『エリザベート』、『モーツァルト!』、『レベッカ』、『マリー・アントワネット』、『レディ・ベス』など、日本ミュージカル界でも屈指の人気作品群を手掛けてきたミヒャエル・クンツェ(脚本/歌詞)とシルヴェスター・リーヴァイ(音楽/編曲)のゴールデンコンビ。構想10年以上の歳月を費やし、最も偉大な音楽家の一人であり「楽聖」とも称されるルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの謎に満ちた人物像とその生涯に肉迫した野心作、ミュージカル『ベートーヴェン』日本初演の幕が、いよいよ上がります!
ベートーヴェンが音楽家の生命線とも言える聴力を失うという不運と苦悩に苛まれながらもなお、その創作意欲が生涯衰えることは無かった理由は何だったのか?
ベートーヴェンの遺品の中から見つかった愛を綴った手紙。それが誰に宛てたものかについては不明のまま──その史実を基に、トニ(アントニー・ブレンターノ)という女性が相手だったという物語を創作したのが、この作品です。
クンツェ&リーヴァイは、ベートーヴェンの〈愛〉をテーマにベートーヴェンの原曲に基づくメロディーに歌詞をつけ、旋律を再構築し、各シーンに当てはめていくという、画期的なアプローチを試みた超話題作! 待望の初日を前に会見が行われました。井上芳雄さん、花總まりさんとともに登場したのは、ミヒャエル・クンツェさん、シルヴェスター・リーヴァイさん! この並びだけでも日本におけるウィーン・ミュージカルの歴史を肌で感じるような特別な空気になります。心地よい緊張感を覚えながらも、会見が始まると、皆様からは終始穏やかで朗らか、且つ、作品への情熱溢れるお話が語られました。
──『エリザベート』ではオーストリア皇后と死を擬人化した黄泉の帝王として、『モーツァルト!』では天才音楽家とその姉として幾度も舞台共演をされてきた井上さんと花總さんに伺います。本作においては、孤高の音楽家ベートーヴェンと彼の想い人トニという道ならぬ恋ではありますが恋仲になる間柄を演じます。これまでと演じ方やお互いの印象などに変化はありますか。井上さん)
花總さんとはいろんな作品でご一緒させてもらっていますが、こんなに濃密なラブストーリーでガッツリと組むのは、初めてとは言わないまでもそれに近いものがあります。『エリザベート』でも相手役ではありますが、死神なので生々しいやり取りはあまりありませんので。素晴らしい女優さんだということはよくわかっていますので、こうしてご一緒できることは光栄であり、本当に楽しいです。
花總さんは、その時に演じている役がプライベートにも影響を与える方のようで(笑)、『エリザベート』の時はちょっと近づき難い感じがするのですが、今回は、公演が終わるころには親しみを込めて「花ちゃん」って呼べるのではないかと言うほど……
花總さん)
遅いよ(笑)! 本当は稽古の間にそうなるはずなのに!
井上さん)
そうなんですよ。5回ぐらい呼んでいるのですが、まだしっくりこなくて「花總さん」に戻ってしまうんです(笑)。でも「花ちゃん」になるんじゃないかというところまで、(距離は)近づいています。
花總さん)
今回、ようやく恋愛関係の二人の人間らしいやりとりができるので、今まで見たことのない「井上さん」の……
井上さん)
全然、距離が縮まっていない!! 「よっちゃん」くらい言ってくださるのかと(笑)!
花總さん)
ふふっ。今まで見たことのない芳雄くんの表情をやっと独り占めできているので、演じていてもとても楽しいです。
──お互いに照れくさいようなところもありますか?花總さん)
(間髪入れずに)ありますよ!
