オール男性キャストで独特の演劇世界を作り出してきた劇団スタジオライフが、劇団の枠を超え、さまざまな演劇人と共に切り開く“新しい演劇創作への道”プロジェクト。
その名も“ライフ企画”!!
これまでのスタジオライフ作品とは全く違う。
けれども根底に流れるものは、やはり変わらない…!?
注目のライフ企画第1弾は“「スタジオライフ」×「劇団道学先生」” の異色コラボレーションです。
ちょっとドキッとするようなタイトルも気になる『メンズ・クラクラ日記』。
今回の企画の発案者でもある河内喜一朗さん(スタジオライフ主宰)と、演出の青山勝さんのダンディ・インタビュー、そしてベテランメンバーの皆さんが久々に顔を揃える稽古場レポをお届けします!
男たちの誇りと夢の物語!
「スタジオライフ」と聞いて、最初に頭に浮かぶキーワードといえば…
“男優さんが女性の役も演じる劇団”
“美しく儚く耽美な世界観”
“トーマの心臓”…などなど、いわゆる「男くささ」とは無縁のイメージばかり。
魅力的な俳優陣と、脚本・演出を手がける唯一の女性メンバー・倉田淳さんの作り出す現実と虚構のバランス、それこそがスタジオライフの魅力!
そう思われる方も多いはず。
が!しかし!
今回ご紹介するライフ企画vol.1「メンズ・クラクラ日記」に登場するのは、制服でも、きらびやかなコスチュームでもない“作業着姿”で人生に迷い悩む、地に足の着いた男たち。
この男くささ…新鮮です!
物語の舞台となるのはとある地方都市にある、とある工場。
かつては実業団リーグの強豪として隆盛を極めた野球部の活動が、不景気のあおりを受けて休止されることが発表される…。
そして起こる、“ある出来事”。
この出来事をめぐり、男たちの“心の物語”が始まります。
元高校野球のスター投手・大島に笠原浩夫さん(写真右)
そして同じ工場の野球部員である野々村に前田倫良さん(写真左)
いかにも野球部のエース然とした体格や雰囲気の笠原さんと、ちょっと複雑な立場の役を絶妙の好感度でみせる前田さん。
淡々とした会話の中から、「純粋に野球が好き」なだけではない、ふたりの気持ちが浮かび上がります。
他の登場人物についての詳細は、観劇してのお楽しみということですが、それぞれに事情を抱え、人生の岐路に立たされた同じ会社で働く8人の男たち。
台詞のひとつひとつから、追い詰められ、煮詰まった心情がヒリヒリと迫ってきます!
(写真左から)楢原秀佳さん、笠原さん、甲斐政彦さん
人情喜劇の名手として知られる劇作家・中島淳彦さん(「宝塚BOYS」「タカラレ六郎の仇討ち」など)と、
俳優・演出家の青山勝さんを中心に結成された劇団「道学先生」。
スタジオライフの作品世界とは、真逆の印象の「道学先生」と「ライフ俳優」のコラボはどのように始まったのか!?
河内喜一朗さん、青山勝さんにたっぷりと語っていただきました。
(写真左から)河内喜一朗さん、青山勝さん
――スタジオライフのベテランメンバーと劇団道学先生とのコラボレーション。意外すぎる組み合わせに驚きました。
この企画のそもそものきっかけを教えていただけますか?
河内)
昨年末、道学先生の芝居を観に行ったんです。
その際に青山さんと飲みの席で話がもりあがり「クラクラ日記をスタジオライフでやってみたらどうか」という話があがったのがきっかけです。
僕もちょうど「なにか(スタジオライフとして)新しい発展がないか」と思っていたところだったので、
すぐに青山さんに台本を送っていただきました。
読んでみたらすごく良くって、感動して…、この作品から“ライフ企画”を始めていこうと決めました。
他の演劇人とのコラボレーションでお互い楽しいことが出来たらいいな、と僕が発案したのが“ライフ企画”。
スタジオライフという劇団は、昔から外部の演劇人との接触があまりなかったんですね。特殊な劇団だと思われていて(笑)。でもこれから、こういう形で外部の方とも交流して行きたいという思いが込められた「ライフ企画vol.1」です。
――青山さんはなぜこの作品をスタジオライフで、と思われたのですか?
