真っ白な衣装に身を包み、どこまでも美しく哀しいひとりの男の命を演じる
愛月ひかるさん!
その魅力が存分に堪能できる、宝塚歌劇宙組 シアター・ドラマシティ公演 ロマンス
『不滅の棘』(ふめつのとげ)が上演中です。
永遠の命が与えられた男の数奇な運命を、美しく鮮やかに演じる【愛月ひかるさん】。
脚本・演出は『王家に捧ぐ歌』『鳳凰伝』などオペラに題材を取った作品を多く生み出してきた木村信司さん。2003年に当時の花組トップスター春野寿美礼さん主演で初演された作品が、新たなスターの魅力とともに再びよみがえりました!
『ロボット』『長い長いお医者さんの話』などで知られるチェコの作家カレル・チャペックの戯曲『マクロプロス事件』と、それをもとにしたオペラ版を下敷きに、主役を女性から男性へと変更。複雑なストーリーではありませんが、
300年以上の時を超えて生きる男の物語という設定を頭に入れておくと、細かいことを気にせずに、宝塚歌劇ならではの美に溢れた世界観にどっぷりとひたれるかもしれません。
◆ 幕が上がるとそこは17世紀初頭のギリシャ・クレタ島。不老不死の薬をめぐり刺客の手にかかった医師マクロプロスが倒れ、幼いエリイ・マクロプロス(愛月さん)が薬の実験台にされたことを嘆きます。
続いて舞台は19世紀のプラハへ。令嬢フリーダ・プルス(遥羽ららさん)との愛について悩む、宮廷のお抱え歌手エリイ・マック・グレゴル(愛月さん)。この時点で観客はこのふたりの関係性などについてわからないことだらけ。頭の中は「?」でいっぱいになるはずですが、暗く光を落としたなかに白く浮かび上がるふたりの姿の美しさ、愛を語るセリフの華麗さに心を奪われているうちに場面はあっというまに次の時代へ。
物語はあっという間に300年の時を経て、20世紀のプラハへ。
ロックスター・エロール(愛月さん)がコーラスガールの頭を撫でる仕草…たまりません!
エロールに心惹かれるフリーダ(遥羽ららさん/写真右端)、フリーダに想いを寄せているアルベルト(澄輝さやとさん/写真右から二番目)、それぞれの心の動きもお見逃しなく。
舞台セットが変わり、真っ白な家具に囲まれたある部屋。そこは1933年のプラハ。四代前から続く遺産相続裁判について、原告のフリーダ・ムハ(遥羽さん)、弁護士コレナティ(凛城きらさん)とその息子アルベルト(澄輝さやとさん)が相談をしています。
そこに現れるゴージャスなロックスター、エロール・マックスウェル(愛月さん)! 敗訴目前のフリーダに対し、彼女に有利な証拠があると持ちかけるのですが…。はたしてエロールとは何者なのか? そしてその目的とは…?
儚い美しさを漂わせる令嬢フリーダ・ブルス役と、その子孫で現代的な魅力のフリーダ・ムハを演じ分ける遥羽ららさん。伝統的な宝塚の娘役らしい可憐な雰囲気と、パンチのある歌詞をあっけらかんと歌い上げる姿、どちらも魅力的!