井上さん)
早いな(笑)。やっぱり長くご一緒していますがラブストーリーがなかったので。でも、役に入り込めば入り込むほど演じる喜びを感じる作品なので、明日初日を迎えますが、ここから自分たちがどこまで行けるかを楽しみに思っています。
──クンツェさんとリーヴァイさんにお聞きします。ベートーヴェンが遺した膨大な楽曲を紐解き、その楽曲を用いてベートーヴェンの人生を描く──完成までに10年以上をかけた途方もない試みだったと伺っております。個人的には、2幕後半のベートーヴェンのナンバーで、ピアノソナタ第31番、第三楽章のラストにほんの少し登場するメロディーがクライマックスに使われている。これはかなりすごいことだと思っています。そこで、使用した旋律を選んだ経緯やご苦労された点などお聞かせください。井上さん)
とても質問がマニアックですね!クンツェさん)
喜んでお答えいたします。まず本作はベートーヴェンの人生の長い道のりを語るのではなく、「聴覚を失うという音楽家にとってこれ以上ないくらいの困難に直面した時に、彼は人生最大の愛、愛する相手を見つけた」ことを物語る作品です。創作過程は困難でもありましたが、同時に大きな喜びを感じる作業でした。
リーヴァイさん)
私は、まず、ベートーヴェンが作曲した全曲に目を通し、聴くことから始めました。そこから、今回、ミュージカルナンバー(歌)として音楽的に適しているものを選び出しました。セレクトしたものを作品のどこに据えるのかについては、自分自身がもっているエモーション(感情)に基づいて決めました。そうやって選び抜いた一音一音をミヒャエルとすり合わせ、ドラマツルギー的に合うかを確認しながら進めました。今、ご質問にあったピアノソナタもそのようにして進め、作品を仕上げて行きました。ほかの曲も、今回選んだ一曲一曲に固有のストーリーがあり、それをすべてお話しするには2~3週間はかかってしまいます(笑)。
クンツェさん)
ベートーヴェンという個人に焦点を当てた作品に、オリジナルの楽曲をインスピレーションの一部として取り入れていく過程について少し追加で説明させていただきます。
ベートーヴェンは当時、世界で最も素晴らしいと称えられるほどピアニストとして大成功をおさめていた人です。それが何を意味するかというと、演奏に対する人々の拍手に非常に依存していたということなんです。それが、耳が聞こえなくなることによって拍手そのものが聞こえなくなってしまう。その後のベートーヴェンの内面を作り上げていかなければならない、それも信じるに足る物語として舞台に乗せ、お客様にも提示する。それに適した音(音楽)を選び出してくれたシルヴェスターに感謝しています。その結果としてできたものが、クンツェ&リーヴァイのミュージカル作品になったということが、私はとても嬉しいのです。
クンツェさんからの感謝の言葉に「ありがとうございます」と日本語で答えるリーヴァイさん!
リーヴァイさん)
実は10年前にこの作品に取り掛かろうかと思った時、「How」の部分、どのように作品を創作するかを決めるのに長い時間を要しました。私たちにとって大事なのはお客様のためにミュージカルを創るということ。クラシック音楽を身近に感じている方々には少しモダンな音楽に触れていいただきたく、クラシックにはあまり縁がない方にはクラシックを身近に感じていただけるような作品にしようということになりました。
──井上さん、花總さん、ここまでのお話も踏まえて、改めて本作の見どころやお客様へのメッセージをお願いいたします。花總さん)
ベートーヴェンの有名な、誰もが知っている曲もあれば、こんな素敵な旋律もあったんだと発見できるような曲もあります。そこも魅力の一つになる作品です。そしてそれらの楽曲をリーヴァイさんのアレンジで、私たちが歌うことでお楽しみいただけたらと思っています。
井上さん)
まず、お二人が今回来日してくださったことをとても嬉しく思います。
僕は、初舞台が『エリザベート』ですので、(ミュージカル俳優・井上芳雄は)お二人から生まれたと言っても過言ではありません。「花ちゃん」もね、エリザベートのオリジナルキャストですし、そういう意味でもお二人が来てくださって、こうして日本初演となる『ベートーヴェン』を上演できることが嬉しいです。
また、今、お話を伺い、『モーツァルト!』ではリーヴァイさんのオリジナルのメロディー(楽曲)を用いていたのに、今回はベートーヴェンのメロディー(楽曲)を用いたのはなぜだろうと不思議に思っていたことがクリアになりました。クラシックとミュージカルの融合、どちらのファンの方にも楽しんでもらえるようにという思い、お二人が今なお、新しいチャレンジをされているということ、その中でこの作品が生まれたということを知ることができました。
そして今回、ウィーン・ミュージカルのお二人の作品を、ドイツ出身の演出のギル・メーメルトさん、世界初演の韓国のチームと僕たち日本のチームで、3か国語、いやもしかしたらそれ以上のさまざまな言葉が飛び交うとても国際的な稽古場でした。だからこそ、豊かなものになっていると思っています。
ベートーヴェンの不屈の精神、彼の生涯を通して、彼の音楽の素晴らしさはもちろん、その生き様、トニとの愛……たくさんのことを感じていただけると思います。
あと、とても豪華なんですよ! 今年上演された東宝ミュージカルの『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』や『チャーリーとチョコレート工場』にも負けないくらいの美術です(笑)。
最後にもうひとつお伝えするなら、クラシックの習慣として年末には必ず第九を聴く、日本で12月といえばベートーヴェンなんです。その意味でも、この時期にふさわしい作品です! 年明けも公演は続きますが、それはそれで華やかな音楽で(新年に)ふさわしいということで(笑)。この新しいミュージカルを体験しに劇場へいらしていただけたら嬉しいです!
クンツェさん、リーヴァイさんが名コンビたる所以がわかるような素敵なお話、それに熱心に耳を傾けお二人の想いをしっかりと受け止める井上さん、花總さんの姿がとても印象的な会見でした。ミュージカル『ベートーヴェン』いよいよ開幕です。
おけぴ取材班:chiaki(取材・文)監修:おけぴ管理人