日本の現代演劇を切り拓いてきた劇作家、
別役実さん書下ろし(新作!!)、
宮田慶子さん演出で届けられる、新国立劇場 演劇2015/2016シーズン締めくくりの作品。その景色、風の音、物語…、日本の風土を感じる
『月・こうこう,風・そうそう』の稽古場へお邪魔してまいりました。
これまで『不思議の国のアリス』や『赤ずきんちゃん』など世界の童話を、子供向けの芝居に置き換える作品を手掛けてきた別役さんが、今回、題材に選んだのは日本のお話「かぐや姫伝説」。
-HPより-
竹林の中にある国に現れたかぐや姫によって巻き起こる一陣の風の様な出来事を、「かぐや姫伝説」をモチーフにして描く別役実の劇世界。
ただ、そこは別役作品。竹から生まれた美しいかぐや姫と五人の結婚候補者の宝物探しの物語ではございません。
別の視点からかぐや姫の物語を描く、いわば
竹取物語前日譚?! 稽古場に組まれた舞台セットは、八百屋舞台から宇宙へ向かって伸びるような竹、竹林が印象的です。そして、月(であろうフォルムの舞台美術)。
そこに、風の音が聞こえ…。もう、その時点で感じる“和”。
<ものがたりの導入>
竹林で心中しようとしていた老爺(花王おさむさん)と老婆(松金よね子さん)のもとに、突然やってきた姫(和音美桜さん)。何者からか逃げている姫を二人は匿う。しかし、姫は何から逃げているのかわからないと言う。
最初に彼女を追ってきた盲目の女(竹下景子さん)は謎の言葉を残して立ち去り、続いてやってきた兄と名乗る男(山崎一さん)は家族のもとへ連れ戻そうとする。
姫は、なぜ逃げているのか、何から逃げているのか。
さらには、嫁探しと称して娘たちをさらっていく風魔の三郎(橋本淳さん)やこれまた謎の女(増子倭文江さん)、ミカド(瑳川哲朗さん)らも登場し、不思議で、でも気が付くとその世界に引き込まれる物語が展開するのです。
写真左より)松金よね子さん、花王おさむさん、和音美桜さん
姫を演じる
和音美桜さんの少女のようなあどけなさと、女性の包容力と強さ…幅広い美しさは必見。初めてのストレートプレイということですが、ミュージカルや歌唱での表現力は、セリフ劇でも健在。声の浸透力は、表現の形態を問わないんですね!
颯爽と現れる男(山崎一さん)
危険人物かと思いきや…
そして、お気に入りのシーンは
お爺さん(花王おさむさん)、お婆さん(松金よね子さん)と男(山崎一さん)の碁のシーンです。
上のお写真、かなり盛り上がっている様子が伝わると思います(笑)。この後、結構な危機が迫るのですが、引き続き碁に夢中な三人なのです。さらに、
お婆さん、それ言っちゃう?!ということも(笑)。シリアスな中でこれはありなのと思いつつ、笑えます。ある意味、これはコントか!
風魔の三郎(橋本淳さん)
皆に恐れられる風魔の三郎を演じるのは
橋本淳さん。業の深い男の哀しみを力強いセリフで表現!和音さんの声との交わりもいいです。芝居のハーモニー。
風魔の三郎と姫の関係も不思議な雰囲気の中で展開していきます。
姫を追ってやってくる盲目の女には
竹下景子さん。
写真右)盲目の女(竹下景子さん)
盲目の女だけがすべてを見通しているような、確かな声の響きで謎の言葉を残していきます。彼女は一体…。
そこに加えて、
増子倭文江さんに
瑳川哲朗さんがご出演ですよ。おひとりおひとりの声に登場人物の人格が凝縮され、極上の体験です。
写真右)手下の者たちによって担がれるミカド(瑳川哲朗さん)
姫に代わって人身御供にとやってくる女(増子倭文江さん)
こうして謎を含みながら進む物語。いわゆる時代劇なのですが、会話は現代的(われわれの日常会話のよう)。
台本を読み、通し稽古を拝見しました。見ていると「どうなるの!どうなるの!」と引き込まれる展開です。そして、紆余曲折を経て(←ぜひ、劇場で!)、思いがけない結末を迎えます。
ある意味、ゾクッとし(童話特有のあの感覚!)、また一方で、すごくしっくりはまるような、不思議な感覚です。 「かぐや姫伝説」がもつ、謎めいた物語。先にご紹介した
「一陣の風の様な出来事」というフレーズがぴったりな作品です。それでいて、目の前からはふっと消えるけれど、かぐや姫の業は輪廻のように続いていくような…ふわりとしていてズシンとくる。この感覚に和を感じたのです。
衣裳、美術、音響、照明など、すべてが揃った状態でこの作品を見たときに、自分が何を感じるのか楽しみになる稽古場取材でした。
おけぴ取材班:chiaki(文・撮影) 監修:おけぴ管理人