【演劇の底力】新国立劇場『どん底』稽古場レポート~「ことぜん」シリーズ第1弾はゴーリキー~

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 小川絵梨子芸術監督第2シーズンの幕開けを飾るのは20世紀初頭のロシアを舞台に社会の底辺に暮らす人々を描いたマクシム・ゴーリキーの『どん底』。また、本作はシリーズ「ことぜん」のトップバッターでもあります。

 「ことぜん」とは「“個”と“全”」、個人と国家、個人と社会、個人と集団の持つイデオロギーなど、「一人の人間と一つの集合体」の関係をテーマにしたシリーズ。20世紀初頭のロシアを舞台にした本作、2011年にノルウェーで起こった極右青年による銃乱射事件をモチーフにした『あの出来事』、17世紀のムガル帝国(現・インド)を舞台にしたタージマハル廟の建設現場を警備している兵士たちを描いた『タージマハルの衛兵』という時代も地域も異なる3作が並ぶのも興味深く映ります。さらに演出を手掛けるのは五戸真理枝さん、瀬戸山美咲さん、小川絵梨子さんと新鋭揃いです!


 さて『どん底』に話を戻すと、舞台は20世紀初頭のロシア、そこから現代に生きる私たちが何を感じるのだろうか。そんな思いを抱きながら稽古場へ入ると、目に飛び込んできたのは「安全第一」の文字、フェンス……舞台セットはなんと現代

 この日は冒頭シーン(前書き)~第1幕を見学することができたのですが、前書きはオリジナルの導入部となります。フェンスに囲まれ、車の走行音がする高速道路の高架下。おもむろに集まる人々が、そこで始めるお芝居『どん底』という入れ子構造です。登場時は現代服で登場し、慣れた手つきで道具を運び『どん底』を始める彼らは何者なのか。 聞くところによると、とうに解散した劇団の劇団員が集ったとか。





 物語に入ると、そこは錠前屋、帽子屋、俳優、泥棒、靴屋、かつては男爵だったという……、さまざまな職業の人々が暮らすロシアの木賃宿。職業も年代もバラバラ、でも、皆、貧しくその日その日を必死に生きている。ちょっとしたいざこざ、言い争い、罵り合い、閉塞感半端ない彼らの日常は、まさにどん底。




 強欲な木賃宿の亭主コスティリョフ(山野史人さん)がやってきて錠前屋クレーシィ(伊原農さん)の妻で病のアンナ(鈴木亜希子さん)と彼女を介抱する俳優(堀文明さん)をあざ笑い、クレーシィを冷やかす。好感度ゼロのコスティリョフのイライラの原因は妻ヴァシリーサの浮気、その相手はやはりそこに住む泥棒のペーペル。



ペーペル(釆澤靖起さん)との関係はそれだけでなく……


そこにやってきた巡礼の老人ルカ(立川三貴さん)、彼を案内してきたのは木賃宿の女将ヴァシリーサの妹のナターシャ(瀧内公美さん)

 新しい住人となったほがらかなルカの説教は人々を変化させます。まるでその人の魂に語りかけるような立川さんのルカです。(ちなみに立川さんはかつてペーペルを演じたことがあるそうです!立川さんインタビューより)



色男ペーペルは姉ヴァシリーサと関係を持ちながら、今は妹のナターシャに興味あり


怒りが全身に満ちているようなヴァシリーサ(高橋紀恵さん)は強い!
「怒りの芝居を楽しむような余裕も」との五戸さんからのリクエスト、それはみなさんにとっての目標でもあるとのこと。その多重構造、早く見たい!


