人生における確かな充実感を求めた青年がたどり着いたのは──シアターオーブにて開幕した2022年の
ミュージカル『ピピン』開幕レポートをお届けします。
物語を舞台写真とともにご紹介、記事中に
囲み取材でのコメントも!
若き王子ピピンは、美しくカリスマ的なリーディングプレイヤーが率いるアクロバットサーカス一座に誘い込まれる。一座が披露するのは、人生の目的を探し求めるピピンの壮大な物語。オープニングからあれもこれもみんな見たい!と目も心も大忙しの♪Magic to Do。そのメロディだけでも心が躍るスティーヴン・シュワルツによる楽曲も本作の大きな魅力。そこに個性的なキャラクターが登場し、さらにはサーカス、イリュージョンと目も耳も心も大忙し!
リーディングプレイヤー(Crystal Kayさん)
ちょっと怪しげ、でも不思議なくらい惹きつけられる
サーカス一座の出し物として届けられる王子ピピンの物語
観客をピピンの世界にいざなうリーディングプレイヤーは初演でも高い評価を獲得したCrystal Kayさんが続投。ダンスや歌声、圧倒的なカリスマ性はそのままに、思い通りに運ばないときに見せる苛立ちには生々しい感情もにじませます。そしてフォッシースタイルのダンスもやっぱりメチャメチャカッコイイ! 目の表情、手の表情、声の表情、全てを駆使したCrystal Kayさんのたぐいまれなる表現力!あのリーディングプレイヤーが帰ってきた、歓喜!!
「オープニングナンバーからびっくりします! 音楽、衣裳、転換(ストーリーの展開もスムーズ!)、アクロバット、イリュージョン、ダンス……全部です! でもとにかくクライマックスがすごいです。そして老若男女、みんなが現在、過去問わず自らの人生のどこかに重なる瞬間がいっぱいあるんです。それがマジカル! 観ているみなさんがどんな思いになるのか、ひとりひとりに訊きたいくらい。」(Crystal Kay)物語の舞台となるのは神聖ローマ帝国。大学で学問を修めたピピンは、人生の大いなる目的を模索中。広い空のどこかに自分の居場所はあるのかと自問し、輝かしい未来を夢見ていた。父である王チャールズが統治する故郷に戻ったピピンは、父に認めてもらおうと、戦への同行を志願する。しかしピピンは戦の空虚さに気づき、もっと別の“特別な何か”を求めて旅に出る。 出てきた瞬間に「ピピンだ!」と思わせる
無垢な笑顔!森崎ピピン登場!!
父チャールズ王(今井清隆さん)とピピン、チャールズの後妻ファストラーダ(霧矢大夢さん)の強烈な個性に啞然⁉
自分大好き!ピピンの義弟ルイス(岡田亮輔さん)
今井さんのおとぼけとでも申しましょうか、なんとも言えない独特の脱力感と見た目の圧や侵略を続ける残虐さのギャップに、今回も困惑しつつ笑みがこぼれます。味わい。霧矢さんは、かなりクセ強めですがどこか憎めないファストラーダをチャーミングに。早替え早替えキレキレダンスはさすがのひと言です。「普通の主婦」の言葉の裏の裏まで勘繰りたくなる台詞の“含み”もじわじわ感じさせます。爽快なまでにお頭が…な岡田ルイスも含めた一家の個性極まっています!
このようにある種、戯画化されたような国王チャールズやファストラーダ、ルイスといった登場人物たちと、衣裳もメイクもナチュラルなピピンとの対比も鮮やか。この強烈な人々の中でも物語の軸として存在し、観客が自然と心を寄せてしまう“悩める王子”ピピン。森崎さんが纏うイノセントな空気がピピンにピッタリ。そしてピピンが語るように歌い始め、やがて感情の高ぶりと共に歌い上げる♪Corner of the Sky。歌い終わりには、スタッフ陣から思わず歓声が上がりました。
「視覚的にもいろんなサプライズある作品ですが、その奥底に眠っているメッセージを2時間半という時間で僕らがどこまで伝えることができるのか。そしてお客様になにを感じ取っていただけるか。ショーとして成り立たせつつ、メッセージをちゃんと伝えていくことを常に芯に持ちながら稽古をしてきました。
(ピピンを演じたことによる変化は)作品や役に出会うたびに役者としてだけでなく、まずは森崎ウィンとして、ひとりの人間としてたくさんの発見があり、成長することができます。それは作品からいろんな感情をもらえるから。ピピンは自分探しの旅に出ていますが、僕自身、リアルに生きている中で迷いがあったり──ピピンと自分が重なり、稽古をしていても役なのかウィンなのかという瞬間がいろんなところで生まれています。明るい未来に向けて自分がどう動いていきたいのか、自分を探し自分を見つめ直す機会になりました。
役を演じることはほかの誰かになるということでもあるけれど、自分自身が内面から変化している瞬間でもある。これから本番が始まりますが、ここからの一ヵ月を通して森崎ウィンとしてもどんな変化が生まれどこまで成長できるか、すごく楽しみです」(森崎ウィン)悩めるピピンに「悩んでばかりで大切な時間を無駄にせず、人生を楽しみなさい 」と説くのは祖母バーサ。大好きなバーサおばあちゃま(前田美波里さん)の前で笑顔を見せるピピン
このおばあちゃま、ただ者ではないのです!!
