ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』再演の幕がまもなく上がります。 2017年2月、ティム・バートン監督の大ヒット映画を原作としたミュージカルが日本初演を迎えました。個性豊かで色とりどりのキャラクターが紡ぐ物語は、ミュージカルという様式と相性バッチリ!人生のすばらしさ、尊さ、愛おしさの詰まった上質なエンターテイメント作品として観客の心をつかみました。
そして2019年11月、『ビッグ・フィッシュ』はシアタークリエに劇場を移し再演。劇場がよりコンパクトになることに伴い12 chairs versionとしての上演となります。主要キャストが最集結というミラクルも手伝って(年齢的な制約により子役は新キャスト)、期待は膨らむばかり!12人の俳優が奏でる人生のドラマ、より濃密な物語を届けるべく日々稽古に励む稽古場にて新曲を含む一部シーンの公開稽古が行われました。
写真右)白井晃さん(演出)
「初演は22人でやっていたのですが、今回は12 chairs version、12人でやっています。コンパクトになった分、ドラマが凝縮されているのですが、みなさんいろんなことをやらなくてはならないので大変なことになっています。同時にみなさんはそれを楽しんでやってくださっていると(僕は)思っています(笑)。本当に良いドラマ、良いミュージカルなので、私たちも再演できることを喜んでおります。では、ここからはいつも通りに稽古させていただきます」(白井さん) まずはプロローグに続く、作品を象徴する楽曲「ヒーローになれ」のシーンです。
【ヒーローになれ】
父親エドワードに、寝る前に本を読んでとせがむ幼き日のウィル。彼のリクエストはギリシャ神話の「イリアス」、しかしエドワードが語りだすのは「物語のヒーローになれ!」という持論に基づく奇想天外なお話。多彩なキャラクターの顔見世のような、想像力を一気に刺激されるナンバーです。
ヤング・ウィル(佐藤誠悟さん)、エドワード(川平慈英さん)
※ヤング・ウィルは佐田照さんとのダブルキャスト
自分の物語をその手で描け。冒険に満ちた未来を、人生の愛しさを歌う!
川平エドワードが帰ってきた~!と、稽古場ながらなんだかとっても嬉しくなってしまいました。
いつしか二人はエドワードの物語(想像)の世界へ。そこには──
魔女(JKimさん)
人魚(小林由佳さん)
巨人のカール(深水元基さん)
サーカス団の団長エーモス・キャロウェイ(ROLLYさん)やエドワードの幼馴染のドン・プライス(藤井隆さん)や弟のザッキー・プライス(東山光明さん)、ジェニー・ヒル(鈴木蘭々さん)の姿も。
ウィルの妻・ジョセフィーン役の夢咲ねねさんはどうやら本役ではない様子。
そこに現れた魚が釣れないと嘆く漁師(浦井健治さん)。
ウィル役の浦井さんもこのシーンは別の役で登場!強烈な印象です(笑)。
アラバマ・ストンプで寝ている魚たちを起こそう! タップを始めるエドワード、次第にみんなが踊りだす。
世界はお前のものだ!
「ヒーローになれ」が終わるとオーディエンスのみなさんから自然と拍手が。しかし、なおも続く稽古。
現実に戻ると、「まだ起きているの?」母親のサンドラがやってくる。
霧矢さんは包容力のあるサンドラをコミカルさも交えて軽やかに演じます。
ヤング・ウィルは持ち前のドライ気質というか現実的な感性でエドワードに疑問を投げかけるのですが、それでもウィルは父親のお話が大好き!
ちなみに、
エドワード:言い伝えだと、南部の大きな町には必ず1人魔女がいる!
ヤング・ウィル:僕たちの町にもいるの?
