2024年のゴールデンウィークに待望の上演! 舞姫と戦士の悲恋を描く、エキゾチックでドラマティックな傑作バレエ『ラ・バヤデール』、新国立劇場では2000年に牧阿佐美舞踊芸術監督の改訂振付第1作として新制作されました。今年の上演では、新国立劇場バレエ団プリンシパルの速水渉悟さんが同作に戦士ソロルに初役で挑みます。作品への意気込みとともに、芸術選奨文部科学大臣新人賞、中川鋭之助賞を受賞された速水さんの舞台にかける思いを伺いました。
物語
インドの寺院に仕える舞姫ニキヤはラジャー(王侯)に仕える若い隊長ソロルと恋仲である。ニキヤに思いを寄せる大僧正はニキヤを手に入れようと機会をうかがっている。一方、ソロルが仕える王の娘ガムザッティはソロルとの結婚を望み、王の命にそむくことが出来ないソロルは心ならずも結婚を承諾してしまう──
【相手から受け取るものを大切にしたい】

『ラ・バヤデール』前回公演より
撮影:瀬戸秀美

『ラ・バヤデール』前回公演より
撮影:瀬戸秀美
──『ラ・バヤデール』にはどのような印象をお持ちですか。長く上演されてきた歴史(1877年初演)があり、グラン・パ・ド・ドゥやコール・ド・バレエの見せ場、ドラマティックな物語など、古典バレエのすべてが詰まっている作品だと思います。
──今回の公演では舞姫ニキヤの恋人で王に仕える戦士ソロルを演じます。キャスティングが決まったときのお気持ち、まだリハーサル前と言うことですが今の時点での意気込みは。素直に嬉しかったです。2019年の公演ではほかの役を踊りましたが、その時からいつか踊りたいと思っていた役です。唯一無二の僕らしいソロルを表現したいと思います。
先日公演を終えた『ホフマン物語』で指導をしてくださった大原(永子)先生が「演じたらダメ、役になりきらなくてはならない」とおっしゃいました。僕に対しての言葉ではなかったのですが、その言葉に感銘を受けました。実際、演じようと考えすぎるとうまく動けないことがあるので、役になりきることは本当に大切です。今回も僕自身がソロルとして舞台上で生きられるようにしっかりと準備をしたいと思います。
──ソロルの人物像をどうとらえていますか。舞姫ニキヤと王の娘ガムザッティという二人の女性の間でのソロルの揺れ動く心がカギを握る作品でもあります。古典バレエに登場する男性キャラクターは良くも悪くも素直な人が多いという印象です。ソロルもそんな人物の一人。王に仕える身としての苦しい状況での彼の選択や行動について、自分なりに解釈することも必要ですが、自分一人で理詰めで役を作っていくよりもリハーサルで踊りながらパートナーから受け取るものを大切にして作る方がいいのではないか。ニキヤとガムザッティに相対した瞬間にソロルの中にどんな感情が起こるのか……そこは素晴らしいパートナーのお二人の力をお借りしようと思っています。踊りについても戦士であるソロルの魅力となる力強さの上に、そこで生まれる感情表現を乗せていければと考えています。
──相手とのキャッチボール、生で生まれてくるものを大切にされているのですね。舞台上で役として生きているダンサーは、毎回同じことはしません。決まりごとの中で、少しずつ変化をつくるのです。それに対してまた別のダンサーが役として臨機応変にリアクションすることで生(ライブ)の良さ、物語の温度やリアリティが生まれます。そのためにも役になりきることが大切。一方で、役になりきるといっても没入しすぎて視野が狭くなってはいけない。お客様に「見せる」という意味では、自分の身体のラインが一番きれいに見える角度なども意識します。
──役としての生の熱量とダンサーとしての冷静さが一期一会のステージを生むのですね! 今回のパートナー、ニキヤ役は柴山紗帆さん、ガムザッティ役は木村優里さんです。
柴山紗帆さん 速水渉悟さん
『くるみ割り人形』
撮影:長谷川清徳

