日生劇場にて上演中の
『十二夜』にて、友のために自らの身の危険を顧みず決闘に加勢する男
アントーニオ役を熱演中の
山口馬木也さんにお話をうかがいました。
まずは簡単に『十二夜』での役柄をご紹介。
物語の主人公は船の遭難で離ればなれとなった、双子の兄妹・セバスチャンとヴァイオラ(音月桂さん二役)。
その兄セバスチャンサイドのストーリーで重要な役割を果たすのが山口さん演じるアントーニオです!アントーニオは船長、海で遭難したセバスチャンを助け、行動を共にします。たどり着いたイリリアの土地は、その領主と一戦交えた過去があるアントーニオにとっては危険きわまりないのですが、それでもそこにとどまる理由。それはセバスチャンへの愛なのです。
--『十二夜』公演を拝見いたしましたが、山口さんのアントーニオがとても印象的でした。
山口さん)僕、アントーニオだけ本当に真っ直ぐというか、セバスチャンだけを見て、想って、行動しているというところで、ほかのキャラクターとちょっと温度が違うのかもしれませんね。
あとはあのラストシーンですよね(笑)、あれは最初にジョンに「残すからね」と言われました。
--それぞれの想いがぐちゃぐちゃに絡まりあったところに、スバッと切り込んできますよね。山口さん)そうそう、直線的に(物語に)入っていって、直線的に落ちていくような(笑)。
--セバスチャンへの愛をどのように感じ、演じていらっしゃいますか。
山口さん)パンフレットでも書きましたが、「男であるセバスチャンをどう愛するのか」は最初の壁でした。いくつかの原作本を読みましたが、今回の松岡さんの本では、やはりちょっとセクシャルなニュアンスも含まれていて、友情をちょっと超えたところにあるんですよね。ただ、そこまでセクシャルなものだけでもなく…そう考えると、はじめはどうしたものかと思っていたんです。
でも、いざ稽古場で(音月)桂ちゃんが演じるセバスチャンとお芝居をすると、桂ちゃんが単純に男女関係なく魅力的な人としてアントーニオの目に映り、すんなり芝居に入れたんです。僕の中で性別の垣根を越えて、容姿というとちょっと語弊があるかもしれないけれど、彼女が放っているものに惹かれ、それが男であろうが女であろうがどうでもいいと思えたのでしょうね。
--音月さんが両方の役を演じるという仕掛けが効いてきているということですかね。
山口さん)今回、ジョンも「ヴァイオラとセバスチャン、どっちがどっちかわからない」という演出をつけていますしね。
それに関連して、演じていてすごく面白いなと思ったことがあるんです。
アントーニオの前にヴァイオラとセバスチャンが同時に現れるシーンがありますが、その時、桂ちゃんがヴァイオラを演じていたとしても、どうしても桂ちゃんに目を奪われてしまうんです。心を奪われていたのはセバスチャンのはずなのに…。
そして、最後、桂ちゃんはヴァイオラ役として舞台上から去るのですが、その時、僕は男性に手を取られて去って行くそのヴァイオラが気になっているふしがあるんです。
そう思うということは、最初からアントーニオはセバスチャンの姿かたち、醸し出す雰囲気の中にある女性的な面を見ていて、つまりそれってヴァイオラに惹かれていたということになるのかな。あの瞬間、「想いを寄せたあの容姿の女性」という意識が大きくなるんですよね。
それは別にジョンから、そこに感情を持っていくようにと指示されたことではないですが、そういう感覚がわき上がるところにジョンの演出マジックがあると感じています。
もし男性がセバスチャンを演じていたら、また違っていたでしょうしね。
--役作りを越えて、実際に演じることでわき上がる感情ですね。
山口さん)あとは、最後に結ばれる人々を見たときに喜ばしいことだとは思っていながら、「でもやっぱり結婚式には参列したくないな」と思っているアントーニオもいます(笑)。なんかその温度じゃないんですよね。
そうやって本を読んでいるときには全く予期していなかったものがわき上がるのも面白いなと思っています。
--剣を持って颯爽と現れたり、想いを熱く語ったり、アントーニオ、カッコいいですよね。山口さんが演じられているということももちろん大きいですが!
山口さん)ありがとうございます。
(宝塚で男役をされていた)真瀬(はるか)さんには「アントーニオをやりたい!」って言われました。女性ファンを増やすにはアントーニオがいいんですって(笑)。
僕が言ったんじゃないですよ、真瀬さんが言ったんです!
--アントーニオ、数多くの女性の心をつかんでいますよ!そして、ラストシーンがそうさせるのかもしれませんが、「あの人、あの後は…」という観劇後も非常に気になる存在です。
山口さん)そうなんですよね。
どうなったんだろうなぁ、あのまま国に帰ったんでしょうかね(笑)。
まぁ、そこは十人十色、ご覧になったお客様のご想像にお任せしますなんですけどね。
--そうですね、それもまた観劇の面白さですよね。
さて、アントーニオのその後はみなさまのご想像にお任せするとして、山口馬木也さんの今後はというと…。
シアタークリエにて『おもろい女』ご出演ですね。まだお稽古は始まっていないかと思いますが、この作品に臨む今の心境は!
