「現代能楽集Ⅹ『幸福論』~能「道成寺」「隅田川」より」相葉裕樹さんインタビュー




 能・狂言を土台に現代演劇を創作する、世田谷パブリックシアターの人気企画「現代能楽集」の記念すべき第10弾「現代能楽集Ⅹ『幸福論』~能「道成寺」「隅田川」より」にご出演される相葉裕樹さんにお話を伺いました。




──古典をもとに現代演劇を創作するこのシリーズについて。

 これまで能や狂言という古典芸能に触れてこなかったので、こうして古典に触れる機会をいただけたことはとてもありがたいです。僕らが創り上げていくのは、それを現代の演劇に置き換えたものですが、まずはその土台となる能「道成寺」「隅田川」についても勉強する。今はその段階です。お客様にも現代演劇に生まれ変わったものを楽しむのはもちろん、古典ではどうだったのかなど、さまざまな視点から興味を持っていただければと思っています。

──プロットを読んでいかがですか。「道成寺」ではエリートの父、社交的な母と暮す医学生の息子役ということです。

 「現代」に置き換えてというのはわかっていましたが、本当に「今」が色濃く描かれていると感じました。役については、現段階ではまだしっかりとはつかめていませんが、プロットを読む限り「道成寺」で演じる役は “温室育ちのボンボン”という印象。医学生で容姿にも恵まれている、外から見ると順風満帆な人生を送っているけれど──そこからおぞましいことが起こる。その過程、その根底にあるものをどう表現するのか。自分とは違うと感じるところもあるからこそ、やりがいのある役になりそうです。


──「家族団欒のとき以外は3人それぞれが巨大な箱に引きこもっている」というところも印象的でした。



 とても演劇的な発想だと感じます。一見、不思議な空間になると思いますが、家族であっても干渉しない“個人主義”という現代の対人関係を象徴することになるのではないかと思います。もしかしたら、「干渉しない」のではなく「干渉できない」のかもしれない。人に対する関心が薄れ、興味すら持たなくなる。それによって自分の世界が小さくなって、自分さえよければという思考の方向性。互いに踏み込めない、その先にある「幸福」がどんなものか。それが投影された「箱」の存在は、家族の形を通して現代社会を風刺しているような気さえしてきます。

──距離感というのは現代を語るうえで大きな意味を持ちます。よく実家に帰ると至れり尽くせりが天国のようでありつつ、徐々に一人の時間が…などと思ってしまうことも。

 普段、一人暮らしをしていると自由ですから。実家に帰って3日目くらいからちょっと…なんてことは確かにあります。世話を焼いてくれたり、気を使ってくれたりすることはありがたいことですが、なかなかそれに気づけない。

──ただ、こうしてコロナ禍で会えなくなったりすると、そのことに気づく。



 失わないとわからないんです、人間って。それはこの2つの能が書かれた時代から変わらない。人類は文明を築いてきたけれど、精神的なところは進化していない。結局、同じような問いや間違いを繰り返している。俯瞰で見ると愚かだなと感じますが、僕自身もそうなんでしょう。それがこのタイトルにある『幸福論』というところに繋がります。幸福とはなんなのか。今日もいくつか取材を受ける中で、自分なりにこういうことかなという答えは見えるのですが、それを体現できているかというとそれはなかなか難しい。

 いわゆる“自粛期間”を経て、その大小は人ぞれぞれで生活も考え方も変化した、変化せざるをえなかったと思います。僕も人や物だけでなく、健康というものに対してのありがたさをより一層感じ、何が本当に大切なのかを考えるようになりましたし。まだすべてが解決したわけではないですが、『幸福論』は、そんな今の時世に合った題材だと思います。それをどう受け止めるか、何を持ち帰るかはお客様に委ねるしかないのですが、僕らは舞台上からそんな問いを投げかけたいと思います。

──「隅田川」についても少し。こちらは三世代の女性を軸にした物語に生まれ変わります。



 これは両作品に言えることですが、“念”や“思い”、愛を求めるがゆえに歪んでいく姿を描くことは残酷でもある。「隅田川」には、今の僕が思うに“超怖い”と感じる描写もあります。それを乗り越えていく精神性という僕の想像が及ばないところに着地するんです。今後、台本という形になると物語も膨らむでしょうし、稽古、本番でみなさんと舞台に立ち上げていく過程でどう思うのか。最後、どんな景色が広がるのか。さらにそれをプロットのはじめのほうにある「誰の目も届かない社会の片隅で、ありえるかもしれない物語」として届けられるように取り組んでいこうと思います。

──同じ6人の俳優で2つの作品を作るという点も興味深いです。

 こういったオムニバス形式で2作品を上演することははじめてです。2つの作品で役柄も互いの関係性も変わるので、それがどんな相乗効果を生むのか、稽古の進め方も含めて楽しみです。

 また、僕にとって、おそらくこの作品がお客様の前で芝居をする久しぶりの機会になります。シアタートラムの舞台に立った時、自分自身がどんな心境になるのか。お客様にとってもこれまでと違う劇場の環境、空間になるかもしれませんが、見てくださったみなさんに何かを持ち帰っていただけるように精一杯務めたいと思います。

──この時代に投げかけられる『幸福論』。客席でどう感じるのか、ますます楽しみになりました。<公演情報>に続いては、おけぴプレミアム会員の皆様のために、and more!





ヘアメイク:YOSHi.T スタイリスト:髙木阿友子 衣裳協力:TROVE

<公演情報>
現代能楽集Ⅹ『幸福論 』~能「道成寺」「隅田川」より
【作】長田育恵(弐「隅田川」)・瀬戸山美咲(壱「道成寺」)
【演出】瀬戸山美咲
【監修】野村萬斎(世田谷パブリックシアター芸術監督)
【出演】瀬奈じゅん 相葉裕樹 清水くるみ 
    明星真由美 高橋和也 鷲尾真知子
【日程】2020年11月29日(日)~12月20日(日)【会場】シアタートラム
【お問合せ】 世田谷パブリックシアターチケットセンター

【プレミアムコーナー】


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2つのプチ質問に答えていただきました。(スマホ版は次頁へ)
──自粛期間中に発見or再認識したこと
──時空を超えて旅するなら

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