6回のオープニング公演を経て、9月16日より、TBS赤坂ACTシアターにて
Daiwa House presents ミュージカル『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』 東京公演が開幕しました。7月に開幕予定だったものが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、前半日程が中止を余儀なくされるの中での、まさに
待望の開幕!後方列左より 橋本さとし、益岡徹、柚希礼音、安蘭けい
前方列左より 川口調、利田太一、中村海琉、渡部出日寿(敬称略)
映画「BILLY ELLIOT」(邦題「リトル・ダンサー」、2000年公開)を『ライオンキング』『アイーダ』などを手掛けたエルトン・ジョンの楽曲でミュージカル化した本作は、2005年5月にロンドンで産声を上げました。翌年の英国ローレンス・オリヴィエ賞4部門、ブロードウェイ進出後の2009年にはトニー賞で10部門を獲得、一躍、世界的大ヒットミュージカルの仲間入りを果たしました。日本では、2017年夏に初演。厳しいオーディションを勝ち抜いた5人のビリーが誕生したのです。その高いクオリティは多くの観客を魅了するとともに、「日本のミュージカルは、ここまで来た!」、日本演劇界にも一大旋風を巻き起こしました。
そして、2020年9月。
川口 調さん、利田太一さん、中村海琉さん、渡部出日寿さん、そのバトンを受け継ぎ、新たな歴史を刻む4人のビリーが誕生。ビリー役オーディションへの挑戦、厳しいレッスン、公演が中止になった悔しさ、社会に漂う閉塞感、劇中の物語とどこかオーバーラップするような経験を力に変えて、ようやく迎えたオープニング公演(9月14日夜)の様子をプレスコールでの写真と共にレポートいたします。
◆ 舞台となるのは1984年、イングランド北部の炭鉱町イージントン。町はサッチャー政権下で推し進められた炭鉱閉鎖計画に反対する大規模ストライキ中。主人公である11歳の少年ビリーの父や兄も炭鉱労働者でコミュニティの一員としてストライキに参加している。幼くして母親を亡くしたビリー。父はたくましく育ってほしいとボクシング教室に通わせるが、そこでビリーはバレエに出会う。少女たちと共にレッスンに参加するようになるが、やがて父の知るところとなり──。
“THE STARS LOOK DOWN”
左:中村海琉 右:豊本燦汰
“THE STARS LOOK DOWN”
中央:橋本さとし 左:星智也 右:中井智彦
この日のビリーは利田太一さん。踊りは音を掴み、言葉は観客の心を掴む。長いバレエ歴に裏付けされた踊りの表現はもちろんのこと、言葉を届ける芝居・歌の丁寧さが印象的でした。はじめは、どこか淡々とした佇まいの少年ビリー。とつとつと語るように歌う"The Stars Look Down"。そこからバレエに出会い、踊ることで内なる情熱を爆発させるエネルギーが場内の空気を媒体として客席に届けられる。そして劇場空間がエネルギーに満ちていく、それはライブならではの幸せを感じる瞬間。バレエ、タップ、アクロバット、ジャズダンス、そして歌、芝居……。ビリー役に求められる要素一つひとつの技術の高さと、それを出力する気力・体力のタフさ。改めて選ばれし者たちが、さらに努力を重ね、この日を迎えていることを感じました。
バレエをやめようか……気持ちが沈んだビリーは親友マイケルを訪ねます。マイケルはビリーに「自由」「自己表現」の悦びを説き、二人はそれを共有します。それが本作の中でも、とりわけショーアップされたシーン“Expressing Yourself”!
“EXPRESSING YOURSELF” 左:佐野航太郎 右:利田太一
「自由」を説くのはマイケルだけではありません。一緒に暮らす、心が解き放たれたおばあちゃんが語る“亡き夫とのダンスの思い出”と“選べなかった人生への思い”。彼女もまた自由に生きよとビリーの背中を押すのです。阿知波悟美さんは、この町で生きてきた女性のたくましさ、迫力と茶目っ気が同居するおばあちゃんです。自由と表現、マイケルやおばあちゃんとのシーンでファンタジックな世界が展開するのもミュージカルのなせる業。そして、ファンタジックといえば!ビリーが、大人になったビリー(オールダー・ビリー、この日は永野亮比己さん)と一緒に踊る夢を見る、幻想的なシーンも大きな見どころです。夢見る力!
