新国立劇場 開場25周年記念公演『ジゼル』新制作 制作発表レポート~リハーサル映像もご紹介~

いよいよ始まる新国立劇場バレエ団2022/2023シーズン!

開場25周年という記念のシーズンのオープニングは、吉田都芸術監督自らが演出を手掛ける『ジゼル』です。

英国ロイヤルバレエで長らく活躍され、吉田監督とも旧知のイギリス人振付家のアラスター・マリオットさんとともに挑む19世紀ロマンティック・バレエ不朽の名作。本作は吉田監督就任第二作目となる新制作です。伝統的な演出を大切にしながら、それぞれの人物像、物語のバックグラウンドを掘り下げ、各キャラクター造形を際立たせた新国立劇場バレエ団ならではの『ジゼル』。10月21日の初日を前に、吉田都芸術監督(演出)、アラスター・マリオットさん(改訂振付)、『ジゼル』主演ダンサー(木村優里さん、福岡雄大さん、池田理沙子さん、速水渉悟さん)ご登壇の制作発表会見が行われました。※公演では5組の主演が予定されています。出演スケジュールは公演HPにてご確認ください

記事のラストには、リハーサル映像もご紹介しております♪



吉田監督の作品にかける思い、それを受けてのマリオットさんの真心こめた振付と指導、ダンサーのみなさんの日々の奮闘……、開幕が待ち遠しくなるお話の数々でした。

まずはみなさん気になるこの話題から!

──吉田都芸術監督が、初めて自身で演出を手掛ける作品は『ジゼル』。吉田監督にとって『ジゼル』とは。


吉田監督)
私はサー・ピーター・ライトの『ジゼル』で育ちました。若いころから主役をいただきましたし、ほかにもあらゆる役を踊ってきた、とても大切な作品です。実はサー・ピーターは最初は『ジゼル』にはあまり興味を抱けなかったものが、ガリーナ・ウラノワの『ジゼル』を見て、あまりの素晴らしさに作品自体にのめり込むようになったと仰っていました。ウラノワの著書からも、彼女はとても論理的だということ、ゆえにジゼルにも説得力があっただろうということは想像に難くありません。

また、『ジゼル』のように、原形をとどめたままこれだけ長く踊り継がれてきている作品はなかなかありません。裏を返せば、本作には現代でも共感できる部分がたくさんあるということです。前出のウラノワの言葉を借りれば「詩情、純潔、知性、信頼、勇気……、そういった要素のある作品だからこそ力強いメッセージを伝えられる」、そう思っています。

今回、アリスターさんが特に一幕の演技に力を入れてご指導くださっています。それがあるからこそ、二幕のジゼルの思い、アルブレヒトの思い、ウィリーたちの思いが伝わる。本当に深い作品です。ダンサーにとっては、その一幕と二幕で“生”と“死”と、世界がガラリと変わるので、その踊り分けはやりがいがあるでしょう。

──アラスター・マリオットさんが改訂振付を、新国立劇場バレエ団の『火の鳥』『アラジン』の装置デザインも手掛けたディック・バードさんが装置・衣裳をご担当されています。チームジゼルの雰囲気は。

吉田監督)
アリスターさんと私は、ともにサー・ピーターの『ジゼル』で育ったからこそ、サー・ピーターのコピーではいけないと考えております。ただし、英国バレエの特長である演劇性は重要視しています。彼とアシスタントのジョナサン・ハウエルズさんは下準備として膨大な資料をもとにストーリーや登場人物の細かな設定をしてくださり、それをスタジオで「ここはこういう意味で、こういうことを言っているんだよ」とダンサーたちに実演を交えながら説明、伝えてくださっています。お二人ともどの役も素敵に踊れるんです! そうやって作ってきてくださったベースがあるからこそ、そこから変えていくという時間を持つことができています。ちなみにそのアイデアのすべてを書き記した分厚い資料を彼らは「バイブル」と呼んでいます。

私自身もアイデアがどんどん浮かび、スタジオの中では時間が足りず夜にもFaceTimeで連絡してしまうほど、多分面倒な女だと思われているでしょう(笑)。ディックさんも含め、忌憚なく意見を交換し合える雰囲気を作ってくださったことに感謝しています。

