無観客配信で幕を開けた『ジャージー・ボーイズ イン コンサート』、ついにお客様をお迎えしての帝国劇場再開のときが参りました。(演出家、出演者コメントは
こちらの記事をご覧ください)
ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』は2005年にブロードウェイで開幕、2014年にはクリント・イーストウッド監督による映画版も公開されました。天使の歌声と称されるフランキー・ヴァリ&ザ・フォー・シーズンズの実話をもとに作られたストーリーを彼らのヒットナンバーで綴るカタログミュージカルの傑作!4人のオリジナルメンバーが彼らの軌跡を4つの季節になぞらえて語り継ぐというスタイルも秀逸です。
日本での初演は2016年、中川晃教さんという唯一無二のフランキー・ヴァリと
RED(藤岡正明さん、矢崎広さん、吉原光夫さん)&WHITE(中河内雅貴さん、海宝直人さん、福井晶一さん)の2つのチームのボーイズにシアタークリエは熱狂。さらにジャージー旋風はとどまるところを知らず、
第24回読売演劇大賞 最優秀作品賞&最優秀男優賞(中川晃教さん)のダブル受賞を成し遂げました。ミュージカル作品が最優秀作品賞を受賞したのは初めてのことでした。
2018年には春には“世界初のコンサート・ヴァージョン”を大成功させ、9月にはチーム
WHITEと
BLUE(伊礼彼方さん、矢崎広さん、spiさん)としてシアタークリエでの再演を成功させ、その後は全国ツアーへ。神奈川県民ホールでの大千穐楽では、
待望のライヴ録音盤CDの発売決定が発表され、終わらないジャージー旋風を印象付けました。
そして迎えた2020年、チームBLACK(藤岡正明さん、東啓介さん、大山真志さん)とGREEN(尾上右近さん、矢崎広さん、spiさん)として舞台を帝国劇場に移して再々演の予定でしたが、新型コロナウィルス感染拡大の影響で本公演は中止を余儀なくされました。しかしコンサート・ヴァージョンとして復活!スタートの3公演は無観客配信となりましたが、こうしてついにお客様をお迎えした形での上演がスタート。『ジャージー・ボーイズ』は客席の、そして全国のファンとともに、また歩み始めます。
ここで、配信で味わった『ジャージー・ボーイズ イン コンサート』の魅力をご紹介。本作は音楽が主役のミュージカルと言われることがありますが、これは物語が見えるコンサート。曲の間にはセリフがあり、また、時折舞台映像を交えながら、キャストはミュージカル同様に役をまといながら4つの季節を紡ぎます。ダブルキャストが舞台上に揃う!競う?!というのもコンサートならでは。
【トミー・デヴィートの春】
フランキーをグループに引き入れた兄貴分トミーが語るのは天使の歌声との出会い、グループ結成から紆余曲折の日々。トミー役には藤岡正明さんがカムバック!で、で、出来上がっている!カメラの前に現れたその人は──まさにトミー。
(あえての敬称略で失礼します)中川藤岡コンビの歌と芝居のハーモニー、復活だ!
もう一人のトミーは新キャストの尾上右近さん。こちらがまた色気のあるトミーなんです。まろやかな声質も相まっていろいろ知っていそうな大人を感じさせたかと思ったら、髪を振り乱してはじける振り切れたところも!
物語の起爆剤、
(根拠不明ながら・笑)自信に満ち溢れたトミーの春。
【ボブ・ゴーディオの夏】
グループ成功への最後のピース、ボブが語るのはグループがスターへと駆け上がる瞬間。初演から同役を務める
矢崎広さんのボブ、さらに磨きがかかっている!ウィンクの切れも
(切れ?威力?笑)絶好調。カメラさんが追ってくれるので、ほぼ逃さずハートでキャッチできるのは配信の強みかも。
そして東啓介さんのボブもクールな面とふと見せる笑顔のバランスが素敵です。作品を拝見するたびにより豊かな響きとなるその歌声にはいつも驚かされます。
音楽とビジネスの才能を持つもう一人の天才ボブ・ゴーディオの出現はグループを成功に導くとともに、その関係性に変化をもたらす。まぶしい日差しの中にいるようなボブの夏。
【ニック・マッシの秋】
ボブから物語のバトンを受け継ぐのはニック。ハーモニーを作るニック、低音のニック、バランスのニックから見た景色はどんなだったのだろうか。spiさんは安定のニック。視野が広く、地に足の着いたどっしりとした人物像を魅力的に見せます。
新キャストの大山真志さんも豊かな歌声でニックの人間性を表現。そして
大山さんのニックからはことのほか皆で音楽を奏でることへの喜びがあふれているのです!
