期待のミュージカル俳優の皆さんにお話を伺って文章で応援する「おトーク」!
企画第三弾は、現在上演中の「ミス・サイゴン」新演出版でクリス役を演じている
上野哲也(うえのてつや)さんです!!
「ミス・サイゴン」オーディションの裏話、クリス役への思い、そして、個人的に続けられているライブやユニット活動のこと・・・などなど、楽しいお話をたくさん伺いました!
*──連日の公演おつかれさまです。上野さん、以前に比べて身体がガッチリされた気がするのですが、クリス役に挑むにあたり何か特別なトレーニングをされたとか?上野)
ええ。初めてクリス役をやりたいと思ったのは、2012年に上演された「ミス・サイゴン」新演出版で初めてサイゴンのカンパニーに入って、クリス役のアンダースタディ(代役)に指名されたときでした。万が一に備えて、役について自分でいろいろ勉強していたんですが、そのときに自分なりに腕立て伏せや腹筋を始めたんです。
次回公演でクリス役をやれたらいいな、と思いながら・・・。
その成果か、今回のオーディションを受けたときには見た目も以前とは少し変わっていたようで。演出家はその部分も認めてくれたみたいです。
オリジナル公演は東洋人と西洋人のキャストが入り混じっていますが、日本版は全てを日本人キャストが演じなければなりません。
「よりGIらしく見える」というのも、僕を選んでくれた理由の一つらしいです。
──クリス役を夢見ながら、前回公演から継続してトレーニングを続けていたとは! 真面目で実直な上野さんらしい気がします!上野)
まあ、トレーニングは才能ではなく努力というか、自分の決意次第で続けられるものですからね・・・。
でも、身体を作ってきたおかげで、衣装合わせでも
「もっと身体を見せていこう」ということになって、GIのシャツをもっと上までめくるようにしたり、胸の部分を開いたり、アドバイスをもらいながら何度も微調整しました。やっぱり、見た目の説得力も大事ですからね。
──そもそもミュージカルのオーディションってどんなことをやるんですか?上野)
演出家たちがズラリと並んだ中で歌うんですが、「ミス・サイゴン」の場合、僕はクリス役のアンダースタディを経験していたので、演技も求められました。部屋にあった椅子やテーブルを小道具に見立てて、「神よ何故?」を歌うシーンや、エレンへの告白のシーンなどをやりましたね。
アンダースタディとして前回の公演をずっと見ていて、僕なりに「クリスってこういう人間じゃないか」という思いがありました。
キムと出会った当時、どれだけ彼女のことを守りたい、救いたいと思っていたか、それが失敗したときの絶望感、それでも今はエレンを愛していること・・・表現したいものを思い切ってぶつけました。夢中になって演じたら熱くなりすぎて、立ち上がったときに反動で
椅子が飛んでいってしまって(笑)、「おいおい、壊さないでくれよ」なんて言われてしまいましたが(笑)。
──今回のサイゴンで最も印象的だったのが、まさにそのエレンへの告白のシーンでした。今のお話に上野・クリスの「原型」を見たような気がします。クリス役が決定したときはどんなお気持ちでしたか?上野)
もちろん「やった!」という気持ちはありましたが、喜びはほんの一瞬で、その後は
緊張感、責任感、恐怖心がないまぜになったような気分というのが正直なところで・・・あんな大役、本当に自分にできるのかな、と。
特に、(ドリームランドのシーンで)周りのみんながわーっと喋っている中で、オーケストラに合わせて、タイミング的にもすごく複雑な歌を歌っていくというのは
<超絶難しい>んですよ! 音楽は止められませんからね。「もし失敗したらどうなっちゃうんだろう」という心配は、稽古中も常にありました。実際に演じている今では、心配しすぎるとびびってしまうので、考えないようにしていますが・・・。
──公演が始まってからしばらく経ちますが、周りの方々の反応はいかがですか。上野)
両親も3回ほど観に来てくれていますが、すごく喜んでくれていて、自分としてもうれしいです。
でも、特に父親はけっこう厳しくて、
「あれじゃまだ<哲也>だね」とか
「お前は歌は上手くないけど気持ちがあるから、気持ちでいくしかないね」なんて言われてます(笑)。でも僕自身、うまく歌うってタイプじゃないと思っていますし、“気持ち”で役に挑むしかないなと思っているんです。
──なるほど。でも、それはまさに新演出版の象徴的な特徴でもありますよね。上野)
たしかにそうですね。稽古で演出家に何度も言われたのは、
「ちゃんと歌わないでほしい」「歌っていることを忘れて、“たまたま喋っているのが歌になった感じ”にしてほしい」ということ。伴奏に合わせて気持ちよく歌うと、
言葉が曲に負けてしまうんです。だから、伴奏に合わせながら、でもはまりすぎないように歌う。でもそれって本当に難しくて、稽古中は試行錯誤の連続でした。
