新演出版が幕を開けたミュージカル『マリー・アントワネット』!開幕の地、博多座にて行われた、本作作曲家のシルヴェスター・リーヴァイさんのインタビューをおけぴがスペシャルレポートいたします。
──音楽は、その手で掴むことはできない、口に入れて味わうこともできない、目にも見えない、“聞くことしかできない”ものです。しかし、その作用、その力は、世界に存在するほとんどのものを凌駕する。音楽とは、そういった効果を持つものなのです。(インタビューより)
シルヴェスター・リーヴァイさん
本作は2006年11月に帝国劇場にて世界初演され、翌年1月に博多座にて上演されました。日本での上演ののち、世界各地での上演を経て、2018年新演出版として日本に、そして博多座に帰ってきたのです。遠藤周作の小説『王妃マリー・アントワネット』を原作に、マリー・アントワネットとマルグリット・アルノーという同じMAのイニシャルを持つ二人の女性の運命の交錯を軸とし、マリーの恋や王家を巡る陰謀、時代の大きなうねりに飲みこまれていく人々をドラマティックに描いた作品です。
ミヒャエル・クンツェさんの脚本・作詞で紡がれるドラマを彩る珠玉のミュージカルナンバーを手掛けられたのがリーヴァイさん。日本での新演出版に向けてブラッシュアップを重ね、新たに書き下ろされた楽曲もある本作は、ある意味で、『エリザベート』『モーツァルト!』など大ヒットミュージカルを生みだしてきた最強コンビの最新作!!博多での開幕後、帝国劇場、御園座、梅田芸術劇場にて上演されます。
【新演出版の核となる二人のMAの関係】
──博多座へようこそ!約10年ぶりのご訪問になりますね。 はい。前回は、私にとって初めての福岡、そして博多、当然のことながら初めての博多座でした。空港から劇場へ直行したのですが、劇場では(先に劇場入りしていた)アンサンブルのみなさんが私を待っていてくださり、大変な歓迎を受けました。まるで、雲の上を漂っているような気持ちがしたことを記憶しております。博多座は劇場としても大変素晴らしい!
そして、博多の街に暮らす人々が大好きです。ほかの都市に比べ、ゆっくりと穏やかに過ごせる気がします。(日本語で)ホントニ(笑)!
──では早速、ミュージカル『マリー・アントワネット』について伺います。まず、この作品の世界初演(2006年)を手掛けるに至った経緯からお聞かせください。 2002年ごろ、私とパートナーのミヒャエル・クンツェ氏のもとに、東宝さんから「遠藤周作原作の『王妃マリー・アントワネット』のミュージカル化に関心はありませんか」というお話が届きました。そして原作を読んだとき、そこに描かれたマリー・アントワネットとマルグリット・アルノーという同じイニシャルMAをもつ二人の女性の関係が大変興味深く感じられました。本作を手掛けることになったきっかけ、決め手はそのようなところです。
──リーヴァイさんの曲作りは、どのように進められるのでしょうか。 まずはクンツェ氏とともに、テーマとシノプシス(あらすじ)を決めていきます。そこである程度決まったキャラクター像からインスピレーションを得て、初めてその人物に関する作曲を始めるのです。それはどの作品でも同じです。
本作の世界初演の際には2つのことを大切に進めました。1つは、マリーとマルグリットは全く性格の違う二人ですので、それぞれ違ったエモーション(感情)を表現する音楽にすること。もう1つは「革命」を音楽にすることです。
──そこから新演出版で変わったことは。 初演は、今回に比べると革命という歴史的な側面に重きを置いていたように思います。それに対して新演出版は、脚本・音楽ともに(そこに生きる人の)情感の世界をより前面に出す形で描かれています。
フランス革命という歴史的な出来事が作品の外堀を埋め、そのなかで紡がれる物語の核となるのは“二人のMAの関係”なのです。
──本作で描かれる二人の関係とは。 マリーはフランスという国の中で、堕ちていく女性。それに対して、マルグリットは社会的に地位を上げていきます。はじめは互いを嫌悪し、とくにマルグリットはマリーに強い憎しみを抱きます。しかし彼女は次第にそこに疑問を抱くようになる。マルグリットという女性は、自分の誤りを認めるだけの強さを持った女性だととらえています。
もちろん二人の関係だけでなく、マリーとフェルセン伯爵の関係についても、彼らの情感を表現する楽曲を追加するなどの変更がなされています。ほかにも正確には数え直してみないとわかりませんが、世界初演からこれまでに8~10曲ほど新曲を追加しました。
──製作発表会見でも披露された、今回の日本版に向けて書き下ろされたマリーの新曲「孤独のドレス」もその1つですね。 この曲が歌われる場面の前にあるのは、マリーとフェルセンの意見の相違。そしてフェルセンはマリーのもとを去ります。彼女が過ごした宮廷には、優しい夫・ルイ16世、友人・ランバル公爵夫人のほかには、マリーが心を許せる人は一人として見当たらなかった。そんな中で出会った、友人であり、愛人であったのがフェルセン。「そのフェルセンが去った。考えてみると常に自分は一人、孤独に過ごしていたのだ……」、マリーのそんな思いをこの曲に込めました。
【新演出版に集った才能豊かな俳優たち】
──これまでに、この作品の登場人物たちを世界各国の俳優が演じてきましたが、日本の俳優の魅力は。 本作の稽古を進める中で、改めて日本の俳優さんのココが好きだ!と感じているのは、マリーも、マルグリットも、フェルセンも、自分の持ち歌を歌うときだけでなく、演技においても常に情熱を傾けていらっしゃるところです。それは日本が有する演劇の伝統が垣間見えているのだと思います。これはアンサンブルのみなさんについても同様です。ドラマティックなシーンでも、コミカルなシーンでも100%以上の気持ちをこめて、イキイキと(キャラクターを)演じてくださいます。素晴らしい!