青山)
もともとこの本は道学先生の旗揚げ前、中島淳彦に「男性だけの芝居がやりたい」と言って書いてもらったものなんです。
僕自身の初めてのプロデュース作品ということもありましたし、芝居の出来も良かったですし、いつかまたこの作品を上演したい、という気持ちはずっとあったんですね。
でも男ばかりの芝居って、いざやってみると…(笑)。稽古場に行く気持ちが、ね…?
――稽古場に華やぎがない?
青山)
そう言っちゃうと身も蓋もないですが(笑)。
お話の内容も、バブルがはじけて世の中がいきなり不景気になってしまった頃を描いているので、こういう芝居は景気が良くなった頃にまたやりたいね、なんて当時は思っていて。その後20年間、景気が良くなる兆しがないままに時は過ぎてしまった。この作品のことがずっと頭にありながら、なかなか上演の機会がなかったんですね。
河内さんにはその後プロデュースした「ラッキーマン」という芝居に出てもらっていたし、随分前からご縁はあったんです。
スタジオライフだったら、もともと男性ばかりの劇団だし、ちょうどいんじゃないかなと。
それにスタジオライフと言えども、古株のメンバーの方はだんだん年齢だって上がってくるじゃないですか。そういう役者に合う芝居はないか、そう考えた時にひらめいたんですね。
その後はトントン拍子に上演の話が決まりました。
演出中の青山さん(写真左)
――青山さんの演出を受けて、どんな印象ですか?
河内)
とても新鮮ですね。
ご自身も役者なので、指示が具体的でやりやすい。この役はこんな感じなんだ、というのが直接伝わってきますから。
…でも反面やりにくい部分もあるかな。ほら、演出家のほうが演技がうまいからさ(笑)。
青山)
本当は演出家が自分でやってみせるのは良くないなと思うところもあるんです。
今回はやらないぞと思っていたんですけれど、ついつい。
演出中、実際に動いて見せる青山さん。
“役”としての体の反応を感じて、
台詞の裏にある気持ちのつながりを丁寧に確認しながら動きを選択していきます。
そして、より一層熱を帯びた場面に…!
――スタジオライフの役者さんの印象は?
青山)
みなさん真面目ですよね。真面目すぎて…驚きました(笑) !
出演者の中には、長期間スタジオライフの本公演に出ていない方もいるので、普通の劇団のように、ぱっと集まってツーカーで出来上がるという感じではない。それも意外でしたね。その分、じっくりと作っていけるかな。
やはり作家と演出家がいつもと違うことで、全員が“客演”という気分かもしれませんね。演出家が変わるとそれだけで稽古場の雰囲気はガラッと変わりますから。和やかだった集団が、気がつくとギスギスしていたりして(笑)。
――先ほどの稽古を拝見したかぎり、とてもよい雰囲気のお稽古場でした(笑)。
(写真左から)甲斐政彦さん、藤原啓児さん
緒方和也さん
(写真左)深山洋貴さん
――泥臭くて情けない男たちを、スタジオライフの役者さんが演じることが最初は意外な感じでしたが、拝見している内にどんどん引きこまれていきました。
特に河内さんが演じていらした“小柳さん”の佇まい、印象的でした。
青山)
この作品を推薦した理由は、単純に男だけの芝居だからということだけではないんです。
初演の時から、この“小柳さん”の役が強く印象に残っていまして、これは絶対に河内さんに合う役だな、と前から頭のなかにあった。
今回もしかしたら河内さんにこの役をやってもらえるかもしれない、こんなチャンスはないなと思って。
役者にも器用な人や不器用な人…色々なタイプがいますけれど、どんな役者でもその人にしか出せない色というものがあります。
河内さんにしか出せない色、河内さんだけが持っている空気感、それが発揮出来る役だな、と直感で思ったんです。
登場人物の心情をあぶり出す“小柳さん”の存在…。
河内喜一朗さん、とっても良い声、抜群の存在感です!
