気鋭の劇作家・演出家 蓬莱竜太さんの観客をぐいぐい引き込む戯曲と隙のない演出。
スリルと笑いを楽しみながら気が付くと深淵なテーマを突きつけられる話題作『正しい教室』、初日を前に行われた囲み取材の様子をレポートいたします。
-蓬莱戯曲&演出について
井上)今回、蓬莱さんとご一緒したいと熱望してかなったこの作品、
台本を読んで率直に「面白いなー」と思いました。初めて受けた演出も独特で、何回も同じシーンを繰り返すんですよ。その都度、すごくダメ出しをされるわけでもないんですけど、
まるで100本ノックのような稽古でした。最初はびっくりしましたが、楽しかったですね。
近藤)俺は苦しかったよ(笑)。
鈴木)すぐ帰ろうとしていましたよね、近藤さんが帰りたいと目配せしてくるんですよ(笑)。
近藤)蓬莱さん厳しくてね。「いや、やりますよ」と言われ、シュンとして(笑)。
鈴木)でも、あの2時間の舞台の中では動きとか演出の派手さはないですけど、
同窓生が集まった雰囲気を出すためには何回も稽古する必要がありましたし、暴力教師と呼ばれた教師が突然同窓会に現れたら…ということを何回も心の中でシミュレーションできるような稽古でした。
近藤)僕は疲れました。
井上・鈴木)明日初日、これからですよ!!
近藤)そっか、よし明日からやるぞーってね…。
僕も今回(蓬莱さんの脚本は)初めてなんだけど、
すっげー面白いの、本は。
面白いんだけれども、彼独特のスタイルで日常の会話を書いていくから、その何気ない会話の中に入っているヒントを見つけるのが大変なんだよね。
小さな言葉の中にあるヒントを。
だから普通のドラマでは流れで覚えていけばなんとなく(セリフが)入るんだけど、彼の(セリフ)は入らないねー。
行きつ戻りつ、ジグソーパズルみたいになっているのが…それが面白いんですよきっと、でも、この歳ではちょっときつかったな。
鈴木)特に、(近藤さん演じる)寺井先生が出てきたあたりから精神的にきつくなるんですよね。みんなが委縮するあたり。
井上)そこからはどんどんきつくなって…。
近藤)だろ?みんなから嫌われているところへ入っていくんだから、僕もきついの(笑)。何回も何回も、「もっと嫌われてもっと嫌われて」なんてのはさ、いやいいんだよ、ドラマの上だからさ。でも、やっぱりなんか精神的に苦しいんだよ。
-役柄について、それぞれ心に傷を持っていますが…
鈴木)私の役はかなり傷が深いというか、いろいろ背負っている役なので、舞台の上に居ながらじっとして黙っていることが多いんですよね。
それを引きずって、
家でも鬱々と悶々として体の内側がこわばってくるような感覚になりました。こういう役をやるのって心理的にしんどいし、自分の役についての解放、出口がどこにもないので、次第に「うーーー!!」となってきますね。こういう役やるの久しぶりですし。
井上)僕も状況がどんどん悪くなる、追い詰められていく役ですが、この稽古に入ってからずっと胃の調子が悪くて。
食べ物にあたったせいもあるんですけど(笑)。
でも、
胃が痛くなるくらいじゃないと最後までたどり着けないというか、やっぱり砂羽さんと一緒で、引きずるというか、ずっとその感情を持ち続けているというか。
鈴木)悶々としちゃうよね。
井上)役柄としては、僕は生徒会長をやっていたので似ていますが、こんな大ピンチになることはそうそうないですからね。それを本当に自分の苦しみとして体験しようとすると本当にへとへとですね。
近藤)まぁ、やっているほうは大変だ大変だという話をしますし、確かにそうなんだけど、見る人はもっと気楽に見てくれていいんだよね。
「ちょっと笑えるミステリーかなー」くらいにね。
深刻な話だと…まぁ、みなさんそう思うだろうけど、それを乗り越えて笑って!-観劇時の注目ポイント
近藤)ある意味、「ここがピークだ」という作りじゃないから(全体的に)気楽に見てほしいな。
でも、やっぱり注意深く聞き逃さないように、つまり
注意深く気楽に!
