2014/08/28 おけぴロングインタビュー『伊礼彼方さん』 その2

ロングインタビュー その1では『朝日のような夕日をつれて』に焦点を当ててお届けした伊礼彼方さんロングインタビュー、その2ではこれまでの、そしてこれからの活動についてお話をうかがいます。





--率直に、今年、すごいですよね(笑)!

伊礼)
今年の伊礼彼方はフィーバーゾーンですから(笑)

--ざっと挙げてみますと・・・『Paco〜パコと魔法の絵本~』新国立劇場『テンペスト』朗読劇『私の頭の中の消しゴム』『ロルカとアンダルシア』『朝日のような夕日をつれて2014』新感覚・音楽朗読劇SOUND THEATER『eclipse(エクリプス)』ミュージカル『スリル・ミー』ミュージカル『ヴェローナの二紳士』
作品数もさることながら、その上演形態、役柄の幅の広さには驚きです。


伊礼)
確かにね。パコでは“イケてない旦那さん”で、その後“王子様”になって、“ガテン系旦那さん”"上流階級の詩人”、朝日は“マーケッターでゴドー”ということで(笑)。そして次は“陰陽師”、和物は緊張しますね。で、“IQが高い天才青年”で最後は“小姓”これは腰低い感じかな?
すみません、『ヴェローナ』に関してはまだちょっと・・・(笑)

--作品への出演を決める際のカギはどのあたりに。

伊礼)
常に意識しているのはやはり振り幅広くということです。たとえば前回王子役だったら次回は被らないように、また役柄だけでなく同じようなテイストの作品にもならないようにしていますね。
ただ、すべてはオファーがあってのこと。今年は運良くいろんなジャンルの仕事をいただけたというのが大前提にあります。その上で似ていないもの、そして自分の次につながっていくというのを選んでいます。
自分が得意としない方向性に身を置くことで自分を鍛える、成長させる。僕にとって今はそういう期間だと認識しています。




--その意味で印象的だった作品は。

伊礼)
全部と言いたいところですが(笑)。
そうですね、パコはすごく苦労しました
僕は自分の引き出しに全くない役で苦戦、一方で周りは芸達者な方ばかりでしたから。
(おけぴ注:台本に人物像がきっちり書きこまれていない自由度が高い役でしたね)

演出のG2さんは「俺はもう何も言わないから好きにやってごらん」という感じでした。
前回(『リタルダンド』)は、(松下)洸平と僕の二人にすごく手をかけてくれて、先輩方はほったらかしという感じだったのが、今回はほったらかし側に。本読みからとても大変でした。

--それは要求のレベルが高くなったということですよね。信頼されているというか。

伊礼)
最終的にはレベルを引き上げてもらったと思いますよ。でも、最初はもう付いていくのが精いっぱいで、その中での先輩方とのコミュニケーションだったり、なんていうか・・・正直、和気あいあいなカンパニーではありませんでした

役割、わかってるな!よし、やれ!みたいな(笑)。職人さんが集まって一軒の家を建てるような作業で、それぞれの仕事のスペシャリストたちの集団って感じでした。
それまでの作品作りは“大丈夫か?”“理解できているか?”などみんなで話し合って、ここから手を付けていこうというものでしたので、慣れるまでには時間がかかりました。




--その現場を経て成長したこと、具体的にはどのようなことでしょうか。

伊礼)
芝居について何をどうすればいいか、初めはいくら言われてもわからなかったんです。
でも最後の最後に(山内)圭哉さんの芝居を見てハッとしたというか、“何やってるんだろう俺”って気づかされたというか

--どのような気づきが?

伊礼)
要するに“とにかくやってみよう”という。
それまでは芝居に対して、どういう作品でどういう方向性でこういう役柄だからこういうことするだろうと枠を決めていたところがあるんです。でも、圭哉さんの芝居はわかりやすく言えばオチのために伏線をずっと張っていく作り方でした。
ヤクザの役ですが“ヤクザです”というだけの芝居でなく、“誰かを気にかけている”という空気をちょっとずつ出していき、最後にそれが人間の子分でなく猿だったというオチに持っていく。その“猿”が亡くなることで激しく泣き崩れるヤクザという面白さを生む芝居なんです。それをとにかくいろいろやってみるという。
僕は圭哉さんからアドバイスもいただきましたが、それ以上に観て学ぶという大きな経験をした作品です。