河内)
“小柳さん”というのは、この世からいなくなった後も、他の登場人物たちに思い出してもらうような役。
「私はあなたなんです」という台詞があるんですが、みんな“小柳さん”に自分自身を投影しているんですよね。
それって…そういう役って…まるで『トーマの心臓』のトーマのような役ですよね!
―― …!! この企画の意図が今、ストンと腑に落ちました。
おじさんたちの“トーマの心臓”、つまり“裏・トーマの心臓”なのですね!
河内)
薹 (とう) のたった“トーマの心臓”(笑)。
役者として、こういう役をもらったのは初めて。とてもやりがいのある役だなと思っています。
――なるほど。小柳さんがトーマだった…。
青山)
いや、ぜんぜん違うと思いますけど!
よくまあ今回の芝居を、トーマの世界になぞらえることができますね…。聞いていて、びっくりしましたよ(笑)!
河内)
だいぶ倉田に感化されちゃったかな(笑)。喩え話でも、ついついトーマが出てきちゃう。
でも本当の話、この台本を読んで僕が最初に思い出したのは『アンネの日記』なんです。アンネも1日に1回、空を見上げるんですよ。隠れ家の小さな窓から。
そこから見える景色というのは、ナチスに町が占領されていて、自分の同胞たちが連行されていく、嫌な景色。それでも彼女は毎日空を見ている。
勝者と敗者に分けられた世の中では、圧倒的に敗者の数が多いんです。
現実に押しつぶされた登場人物たち、そのあたりが今回の作品とリンクするなと感じましたね。
――おじさんたちの『アンネの日記』ですね。
物語のキーワード、それは「小柳さんの日記」!
青山)
あの…たぶんね、『アンネの日記』を読んだ方が、このインタビューを読んで芝居を見に来たら「ええっ!?」となると思うけど(笑)。
まあ、でも受け取る人の中でそれぞれのイメージが浮かぶものというのは良い作品ですからね。
今回の作品も観てくださる方、それぞれのイメージでなにか良い余韻を持ってかえっていただければ嬉しいですね。
スタジオライフの観客は、ほとんどが女性の方ということですけれど、この芝居は、20年前に30歳そこそこだった僕らが「自分と同世代の男性にみてほしい」という思いで作ったものなんです。
今回も普段スタジオライフの舞台を観ない方や、男性の方に、少しでも劇場に足を運んでいただければ、こんな嬉しいことはないですね。
それから…劇団道学先生もどうぞよろしくお願いいたします(笑)!
スタジオライフのお客様にも「こんな作品があるんだ」と知っていただいて、お互いにプラスになるといいなと願っております。
河内)
今までとは違うライフです。
新しいものを生み出す瞬間をぜひ観にいらしてください!
「私は、あなたなんです」
男たちの手に残った“小柳さんの日記”。いったいそこには何が書かれているのか…?
“経済”そして“成長”という名の戦場で、戦い、追い詰められ、逃走し、諦めて、それでも空を見上げる男たち。
これまでのスタジオライフ作品とかけ離れているようで、観劇後に残る、ある種の爽やかさは同じものなのかもしれません。
脂の乗りきったスタジオライフ俳優のみなさんが演じる“男たち”の“誇りと夢の物語”。
ぜひ劇場で、その涙と笑顔を感じていらしてください!!
スタジオライフ×劇団道学先生!!
<『メンズ・クラクラ日記』舞台写真が届きました!>
作業着姿で悩み、愚痴を言い、それでも空を見上げる“働く男”たち。
(合唱練習する姿がなんともいじましく可愛らしい!)
これまでのスタジオライフのイメージを覆す新たな試み。
舞台の雰囲気が伝わりましたでしょうか?
今後の「ライフ企画」からも目が離せません!!
全員集合♪
おけぴ取材班:Chiaki(撮影/文) mamiko(インタビュー/文) 監修:おけぴ管理人