2021年10月23日(土)開幕、新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』<新制作>の制作発表が行われました。会見には、吉田都舞踊芸術監督、『白鳥の湖』主演の9名のダンサーがご登壇!
新国立劇場バレエ団 2021/2022シーズンのオープニングを飾るのは、泣く子も黙る古典の名作『白鳥の湖』です。王子と姫の恋、立ちはだかる悪役、美しいコール・ド・バレエ、そしてもちろんチャイコフスキーのあの音楽! これでもかと押し寄せる魅力に加えて、今回のピーター・ライト版では、演劇的な要素が加わりまるでシェイクスピア劇のようなドラマ性が際立つとのこと。
これはバレエファンのみならず、演劇ファンにとっても興味津々! 早速会見の模様をレポートいたします。
──本来、吉田都芸術監督の就任第1作目としての上演が予定されていた本作ですが、新型コロナの影響で延期を余儀なくされました。そして、今シーズンのオープニングとしていよいよ上演! 現在の率直なお気持ちは。 長くもあり、あっという間でもあった就任1年目、本当にいろんなことがありました。ただ、これは私や新国立劇場バレエ団だけの話ではなく、世界中の人々にとって大変な1年でした。私自身は周りのスタッフに支えられ、どうにかシーズンを終えることができましたが、振り返ってみると良いシーズンだったと感じています。そして迎える新シーズンが『白鳥の湖』で開幕します。今は、ようやくここまでたどり着くことができた、安堵と楽しみな気持ちです。
私が就任1作目に『白鳥の湖』を選んだのは、バレエの古典に立ち返るという思いからです。ピーター・ライト版にしたのは、私にとってなじみのあるバージョンであることはもちろん、“これまでと違う『白鳥の湖』”だからです。バレエ団の方向性として、ダンサーには踊る喜びだけでなく、演じる楽しさも味わってもらいたい。その点において、ピーター・ライト版はロシア版をベースにしつつもキャラクター造形など細部に至るまで決められていて、ダンサーにとって演じやすいのです。
これはピーター・ライト卿ご自身が、若き日に立ち役で参加していた時に「なぜ、自分はここに立っているのだろう」と思った経験に基づくとうかがったことがあります。実際、古典バレエには往々にしてそういったことがあります。そこはダンサーそれぞれが解釈し作り上げていくものですが、ピーター・ライト版は舞台上の全員に“そこにいる意味”、“なぜ”が明確にあるのです。
──ピーター・ライト版『白鳥の湖』、吉田監督ご自身も様々な役を踊ってこられました。ピーター・ライト卿からの言葉で印象的だったことなどは。 コール・ド・バレエに始まり、4羽の白鳥、プリンセスたちも踊りました。また、本作は私がはじめて主役をいただいた作品でもあります。ピーター・ライト卿からはアメとムチ(笑)、すごく褒めてくださることもありましたが、「表現」についてはかなり強く言われました。「テクニカル的にはできていても、そういうものではない」と。長きに渡り関わってきた『白鳥の湖』は知れば知るほど「こういうことなんだ」と発見のある作品です。
──ピーター・ライト版の魅力は。 これまでいくつものプロダクションで上演されてきた『白鳥の湖』。ピーター・ライト版も、その基となるのは古典です。古典の良いところは残しつつ、彼なりの解釈を入れて成功しているプロダクションのひとつだと思います。初演からまだ40年ですが、こうしてイギリスで人気作として残っている。そこにはやはり理由があるのだと思います。
(ちなみに『白鳥の湖』の初演は1877年!)(質疑より) 少し具体的にお話すると、1幕のパ・ド・トロワも王子と高級娼婦という設定です。それによって踊り方も王子に対するアプローチ、演じ方も変わり、あの時代の空気を垣間見ることができます。2幕のコール・ドの白鳥たちも一人ひとりがプリンセス。ここではオデットが主役だけれど、白鳥のひとり一人にストーリーがある。ダンサーたちにもその意識をもって踊ってほしいと伝えています。
3幕のキャラクターダンス
(民族舞踊から多くのエッセンスを取り入れた踊り)についても全体のリハーサルとは別に時間をとって指導してもらう予定です。国を代表してやってきた王子の花嫁候補たち、そんなプリンセスたちに同行してやってきたのがキャラクターという設定がしっかりとしているのです。そして、王子の友人でもあるベンノが全幕を通して重要な役割を担います。
──会場には衣裳も展示されています。こちらも重厚感のある仕上がりですね。 すべて新調、コロナの影響もあり一人一着作っていただきました。初演時には教会のセレモニー用の生地も使用していたこだわりの衣裳、その再現度には驚きました。さらに見た目は同じなのですが、軽量化が図られているなど改良されているんです。ただ、マントなど衣裳によっては軽いとふわりと浮いてしまい、役の振舞いに合わず、逆に重くしていただくということもありました。
実は昨年2月ごろ、衣裳の打ち合わせにイギリスへ赴きました。そこから一気に動き出す予定が……。でも、あのまま進んでいたらバタバタと上演を迎えていたように思います。1年という時間をかけて、しっかりと準備をしてきた。これはスタッフワークのみならず、私自身、ダンサーと過ごしたこの1年で個々のダンサーのこと、カンパニーのことを知ることができました。同時に、ダンサーたちも私が何を求めているかをより理解してくれたことでしょう。結果的に完璧なタイミングで『白鳥の湖』をお届けできること、私自身も楽しみにしています。お客さまにもお楽しみいただければと思います。