一方、ビリーを取り巻く「現実」は過酷です。炭鉱労働者と警官隊の衝突、組合内部での対立、ストライキによる生活の困窮……、その中でバレエに夢中になるビリー。団結だ!団結だ!“Solidarity”のシーンでは、室内(バレエ教室)と外の世界が舞台上に同時に存在する、演劇ならではの手法でビリーが置かれた状況が描かれます。その状況下で、いち早くビリーの才能を見抜き、名門ロイヤル・バレエスクールのオーディションを受けることを勧めるのがウィルキンソン先生。
“SHINE” 左:中村海琉 右:安蘭けい
“SHINE” 中村海琉
はじめは怯えるようにバレエから逃げ回っていたビリーだが
安蘭けいさん演じるウィルキンソン先生は、華やかさの中にもなんとも言えない場末感を漂わせます。口は悪いけれど、的確な言葉でビリーを導き、惜しみないサポートをする。「振り返ってはいけない」そこに深い愛情がにじみ出ます。
血気盛んなビリーの兄・トニーは中河内雅貴さん。父の背中を見て育ち、労働者の団結、家族の団結を信じる熱き男を初演に続いて好演。"He Could Be A Star"での父との対峙も、好演すればするほど、トニー……切ない。
“ANGRY DANCE” 左:川口調 右:益岡徹
“ANGRY DANCE” 川口調
感情の爆発!呼吸をするのを忘れてしまうほど圧倒されました!
ビリーのお父さんは橋本さとしさん。愛する妻に先立たれた男の哀愁が漂いまくりです
(歴代お父さん、みなさん色気ダダ洩れなのは気のせいでしょうか(個人の見解です・笑))。「かあちゃんなら行かせてくれた!」、ビリーがぶつけるその言葉をお父さんがまともに食らったときは、見ているこちらまで「きついな」とダメージを受けるくらい肩入れしてしまっていました。そして、誰もいない部屋でひとり一心不乱に踊るビリーの姿を見て、炭鉱労働者としての誇りと父としての愛情、その狭間で葛藤し、大きな壁を乗り越えようとする。お父さんには終始泣かされっぱなし。
“SOLIDARITY” 渡部出日寿
プレスコール映像でも圧巻のバレエシーンを披露
“EXPRESSING YOURSELF” 左:利田太一 右:佐野航太郎
この作品は、ビリーの物語であり、マイケルの物語であり、トニーの、ウィルキンソン先生の、お父さんの、炭鉱労働者たち(アカペラの力強さたるや!)の物語。それぞれの人生がビリーのバレエダンサーになりたいという夢を中心にした輪の中で、しっかりと描かれているのです。その物語が豊かな音楽やダンスに彩られて、極上のミュージカルに仕上がっていますが、それぞれの道はこれまでもこれからも平坦ではない。決してイージーに描かない、そこに作品の強さを感じます。
劇中、ビリーが町の希望・未来として旅立つ景色と、本作がこうしてスタートを切るという現実がどこか重なって見えます。この先も困難が待ち受けているかもしれない、でも、多くの人々のサポートのもと歩みを進める。ビリー少年の力強さに、エンターテイメント自体が力づけられるような観劇体験でした。
オープニング公演はカーテンコールの一部が撮影可でした!
でも、拍手で手が回らないジレンマ!!
カーテンコールは全員集合で「自分らしく生きる」をフルパワーで表現!見ているこちらも弾ける笑顔に!赤坂周辺で、笑みを浮かべて軽くステップを踏む人を見かけたら──きっと『ビリー・エリオット』帰りですよ。
本作は、ビリーやマイケルはクワトロキャスト、デビーやスモールボーイはトリプル、トールボーイや大人たちもダブルキャストが組まれています。ちなみにボクシングの先生ジョージの星智也さんはシングルで、強力なアンサンブルキャストは公演毎に一部役替りがあります。
この日は見ることができなかった初演から引き続いてご出演の益岡徹さん、柚希礼音さん、根岸季衣さん、大貫勇輔さんやトニー役新キャストの中井智彦さん、そしてもちろんビリーをはじめとする子どもたち。ゆるぎない強さを持つ作品世界で、それぞれ個性いっぱいの表現をみせてくれることでしょう。
劇場内、換気や公演回毎の消毒、サーモグラフィーの設置などカンパニーのみなさんも感染予防対策に取り組んでいます。我々観客も用意されている手指の消毒や靴底消毒、チケットセルフもぎり、そしてマスクの着用など感染予防に努め、10月17日(土)までの東京公演、それに続く10月30日(金)~11月14日(土)の大阪公演(梅田芸術劇場メインホール)の大千穐楽まで、『ビリー・エリオット』が無事に完走するためのサポートをしましょう!
ダンスシーンがふんだんにある大型ミュージカル、海外スタッフの来日が叶わない中での準備、コロナ禍のさまざまなプレッシャー、困難の中で開幕に向けて尽力されたキャスト、スタッフ、関係者のみなさんに──最後に声を大にして。素敵な作品をありがとうございます&開幕おめでとうございます!
【<ホリプロステージ>ミュージカル『ビリー・エリオット』プレスコール映像】
ビューティフルおけぴ観劇会、11/15日昼、平原綾香キャロル、抽選先行受付中(-9/23)
プレスコール写真提供:ホリプロ
おけぴ取材班:chiaki(取材・文)監修:おけぴ管理人