──上演開始後、演じながら変わっていっている部分はありますか?上野)
自分としては
「ドリームランド」のシーンから「世界が終わる夜のように」までの場面でどれだけキムとの関係を作れるかが勝負だと思っているんですが、笹本さん、知念さん、昆さんという3人のキムと何度も演じる中で、それぞれ違う魅力を受けとめられるようになってきたかな、と思います。それができると、2幕が圧倒的に演じやすくなるんです。
当然ですが、
恋をするかしないかは相手に会ってみないとわからない。クリスは最初「そんなつもりじゃない」という気持ちでドリームランドに行きますよね。だからその後、キムと出会って、やりとりを重ねていく中で、言葉にならない彼女の魅力を見出さなければならないんです。
──なるほど。毎回、舞台上で相手の魅力を受け取らないと、その後「恋する演技」はできないわけですね。上野)
そうですね。そうじゃないと、演技が形だけになってしまうと思うんです。
キム役が3人、クリス役が2人いますから、稽古では、それぞれのキムと長い時間演じられたわけではありません。だから、今でも舞台上で毎日彼女たちの新たな魅力を少しずつ発見する日々です。
──上野さんといえば美しい高音が印象的でしたが、今回は低く強い声も魅力的です。上野)
演出家からは、
クリスはもっと“ストロング”に、“錐(きり)をお腹にギリギリと刺し込みながら”歌ってほしいと言われました。
たとえばエレンへの告白のシーンで、軽い声だと自分が悲しんでいるように聞こえる。そうではなく、クリスは自分が悲しいとは思いたくない、耐えているんだ、と。それがだんだん理解できるようになって、声が変わっていったのは稽古も中盤を過ぎてから。
「こんな声が出せるんだ」というのは、自分でも新たな発見でした。
今までの何倍も腹筋に力を入れていますから、めちゃめちゃ大変ですけどね。でも、声が枯れることは全くないので、腹筋を使って声を支える力がついたのかもしれません。
──地方公演も控え、今後もどんどん進化していく上野クリス、楽しみです。さて、ミス・サイゴン以外のこともお伺いしたいのですが、ご自身のライブに民族舞踊を取り入れているそうですね。上野)
はい。わらび座出身なので、民舞に対しては特別な思いがあります。地方に伝わる民俗舞踊は群舞がほとんどなんですが、わらび座の十八番でもある「ソーラン節」や、岩手の「鬼剣舞」など、一人で踊れるものを取り入れています。
民舞の魅力って言葉ではなかなかうまく言い表せないんですけど、踊っていると
「DNAが喜ぶ」という感じ。腰を深く落として踊っているとアドレナリンが出まくりで、日本人でよかった!と思えるんです。
──前回の「レ・ミゼラブル」にもご出演された持木悠さんとのユニット「alla moda」では、異なる声質を持つ男性2人のデュオというユニークなご活動もされています。上野)
以前からクラシックやカンツォーネが好きだったこともあって、それらが専門の持木くんに僕の方から声を掛けました。
重厚感のある声と2人のハーモニーを楽しんでもらおうというのがコンセプト。その後、伴奏の大村剛士くんも加入して3人体制になりました。大村くんはバリトン歌手としての活動もしていますから、3人のハモリもあります。大村くんはその時々のイマジネーションで、即興で歌に入ってくるから楽しいですね。
これまで、カンツォーネやミュージカル曲を中心にしたライブを3回ほどやりましたが、おかげさまで好評いただいていまして、「ミス・サイゴン」が終わったらオリジナル曲を作る計画もあります。
──最後に、今後の目標、挑戦してみたい作品や役などがあれば教えてください。上野)
ミュージカル界で必要とされる役者であり続けることが目標です。トップになるというより、
舞台で必要とされ続けられる存在でありたい。そのためには、歌唱力・演技力の双方が必要ですから、今後は演技力ももっともっと磨いていきたいと思います。
将来的には、ジャン・バルジャンに挑戦できるような俳優になれたら・・・バルジャンはとてもスケールの大きな人物。それが演じられるような、
役に負けないスケールの大きな役者になりたいです。
あと、時代劇にも挑戦してみたいですね。以前「龍馬!」というミュージカルで武士を演じたことがあります。慣れない所作をやりながら歌を歌うというは難しかったですが、すごく楽しかったです。
──これからも、役によっていろいろなお顔を拝見できるのを楽しみにしていますね。今日はありがとうございました!鞄の中身拝見!毎公演後、録音を聞き直して反省するという「ICレコーダー」
お気に入りのミュージカル俳優の歌声を研究しているという「iPod」
芸能事務所の社長も務める上野さんらしい分厚い「システム手帳」。カラーはオールブラック!
おけぴ取材班:hase(文)おけぴ管理人(写真) 監修:おけぴ管理人