2015年のトニー賞5部門受賞(作品賞、脚本賞、作曲賞、主演男優賞、演出賞)の話題作が早くも本邦初上演!2月7日にシアタークリエにて開幕する
ミュージカル『FUN HOME ファン・ホーム ある家族の悲喜劇』 の通し稽古を見学してきました。演出は
小川絵梨子さん です!
調和がとれていて美しい我が家、ありふれた家族の…悲喜劇。さぁ、どんな物語が繰り広げられるのか、ちょっとご紹介いたします。
<おけぴ独り言:初演作なので、どの程度前知識を入れるのか、それは悩ましいところですが、徐々にネタバレして参りますので程良きところまでご覧ください> レポは
【ユニークな劇構造】【楽曲の魅力~稽古場歌唱披露動画ご紹介~】【キャストの印象】【冒頭でアリソンによって明かされる事実】【原作コミックを読んで……】 の順でお届けします。
【ユニークな劇構造】
本作は、大人になった主人公のアリソンの回想録、漫画家になった彼女が過去の記憶を旅しながら家族のさまざまな場面をスケッチしていくように展開します。
子供のアリソン (笠井日向さんと龍 杏美さんのダブルキャスト)、
大学生のアリソン (大原櫻子さん)を見つめる
大人になったアリソン (瀬奈じゅんさん)という構造。3人の俳優が一人の人物を演じるのです。言ってみればそれが作品の縦糸。そして横糸となるのは、アリソンと家族の関係、とりわけ父ブルースとの関係です。1枚の織物を紡いでいくように物語は進みます。
また、物語は時系列には進まず、時を行ったり来たりしながら描かれるのですが、ご心配には及びません。もしかしたら、はじめは戸惑うこともあるかもしれませんが、過去のピースたちはやがて一つの真実に繋がり……、そしてその瞬間、突如として巨大な実感が押し寄せてくるような不思議な魅力をもつ作品です。ときどき織り交ぜられる大人アリソンによる“補足説明”もありますので。ただ、物語の受け止め方、ふと心がゆれるポイントは人それぞれだろうなと感じる作品でもあります。自分でも思いがけないところで頭や心を刺激される、そんな瞬間が待っているかもしれません!
【楽曲の魅力~稽古場動画ご紹介~】
物語の深~いところはご観劇いただく際のお楽しみとして、もうひとつの魅力であるミュージカルナンバーの印象をご紹介いたします。歌が芝居になり、芝居が歌になる。原作コミックを読み、これがミュージカルに?!と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、これぞミュージカルといえる作品です。
大学生のアリソンがジョーンとの出会いをきっかけに性に目覚め、新しく始まった人生への悦びを歌い上げる♪Changing My Major、自らの中にわき上がる何かを見出した子供のアリソンが歌う♪Ring of Keys(トニー賞のパフォーマンスでも話題に)、母の想い爆発の♪Days and Days、父の葛藤♪Edges of the World、3人のアリソンの♪Flying Away……キャラクターの心情に寄りそうナンバー揃い。これは聴けば聴くほどハマります。
芝居歌…それだけでなくファン・ホーム、それは一家が営む “funeral home=葬儀屋”の略でもあるのですが、“ファン=楽しい”“ホーム=家”も感じさせる盛り上がりナンバーも。子供たちが歌う♪Come to the Fun Home(ジャクソン5?フィンガー5?的なキャッチーでシビレルナンバー、ベクダル3姉弟大活躍!)や♪Raincoat of Love(ロイ役の上口耕平さんはほかにも複数役を演じます。こちらのナンバーも…その1つ)などなど!