ディックさんとのお仕事について言えば、16世紀の絵画からヒントを得たという素晴らしいデザイン画が届いたときは大変感動しました。その上で、こちらの意向にも迅速に対応してくださる方です。そんな彼が唯一、やんわりとですが、決して受け入れてくださらなかったのが(アルブレヒトの婚約者)バチルドのドレスの色と質感です。デザイン画の段階からその派手さが気になり、それをお伝えしたのですが、結果的にそこは彼の意向に沿って進めました。ただ、出来上がったものを見ると──。アリスターさんが思い描いたバチルドという女性、とにかく桁違いの大金持ちで場違いなほどキンキラキンで登場する、その人物像にピッタリなんです。まさに、これぞバチルド、なるほどと感服いたしました。


──どんなバチルドになるのか楽しみです。階級社会になじみのない私たちには少し理解が難しい役どころでもあります。

吉田監督)
階級の差をしっかりと出すために、衣裳やマイム、踊り、仕草に至るまでアリスターさんたちが具体的な台詞も交えて手ほどきしてくださいます。その言葉選びも面白く、彼が一番この役にピッタリなのではと思うほどです(笑)。またバチルドだけでなく、村人や貴族一人ひとりについて指導されています。

また、クリエイターのみなさんのみならず、スタジオでリハーサルを進めているダンサー、スタッフのみんながより良くするためのアイデアを、日々出し合っています。この“みんなで創作している”という感覚が心地よく、毎日ワクワクしています。


──吉田版『ジゼル』はどのようなポイントを重視しているのでしょうか。

吉田監督)
私自身のこだわりとして、クラシックバレエのスタイルはしっかりと守り、それに加えてお客様によりストーリーが伝わるような演技のしかた、自然な表現を突き詰めたいと思っています。そのように仕上がると嬉しいです。私は芸術監督就任以来、より自然な演技を目指し指導を重ねて参りました。でもリアルと舞台芸術・表現は同じではいけないのです。実際の表現、動きをそのままやったのではお客様に伝わらない。そこは舞台ならではの表現にしなくてはなりません。

表現においては、クラシックバレエのポジショニングなどに代表される「ここは絶対に守らなければならない」というポイントもありますが、だからと言って、ジゼルは常にポジションを意識して立たなくてはならないということではありません。普通にスッと立っている場面もあっていいのです。そのさじ加減は、私自身もとても苦労したところですが、リハーサルや本番、回数を重ねることで身に付くことです。とにかく繰り返しやり続けるしかありません。

また、今、苦労しているのは、言われたことに対してやりすぎてしまうということです。「まったくやらない」と「やりすぎる」の間のハッピーミディアムを探しています。そこをしっかりと詰めていきたいと考えています。


【アラスター・マリオットさん登場】


マリオットさん)
都さんとは親戚関係の役も多く踊ってまいりました。義理のお姉さん、お母さん、お父さん、そして結婚式を挙げる際の神父さんの役もやりましたね。

──マリオットさんから見た吉田監督はどんなダンサーでしたか。

マリオットさん)
都さんの踊りは洗練され、その音楽性と動きはまさに“イングリッシュスター”と呼ぶにふさわしい。彼女が日本出身の日本人ダンサーであることは周知の事実ですが、皆、彼女のことを英国のバレリーナと受け止めておりました。最高のテクニックを持っていながら、それを超える芸術性が前面に出る、そんな踊りをする方です。 また、仕事を一緒にする仲間としてもすごくやりやすい。先ほどいろいろと注文をつけて……とお話されていましたが、とても静かで、それでいて自分が欲しいものを明確にわかっている方。ゆえにとても仕事がやりやすいのです。

また、ジゼルは非常にモダンな解釈もできる作品です。でも都さんが求めているのは、そういったエキセントリックなものではありませんでした。同じ風景を見つめ、求めていることにとても安心しました。



──新国立劇場バレエ団の印象は。

マリオットさん)
私たちの言葉にみなさん熱心に耳を傾け、受け止めてくれるので、こちらもさらに!という気持ちになります。とくにこのような有名な作品の場合、すでに多くの知識を持っているにもかかわらず新しいアイデアを受け入れ、吸収してくれるはありがたいことです。チームワークも良く、バレエ団内での情報の共有もスムーズです。その意味でも、家族の中にいるような気持ちになります。振付師の仕事は、みんなが同じゴールに向かって一生懸命に働けばとても楽です。この劇場は、ダンサーはもちろん、全てのスタッフのみなさんがこの作品の完成を目指して一生懸命、とても嬉しく思います。