ヴァシリーサとナターシャの叔父のメドヴェージェフ(原金太郎さん)は警官
もちろん木賃宿の住人ではありません。


帽子職人のブブノフ(小豆畑雅一さん)はどこか達観している


男爵(谷山知宏さん)はプライドを捨てきれない、こじらせた男


サーチン(廣田高志さん)は俯瞰している木賃宿の哲学者


俳優(堀文明さん)


クヴァシュニャ(泉関奈津子さん)

 活字で見ると若干名前が覚えにくい登場人物たちですが、キャラクターが立っているので心配ご無用。とくにドラマティックな物語が展開するタイプの戯曲ではないのですが、それでも一人ひとりが鮮明に映ることに戯曲の、そして俳優の力を感じます。(新国立劇場 演劇Twitterでの紹介文&イラストもおすすめ!)

 果たして異彩を放つルカ老人がもたらすものは希望なのか、絶望なのか。

 「現代人が演じていることが透けて見えるようにしたい」そう語る五戸さんの演出を支えるものの1つが安達紀子さんによる新翻訳。「誰が善人で、誰が悪人なんだ?」「人間誰しも、心が灰色なんだよ……だから。みんな少しばかり紅をさしたがるんだな……」、現代を生きる私たちにも刺さるような葛藤や重苦しさに、いつしか20世紀ロシアの人々と現代日本の私たちが重なるように思えてきます。さらに、本作に集った俳優のみなさんは、演劇集団 円の創立メンバーの立川三貴さんをはじめ文学座、青年座、劇団NLT、花組芝居と猛者揃い。“『どん底』を「演じる」こと”を託された俳優陣がこの新劇のレパートリーをどう魅せるのか。ワクワクします。



丁寧な語り口ながら指摘はシャープな五戸さん。
登場のタイミングをほんの少し遅くしたり、台詞の間を詰める、ここは語尾を消さない、表情を少し大きくしたり、台詞に込める感情をひとつ追加したり……。引きで見るバランスと細部の感情、その両方を見定めていく演出家のお仕事に圧倒されました。もちろんそれに応えていく俳優のお仕事も!



 稽古中、五戸さんから「もうちょっと“芝居している”っぽくやってみましょうか」というリクエストも。百戦錬磨のみなさんもその塩梅を試行錯誤しながらそれに応えていきます。自然な芝居にして現代的にするというアプローチではなく、俳優が『どん底』を演じている様(さま)を演じるという新国立劇場の『どん底』。新しい『どん底』に出会える予感です。

 『どん底』を見て何を感じるのか、「ことぜん」シリーズ3作を見て何を感じるのか。まったく背景の異なる作品をシリーズとして捉える面白さにも期待が膨らむ新シーズンのスタートです!!芸術の秋、到来!!



こちらは歌の練習風景。……歌?




「絶望を見ながら生きている人たちを鼓舞するような……」(五戸さんコメントより)、BGMもロック!!な稽古場&インタビュー動画も公開されました。


【公演情報】
新国立劇場『どん底』
2019年10月3日(木)~20日(日)@新国立劇場 小劇場

<スタッフ>
作:マクシム・ゴーリキー
翻訳:安達紀子
演出:五戸真理枝

<出演>
立川三貴/廣田高志/高橋紀恵/瀧内公美/泉関奈津子/堀文明/小豆畑雅一/
伊原農/鈴木亜希子/谷山知宏/釆澤靖起/長本批呂士/
クリスタル真希/今井聡/永田涼/福本鴻介/
原金太郎/山野史人

<ものがたり>
20世紀初頭のロシア。社会の底辺に暮らす人々が集う木賃宿。様々な職業の人間が暮らしている。
早春。それぞれが思い思いの朝を迎えていた。商売道具の手入れをする者、まだ寝ぼけまなこの者、病に臥せっている者、そして他愛もない無駄話に興じている者。また、きょう一日が始まったのだ。
そんないつもと同じ日常にひとつの波紋が訪れる。新しく住人になった巡礼、ルカが現れたのだ。60歳を越えたこの男は事あるごとに、住人に「説教」を垂れる。虚実判然としないその「説教」はほかに行き場のない彼らの福音となるのか、或いは絶望をもたらすのか。
やがて、住人たちの間に些細な軋轢が生まれ、ひとつの事件が起こる...。

公演HPはこちら

おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人

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