速水渉悟さん 木村優里さん
エデュケーショナル・プログラム『白鳥の湖』
撮影:鹿摩隆司
柴山さんは『くるみ割り人形』や『竜宮 りゅうぐう』でも一緒に踊りましたし、木村さんとも先日の大阪での公演で『海賊』のパ・ド・ドゥを踊りました。お二人とも役作りの話もしやすいですし、踊りでのコミュニケーションを取りやすいのでどんなニキヤとガムザッティ、ソロルになるのかリハーサルが始まるのが楽しみです。お二人におんぶに抱っこにならないように頑張ります(笑)。
──作品の見どころ、好きな場面は。黄金の神像のシーンが好きです。あの金ピカが好きなんです(笑)。

『ラ・バヤデール』前回公演より
撮影:瀬戸秀美
──2019年に速水さんが踊られた役ですね。金色に綺麗に塗ってもらったのですが、顔料の粒子が細かいために毛穴から身体に入ってしまい、本番後も数日間、汗を拭くと金色の粉が出てきました(笑)。ちなみに青く塗ったとき(注:『アラジン』のジーン役を踊ったとき)もしばらく出てきました(笑)。
もちろんドラマもあるし、コール・ド・バレエも大きな見どころですが、黄金の神像は『ラ・バヤデール』ならではの見せ場、お客様にとっても印象に残るシーンになると思います。見た目の強烈なインパクトと踊り、そしてインドが舞台の作品らしい雰囲気を存分に楽しんでいただければと思います。ほかにもエキゾチックな雰囲気や影の王国の美しさなど見どころの多い作品です。
【経験を糧に成長】
──改めまして「芸術選奨文部科学大臣新人賞<舞踊部門>」「第30回中川鋭之助賞」受賞、おめでとうございます!ありがとうございます。僕たちはお客様が見てくださってはじめて成り立つ存在です。劇場まで足を運んで来てくださる皆様に感謝しています。ありきたりな言葉になりますが、それが一番強く思うことです。
──表現者として変化・成長の手応えを感じた瞬間は。ある時、突然バレエが上手くなるというより、なんて言うか僕はポケモンと一緒だと思うんです。
──ポケモンと一緒? あのポケモンでしょうか。あのポケモンです。かわいらしさでは到底及びませんが(笑)、バトルを重ねることで経験値=レベルが徐々にアップしていく様子が似ていると思うんです。そしてノーマルなポケモンでもバトルを続けてレベル100になれば、レアなポケモンより強くなり勝つことができる。舞台をたくさん経験しているダンサーは引き出しが多く、どんなに素質があっても経験が少ないダンサーとではそこが舞台上で明らかな差として現れます。僕自身、素晴らしい先輩方と一緒に踊ることで少しずつレベルアップできているのだと思います。バレエは戦いではないですが(笑)。
──経験が糧になる。新型コロナや僕自身の怪我などでなかなかシーズンを通して満足に踊りきることができなかったのですが、昨シーズンはようやく自分の身体をコントロールできて予定されていた公演をすべて務めることができました。全幕の作品は全て主役を踊らせていただき、たくさんの経験、勉強ができたことが成長につながり評価していただけたのだと思います。
──とりわけ本番を踊るという経験が大切だということは、吉田都芸術監督もおっしゃっていますね。もちろん基礎も本番へ向けてのリハーサルも大切なのですが、やっぱり生ものである本番を踊るということはなににも代えがたい大きな経験です。僕たちダンサーは舞台上でしかレベルアップできないと感じます。
──この度、受賞された2つの賞は「今」を評価されるとともに、「これから」の活躍を期待する賞です。
『ドン・キホーテ』
撮影:鹿摩隆司
いつもたくさんの期待を寄せていただけることをありがたく思います。ダンサーとして意識し続けていることですが、期待に応えるだけでなく、皆様の期待以上のものを舞台でお届けしたい。そのためにはすべてにおいてレベルアップが必要です!
──では、『ラ・バヤデール』を楽しみにされているみなさんにメッセージを。僕にしかできないソロルを作り上げ、しっかりと『ラ・バヤデール』の物語をお届けします! 映像では伝わらない生の舞台の醍醐味を肌で感じに、ぜひ劇場にお越しください。
舞台写真提供:新国立劇場バレエ団
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人