劇団養成所の“フォーカード”と呼ばれたかつての同期が、演技力を武器にペテンを仕掛ける…! 鈴木聡さんが劇団青年座に書き下ろした新作は…抱腹絶倒&ちょっぴりホロ苦、そして最後は心ほっこりのドタバタ喜劇!
『妻と社長と九ちゃん』(2005年初演)、『をんな善哉』(2011年初演)に続き、鈴木さんと宮田慶子さん(演出)が三度タッグを組んだ
注目作『フォーカード』が紀伊国屋ホールにて開幕しました。
さっそく、観劇してきたおけぴ会員のみなさまの感想&おすすめコメントとともに、観劇レポートをお届けいたします!
【ストーリー】
劇団「新流」の俳優養成所を卒業した横山千鶴、谷義人、中込彰、神崎由佳里の同期四人。
さる理由から四人は劇団員にはなれず、今はそれぞれ違う道を歩いている。
ある日、千鶴の呼びかけにより二十数年ぶりに馴染みの喫茶店で四人は再会した。
それは、ある人物から大金を騙し取るためにペテンの片棒を担がないかという相談だった。
「ペテンは演技力。かつて養成所のフォーカードと呼ばれた四人が集まれば必ず成功する!」
不審と不安が渦巻く中、三人は各々の事情でこの提案を受け入れた。
母と息子、先輩と後輩、男と女…喫茶店に集う人々。
3組のペアの人生ドラマと交錯しながらペテンの計画は進み、その稽古にも熱がこもる。
そして、ペテン本番の日。四人(フォーカード)はポーカーフェイスで大勝負に出るのだが…。◆
「いま、この時代を生きる劇作家の新作を上演すること」にこだわって活動を続ける劇団青年座。
今回、鈴木聡さんが書き下ろした本作のテーマはずばり
“演技と詐欺の境界線”! なぜ人は人を騙すのか? どうして人は騙されるのか…?
最近話題になった不倫騒動や、あのアイドルグループの解散報道など、実際の時事ネタも織り込みながら、現代社会と人間の心理を鈴木聡作品ならではのコメディタッチで見つめます。
かつての“スター候補”千鶴役を演じる
【増子倭文江(ますこ・しずえ)さん】
◆とにかく笑える、それしかない! 老若男女、どの年齢の方も楽しめる芝居だと思います。狭い舞台の中に色々な事を想像させてもらえました。
◆台本が秀逸。とてもよく練られています。役者さんもいいです。劇中で繰り広げられる茶番劇が爆笑を誘います。それぞれに事情を抱える、かつての同期4人。
【大家仁志(おおや・ひとし)さん】演じるゴメこと中込彰は、
夢を諦めたいまも現実との折り合いがつかずにいるようで…
◆青年座の俳優陣の迫真の演技が見せどころの”劇場型詐欺”の話です。夢破れた思いと現在の状況とに一抹の寂しさを感じるながらも、最後は元気になるいい話です。随所に笑いを誘う時事ネタあり。
◆20年前に生活の為に役者を辞めた劇団仲間が、貧困を脱却する手段として人を騙す演技のハチャメチャな熱演に笑いとともに哀愁も感じました。【横堀悦夫(よこぼり・えつお)さん】演じる谷義人は、
健康食品を扱う会社を経営。
順風満帆のように見えますが…
◆ストーリーを逆手にとったような演技と違和感が最高です。役者のキャリアを見せつけられた笑いに脱帽でした。
◆舞台役者さんの設定と言うことで、皆さん名演技! 時事ネタもちょいちょい盛り込まれていて、終始クスクス笑っちゃいました。演技力の高さにはいまも自信あり!の4人組。
でもそれを人を騙すことに使うなんて…
逡巡する由佳里役は【野々村のん(ののむら・のん)さん】
◆序盤、怒涛の時事ネタで笑いスイッチをオンにされ、続くスピード感溢れるペテン劇に笑いっぱなし! こんなに笑った観劇は久しぶりです。あの喫茶店、中野坂上のどこにあるのでしょう?
◆芸達者だから出来る軽さ。普通の台詞でこれだけ笑えるとは。見終わった後、無性に珈琲が飲みたくなります。エンディングがスマートで爽やかで◎。誘い合わせて吉。
まるで演劇の“エチュード”のように、
役柄の設定も細かく作りこんで…
はたして、彼らのペテンは成功するのか!?
(写真左は【山野史人(やまの・ふびと)】さん、
奥は【名取幸政(なとり・ゆきまさ)】さん)
◆フォーカードの4人以外の出演者たちも、いちいちウマイ! 幅広い年齢の役者さんが所属していて、それぞれが無理のない年齢設定の役を演じているのも、老舗劇団だからこそ。これってよく考えるとすごく贅沢なことだと思います!
◆不倫カップルの男役(高松潤さん)の絶妙な軽さがツボでした(笑)。
◆常連客のおばあちゃん(五味多恵子さん)、ラストでのしたたかさ、たくましさ、素敵です。◆ 新作戯曲の上演にこだわり、活動を続けている劇団青年座。劇作家との関係も一度きりでは終わらず、連続性のある共同作業を行うことを大事にしているとのこと。
「劇作家に新作を委託したら、その作品が当たろうが当たるまいが3回は続ける。それが青年座の創作劇運動だ」(元代表の故・森塚敏さんの言葉より)
“実際の青年座劇団員が、元・劇団養成所メンバーの役を演じる”
この、いつも以上に演技力が必要となりそうな設定に、3度目の共同作業となった鈴木聡さんと青年座のみなさんとの信頼関係が見えたような気がしたおけぴスタッフ。観劇後、出演者の確かな演技力あってこその“笑い”を、たくさんの方に味わってほしい! と強く感じました。
◆普段は小劇場の芝居ばかり観ていたんです。新劇ってどうも頭でっかちな感じ(先入感)があって敬遠してました。今回その誤解が解けました。やはり青年座というブランドの底力を見せつけられた思い。 派手な仕掛けがなくても、観劇後の満足度がとっても高いのが青年座の魅力! 日本の演劇の今、そのひとつの側面を堪能できる新作舞台。
(上演時間は休憩なしの2時間ぴったり。お仕事帰りにも気軽に観劇できるのも嬉しいポイント♪)
(自身が所属する劇団だからこその、出演者の技量に委ねた宮田慶子さんの演出も、さじ加減絶妙です) ぜひ劇場で、その堅実良品ぶりをその目でお確かめください!
【これまでの青年座稽古場レポ&インタビューはこちら♪】
「国境のある家」「THAT FACE~その顔」「タカラレ六郎の仇討ち」
おけぴ取材班:mamiko
写真提供:劇団青年座 撮影:坂本正郁