2008年『春の祭典』、13年『フランス印象派ダンス Trip Triptych』に続く、振付家・ダンサー平山素子さんによる音楽シリーズの第三弾はスペイン・バスク地方の伝統打楽器「チャラパルタ」、アイヌの座歌ウポポとのセッションにより、「ダンスとリズム」という身体の持つ根源にせまる意欲作『Hybrid -Rhythm & Dance』!
演出・振付、そして出演の平山素子さんにお話をうかがいました。好奇心の人、平山さんとのお話は、ジャンルを超えて共感ポイントいっぱいの楽しいひとときでした。
【感想が届きました!】
♪躍動感溢れ尚且つ幻想的、そして時には民族的な、不思議で素敵な世界観。
「時間を忘れる」のではなく、「時間という概念を失う」そんな空間。
♪人間の持つ根本的な身体能力の限界に挑んでいるかのような、かなりアグレッシブなダンスの連続で、観ていて本当に圧巻でした。
照明はとても凝っていて唸らせられ、音楽も素晴らしかったです。
♪ダンサーのスピード感溢れる動きが最高に気持ちいい!!!
軽快なチャパルタのリズム、表情豊かなアルボカの音色、声のみで神話世界が立ち上げるアイヌの唄が、シーンごとにくっきりとした印象を残す。
すべてが圧巻のパフォーマンス。しのごの言わずに行くべし。
これを見逃したらもったいない!!
♪ダンサーはみな素晴らしい身体能力、音楽性を備え、1人1人が異なる魅力を放つ。
ダンス、音楽、唄のどれかひとつだけでも素晴らしいのに、それらが合わさって、見たことのない空間が立ち上がる。
セットの台をうまく使った全体の構成も巧みで照明ご美しく効果的。
それぞれが自由な雰囲気で熱量の高いパフォーマンスを繰り広げる一方で、きちんとまとめ上げる力はさすがの一言。舞台の完成度が高い。
海外でも評判となるでしょう。【平山素子さんインタビュー】
──今回の公演『Hybrid -Rhythm & Dance』、その着想はどこから。平山) これまで先端性、現代性を追求し走り続けてきました。その一方で、踊りはもっと根源的なものではないかという意識、それを置き去りにしたくないという気持ちも私の中にずっとあったんです。身体と音の絡み合いのみをコンセプトにしながら表現はとても先端的なアートを提案できないかというところからスタートしました。そこでワールドミュージックについて調べたり、周囲の方にいろいろとご紹介いただく中で出会ったのがスペイン・バスク地方のチャラパルタという楽器とその奏者のオレカTXです。
── 彼らと一緒に作品を作ろうと思われた決め手は。平山) 単純に言うと、すごく気に入ってしまった、惚れちゃったんです(笑)。もうすこし具体的にすると、演奏スタイルが非常にユニーク、木琴のような木の板をすりこ木状のバチで縦方向に打っていくという躍動的なアクションを面白いと思いました。日本には見かけないスタイルですよね。そして、非常に即興性が高く、自由に奏でていくというところにも惹かれました。
さらに、私たち、日本のアーティストとの創作活動に興味を持ってもらえるだろうという期待も含め、オレカTXがフィールドワークにしている、世界各国を旅して現地のアーティストとコラボレートして新しいものを作るという姿勢にも魅力を感じました。
──スペインに赴いてお会いになったそうですが、実際にお会いになっての印象は。平山) 彼らはミュージシャンですが、基本的には普通のお兄ちゃんたちなんです(笑)。お兄ちゃんたちが部活動みたいに、ふらっと集まって演奏し始めると…どこまでも続き広がっていくような。彼らの音楽から、そんな日常性を感じました。素敵ですよね。日頃の私たちが行っている、何時からリハーサルで、そのために何時からウォームアップして、今日はあれをやって、これをやってと、目的を決めてやっていることがちょっとナンセンスに思えてきました。
バスク地方を訪れたときは、パンプローナの牛追い祭り(サン・フェルミン祭)の最中でした。私も参加しましたが、みんな一晩中、飲んで歌って踊るんです。そして午前中はぐだ~っとして(笑)、昼頃から活動を開始して、また歌い踊る。それが約10日間続くんです。根源的なエネルギーを肌で感じました。
──そして、彼らの音楽とかけ合わせる日本の音楽として平山さんが選んだのが、アイヌの座歌ウポポです。これもやはり…。平山) 惚れちゃったんです(笑)。実は私、ボイスで表現なさる方と共演したことがなかったため、いつか一緒にという思いをもっていました。そして出会ったのです。アイヌの歌というのは音階も歌詞もとてもシンプルでそれを繰り返していくループの中で自由にエピソードを描いていく。実際にそれを聞いていると自然とそのドラマに巻き込まれていくのです。そういった技巧的・意図的じゃないところに魅力を感じました。
アイヌのアーティストの方はたくさんいらっしゃいますが、その中でウポポという阿寒湖近くの床絵美さんの歌が気に入って、またまた会いに行きました。「まりも祭り」のときに(笑)。そこでアイヌの衣裳もお借りして、一緒に祭りに参加し、歌ったり踊ったりして過ごしました。
──スペイン・バスク地方の伝統打楽器とアイヌの音楽がかけ合わされることにワクワクします。平山) ミックスは意外と難しい。バスクは暖かく、アイヌは寒い、音楽性は全く違うものですから。それをミックスするのは、最初は違和感があるかもしれないけれど、そこから生まれるものはとてもユニークで面白いものになると思っています。
──それこそまさにハイブリッドです!一方で、ダンサーの顔ぶれもこれまたハイブリッドですよね。平山) これも単純に好きな人(笑)。
──どんなところに惹かれましたか。コンテンポラリー、バレエ、ジャズ、ストリートダンス…同じ振りでも、それぞれの身体を通して表現されると見え方が異なる!面白い!!