グループ内に生じた亀裂、メンバーの追放と離脱。激しさと哀しみが印象的なニックの秋。
【フランキー・ヴァリの冬】
いくつもの出会いと別れを経て、最後にたどり着くのはフランキーが語る再生・再会の物語。
フランキーはもちろんこの方、中川晃教さんです。劇中にも登場するボブ・ゴーディオ氏の許可を得て初めてこの役を演じることができるというのは有名すぎるエピソードかもしれませんが、この歌声こそが我らがフランキー!トミーに誘われたティーンのころから、スターになり、父になり、大切な仲間を、家族を失い──幾多の困難を乗り越えてたどり着く境地。歌と芝居でフランキーの人生を丁寧に紡ぎます。懸命に生きるフランキーの冬。
【託された思い、喜びと責任】中川晃教さんインタビュー~コンサートバージョン&配信で復活~ 『Sherry』のまばゆいばかりの輝き、『Can’t Take My Eyes Off of You』の誇りに満ちた美しさも健在ながら、この日の『Fallen Angel』に込められた祈りと愛は深く深く聴衆の心に刻まれたことでしょう。
著名なグループの成功と挫折のドラマでありながら、自伝的なところにとどまることなく観客の心に響くのは、この作品が見る人それぞれの人生に寄り添うから。春夏秋冬、めぐる季節のなかで彼らとともに人生の喜びや哀しみをシェアする。「この作品の最後のピースはお客様です」、その言葉は単なるセールスコピーではなく、ともに歩んできた客席から自然発生的に生まれた言葉だということを改めて感じました。
さて、物語やハーモニーを支えるのはフォー・シーズンズメンバーだけではございません。加藤潤一さん、法月康平さんがダブルキャストで演じるプロデューサーのボブ・クルー、畠中洋さん演じるノーム・ワックスマン、そして才能あふれるガールズ(綿引さやかさん、小此木まりさん、遠藤瑠美子さん)、ボーイズ(大音智海さん、白石拓也さん、山野靖博さん、若松渓太さん)たちの存在も必要不可欠!思わぬシーンで登場するなどのコンサートならではの楽しさも。
また舞台上やオーケストラピットに設営されたレールなどに配されたカメラがとらえるライヴ映像に加えて、舞台映像が映し出されるのもジャージーコンの魅力。ちらりと懐かしいメンバーが映ったり、ガッツリとジップ・デカルロの阿部裕さんの芝居が流れたり
(チャットがわきましたね!)、たくさんのみどころが詰まっています。
またコンサートですので、ミュージカルに比べると一人の俳優さんとして見てしまう瞬間もあります。それをも許容し、それによって魅力を増すのもジャージーコンの懐の深さ。この帝国劇場の舞台に立っている一人一人の俳優がどんな道を歩んでここまでたどり着いたのか。今そこでどんな景色を見つめているのか。それぞれの思いに心を寄せることで感動が増幅します。
配信で見るもよし、劇場で見るもよし、改めて作品の強さを感じる2020年の『ジャージー・ボーイズ イン コンサート』です!
おけぴスタッフは観劇の記憶をよみがえらせながら楽しみましたが、コンサート・ヴァージョンゆえに少し物語が飛ぶところがあるのも事実です。もし初見だけど、物語をしっかりと感じながら見たいなという方は映画で予習もありです!もちろんそうでなくとも楽しめるコンサートでもあります!
そして、いつの日か、ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』との再会を夢見て。
最後に読売演劇大賞授賞式での演出・藤田俊太郎さんのスピーチ抜粋をご紹介。
「60年代の光と影、ベトナム戦争の虚と実、コーラスグループ“ザ・フォー・シーズンズ”を支えた聴衆、喜びながら突き動かされていく民衆。激動の60年代、時代の波にのまれ、闘い、足掻いていく4人の姿。昨年、シアタークリエでの上演で、僕たちはドキュメンタリーのようにカメラを使い、観客の姿を“観客の役”として舞台上に積み上げられたテレビにライブで映し、観客席と舞台上を一体化しました。そのことによって『ジャージー・ボーイズ』は時代を越えて、民衆の姿が、その日その日の観客ひとりひとりの姿となって描き出されていったと思います。
これから日本版『ジャージー・ボーイズ』は再演、新しい出会いを重ね、テーマである終わらない青春の物語を描き続けていこうと思います。そのことが日本のミュージカルのさらなる発展の先駆けとなることを願っています」
おけぴ観劇レポ「第24回読売演劇大賞『ジャージー・ボーイズ』が席巻!
最優秀作品賞&最優秀男優賞のダブル受賞!」より
写真提供:東宝演劇部
おけぴ取材班:chiaki(文)監修:おけぴ管理人