──タイトルロールのマリー・アントワネットを演じるお二人、花總まりさん、笹本玲奈さんはどう映りますか。 私は、花總さんのことを「花ちゃん」と呼んでいます。彼女と出会ってから22年が経ちました。22年前、彼女は宝塚歌劇団でエリザベートを演じてくださいました。それから長年にわたり私の作品へご出演してくださっていて、東宝版の『エリザベート』でも素晴らしいエリザベートを演じ続けてくださっています。舞台上、どんなささやかな場面でも彼女の存在感は輝きを放つのです。これは花ちゃんの長年の経験がそうさせるのでしょう。
玲奈ちゃんは10年前の(本作)世界初演にて、マルグリットを演じてくださった頃からのお付き合いになります。当時から、才能のある役者であり、とても上手な歌い手さんだという印象を抱いています。
──ほかにも素敵な俳優さんが揃いました。 まずマルグリットついて言うと、ソニンさんと昆夏美さんのお二人はマルグリットとして必要不可欠な強い存在感をお持ちです。田代万里生さん、古川雄大さん、フェルセンのお二人はこれまでにも私の作品にご出演されていますが、お二人とも大変素敵な方です!そして、ルイ16世のお二人、佐藤隆紀さんと原田優一さんもファンタスティック!ルイが歌う曲は、情感を込めなくてはならないエモーショナルな曲です。そこではきっと彼らの「心に染みる歌声」をご堪能いただけると思います。
また、オルレアン公の吉原光夫さんも素晴らしいです。彼の声や佇まいはオルレアンの在りように非常に適しています。王に取って代わろうという野心がひしひしと感じられるのです。
また、いつものことながらアンサンブルのみなさんも、それぞれのシーンで活躍してくださっています。そして、なんといっても6人の子どもたちです。彼らを見ているといつも心があたたかくなります。東京のお稽古場では、アンサンブルが歌うシーンで子どもたちが一緒に歌ったり振りをまねたりしている姿が可愛らしかったです。みんな全部覚えているんですよ!それでいて、舞台に立つと、きちんとした振る舞いをする。役者としても素晴らしいのです。
──改めまして、ミュージカル『マリー・アントワネット』に込めた思いは。 一人の人間、そして共同体の運命、さまざまなものが描かれる中で浮かび上がるのは、最も尊いものは「愛」だということ。愛によって物事は良き方向に導かれ、そして愛は理解をもたらします。それをコンセプトにしています。その思いを受け取っていただければ幸いです。
【音楽は私の人生のすべて】
──リーヴァイさんが生み出す楽曲は、日本人の心に響く曲と言われています。それについてはどのようにとらえていらっしゃいますか。 まず申し上げたいのは、そう言っていただくこと、また、そう受け止めてくださっているのだと私自身が感じることが非常に多くあります。私が作曲する際には、常々、心情に沿った曲にしようと努めています。楽曲の中で、心情を一番表現できるものは何かと言えば、メロディです。私のメロディにみなさんが心を寄せてくださっていることを大変嬉しく思います。
ただ、どうして自分の曲が日本の方の心に響くのかについて答えるのはむずかしいことです。なぜなら、こうすれば必ず成功する(心に響く)というレシピは存在しませんので(笑)。
──リーヴァイさんにとって、音楽とは。 私の人生のすべてです。最期、心臓がその動きを止め、呼吸が止まるまで作曲し続けたいと思っています。ただし……それは家族を別にすればの話。妻や子どもたちなしでは、私はなにも成しえなかったと思います。感謝しています。
最後に、音楽について私が感じていることをお話します。
音楽は、その手で掴むことはできない、口に入れて味わうこともできない、目にも見えない、“聞くことしかできない”ものです。しかし、その作用、その力は、世界に存在するほとんどのものを凌駕する。音楽とは、そういった効果を持つものなのです。
──素敵なお話をありがとうございました! 【リーヴァイさんからのメッセージ】
「ミナサン、オハヨウゴザイマス!シルヴェスター・リーヴァイデス。
『マリー・アントワネット』という作品とともに、博多座に伺うことができたことを嬉しく思います。新演出版では(登場人物たちの)さまざまな感情を豊かに表現し、みなさまへお伝えできると思います。世界初演をご覧になった方も多くいらっしゃるかと思いますが、今回も素晴らしいキャスト、素晴らしいスタッフ、素晴らしい指揮者で上演いたします。ぜひ、劇場へお越しいただき、お楽しみいただければ幸いです」 【久光製薬サロンパスシアター マリー・アントワネット ~ミュージカルの世界~】
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インタビュー、撮影素材提供:博多座
構成・編集:chiaki