間もなく開幕する新国立劇場『ヘンリー五世』の稽古場にお邪魔してまいりました!
2009 年『ヘンリー六世』三部作、2012 年『リチャード三世』、2016年『ヘンリー四世』二部作に続く新国立劇場シェイクスピア歴史劇シリーズ最新作『ヘンリー五世』!シリーズを通して指揮をとる演出の鵜山さんのもと、キャストが一丸となって行われている熱い稽古の様子をレポートいたします。
(シリーズこれまでの作品は
こちらのページでご紹介)
【あらすじ】(HPより)
即位したばかりのヘンリー五世の宮廷にフランスからの使節が訪れる。さきごろヘンリーの曽祖父エドワード三世の権利に基づき要求した公爵領への返事を、フランス皇太子から遣わされたのだ。そこにはヘンリーの要求への拒否だけではなく、贈呈として宝箱一箱が添えられていた。中身は、一杯に詰められたテニスボール。それは、若き日のヘンリーの放埒を皮肉った、皇太子からの侮蔑だった。それを見たヘンリーは、ただちにフランスへの進軍を開始する。
この日の稽古は、大詰めとなる第五幕。イギリス軍はアジンコートの戦いでフランス軍に勝利し、国王ヘンリーはイギリスに凱旋(第四幕終わり)。その後、数年ののちヘンリーがふたたびフランスに戻るという場面から始まります。
【説明役の存在とダイナミックな展開】
まず目に飛び込んでくるのは、稽古場スペース目いっぱいに組まれたセット(ちょっと懐かしさも!)。シンプルなセットで繰り広げられる人間ドラマにワクワク。
そこに、まず現れるのは“説明役”と称される人々。 シェイクスピアの時代も、本公演でも、大きな舞台・背景の転換はなく、それでもこの物語で描かれるイギリスからフランスへの海峡を越えての進軍、戦闘を舞台上で可能にし、そこへ観客を誘うのが彼ら彼女らなのです。
「ここはフランス」と言われれば、そこはフランス。「5年後」と言われれば、5年後。言葉と想像力で時空を超える、演劇的な瞬間!
そんなフランスのイギリス軍陣営へやってくるのは…ウェールズ出身の隊長フルーエリン(横田栄司さん)。自分を田舎者と馬鹿にしたピストル(岡本健一さん)と、子供の喧嘩のような取っ組み合いを始めます。
頭につけているのは「韮」
武骨で、話す言葉もウェールズ訛り(本番をお楽しみに)、でも、神を信じ、王に忠誠を誓う騎士フルーエリン。そのいろいろなギャップに思わず笑いが。この場面でも、頭に「韮」、口をつくのも「韮」「にら」「ニラ」…。この「韮」、原語ではLeek、いわゆるポロネギのようなもので、ウェールズの国花。郷里の誇りなのです。それを「ニラ」と言わせる小田島雄志さんの翻訳!
韮の扱いについても鵜山さんから指示が!
「てめぇ、ふざけんな!」と思っていても「ごきげんよう」と言ってしまう、なんとも滑稽な男フルーエリンの裏腹感をもっと出していこう!に横田さん、大うけ(笑)。シリーズ初参加にして、劇中の喜劇的な側面を担う横田フルーエリン、楽しみです。
一方、喧嘩相手のピストルという男。この芝居でのもうひとつの軸ともいえる存在、その後の我が身の行く末を嘆く場面ではピストルが劇場を支配します。舞台からの去り際、王ヘンリーとすれ違う瞬間はゾクッとしました。
そして登場するイギリス、フランス両王家の面々。
フランス王シャルル六世(立川三貴さん)、王妃イザベル(塩田朋子さん)
手前)王女キャサリン(中嶋朋子さん)
バーガンディ公(勝部演之さん)
一貫して厳しさを見せるヘンリーですが…フランス王家とイギリスの家臣たちが会議のために席を外すと。
いきなり始まる求婚タイム。
英語とフランス語、言葉の壁を乗り越えるのに必死のヘンリー
戸惑うキャサリンと侍女のアリス(那須佐代子さん)
結婚を許された二人
ヘンリー五世はイギリス、フランス両国の王になるのです。
【同人物を同じ俳優が演じる妙】
『ヘンリー五世』独立した作品でありながら、シリーズを通して同一の主要キャストやスタッフ陣によって上演を重ねてきたからこそのお楽しみも。2016年の『ヘンリー四世』二部作からの流れをくむキャスティングの妙も随所に見られます。
まずはこの方、本作タイトルロールのヘンリー五世を演じるのは浦井健治さん。『ヘンリー四世』第一部“混沌”では放蕩無頼のハル王子、第二部“戴冠”のラスト、ついにヘンリー五世となりファミリーツリーの頂に座した国王ヘンリー。彼は名君か暴君か…。
国王ヘンリー(浦井健治さん)
後方左より)ヘンリーの弟ベッドフォード公(亀田佳明さん)、グロスター公(鈴木陽丈さん)
前作をご覧になった方には、やんちゃをしていたハル王子の面影をたたえる王の姿に、物語で描かれる以上の親しみや感慨がわいてくることでしょう。(これまでを振り返ると、ヘンリー六世、リッチモンド(のちのヘンリー七世)も演じていらっしゃるので、『ヘンリー四世』の後日談でもあり、『ヘンリー六世』の前日譚でもあることをまさに体現しているような浦井さんなのです)
そして、そんなハル王子時代を知る人物、ピストルを演じる岡本健一さんも、また、引き続いて同役を演じられます。王としてフランスへ進軍するヘンリーと居酒屋から戦場へ赴くピストルたち、同じ戦争の二つの物語が交わるときの興奮はなかなか得難いものです。リチャード三世、ホットスパーとしてなど、シリーズを通して、常にヘンリー王に立ちはだかってきたような岡本さんと浦井さんの、新しい角度からの(芝居の)絡みにも期待です!
王の叔父エクセター公は浅野雅博さん
ヘンリー四世第二部-戴冠-舞台写真 ほかにもヘンリー王の弟ベッドフォード公爵(ジョン・オブ・ランカスター)の亀田佳明さんや『ヘンリー四世』から『ヘンリー五世』の間に起こったピストルとの新展開に「!!」となるネル(『ヘンリー四世』ではクイックリー)の那須佐代子さんなど、お楽しみはそこここに散らばっていますよ。今回、中嶋朋子さんが演じる王女キャサリンがその後のイギリス王の系譜とどうかかわるのかを思うと、そこもズシリと響く。この果てしなさ、クセになります!
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人
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