観終わって、ちょっと疲れてもいいです。井上・鈴木)「疲れてもいいです」って(笑)。でも、そうなんですよね。
井上)同窓会の話なんで、僕は行ったことないんですけど(笑)、みなさん何かしら身に覚えがあるというか経験もあるでしょう。同級生や先生ってなんなんだということを考えますし、
みなさんがどうご自分の体験と照らし合わせてくださるのかが楽しみです。
鈴木)実際にこんな同窓会だったらしんどくて嫌ですよね。
井上)もう二度と集まらないかな(笑)。
鈴木)私自身、先日、同窓会へ行きましたが、ちょっとした
ミステリーの答え合わせみたいなことって確かにあるなーと思いました。「あの時、あーだったよね」ということをお酒を酌み交わしながら言うと、「違うよー、あの時言ったの私じゃないよ」とかそんな話が出てくるんですよ。
井上)まさにこの作品にも出てくるじゃないですか!
鈴木)でも、こんなに殺伐とはしないけどね(笑)!
同窓会って良くも悪くも特殊な会だと思うので、これを見て…これ見て同窓会する人はいないか。でも、見た人が「あいつどうしているかな」とか思ってくれるといいなと思います。
-ご自身の学生時代は
鈴木)芳雄さんはね、まさに
学園のアイドルだったんだよね!
井上)はい、モテモテの(笑)。
鈴木)自分で言うからね!!
まだ会って間もないころに、あるエピソードを話されてびっくりしたんですけど、まさにそういう方なので…
井上)生徒会長をやっていましたが、生徒会長って誰がなっても人気が出るんですよ。
それが僕だったんで(笑)。
鈴木)すごいでしょ!!
井上)これもう
ネタなんですけど(笑)。
鈴木)本当に学園のアイドルで
「芳雄が歌えばみんなが歌う」みたいな学校だったんですって。
井上)僕が外の清掃をしていたら、1年生が窓から外を見ちゃうからって掃除場所を変えられたんです。というような学生時代です…あれ、シーンとしちゃった?!(笑)
鈴木)こんな話なかなかないですよ!
これまでいろんな俳優さんに会ってますし、どの方もみんな素敵でイケメンですけど芳雄さんのこのエピソードが一番なんか・・・この自信が素晴らしいと(笑)。
井上)そのころが一番モテました…(笑)。鈴木)私ですか?私は底辺をさまよっているような、(劇中の)マドンナとは無縁な学生時代でした。でも変わっていて目立ちたがり屋で、よく先生に怒られたりしていました。
近藤)子供の時の話?あんまり昔のことすぎて思い出せないよ。戦争直後ですからね、世界ってこうなっているんだと目覚めたのは。物はない、人はボロボロ、街はヤンキーにあふれ…どんな子供だったかは覚えてないですね。
-みなさんにメッセージを
鈴木)同窓会を舞台にした蓬莱さんの迫力のある会話劇、見ごたえのある舞台になっています。ぜひ観に来てください。近藤)幕が開いてどうなるんだろうという舞台は正直あんまりない、大体わかるんだよね。
でも、これはわからない。見るほうも楽しんでいただきたいが、申し訳ないが私もやりながら楽しませてもらいます。井上)今日ゲネをやっただけでも、見てくれる方の存在が力になる舞台だなと思ったので、明日からお客様に来ていただいて、この作品がさらにどうなるのか楽しみです。
一緒に同窓会に参加しているくらいの気持ちで見に来ていただければ、思いもよらない体験が待っています。劇場でお待ちしています。<関連記事>
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おけぴ取材班:chiaki(文・撮影)、監修:おけぴ管理人