こうの史代(原作)がミュージカル『この世界の片隅に』稽古場を訪問!
昆夏美(すず役)×大原櫻子(同)×アンジェラ・アキ(音楽)と
『この世界の片隅に』を語り合う!
大原櫻子、こうの史代、アンジェラ・アキ、昆夏美
5月9日に日生劇場にて開幕するミュージカル『この世界の片隅に』(脚本・演出 上田一豪)の稽古場を訪ねたのは、原作者のこうの史代さん。通し稽古を見学する前には音楽のアンジェラ・アキさんと主人公すず役の昆夏美さん、大原櫻子さんと待望の初対面が叶いました! 聞きたいこと、伝えたいことがあふれ出した4名の座談会レポートが届きました。
(通し稽古見学を終え)ちょっとジーンときました。ちょっとというか、大分ジーンときました。すごくすずが可愛くて、十数年前にこれを書いていた私に『グッジョブ!』と言いたいです(笑)──こうの史代すずの熱量を表現するのは本当に大変だと思うのですが、二人とももう、「圧倒的」「ヤバい」といった言葉しか出ないくらいすごいパワーなんです(笑)──アンジェラ・アキ二度出てくる《この世界のあちこちに》に注目していただけたら嬉しいです。~中略~二度目に歌う時には、涙をこらえるのに必死になってしまう楽曲です──昆夏美すずと周作のデートのシーン。特に《醒めない夢》という楽曲が、二人の可愛らしさがギュっと詰まっていてすごく素敵なんです──大原櫻子キャラクターについて、見どころ&聞きどころについて、開幕が待ち遠しくなるお話をどうぞ!
【原作者に聞く、「すず」誕生秘話】
昆 私が最初に原作を読んだ時に心打たれたのは、戦争を扱っていながら、常に温かい空気が流れているところでした。「戦争はいけません!」と声高に訴えるのではなく、今の私たちとも変わらない“人の心”に焦点が当たっていて、だからこそ、すずさんの喪失感がより迫ってきたのだと思います。その後も読む度に色々な発見があって、今、特に気になっているのはすずさんの表情。分かりやすく笑ったり怒ったりしている時もあれば、もっと奥深い表情をしている時もあることに気付いて、どう自分の中に落とし込んだらいいかを考えながらお稽古しています。
こうの 確かに、そこは演じる方の解釈によってくるところですよね。すずの個性に昆さんと大原さんの個性が重なった時にどうなるのか、すごく楽しみです。
大原 すずちゃんの個性というところでぜひお聞きしたいのですが、主人公を「ボーっとした」キャラクターに設定したのはどうしてなんですか?
こうの そのほうが、この時代と場所に馴染みのない読者でも、物語に入り込みやすいと思ったんです。主人公が最初から呉でチャキチャキ頑張っている人だと、会話の中で状況を説明する隙がないですよね。でもよそから来たボーっとした人が主人公なら、主人公が周りの人たちに色々と質問をして、それに答える形で状況の説明ができるんです。
アンジェラ ああ、なるほど。私もそこはぜひお聞きしたかったのですが、すごくしっくり来るお答えです。
【もうひとつの“世界の片隅”を表現したかった】
大原 私はすずとリンさんの関係性にも惹かれているのですが、リンさんはどんな思いから生まれたキャラクターなのでしょうか?
こうの すずに家族とはまた違う、同世代の友達との世界を作ることで、もうひとつの“世界の片隅”を表現したかったというのがひとつ。それから、当時の呉には実際に遊郭があったので、そういう過酷な境遇の人たちをいなかったことにはできない、というのもありました。
大原 ありがとうございます。やはり史実に基づいているからリアルなのですね。
昆 少し話が逸れてしまうのですが、すずもリンも、元素名から名前が取られているんですよね。調べてみたら全員そうで鳥肌が立ったのですが、それはなぜなんですか?
