劇作家井上ひさしが描いた太宰治の評伝劇『人間合格』開幕! 「人間失格」の作者である太宰治を彼の本名である津島修治の人間関係を絡めながら戦前・戦中・戦後を生きたひとりの青年として描く『人間合格』。
お話は、学生下宿で出会い永遠の友情を誓い合った3人の男たち、津島、佐藤、山田を軸に進みます。3人は時代とともに大きく変化する価値観の中で、信念を頑なに貫く者、時流に乗る者、その場その場で合わせてしまう自らに思い悩む者──それぞれの道を生き始める。そんな彼らの人生が交わるとき。
青柳翔(撮影:宮川舞子)
津島(太宰)を演じるのは青柳翔さん。愛嬌と実直さを持ち合わせた愛すべき津島です。戦後、怒りに震える姿にハラハラと涙がこぼれました。あの感情はなんだったのだろう。ダイレクトに心と体に響くのです。
左から、青柳翔、塚原大助、伊達暁(撮影:宮川舞子)
人間とは、生きることとは。変わることと変わらないこと。変革を迫られる私たちに届けられる井上ひさしからのメッセージ。
言葉遊びやお国言葉の面白さ、そこから人間の深淵を描き出す筆力、まさかの偶然の再開を“劇的”に見せる物語の妙、明日を生きる糧となる言葉、そんな小さな宝石、演劇っていいながいっぱい詰まっています。
観劇されたおけぴ会員のみなさんからの感想、舞台写真と共に公演をご紹介いたします。
◆井上ひさしさんの「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく・・・」がこころに響きました。久々の観劇にふさわしい、すばらしい舞台でした。
◆太宰治の評伝劇でありながら、彼と関係のあった女性はひとりも登場せず、男性の友人との交流を通して彼の人生や人となりを描くという切り口が新鮮で面白かった。
人間失格と人間合格、戦後戦後で価値観が転換する中で、人の価値を決めるのは何なのか。さまざまなタイプのダメな人物ばかりが登場するのですが、見終わった後、結局、どんな人間であれ、失格はいない、みんな合格なんだと言われているような、井上ひさしの人間へのあたたかい眼差しを感じられたような気がします。
◆単純に3名の青年の、戦前戦後にかけての友情物語としてたのしむ事も出来るし、深く作家の政治的なメッセージを考察することも可能であるような。
つまりは観客を選ばない舞台です。左から、塚原大助、青柳翔、伊達暁(撮影:宮川舞子)
三者三様ながら自然と惹かれ合う関係。1対1の対立とはまた違う、「3」のバランスも興味深い!
◆写真をモチーフに物語はすすんでいく。
戦前戦後の社会的な混乱を背景に、写真1枚で1幕ずつに世情を反映した描き方はとてもわかり易くちょっと考えさせられた。3時間弱の上演時間が気にならないほど没頭出来た。
◆時代に翻弄された人たちの生きざまが、胸に沁みました。
こんな時だからこそ、励まされる演劇、ありがとうございました。
◆役者さんが作者の歯切れのよいセリフをテンポよく聞かせてくれます。
私は特に女優陣の芸達者ぶりに感心してしまいました。お勧めします。左から、益城孝次郎、青柳翔、北川理恵、塚原大助、伊達暁、栗田桃子(撮影:宮川舞子)
時代に翻弄されながらも、しなやかにたくましく生きる女性たちを演じる栗田さん、北川さんの芝居に唸る!人買い、絶対的家父長制や女性参政権、激動の歴史は女性の置かれた立場の歴史でもあります。
◆久しぶりの観劇はとてもあたたかい気持ちになりました。
こんな仲間がいたんだなと太宰のイメージが変わりました。青柳翔さんは着物姿もお似合いでかっこよかったです。また、番頭さん役の益城さんの津軽弁が外国語のようで面白かったです。
◆太宰治こと津島修治の上京から晩年までの物語。作家としてしか知らない太宰の人間味がある姿が随所に描かれています。
主演の青柳さんの、若い時分から年齢を重ねた後までの重層的な表現、友人佐藤役の塚原さんと山田役の伊達さんの一本気とコミカルさの表現、中北役の益城さんの小気味良い津軽弁と歌声を楽しめました。何役も演じているのにキャラが立っている栗田さんと北川さんのお芝居も見所です。
6人で演じられているとは思えないほどの見事な、お勧めの作品です。
◆コロナの対策は完璧だったと思います。待ちに待った演劇、それもこまつ座です。ただ井上先生が生きていらっしゃれば、今のこの世界の状況をどんな作品にして頂けたのか、それだけが残念です。演劇は世の中に必要です。頑張って下さい。左から、益城孝次郎、青柳翔、北川理恵、伊達暁(撮影:宮川舞子)
3人の青年たちと津島家の番頭さん中北さんの「生き方」の違いも鮮やかに、そして哀しく映ります。
◆自粛前最後の観劇、自粛後初の観劇もこまつ座でした。新型コロナウイルスにより、これまでと少し違った世の中を生きることになった私たち。それでも変わらぬものが自分の中にあり、それに従って生きることが出来ているのか?世の中の動き左右されて、フラフラ生きていくのか?さあ、どうする?井上ひさし先生から、そんなことを言われたような気がします。
◆宇野誠一郎氏作曲のテーマ曲が素晴らしい。しっとりとした名画のように情感を醸成。
太宰治の物語というより、本名である津島修治のお話。共産党運動に関わる戦前の帝大時代から、戦中戦後と流れる友情の詩。何役も易々とこなす二人の女優、北川理恵さんと栗田桃子さんが見事に助演。次の場ではどうなるのかワクワク。『インターナショナル』の三味線長唄バージョンは秀逸。
益城孝次郎氏の津軽弁がまた凄かった。塚原大助氏演ずる無名の共産党活動家が主人公のようにも感じられる作品。『アウフヘーベン』がキーワード。
◆新型コロナウイルスの蔓延で価値観が大きく転換した昨今。同じように価値観が180度変わった戦前、戦中、戦後について、太宰治とその友人の視線を通して描いた作品です。左から、青柳翔、塚原大助、益城孝次郎、北川理恵、伊達暁、栗田桃子(撮影:宮川舞子)
見るたびに新しい響きを感じる演劇の魅力。今回の観劇では……「食」がこれまでになく印象的でした。(空腹だったわけではなく…笑)
「それじゃ、食べることだけ考えていればいいってことじゃないかよう。あんまりみじめじゃないか……」
「人間にはひとつとんでもない欠点がある。(略)たえず腹が減るってことよ」
「生きること」人間を見つめる優しさと厳しさ、すべてをひっくるめた愛がそこにありました。そして、イカと大根の煮つけ、おけぴスタッフも好き!
公演は23日(木・祝)まで紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて、その後、山形、仙台、兵庫、名古屋公演と続きます♪
おけぴ稽古場レポートはこちらからこまつ座、継続・存続のための
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★劇作家・井上ひさしの遺した言葉を、
そして演劇を次世代に繋ぐ★
おけぴ取材班:chiaki(文・編集)監修:おけぴ管理人