平山) まず、私の考えていることを真面目に体現してくれる人が欲しいわけではなかったんです。私が投げかけたものに対して反応がある人、ちょっと違ったタイプの方を集めて、お互いに緊張感がある中で創作したいという思いがありました。それは、私にとってもちょっとチャレンジ、言ったことに対して思いもよらない反応が返ってきて、戸惑うこともあるんです。でも、それも含めてひとつの試練かなと思うんです。
──「試練」とおっしゃるその表情はワクワクにあふれた笑顔ですね。
平山) 踊りという形の残らないものを舞踊作品、舞台芸術として世に出しているのですが、自分のタイプを整理してみると、緊張感をもち続けながら、自分を強くしてくれるような“ちょっと無理な題材”を選んでいることが多いんです。
いつもできるかな、大丈夫かなと思うような目標を設定して取り組むタイプなんでしょうね。
──リスクを恐れないタイプなのですね。平山) そうかもしれません。私、失敗しても失うものはあまりないので(笑)。失敗したらごめんなさいと笑って、また出直しますってね。ただ、どこかで乗り越えられると思っている自分もいるんです。ポジティブシンキング(笑)?
──ハイブリッドな作品を観客に投げかける、そこで目指しているものは。平山) ハイブリッドというのは、“種の違うものをかけ合わせて新しいものを誕生させる”という意味ですが、私が提示するのはいろんなもののハイブリッド、特定の何かと何かのかけ合わせという限定的なものではありません。ご覧になる方が「もしかしたら私と何かをかけ合わせたら最強になれるのかな、何をかけ合わせたらそうなれるかな」ということを一緒に考える時間になったらうれしいです。
──平山さんは好奇心の人、冒険者ですね!平山) 本来、みんなそうなんじゃないのかな。大丈夫、恐れずに一歩を踏み出してください。私も踏み出しているような顔をしているだけで、みなさんがやっていることとそんなに違わないんですよ。私だけ特別な山に登っているという感覚は全く持っていません。興味を持ったことに素直にアプローチする。気になったレストランの扉を開けて入ってみる感じです。ただ私の場合、扉を開けたその先にある景色が普通じゃなかったことが多くてね(笑)。
それを楽しんでいるんです!
──平山さんが作り出す世界の扉を開けてみたくなりました。その先に待っているものが何なのか、本番が楽しみです! 実は、先日お届けした
『Dance to the Future』米沢唯さん、福田圭吾さんインタビューで、おふたりとも「平山素子さんとのクリエイションの面白さ」について触れていました。それに納得!活動のジャンルを問わず、人をワクワクさせるエネルギーはまさにポジティブ!!
【番外編】
平山さんのもう一つの顔は大学で教鞭をとっている“准教授”。
──“教えること”と“踊ること”は…。平山) 別モノですね。
“踊り”って仕事になりにくいんです。どの分野でも同じことだとは思いますが、芸術家はやはり成功する人もいれば実らない人もいるんです。そこで私に教えられることは、私自身が通ってきた道、やり方、知恵、そしてネットワークを伝えることです。
決して、私のように踊ってほしい、私があなたの身体の動きやダンステクニックを直すというクラスではありません。踊りを仕事に変えていくことと、踊りと長く付き合っていく方法をともに考え、教えることが大学での私の仕事です。
実は、それとは別に、クラスにはテクノロジー、文学、医学など、ダンスの専攻でない人もたくさんいるんです。そういう方々に舞台芸術に興味を持ってもらうこと、劇場に来てもらうきっかけを与えることも私の役割のひとつです。日本の現状はたとえば40人のクラスで、劇場でミュージカルや演劇、バレエを見たことがある人と質問すると、おそらく4人くらい。それもたまたま友達から誘われた、友達が出演していたから。そもそもチケット代が高いなどという改善点もあるにせよ、まず、多くの若者が劇場に行ったことがないんです。
インターネット技術の発達により、ますます移動せずに家で見るという傾向が強くなっているような気もします。私のクラスがいろんなところへ出かけていき、自分の肌で感じるという行動を促すこと、そのきっかけになればと思っているんです。
だから、ダンスは上手になってもらわなくていいんです(笑)。
──体験があるとないとでは、大きな違いですよね。 リハーサルの様子も拝見しましたが、次々に繰り出される動きもさることながら、それを伝える平山さんの言葉が面白い!「今の動きはちょっと7月っぽいんだよね、6月ぐらいでお願いします」とか。
それを受け、みなさんの動きが微妙に湿度を帯びたような…気がします(笑)。平山さんの創作活動もどこまでも続き、広がっていきそうな部活動の空気ですよ♪
さあ、みなさんも音楽、ダンス、そのハイブリッド…どこかにピンとアンテナが反応したら、気負いなく『Hybrid -Rhythm & Dance』の扉を開けてみましょう!!
写真提供:新国立劇場 撮影:大洞博靖
おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文) 監修:おけぴ管理人