--そういった感覚的に作っていくというのは、目の当たりにして初めて理解できることかもしれませんね。おっしゃるとおり、大きな経験ですね。

伊礼)
もちろん『エリザベート』に初めて出演した時には、(山口)祐さんや(同じ役だった)浦井(健治)くんの姿や芝居を観ることでたくさんのことを学びました。祐さんは言葉数こそ少ないですが、その迫力ある歌声や存在感を目の当たりにして、(ミュージカルでは)こういう空気感でこういうことをやっていくんだということを教えてくれました。

それに近いものを今度は小劇場出身の方々に教えてもらったということです。
そして、その経験があったので『朝日』はすごくやりやすかったです。あの作品は“物語”があるわけではないので、以前のようにそこにとらわれていたら短い稽古期間で、僕は間に合っていなかったと思います(笑)。
『朝日』は“動いて早口でガーとしゃべること”で人物像が現れてくるようなところがあると思うんですよ。伊礼彼方が肺活量の限界に挑む必死な姿、そこからマーケッターやゴドーという人物像がにじみ出る作品なわけですよ。
だから“ああしよう、こうしよう”というよりは、“全力でその役を生きる”ことが大切だと早々に感じられたので、鴻上さんがおっしゃった「台詞を覚えてから動くんじゃなく、いきなり遊んじゃおう」にもすんなりなじめました。
冒頭の藤井さんとボールを投げ合う場面など、“こういう言い方してみよう”“こんなこともできるな”と、ワークショップから出来上がっていったところがありますね。




--そうして演劇からも多くを学び歩んでいく伊礼さんの現在の“ホーム”は。

伊礼)
ホームというのはないですね。
僕が目指しているのは“なんでも屋”かな(笑)。

--「僕が帰る場所はやっぱりミュージカルです☆」とはいかないんですね、そんな予感はしておりましたが(笑)。



伊礼)
(笑)
なんでも屋ですから、『ピーチケパーチケ』※ではおバカなこともしますし、鴻上作品では着ぐるみ着て本気歌いもします。そしてその中に『スリル・ミー』のようにシリアスなミュージカルもあるってことです。
実は一時期、正統派な役が嫌だったんです。みなさんが思い描くような王子様(=カッコイイ)役っていうのかな。でも最近はそれも払しょくできました。

--その過程をお聞きしてもいいですか。

伊礼)
ミュージカルでは史実ベースの実在の人物を演じることも多かったためか、どうしても“こうあるべき”という枠にとらわれてしまっていたんです、今思うと。
でも、演劇の世界で鴻上さんと出会い、ザ・オリジナルな役をいただき、なんならあて書きもしてくれて!そこでは枠のない普段の自分で役に臨めたんです。『パコ』も過去にやられているというのはあってもあの人物はオリジナル、『テンペスト』だって言ってみればシェイクスピアのオリジナル。
その経験によって、役の背景から形作るのではなく、役としてしゃべる台詞やシーンを解釈してどうするべきかを考え、“こういう角度でいくと面白いだろう”“こうやったらこう見えるかな”という逆の発想、アプローチができるようになりました。とにかく試してみる、もしダメならダメって言ってくれますからね。さっきの圭哉さんの話にも通じるところです。

枠組みより、そこで表現すべきことは何なのかが大事だと気付き始めたのが演劇の世界を体験してからでした。役に対して決めてかかるのをやめてすごく楽になりました。

--かつて演じた役に今だったら違うアプローチができていたなと思うことも。

伊礼)
ありますよ。たとえばルドルフの悲壮感にしても、それを前面に出すのではなく、どこか人間味を薄くすることでより深い悲しみが生まれたり、隠している闇が見えてきたりするのかなとか。これはあくまでもふとした思いつきなんですけど、当時はそういうことを考える術すら持ち合わせていなかったってことです。