エドワード:この町にはいない、その代わりこの町にはマッジョーレというイタリアンレストランが2軒ある。魔女じゃなくてマッジョーレ。
白井さん:OK、ここまでで。
川平さん:マッジョーレはイマイチウケないな。よくわかりました。
白井さん:この反応を見たくて、(ここまで続けました)すみません。 こんな感じで12人やっています。
こうしてギャグ再検討という課題が……(笑)。
ここから白井さんによるノート。このシーンはエドワードと大人になったウィルのシーンから回想シーンへ移行して始まるのですが、そのつなぎの部分、大人ウィルが石を投げ水面の波紋が広がって~過去へシフト。その波紋を印象づけるために回り方を少し変更しよう。たとえばそんな、非常に繊細な変更を共有していきます。
続いては新曲2曲のシーンです。
「サンドラの曲が変わっているのと、エドワードとウィルの親子喧嘩のシーンです」(白井さん)。
【彼の中の魔法】
エドワードは魔法の力を持っているの。魔法の力を感じて欲しいの、あなたには無理かしら……。
大人になったウィルは大好きだったエドワードの話を素直に聴けなくなっていた。父親に対して否定的なウィルに母サンドラが語りかけます。エドワードにもウィルにも寄り添うサンドラ。
二人の視線の先にはジョセフィーンにいつものお話を聞かせるエドワードが。 サンドラはエドワードのお話を通して自身も夢を見ていたと語ります。あたたかな夫婦の愛を歌うナンバーの曲調はポップ♪
物語の世界が始まる~
このシーンで現実の世界と物語の世界を繋ぐ役割を担うのがジョセフィーン。ブルーム家の一員としての彼女の立ち位置、視点も作品を豊かにしています。そして、ジョセフィーンはまもなく母に、ウィルは父になるのです。
【二人の間の川】
「2幕、倒れたエドワードを看病するサンドラ。病室のシーンです。ウィルが鈴木蘭々さん演じるジェニーというエドワードの旧い女友達に家を買ってあげた証拠が出てきてしまい、それをエドワードに突きつけるウィル。初演時は幻想的でウエスタン調、オモシロ楽しいシーンだったのを、今回は人間ドラマが色濃く描かれるシーンになっています。ちなみにこのシーンは、昨日作った、出来立てホヤホヤのシーンです」(白井さん) 「父さん、アシュトン(エドワードのお話に登場する地名)のことを話してもいいかな」、真実を知るために疑問をぶつけるウィル。
ウィルは作り話、夢の世界に逃げている父親に、一方でエドワードは自分らしさを認めない息子に憤る。二人の溝は深くなるばかり。
二人を隔てるもの……それを表現するのはキャストのみなさん。シーンチェンジなどもみなさんが担うので、冒頭、白井さんからお話があったように本当に大変!
病室で取り乱すエドワード
エドワードの物語の真実とは、彼が本当に伝えたいことは──。
“結末はサプライズ”、ぜひ劇場で味わってください。
後列右から2人目はヤング・ウィルダブルキャストの佐田照さん!
【コメント】
夢咲ねねさん
「初演と同じメンバーでもう一度この作品が上演できることを非常にうれしく思います。初演では出なかった場面にもたくさん出せていただいているので、初演のような気持ちで一からまた頑張っていきたいと思います」 霧矢大夢さん
「大好きな家族と再会できて幸せです。夢咲さんに同じく、私もサンドラ以外の役にも挑戦しています。ほかの役もとても楽しくて、本役のサンドラがぼやけないように全ての役をしっかりと務めたいと思います(笑)。(川平さんからいやいやそんなことは!と突っ込みが)素敵なビッグ・フィッシュの物語をお客様にお届けしたいと思います」 浦井健治さん
「こうして初演メンバーが全員揃うという奇跡。白井さんを筆頭に、みんなでまた一から作り上げています。稽古中も1幕、2幕のラスト、慈英さんが歌のシーンで慈英さんの目を見るとみんな涙ぐんでいる、そして涙が止まらなくなるという現象が起きている。お客さまの心の中にもきっとビッグ・フィッシュが泳ぐと思います」 川平慈英さん
「劇場が幸せと癒しのハッピーパワースポットになること間違いなし。一人でも多くの方に劇場に足を運んでいただきたいと思っています。宣伝、口コミをよろしくお願いします!みんなで幸せを共有しましょう」 白井晃さん(演出)
「二年半ぶりの再演。メインキャストが全員揃っているというのは奇跡。はじめにそのことを聞いたときは「本当ですか!」と耳を疑ったくらいです。本当に素敵なミュージカルですので、たくさんの方にご覧いただきたいと思っています。先ほどのタップのシーン、このメンバーでタップを踏んでいるのを見て、「このメンバーでやっているんだ!」と改めて一人で感動しました。今日感じていただいた、その素晴らしさをみなさんのお力で広めていただければと思います」 ◆ 稽古中、印象的だったのは浦井さんが漁師として登場する場面で白井さんがおっしゃった「ウィルを演じる役者がやっているとわかって大丈夫」という言葉。12人でやっている、そのことが生み出す面白さが作品をより豊かにしていると感じました。想像力を味方につけて、ファンタジーの中に見える真実。やっぱりこの物語とミュージカル、相性バッチリです!
キャラクター上、劇中では苦虫を噛みつぶしたような表情が多い藤井さんですが……
笑顔♪
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人