動き、そして相対する二人の関係。
お岩を返してもらうため、左門の圧を受けながらも下手に出ていた伊右衛門が逆切れ!
「貴様は君子か。ハハハハハ」
圧倒的な上から目線で押さえつけられ、ときには軽くあしらわれ、そこから一気に!
そのエネルギーの解放が気持ちイイのです。
もちろん気持ちイイだけではなく、台本上数ページのやり取りの中で伊右衛門の人間性を色濃く舞台に立ち上げる冒頭の大切な場面だけに、試行錯誤が続きます。
演出の森新太郎さんと内野聖陽さんは昨年の『THE BIG FELLAH』に続いてのタッグ!
噂にたがわぬ(!!)緻密で妥協のない芝居作りです。
「違う動きで、もう一回、やらせてください」
「武士(浪人)はこの距離感で話さないよね」
「この6行(のセリフ)で二人の力関係をもっと出していきたいんですよね」(内野さん)さまざまな動きを試し、キャラクターの心情と動きの一致を組立、さらにそれがお芝居の流れの中でどう見え、客席にどう伝わるかを徹底的に追及する稽古場です。
内野さんと演出の森新太郎さん
迷った時に、立ち返るのはやはり台本!
決して妥協せず、ひとつひとつの動きが組み立てられていきます
左門が伊右衛門に放つあるセリフでは、相手にプレッシャーをかけながら言うより、無感情に近く「このやりとり、無駄に時間をつぶしているな」という気持ちで言うほうが相手はイラっとするよね。
そんな森さんの言葉などを受け、次第に出来上がっていくこのシーン。
内野さん「あ、なんか気持ちよくなってきた」
森さん「殺意、めばえるでしょ」
その後、伊右衛門は左門を追いかけ…
歌舞伎でも
色悪(ルックスは二枚目、性根は悪人)の代名詞ともいえるこの役、伊右衛門は確かにひどい、ひどすぎるんです。
でも、
物語の主人公としてど真ん中にいて、そしてなんだかとてつもない引力で見る者の目と心を惹きつける内野さんの伊右衛門。
それこそ見ないともったいないお化けが出そうなほどの色気ですよ。
と、ここからは次の稽古場面へ!
やって来たのは、
お岩さん(秋山菜津子さん)と妹のお袖(陳内 将さん)。
陳内さんがお袖なのです!
お岩役:秋山菜津子さん、お袖役:陳内 将さん
新国立劇場版『東海道四谷怪談』にはさまざまな仕掛けが用意されているのですが、その一つともいえるのが
女優はただひとり、お岩役の秋山菜津子さんだけということ!
身重のお岩
歌舞伎のように男性が女性役も演じる、虚の世界の中で、紅一点、お岩だけはリアル女性が演じる。そのなんともいえないコントラストは物語が展開するにしたがってどんな効果を生むのだろう。その先がとーっても気になります!
まだこの時点では身重の弱き女性、そこから業の深いあの“お岩さん”に…、秋山さんの変貌も想像するだけでゾクゾクです。
女性的な特別なしつらえはしていないのですが、そこに居るのお袖さんです!
そんな二人が見つけたものは…続きは劇場で!
今回の上演では
歌舞伎の言葉をそのままセリフとして用います。
それを現代劇の俳優さんが発する面白さも見どころのひとつ。
とはいえ…なかなか普段は耳にしない言い回しもたっぷりございます。
出番の前に口慣らしというか、口の準備運動のようにセリフを唱える陳内さんが印象的でした。
その後、二幕の伊藤喜兵衛宅の場面では、喜兵衛(小野武彦さん)、その娘のお弓(下総源太朗さん!)、伊右衛門に思いを寄せる孫娘にお梅(有薗芳記さん!)、乳母のお槇(木村靖司さん!)という、ベテラン男優のみなさんの織りなす世界に引き込まれます。
有薗さんの乙女の恥じらい、小野さんや下総さん(『エドワード二世』に続き、強烈です!)のお梅の溺愛っぷりなど、キャラクターの宿り具合にゾクっとすること一度や二度ではございません。
このように、
「本」良し、「人」良し、「仕掛け」良しの『東海道四谷怪談』。
普段は歌舞伎でしか耳にしないような、
「サア」「サア」「サアサアサアサア」の掛け合い、この気持ちよさは
演劇でも健在です!
日本語のリズムと響きの美しさ、豊かさに乗せて、人間の本質をえぐるように描き出す物語、内野さんの言葉を借りれば
「日本にもシェイクスピアがいた!」。
まさにその通り!それを実感する稽古場でした。
スタッフ、キャストと最高の布陣で届けられる2015年の『東海道四谷怪談』、新国立劇場・中劇場という空間で繰り広げられる南北の世界を存分に味わいましょう。
舞台写真提供:新国立劇場 感想:おけぴレポ隊のみなさま
おけぴ取材班:chiaki(文・撮影) 監修:おけぴ管理人