世界中の国々が戦争をして問題山積み。けれども大人たちは埒があかない会議ばかり。
その様子を見たどうぶつたちは「人間の子どもたちがかわいそうだ!」と立ち上がる…!『飛ぶ教室』『ふたりのロッテ』で知られるドイツの作家
エーリッヒ・ケストナーが書いた児童小説を、
井上ひさしさんが戯曲化した“幻の作品”
『どうぶつ会議』が、約半世紀ぶりに復活です。こまつ座では初めての上演となります。
どうぶつ会議、新国立劇場小劇場にて連日開催中!
舞台写真と観劇レポ、お寄せいただいた感想を追記いたしました。
どうぶつたち、子どもたちの問いかけに……何を思う
左から、高田賢一、上山竜治、池谷のぶえ、大空ゆうひ、中山義紘、田中利花、横山友香、木戸大聖、長本批呂士、栗原類、片岡正二郎、前田一世、谷村実紀、李千鶴
【観劇レポート】
劇場に着くと、あちこちから子どもの声。
客席には、お子様用クッションを運ぶ劇場スタッフの姿。
もちろん長くこまつ座の舞台、井上ひさし作品を愛し、観劇し続けるみなさんも。
そして、子どもさんきっかけでいらした親御さんにとっては、初こまつ座だったかもしれません。
そんないろんな人がいる客席。
気づくと、客席にどうぶつの姿が!
お寄せいただいた感想でも大好評の衣裳、そしてセットはリアリティよりイマジネーションで作り上げられる世界。でも、私たちの実世界とかけ離れてはいない、あくまでも地続きなお話、時間なのです。
お芝居が始まると、さまざまな感情が生まれます。
「劇場の出入口は封鎖した!」という言葉には、自分が入ってきたドアのほうを振り返ってみる。どうぶつが近づいてくると、興味津々でのぞき込んだり、硬直したり(笑)。そんな子どもたちの姿にハッとさせられます。
左から、谷村実紀、李千鶴、立川三貴、中山義紘、栗原類、木戸大聖
滑稽なサーカス団の団長の言動に笑いが生まれるけれど、実際、笑えないよ…自分。
「いつかきっと」「そのうちに……」と後回しにすること、あるよねぇ。
「客席を含めて作品」、「観客が最後の出演者」とは、よく言われることです。
この作品もそう。「メッセージを届ける」だけでなく、そこに居る人の心を動かす、心に訴えかけるようなお芝居です。そして、それが客席のみなさんにどう作用するのか。予定調和にならない、とっても野性的な?!、ライブが公演ごとに繰り広げられそうです。
子どもたちと一緒に歌った動物憲章の唄、歌った責任は、今も心をザワザワさせます。
誤解を恐れずに言うと、シンプルな問いかけに大人が試される作品なのかもしれません。
そして、芝居に見入る子どもの姿や歌声は「希望」。歌わなくたって「希望」。
色とりどりのどうぶつたちと、色とりどりの客層。
子どもにも、大人にも参加してほしい『どうぶつ会議』。当日券は「各回開演の1時間前より、新国立劇場 小劇場 入口の受付にて販売いたします。席種・枚数は、各回変動いたしますこと、予めご了承くださいませ」とのことです(詳細は
こまつ座ツイッターなどでご確認ください)。
以下、お寄せいただいた感想です!
左から、中山義紘、李千鶴、栗原類、田中利花、木戸大聖
『前世紀からずっと引き続いていて、むしろ悪化しつつある地球上の生命たちの危機。
根本的に考えればいい方向付けはできるはず!楽しい舞台に参加しながら一緒に考えよう、と誘ってくれるどうぶつたち。人間たちも真面目に考えあい、話し合おうよ!』
『楽しみながら考えさせられる舞台。井上ひさしが描くテーマは現代に通じるものがあります。子供たちにもそして何より普段演劇に関心がない大人たちに観てほしい作品です』
左から、横山友香、長本批呂士、大空ゆうひ、上山竜治
「手紙を書く」日本のサーカスにいるどうぶつたちの行動で物語が動きだします。送り先はアフリカ!そこに居る、大空ゆうひさんのライオンは凛々しく威厳があり、上山竜治さんのゾウは包容力がありジェントル!!
『音楽がとても素敵でした!!生演奏で沢山の楽器の音が聞こえるし、
いろんな世界の楽器の音が聞こえて楽しかったです。音楽も一体となった舞台でした!
すごく気持ちよかったです』
『とっても楽しい観劇になりました!各キャスト演じる動物たちがチャーミングです。
そして手作り感のある衣装や演出が素敵で、心が幸せな気持ちで満たされました。
また、歌や踊りが笑いを誘います。小さな子供も大きくなった子供も楽しめるようなエンターテイメント性とともに、井上ひさしらしさもにじませ見応えある作品です!』左から、谷村実紀、李千鶴、栗原類、木戸大聖、中山義紘、池谷のぶえ
『シンプルな展開だけれど、サーカスやアフリカの動物たちを演じる役者さんたちの大きな編み物衣装がとてもチャーミング。
池谷のぶえさんの声の通りの良さに感服。栗原類くんは自然体で可愛く、大空ゆうひさんのライオンはさすがの貫禄。小さなお子さんと一緒だとより楽しめそう』
『子ども向けのミュージカルですが、現代社会への辛辣なメッセージが込められていて、大人も十分に楽しめる作品です。出演者が着ている動物を模したコスチュームが非常に工夫されていて、特にゾウの造形が見事でした』 まるで人間のように振る舞い、言葉をしゃべるどうぶつたちが、ふとした瞬間に、鳴き声やその種特有の動きをする。そのギャップも演劇ならでの楽しさです!