そんな魅惑の歌唱シーンを集めた稽古場動画が公開されました。全力で♪おいでよ、ファン・ホーム!です。
VIDEO
【キャストの印象】
骨董品を愛する美意識の塊のような父・ブルースを演じるのは
吉原光夫さん 。穏やかで温かい理想的な父の側面とそんなブルースが秘める情熱、そしてもうひとつ深く愛したものとは。複雑なブルース像を自然に作り上げている印象。核はしっかりしていても、こういう人物ですと型にはめていない、余白のあるブルースです。
大学生のアリソン役
大原櫻子さん は、♪Changing My Majorでの晴れやかな表情と伸びやかな歌声がステキ。大学で出会う
横田美紀さん 演じるジョーンの朗らかさは光。子供アリソンの
笠井日向さん (
龍 杏美さん とのダブルキャスト)も戸惑いを繊細に、美しいものへのトキメキを鮮やかに魅せます。ヤンチャな弟クリスチャン(
楢原嵩琉くん と
若林大空くん のダブルキャスト)とジョン(
阿部稜平くん と
大河原爽介くん のダブルキャスト)とのシーンは何とも言えないワチャワチャ感がイイ!ダブルキャストコンプリートしたくなります!そして、それを見つめる大人アリソンという図式もキュン。
母ヘレンには
紺野まひるさん 。ピアノを奏で、今でも舞台に立つヘレンが持つ華やかさと家庭を守る妻・母としての顔、その狭間での苦悩が辛い。
そして、ブルースの元教え子で庭仕事の助手兼ベビーシッターとしてベクダル家に出入りするようになる若く美しい青年ロイには
上口耕平さん 。ロイが口火を切るあるナンバー、上口さんの歌いだしの歌声にグイッと惹きつけられます。ほかにもあんな役、こんな役も演じます。お楽しみに!
物語の語り部、大人になったアリソンを演じるのは
瀬奈じゅんさん 。どーんと真ん中に立つ主人公とは違い、彼女の視点で物語が進むような立ち位置のアリソン。過去を驚くほど客観的に知的に見つめるクールな姿と物語に入り込んだ時の感情の高まり、観ている者も一緒にアリソンの感情の渦に引きずり込むような力のある芝居です。
こうして振り返ると、ブルースだけでなくひとりひとりの描かれ方に余白のある作品だと感じます。その重なり合いが作品の印象となる。見える景色はその人自身の考え方や感性に委ねられるのです。
【冒頭でアリソンによって明かされる事実】
「父も私も、同じペンシルバニアの小さな町で育った。
そして父はゲイだった。
そして私はレズビアンだった。
そして父は自殺した。
そして私は・・・レズビアンの漫画家になった。」
また、アリソンの
「本当のことはわからない。
誰にもわからない。」
その言葉とともに物語は進みます。
【原作コミックを読んで……】
原作小説・コミックのある作品、読んでから観るか、観てから読むか。悩ましいところですよね。おけぴスタッフはコミックを読んでみました。
“家”に過度な愛情を注ぎ、極端な美意識を持つ父と娘アリソンを繋ぐのは文学。この文学が持つ意味の比重がコミックのほうが大きくなっています。正直、文学作品のあれもこれも読んだことがなくて、私は作品についていけるのだろうかと思ってしまったことも。
ただそれは杞憂に終わり、より普遍的で広義な家族というものについて感じることの多い作品になっています。
間口は広い! その一方で、また違う角度から描かれているために舞台作品として観たときにコミックが補完したり、逆に音楽がコミックをより一層鮮やかに感じさせたり、コミックを読み返したくなったりというところも。もちろんまっさらで観たらどうだったのか、そんな思いもないとは言いませんが(笑)。それは欲ばりというものです。
個人的にはコミックのある一文が強く心に残ったのですが、それが舞台ではまた違う表現に姿を変えて心に刺さったというのが新鮮な驚きでした。(ちなみにそのシーンは♪Maps)
シアタークリエ10周年記念公演『TENTH』を観て、改めてシアタークリエという劇場ならではの良作を数多く生み出してきたことに気づいた1月。新たな門出となる『FUN HOME』、こちらも実にクリエらしい、丁寧に届けられる作品です。お見逃しなく!
おけぴ取材班:chiaki(取材・文) 監修:おけぴ管理人