今回の『ジゼル』は、英国スタイルを正統に受け継ぐ作品となるでしょう。それは踊りや演技のみならず装置、衣裳に至るまですべてにおいて。ステージ上に立っている人物それぞれへの理解も深く、全体としてしっかりとしているものが出来上がってきております。つまりそれは新国立劇場バレエ団のためのバレエであり、このバレエ団だからできる作品ということです。


【主演ダンサー登場】


──木村さん、福岡さんはこれまでにも『ジゼル』の主役を踊った経験がありますが、今回のリハーサルの様子はいかがでしょうか。



ジゼル役:木村優里さん)
マリオットさんのご指導によって、舞台全体、キャラクター一人ひとりの人物像がより明確に、細部まではっきりしたように感じています。一幕の村人たちの境遇や生活感、私たち(ジゼルとアルブレヒト)の掛け合いもよりナチュラルに、古典的なものは残しながらも日常に近いものになっています。また、雄大さんと組ませていただくのはこれで二回目になりますが、いつも明確なビジョンを示していただき、本当に感謝しています。

アルブレヒト役:福岡雄大さん)
目線の配り方など小さなことながら非常に効果的なところなどを丁寧にご指導いただいています。これまでとの違いは、『ロメオとジュリエット』や『マノン』のような英国的な、演劇的な要素の多い作品になっているところでしょうか。ドラマティックなバレエというのは以前から目指しているものであり、本作でもドラマ性を最高の状態に高められるように僕ら二人はもちろん、ほかのみんなもそれを目指して日々リハーサルに励んでいます。

──今シーズンから最高位のプリンシパルに昇格された木村さん、プリンシパルとして本作に臨む意気込みは。

木村さん)
ジゼルというキャラクターには、たくさんの解釈、可能性があります。その中で、「自身が心臓が弱いことをどう受け止めているか」、それが役を形成する大きなピースになると感じています。プリンシパルになって何かが大きく変わるということはないのですが、引き続き一つひとつの舞台を丁寧に誠実に積み重ねたいと思っています。

──池田さん、速水さんは『ジゼル』では初主演となります。今回はさらに主役以外にもペザントのパ・ド・ドゥ(村人の葡萄の収穫を祝う踊り、大きな見どころのひとつ)も踊られるということです。



ジゼル役:池田さん)
二人とも『ジゼル』の主役のリハーサルとペザントのパ・ド・ドゥのリハーサルを並行して行っています。ペザントはテクニカルな面でもハードな構成になっているのですが、物語が進んでいくにしたがって盛り上がるシーンのひとつだと思うので、そちらも二人で頑張っていきたいと思っています。速水さんとはお互いに初めての挑戦になるので、細かく話し合い、確認し合う毎日です。

──アルブレヒトの在り方でジゼルの見え方も変わるとも言われていますが、その辺り速水さんはどうとらえていらっしゃいますか。

アルブレヒト役:速水さん)
クラシックバレエとしての大切なところは残しながら、自分なりのアルブレヒト像を考えながらリハーサルを重ねています。ただ見つめ合うシーンでも、その時に何を考えているのか、そのことをどんな仕草をすればお互いに、そしてお客様に伝わるのかを話し合いながら作っています。ペザントとはキャラクターも全然違うので、是非どちらも見に来てください。


──ジゼルの深さと現代性について。ストーリーの表層だけをなぞると、現代の観客にはピンとこないところもあるかと思います。吉田監督のジゼルは決してそうではなかったことは存じておりますが、今回はどのような深さ、観客へのアプローチを考えていますか。

吉田監督)
新たに作られた舞台装置や衣裳ですが、しっかりと古典を踏襲したものです。その上で、「技術を習得していなければ(登場人物の)人間性を表現することはできない。だからと言って、形だけの表面的な技術や表現ではそこに何もない空々しいものになる」というウラノワの言葉があります。ダンサーの内面から出る芸術性、それなしには何も伝わりません。ダンサーにそれを習得してもらうために、踊りの技術はもちろん、それぞれの登場人物がなぜそこにいるのか、どんな気持ちでいるのかをアリスターさんから細かくご指導いただいています。ダンサーたちがそこをしっかりと理解して臨んだなら、とても説得力のある『ジゼル』としてお客様に受け止めていただけると信じています。