【稽古場レポート】
稽古場に入ると、しっぽや耳をゆらゆらさせながら動く俳優さんたちがあちらこちらに。その色調は、ちょうどチラシのそれと同じようなトーンです。まるでファンタジーの世界に迷い込んだようだと思ったのも束の間。そこで繰り広げられるのは、ケストナー×井上ひさしの地に足が着いたものがたり。大人もハッとさせられるのです。
演出はこまつ座初登場となる
田中麻衣子さん。稽古場では、田中さんをリーダーに、『どうぶつ会議』さながらのお芝居の会議。そこには生演奏をする
国広和毅さん(作曲も!)、
関根真理さんも加わってそれぞれの視点からのアイデアを出し合います。ミュージシャンも俳優もひとつになって『どうぶつ会議』という作品を作り上げる。実際に、お芝居でも舞台上にどうぶつになったミュージシャンが登場したり、俳優さんが楽器を演奏するなんてことも。みんなで作る……、客席にお座りになるみなさんお一人お一人が
『どうぶつ会議』を体験・体感するような時間になるでしょう。
はじまりは、日本のとあるサーカス。
栗原類さんが演じるライオンを筆頭に、サーカス団のどうぶつたちが語るのは、一か月前のある日に始まったものがたり。最初から、
ドキッとしたり、わくわくしたりとおもしろい仕掛けになっています!
ライオンと聞くと、ちょっと獰猛な印象もありますが、栗原さんのとっても誠実で切実で心を打つ言葉に思わず耳を傾けたくなり、次第にお話の世界に引き込まれていきます。
そこから舞台はアフリカに。ダイナミックな展開!そこでも台詞や芝居だけでなく、芝居歌からワールドミュージックのような楽曲まで、バラエティ豊かな音楽やコミカルな効果音が自然に想像力のスイッチを押してくれるような心地よさがあります。
どうぶつキャスト、
大空ゆうひさん演じる世界動物組合の理事長であるお兄さんライオンの威厳、
上山竜治さん演じる、象の存在や歌声の頼もしさ、安心感がものがたりに説得力をもたせます。日本パートでおもむろに登場する
池谷のぶえさんの猫が醸し出す“(サーカスにいる子たちに)あなたたちとはちょっと経験値が違うわよ~”という雰囲気や、しなやかな歌声にうっとり。そして、栗原さん演じるライオン弟くんや
木戸大聖さん、
中山義紘さんらが演じる個性豊かなどうぶつたちは、自然と応援したくなる可愛らしさと脆さ、やさしさをもっています。
立川三貴さん、
前田一世さんら、人間の大人には、なかなかアクの強い(褒めています!)みなさんが揃いました。もしかしたらどうぶつ以上に戯画化されているともいえる人間の大人たち。メッセージがシンプルなだけに、客席の大人には、「アイタタタ……」痛烈に響くメッセージだったりして。
もう一人、人間のキャラクターとして登場するのはピエロのおじさん、演じるのは
谷村実紀さんです。いろんな意味で架け橋になるピエロのおじさんという存在が印象的でした。
どうぶつにも大きく強いどうぶつがいれば、弱く小さなどうぶつもいる、人間もそう。そう言えば、稽古場での“会議”でも、実に多種多様な意見が飛び交っていました。初顔合わせ、初こまつ座という方も多い、それぞれの色を持った俳優、ミュージシャン、スタッフが、作品をより良くするために話し合う。それもまた
社会の、地球の縮図のように思えてきました。
世界中のどうぶつたちと人間の大人の間に生じた問題解決のために、力を貸してくださいと人間の子どもたちに呼びかけるどうぶつたち。便利、進歩、文明、富という高度成長と表裏一体をなす騒音や大気汚染などの公害、そして戦争。
どうぶつたちが投げかける「なぜ?」に、自分だったらどう答えるだろう。余韻のあるラストシーンは、その後、語り合い、考え続けることを促すようでもあります。
こうして稽古を見学した後で頭をよぎったのは、やはりこの言葉、
「むずかしいことをやさしく…」です。
演劇ならではの表現、劇場ならではの体験が待っています!子どもから大人まで楽しめるこまつ座『どうぶつ会議』は観客のみなさんが居て、はじめて完成する作品です。
地球に暮らす一員として、みなさんも、どうぶつ会議に参加しましょう!チラシより
『この二十一世紀というのは、地球と人類史上始まって以来の大問題が起こってきている。
これをみんなで考えて必死に解決していかないといけない時代になったのです。
わたしたち旧い世代もがんばります。
しかし、この二十一世紀の主人公は若い皆さんです。
「この世の中は自分たちの意思で変えられる」ということをどうか肝に銘じていただきたい。
自分たちの意見をはっきり表わしていくことです。
─井上ひさし─』
おけぴ取材班:chiaki(取材・文) 監修:おけぴ管理人