続いては、主演ダンサーのコメントをご紹介いたします。
【オデット/オディール役】
米沢唯(10/23、10/30昼★おけぴ観劇会開催★)
大きな声では言えませんが(笑)、これまで私にとって『白鳥の湖』は修行のような演目でした。でも、今年4月、吉田監督から『白鳥の湖』(牧阿佐美版)のご指導を受け「楽しい」「面白い」と感じることができました。今はワクワクしながらリハーサルをしています。まだ全容はつかめていませんが、ところどころ垣間見える範囲でもキャラクターが生き生きとしている素敵な作品だと感じています。
小野絢子(10/24、10/30夜)
1年前に叶わなかった『白鳥の湖』を上演できること、それに向かってバレエ団が動き出していること、そしてそこに私自身がいられることが嬉しくてしかたがない毎日です。作品について言葉で表すのは難しいのですが、とても素敵な作品だと確信しています。何を言っても私たちにとっては本番、舞台がすべてです。お客様の心に深く残るような本番をお届けできるように、日々、リハーサルに取り組んで参ります。
待ちに待った『白鳥の湖』を、私自身とても楽しみにしています。吉田都監督からは、この1年、演技の部分でのアドバイスをたくさんいただいてきました。踊りの中で演技を追求できるようにしっかりとリハーサルをしていきたいと思います。私ごとですが、今シーズンからファースト・ソリストに昇格したので自覚をもって、お客様に良い時間を過ごしていただけるよう取り組んでいきたいと思います。
木村優里(10/31、11/3)
『白鳥の湖』は古典の代表作。ひとつの作品の中で2つのキャラクター(オデット/オディール)を演じ分けるのが醍醐味でもあります。それによって本番で私自身の心と体に何が生まれるのか、演者として楽しみです。コロナ禍を経て、改めて舞台で踊れることの幸せを感じながら、日々バレエに向き合っています。本番はお客様の心に響く踊りを届けたいと思います。
【ジークフリード王子役】
福岡雄大(10/23、10/30昼★おけぴ観劇会開催★)
まず、この劇場で『白鳥の湖』を踊れることを芸術監督に感謝します。また今回、ゲストノーテーター/ティーチャーのお二人のご指導を受けていること、隔離期間(の不自由)をも含めて引き受けて指導に当たってくださったことにも感謝しかありません。お三方の期待を裏切らないよう、皆様にドラマティックな『白鳥の湖』をお届けできるよう、バレエ団一同切磋琢磨し、精進して参ります。
奥村康祐(10/24、10/30夜)
『白鳥の湖』と言うとロシアバレエの代表ですが、ピーター・ライト版には英国バレエらしさが詰め込まれています。細かいマイムや繊細な感情表現、難しいテクニックがたくさん織り込まれており、大変ですがダンサーとして取り組みがいがあります。たくさんの方にご覧いただけたら嬉しいです。
井澤駿(10/26、11/2)
僕にとって王子役は一番難しいキャラクター。『白鳥の湖』に限らず、王子という役には漠然としたところがあるからです。でも、だからこそ表現の自由度は高く、もちろん作品の枠の中でという制約はありますが、その心情表現にはダンサーそれぞれの個性が表れます。その違いも楽しみにしていてください。
渡邊峻郁(10/31、11/3)
吉田監督が就任された1年前、「ダンスノーブルとは」という動画を見せていただきました。そこから自分の中で踊り方、マイムから歩き方に至るまで意識が変わりました。さらに今回、ゲストの先生方からも素晴らしいアドバイスをいただけたので、それらを活かして王子役に挑み、舞台で表現できればと思っています。
速水渉悟(11/7:上田公演)
今回ははじめて『白鳥の湖』で王子役を踊ります。大先輩の米沢唯さんと踊れることを光栄に思っています。今はリハーサルでひとつずつ積み上げている段階ですが、とても楽しんでいます。(上田公演のチケットも早々に完売したことは)嬉しいです! 初台での公演もいろいろな役で出演予定です!
※10/30『白鳥の湖』おけぴ観劇会では、吉田監督が重要な役割を担うというベンノ役でご出演されます!「ここにいるダンサーたちは、感心するほどリハーサルへの取り組み方が濃密です。日々の積み重ねをきちんとできるからこそ、今ここにいると言えます。加えて、それぞれ個性が違って公演を観る側としても楽しませていただいています」(吉田監督)
会見でも言及されていたピーター・ライト版ならではのドラマ性。たしかにジークフリード王子の友人でもある侍従ベンノの存在・役どころなどは、『ハムレット』のホレイショーのような印象も受けます。王の葬儀から始まる、王子と姫の愛の物語。バレエファンのみなさんも、初バレエ、初白鳥の演劇ファンのみなさんにもお楽しみいただける『白鳥の湖』<新制作>、開幕は10月23日です!
ピーター・ライト卿からのメッセージ
この作品は、“欺きによって起こった悲劇の物語”です。真実が裏切りに打ち勝ち、愛が死を凌駕します。恋人たちは欺きによって引き裂かれますが、最後には永遠の愛の世界で再び結ばれます。この物語は、悲しいハッピー・エンディングを迎えるのです。
ミヤコがこのプロダクションをシーズン開幕の演目として選んでくれたことをとても嬉しく思いますし、新国立劇場バレエ団のダンサーたちが楽しんで踊ってくれることを願っています。東京に行くことが叶わないのはとても残念なのですが、彼らの踊りを過去に見ておりますので、彼らならこの「白鳥の湖」へ見事に命を吹き込んでくれることでしょう。
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人