──木村さんに、プリンシパルになったことの受け止めとどんなプリンシパルになりたいか、またバレエ研修所出身のプリンシパルとして思うことは。

木村さん)
はじめに、この数年間、吉田監督のもとで学べていることを嬉しく思っています。都さんとお話すると、自分の未熟さや課題が浮き彫りになります。中でもお客様への奉仕の精神、プロフェッショナルとしての姿勢についてもっともっと精進して参ります。理想のプリンシパル像は、すべての物語の真髄をお伝えできるようなダンサーであることです。今回のジゼル役では、お客様に共感していただき、より深く物語を理解していただけるような作品作りに努めて参ります。また、私は予科生から研修所で教えていただき、入団しここまできました。研修所所長の今は亡き牧阿佐美先生が仰っていたのが、「舞台というのはダンサーのすべてがさらけ出される。だからこそ技術だけでなく内面も磨いていかなくてはならない」ということ。その信念は今までもこれからも変わりません。引き続きそれを胸に頑張っていきたいと思います。


──美術について。二幕の舞台装置はリトアニアの「十字架の丘」にインスピレーションを受けてデザインされたとのこと。

マリオットさん)
本作では、信仰心の高い“ジゼルの母”が重要な役割を担っています。彼女の信仰心の背景にはキリスト教だけでない伝統に基づいた過去というものも入り込んでいます。キリスト教と土着の信仰、東欧圏はまさにその両方を持っています。それに対して西側のヨーロッパは早い段階でキリスト教に染まり、伝統も変化していきました。リトアニアの「十字架の丘」、それは墓場ですが、そこにはろうそくが飾られていたり、故人の思い出の品が飾られてあったりします。そんなキリスト教と土着の信仰が共存している世界がデザインとして表現されています。

──ジゼル、アルブレヒトの魅力は。互いに惹かれ合ったそのわけはどのあたりにあると思いますか。

木村さん)
まさにそれを模索しながらリハーサルをしている最中なのではっきりと申し上げることはできないのですが、私自身もジゼルがどのように彼を愛し、どのように赦しに至るのか、その過程が最初は理解できずにおりました。今も探っている途中ですが、舞台、リハーサルを重ねていくことで得られる感覚を私自身とても楽しみにしています。

福岡さん)
アルブレヒトから見たジゼルは可憐で無邪気、ピュアな心の持ち主。いろいろなしがらみの中に生きるアルブレヒトが彼女に惹かれていったのは、運命的だと思っています。僕も実際に役を積み上げている最中なので、今の段階では「乞うご期待」としか言えませんね(笑)。

池田さん)
アラスターさんが来日され、まず物語の背景や役柄の立場、舞台上での在り方を伝えてくださいました。その中で、『ジゼル』は愛、裏切り、復讐、赦しの物語であるというお話がありました。どのように愛し愛され、最終的に赦しにつながるのか、この壮大な物語を速水さんと作っている最中です。その日によって、お互いの心と身体の感じ方も変わってきますし、本番までに二人がどう愛し合って赦しに至るのかを丁寧に積み上げていければと思っています。

速水さん)
僕も、リハーサルでは毎日同じようには踊っていません。段取りにはしたくないので。意図的に違うことをしてやろうというのではなく、その日の感情に正直に踊るようにしています。それがどう映るのか、僕のアルブレヒトの魅力はこれですと言うより、見てくださった方々それぞれが感じたもの、受け取ったものが正解だと思います。



こちらは新国立劇場バレエ団『ジゼル』<新制作>リハーサル映像です! 吉田監督のご指導の様子も!


さあ、それぞれのジゼルは、アルブレヒトは、そして新制作『ジゼル』はあなたの目に、心にどう映るのか。まさに「乞うご期待!」ですね。開幕はもう間もなく!




【公演情報】
新国立劇場 開場25周年記念公演『ジゼル』新制作
2022年10月21日(金)~30日(日)全9公演@新国立劇場 オペラパレス
上演時間:2時間15分予定(休憩含)

【ジゼル】小野絢子 柴山紗帆 木村優里 米沢 唯 池田理沙子
【アルブレヒト】奥村康祐 井澤 駿 福岡雄大 渡邊峻郁 速水渉悟

公演スケジュール、キャストスケジュールは公演HPにてご確認ください。

一部写真提供:新国立劇場バレエ団
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人

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