--ひとつひとつの経験が成長に繋がっていますね。

伊礼)
あとはわかりやすく言うとですね、とげが無くなったというだけ(笑)。




--ちなみにミュージカルで着実にキャリアを重ねていた時期に演劇に挑戦、そこに恐怖心はありませんでしたか。

伊礼)
無かったですね、いろんなジャンルに飛び出していきたかったんです。
誤解を恐れずにいうと、ミュージカルに少し閉塞感を感じたというか。
ただ、なんの力もないのに「変えたい!」とか言ってもそれは反感を買うだけなので、変える力が無いなら、自分が変わるしかないって。変わった姿でまた戻ってくればいいと思ったんです。
新しいことに挑戦して失敗してしまうこともありますが、それでもいいと思っています。遠回りしてもそれが結果的に一番の近道になると。
もちろん、ひとつの道を究めていくというスタイルもあると思いますが、僕はそういうんじゃないんですよね。

--同世代の仲間からの刺激もありますか。

伊礼)
それはもちろん。浦井くんに対しては素直に「あいつはスゲーな」と思うし、小西(遼生)くんとかもいろんなことしているし、良知(真次)くんも頑張っているし。
あ、そういえば最近、良知の舞台観てないな(笑)。

--とはいえ、ストレートプレイが続いたときは「ミュージカル作品で歌う伊礼さんを観たい!」というファンの声もあったかと。

伊礼)
確かにあったかと(笑)
ただ、僕は自分自身知らない世界を見てみたかった。ミュージカルをもうやらないわけじゃないけど2年くらい待っててください。という感じで旅に出たんです。
旅に出るからついて来い!ということもなく。
一緒にその旅の過程を見たいと思ってくださった方、そこは見なくていいと思った方、それぞれいらっしゃると思います。そこでたとえばミュージカルしか観ませんという方を否定するつもりも全くありません。
でも、もし久しぶりにミュージカルを観た方に少しでも“伊礼彼方が変わった”“旅で何があったの、観ておけばよかった”と思っていただけたらうれしいですし、その時は「観ない選択をしたあなたの責任ですよ~」って(笑)。

--なんだかいい関係ですね。そして相変わらずちょこっとイジワルを織り交ぜる伊礼さんなんですね(笑)。
というわけで、次回はそんなちょっとイジワルな伊礼さんの人物像に迫ってみます。


はい!まさかの3部作でございます!!
近日公開の完結編(これは本当です)もお楽しみに!
それでは、みなさまごきげんよう。

完結編公開いたしました!こちらからどうぞ!

【関連記事】
おけぴロングインタビュー『伊礼彼方さん』その1
新感覚・音楽朗読劇SOUND THEATRE 『eclipse(エクリプス)』スペシャルイベントレポート



おけぴ取材班:おけぴ管理人(撮影)chiaki(インタビュー・文)

おすすめ PICK UP

【公演NEWS】新国立劇場バレエ団 2023/2024シーズン『ラ・バヤデール』開幕!

ミュージカル『CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~』GPレポート

「M's MUSICAL MUSEUM Vol.6」藤岡正明さんインタビュー

こまつ座『夢の泪』秋山菜津子さんインタビュー

新国立劇場バレエ団『ラ・バヤデール』ニキヤ役:廣川みくりさん、ガムザッティ役:直塚美穂さん対談

【井上ひさし生誕90年 第1弾】こまつ座 第149回公演『夢の泪』観劇レポート~2024年に響く!~

【公演NEWS】『デカローグ 1~4』開幕!各話の舞台写真&ノゾエ征爾・高橋惠子、千葉哲也・小島聖、前田亜季・益岡徹、近藤芳正・夏子からのコメントが届きました。

“明太コーチ”が“メンタルコーチ”に!?『新生!熱血ブラバン少女。』囲み取材&公開ゲネプロレポート

JBB 中川晃教さんインタビュー~『JBB Concert Tour 2024』、ライブCD、JBB 1st デジタルSGを語る~

新国立劇場バレエ団『ラ・バヤデール』速水渉悟さんインタビュー

【おけぴ観劇会】『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』おけぴ観劇会開催決定!

【おけぴ観劇会】ミュージカル『ナビレラ』おけぴ観劇会6/1(土)昼シアタークリエにて開催決定

【おけぴ観劇会】ミュージカル「この世界の片隅に」おけぴ観劇会 5/19(日)昼開催決定@日生劇場

おけぴスタッフTwitter

おけぴネット チケット掲示板

おけぴネット 託しますサービス

ページトップへ