こうの キャラクターの名前って、自分の思いつきだと似通ってしまうから、系統立てて考えることが多いんです。最初は呉の地名にしようかと思ったのですが、呉には硬い地名が多いんですね。悩んでいた時、たまたま近くに周期表があったので、これを使おうと(笑)。たくさんある元素の中で「すず」を主人公にしたことには、私が飼っていたインコの「すずしろ」が関係しています。ある時いなくなってしまったのですが、どこかでずっと元気にしていてほしくて、新天地で頑張る主人公にその思いを込めたんです。
昆 そんな大切な思いが込められていたんですね! お聞きできて良かったです。
アンジェラ 本当に。貴重なお話ばかりで、なんだか得した気分です(笑)。
【ミュージカルの見どころ聴きどころ】
大原 私から先生に見どころを紹介させていただくなら、すずと周作のデートのシーン。特に《醒めない夢》という楽曲が、二人の可愛らしさがギュっと詰まっていてすごく素敵なんです。演じていて楽しいですし、あのキラッとした空気感を先生にもぜひ味わっていただきたいです。
昆 私は、二度出てくる《この世界のあちこちに》に注目していただけたら嬉しいです。これからどんな物語が広がっていくのか、お客様がまだ知らない状態で一度歌われた曲が、すずさんが自分の在り方を見つけた時に再び歌われる、という構成が大好きなんです。二度目に歌う時には、涙をこらえるのに必死になってしまう楽曲です。
大原 聞くだけで涙が止まらなくなる楽曲が、本当にたくさんあるよね。アンジーさんおひとりから、どうしてこんなにも色々なメロディーや言葉が生まれるのだろうと感動してしまいます。どれも大好きなのですが、特に聞きどころだと思うのは、径子さんの歌う《自由の色》。すずの生き方や考え方が変わるきっかけの曲ですし、お客様一人ひとりが自分の《自由の色》を発見し、救われたような気持ちになれるのではないかと思います。
こうの 《自由の色》は、私もアンジェラさんのデモで聞いた時からジーンと来ていました。
アンジェラ ありがとうございます。今日はキャストの声で聞けますので、ぜひ楽しみになさっていてください。私が注目していただきたいのは、機銃掃射のシーンです。
こうの 漫画では顔のアップで進んでいくシーンだから、どう演じるんだろうと思っていました。
大原 そうですよね。漫画と同じようにはできない分、ミュージカルならではの表現になっていると思います。
アンジェラ 加えて、二人の演技がとにかく素晴らしいんですよ。このシーンあたりから、すずの感情がクレッシェンドしていき、最後には優しくデクレッシェンドしていくのですが、そのすべてが見どころですね。すずの熱量を表現するのは本当に大変だと思うのですが、二人とももう、「圧倒的」「ヤバい」といった言葉しか出ないくらいすごいパワーなんです(笑)。今日の通し稽古は昆ちゃんの回の予定ですが、実際に先生に見ていただけるのが私も楽しみです。
昆 あの、お手柔らかにお願いします(笑)。
こうの 「ハイやり直し!」なんて言いませんから安心してください(笑)。漫画が私の子どもなら、映画化や舞台化作品は孫のようなもの。私には可愛いばかりなんですよ。今日お話して、お二人ともそれぞれにすずだと感じましたので、お稽古も本番も本当に楽しみにしています。
◆座談会後に、通し稽古(すず役:昆夏美さん)を見学されたこうのさんは、演じ終えたカンパニー全員に対して、感極まった面持ちで
「お疲れ様でした。素晴らしい舞台でした。ちょっとジーンときました。ちょっとというか、大分ジーンときました。すごくすずが可愛くて、十数年前にこれを書いていた私に『グッジョブ!』と言いたいです(笑) 本当に有難うございました。感動しました」と伝え、カンパニーは大いに勇気づけられた様子でした。

みなさんが手にされているのは──
昆さん:「この世界の片隅に」(上巻)(ゼノンコミックス/コアミックス)
こうのさん:アンジェラ・アキ sings 『この世界の片隅に』
アンジェラさん:こうの氏が描き下ろしたすずが印刷された、ミュージカル『この世界の片隅に』台本裏表紙
大原さん:「この世界の片隅に」(下巻)(ゼノンコミックス/コアミックス)
『この世界の片隅に【新装版】』(ゼノンコミックス/コアミックス)
著者:こうの史代 発売:コアミックス
©こうの史代/コアミックス
上巻、下巻 好評発売中
ミュージカル『この世界の片隅に』は日生劇場で開幕の後、全国ツアーを展開し、『この世界の片隅に』の舞台である広島県呉市にて大千穐楽を迎えます!
この記事は公演主催者の情報提供によりおけぴネットが作成しました