山口さん)ちょっと話がずれるかもしれないのですが、実は僕、藤山寛美さんが大好きなんです。松竹の寛美さんのビデオとか全巻持っているくらい。
そして、藤山直美さんの舞台もこれまでに何本も観ていますが、確実に面白いじゃないですか。
観ている時は楽しい!というだけですが、いざ自分が同じ舞台に立つとなるとものすごいプレッシャーです。もちろんすごく楽しみでもあるのですが、同時に怖いです。
--怖さですか。
山口さん)よく僕らも「間」とか言いますが、藤山直美さんは本当の意味で「間」を使える方だと思うんです。
それも稽古場でお芝居しながら作っていくことだけでなく、一度作ったところにさらに藤山さんのセンスでちょっと外したり、さらに何か入れ込んだり、そうなると多分、僕はわけわからなくなると思うんです。出来る限り頑張ってついていこう!真摯にぶつかっていくのみです。
だって、その日の湿度で「間」を変えそうな、まるで匠のうどん屋さんみたいなことをしそうな方でしょ。今日はちょっと水を多めに入れたろかくらいの!
芝居の相手役だけでなく、お客さん、劇場の空気…いろんなことを感じて反応する、毎日が勝負になるだろう、そういう怖さがあります。役者として当たり前のことなんでしょうけどね。
--ちなみにどのような役柄になりそうですか。
山口さん)しがない新劇役者、鼻持ちならない男になりそうです(笑)。
--同じ喜劇でありながら、洋から和へ。ところで喜劇を演じるということに関してどうお感じですか。
山口さん)今回の『十二夜』もそうですが、演じている側はいたって真面目なんですよね。
本気でセバスチャンを救いに来たのが、大きな勘違いをしていて…というところでお客さんは笑ってくださるんです。お客さんの反応で、「あ、そこが面白いんだ」と逆に教えてもらうような感覚です。
テクニックで笑わせようということではなく、真っ直ぐ真っ直ぐやっていることが面白さにつながるのが喜劇なんじゃないかな。
--ここからはちょっと話題を変えて、今年の舞台出演作『真田十勇士』『十二夜』そして『おもろい女』、それに象徴されるように「和」「洋」を自在に行き来するご活躍ですよね。
山口さん)ありがたいことに、いろいろな作品に呼んでいただくのですが、以前、和モノ時代劇の後に古典作品で兵士を演じた時、去り際、無意識に摺り足になってしまい、演出家に「コソ泥か!」と指摘されたことがあります(笑)。
山口さん)その時は「すみません!今、足が地上から離れません!」って状態で…。
今回もそれに近くて、時代モノからアントーニオだったので、立ち回りでも重心が落ちてしまって、なかなか上に逃げないんですよね。
--体に染みついたものが抜けきらないという感じですね。
あと、和・洋でいうと、とても端正なお顔立ちでいらっしゃるじゃないですか…。
山口さん)濃いですよね、大丈夫ですよ、言われ慣れているんで(笑)。
--あ、はい。濃くて、華やかなので、パッと見た印象だと「洋」なのに、「和」とくに時代劇がピッタリでいらっしゃるんですよね。
山口さん)なんだろうなぁ。時代劇ってカツラがあって、和服があって、僕の顔の濃さに負けないものがありますよね。西洋の、特にそれが中世だったりすると、その場合も衣裳の装飾もかなりありますし、セリフの内容とか言い回しが、やっぱりこの濃さに負けないでしょ。そのバランスがいい感じになるのかな。だからごく普通の人とかあんまりなかったりしますよ(笑)。
僕自身は、こう顔が濃いのは全然好きじゃないんですけどね。
--ええ!そうなんですか。
山口さん)今は早く老けたいな、白髪が今の10倍ぐらい増えたらいいなと思っているんですよ。
歳を重ねると、いろんなカテゴリー分けがなくなる気がするんです。
今、共演している青山達三さんはシェイクスピアの世界にもしっくりくるし、隣のおじいちゃんでも、時代劇の老中でもイメージピッタリですよね。それにはもちろんお芝居の素晴らしさも備わってのことですが、歳を重ねることで、幅が広がるかなと期待しているんです。
--確かに、私たち観客もどうしても山口馬木也さんというと「二枚目」を求めてしまいますね。
山口さん)これまでにも舞台上で水をかぶったり、いろいろとやってはいるのですが、基本的におっしゃっていただいたような、(二枚目の)鼻持ちならない役が多いんですよね。
そういうイメージを持っていただけるのはうれしいことですが、いろいろな役をやってみたいんです。そう思うと、橋本さとしさんは端正な顔立ちでいながら、今回のように飄々とした面白さもあって、稽古場でもたくさん笑わせてもらいましたね。
そこは劇団新感線仕込みのセンスっていうのもあると思いますが(笑)。
--これからどのような役に挑戦されるのか意外なお姿も見られたりして!ますます楽しみです。とはいえ、『十二夜』から『おもろい女』というのも十二分に振り幅があると思います。日生劇場からシアタークリエへ劇場を移し、また全然違う山口馬木也さんにお会いできるのが楽しみです。
山口さん)チラシを見ても、同じ東宝さんでこんな違いますよね(笑)。
稽古場でしっかり勉強し、みなさんに楽しんでいただけるように頑張ります!
--公演の合間の休息時間にも関わらず、楽しいお話をありがとうございました。最後に動画でメッセージいただきました!!
山口馬木也さんご出演の『おもろい女』2015年6月21日(日)12時の公演にて
おけぴ観劇会を開催いたします!(プチお土産付き、終演後は舞台関係者のアフタートークも開催)
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おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文)おけぴ管理人(撮影)
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