時を越えて生き続けるエリイ/エロールを演じるのはもちろんこの方、宙組男役スターの愛月ひかるさん。
『
TOP HAT』(2015年)で振り切ったキャラクターのイタリア人デザイナー役を演じたあたりから、『エリザベート』ルキーニ役、『王妃の館』の関西弁&カツラ(!)の社長役など個性の強い役が続きました。極めつきは昨年の『神々の土地』での怪僧ラスプーチン役! ド迫力の大熱演に「これがあの愛ちゃんなの!?」と驚かれたファンの方も多いのでは。もともとは端正で優しげな魅力が持ち味の男役さんですが、これでもか! とアクの強い役を演じ続け、ただ美しいだけではない男役としての魅力の幅がぐーんと広がった印象です。
本作でも真っ白なコートに身を包み、ハットを傾けてカッコつける姿が…美しい! 女性とみれば誰にでも近づく“女ったらし”な表情が…たまらない! とにかく全編にわたって愛月さんがひたすらにカッコイイ作品です。ファンの方は心の準備をしてからご観劇になることをオススメいたします。
特に20世紀のロックスター・エロール役はただそこにいるだけで圧倒的なカリスマ性を持つ存在。もともとは初演の春野寿美礼さんへのあてがきだろうなと感じざるを得ない役どころですが、今回の宙組版では愛月さんが演じるからこその新たな魅力が加わりました。自信満々で浮世を超越した存在ながら、その裏にすけて見える生真面目な優しさや、愛を求める淋しさ。愛月さんならではの役作りが心に残ります。常に端正な魅力を保ちつつ、ショースターとして妖しく輝く場面も見ものです。初演から引き継いだ真っ赤な口紅をぐいっと拭うあの場面もどうぞお楽しみに♪
エロールが妖しく歌い踊るショー場面ではこんな姿も…。クールなスーツ姿への早替りも必見です。バンバンバン! と歌う愛月さんの視線に心射抜かれてきてください!
若手が多い座組ですが、弁護士コレナティを演じた凛城きらさん、その息子でフリーダに思いを寄せるアルベルト役を演じた澄輝さやとさんは、さすが上級生の存在感。
『神々の土地』皇后アレクサンドラ役で女役に挑戦し、見事な演技をみせてくれた凛城さん。本作では髭をつけ、コミカルな台詞回しと動きで笑いを生み出し(本レポ写真1枚目の表情!)、芸達者ぶりをあらためて印象づけました。
一方、おけぴスタッフ的「切ない片思いをする役を演じさせたい男役」ナンバーワンの澄輝さやとさんは、本作でもその期待を裏切らない見事な片思いっぷり。眉を寄せて苦悩する姿、フリーダを思って歌う短いながらも味わい深いナンバーなど見どころ聞きどころもあり、どこまでも報われないアルベルト役を品ある演技でみせてくれました。
心に葛藤を抱え酒に溺れるプルス男爵家の息子ハンス役を演じたのは留依蒔世さん。短い場面、セリフで役の心情をみせる難しい役に果敢に挑みました。
エリイ/エロールを何十年も愛し続ける老女役の美風舞良さん、クリスティーナの母タチアナを艶っぽく演じた純矢ちとせさん、宙組を支えるベテラン女役のおふたりもきっちりと仕事をし、舞台をぐいっと引き締めます。
このほか、クセのない愛らしい魅力の遥羽ららさん、哀しみがあふれる美声をきかせてくれた華妃まいあさん、異なる魅力のヒロイン的娘役おふたりに加え、エロールを取り巻く不思議なコーラスガールたち(愛白もあさん、花咲あいりさん、桜音れいさん、花菱りずさん)の存在も舞台に彩りを与えました(個性の異なるそれぞれの動き、目が離せません♪)。
フリーダと裁判で対立するプルス男爵家の娘・クリスティーナ(華妃まいあさん)。彼女もまたエロールの魅力に溺れていきます…。もうひとりのヒロインともいえる役柄、演じる華妃さんは新人公演以外の大きな役はほぼ初めて。心にしみる美しい歌声で劇場を魅了しました。
◆ オペラをもとにした作品らしく、各場面で役の心情が音楽に乗せて歌われますが、舞台から受ける印象はまるでストレートプレイ。息抜き、お遊び的な場面はほとんどなく、ひとつひとつのセリフ、すべての動きに意味が与えられています。それだけに出演者たちの演技そのものが見どころといえるこの作品。とくにすべての謎が一気にとけるクライマックスの場面は、エロールだけでなく、舞台上にいる全員がそれぞれの心情を細やかに演じていて、見ごたえがあります。
宿命に立ち向かい、最後の最後まで端正な美しさを崩さないエロールの生き様に心打たれる『不滅の棘』。派手なフィナーレショーはありませんが、最後に短く歌うその瞬間まで、完璧に美しい愛月エロール。その魅力が溢れる舞台は15日(月)まで梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演中です。
(東京公演は1月23日から29日 日本青年館ホールにて)
おけぴ取材班:mamiko、yone