※バーサ役は中尾ミエさんとのダブルキャストです
「人生を楽しむ」それを体現するバーサおばあちゃまなのです!ステキ!
バーサの言葉を胸に旅を続けるピピンは、さまざまな愛のかたちを知るが、やがて心を伴わない愛は無意味だと悟る。戦に出ても、空虚な恋愛に耽っても、心は満たされないと知ったピピン。旅の最後に全てを捨てて彼がようやく見つけた本当の幸せとは──戦場での経験、戦うことの虚しさを知る
それぞれが一座のメンバーとして“役”をまっとうする中で、その“役”という“枠”をはみ出ようとする/してしまうのがキャサリン(愛加あゆさん)。彼女の“はみ出る”勇気は物語を大きく動かします。
※お写真は愛加さんのクラウンとしての出演場面満たされない心を抱え彷徨うピピン。無鉄砲だったり、投げやりになったり、逃げだしたり──純粋さの裏返しは未熟さなのか。そんなピピンも世間を知り大人になる過程で、いつまでも純真無垢なままではいられない。「ありふれたつまらない人生を過ごすつもりはない」そう語っていたピピンが迎えるクライマックスとは。
森崎さんの歌や台詞にはウソがない!
そしてダンスやアクロバットでも大活躍、身体能力の高さ、センスを全方位的に発揮です!
ミュージカル『ピピン』が誕生したのは1972年のアメリカ。ベトナム戦争末期、そんな社会情勢を大きく反映した本作がリバイバル上演されたのが2013年、そのダイアン・パウルス版は2015年に来日公演、2019年に日本版初演され、そのいずれの公演も観客の心を潤してきました。それはいつの世も、若者は、若者だけではなく人は自分を、自分の居場所を探しているからなのか。いつの間にか自分探しすら忘れてしまうからなのか──。そして2022年、少し視線が上向く帰り道、何度目かの観劇ながらまたしても『ピピン』の効用を改めて感じています。
個人的には、ピピンの痛みも伴う成長に心をぎゅっとされつつ、たくましく美しく生き生きと我が道を行くファストラーダやバーサに大きな刺激をもらいました。人生を楽しまなきゃ!
「1972年にブロードウェイで誕生したミュージカル『ピピン』。ピピン日本公演一座の全員が70年代に生まれたこの作品をまた日本で再演できること、このご時世でエンターテイメントを皆様にお届けできる喜びをかみしめています。
生でしか味わえないこのマジカルな体験、興奮、そしてなにかを持ち帰ってもらえる最高のミュージカルになっていると思いますので、ぜひ今年の夏を『ピピン』で終えてみてはいかがでしょう」(森崎ウィン)「私は(客席から)観ることができないので、私の分もみなさんに見て欲しいと思います(笑)。笑いあり、人によっては涙も、勇気ももらえるし、ちょっとダークだったり現実的だったり、人間らしいところもあり、自分自身と照らし合わせることもできる。いろんな意味で最高のエンターテイメント、みなさんぜひぜひ来て楽しんでストレスを発散して帰ってください、待ってます!」(Crystal Kay)【囲み取材こぼれ話】
互いの印象を尋ねられ──
Crystal Kay:森崎さんは、パピー(子犬)のようで。
森崎ウィン:それ、いつも言うね。
Crystal:今にも私が喰いそうでしょ(笑)。
森崎:笑!!
「喰い甲斐があるピピンになりそう」Crystal
Crystal:(どんなピピンかは)そのままのウィンくんがピュアだし、わからないまま迷い込んだ世界で青年から大人になる。私がその世界にいざなうのですが、されるがままに……という感じで自然にピピンになっています。
森崎:初演を客席から見ていたときはCrystal Kayさん(のリーディングプレイヤー)が怖かったんです。稽古場で作品を一緒に作り上げているときに人間味あふれる姿を見て「この人も人間なんだな」って、恐怖心はだいぶ取れました(笑)。
Crystal:人間ですよ!
互いに言葉を補い合ったり、突っ込んだり息の合ったところを見せるお二人。森崎さんも思わず「僕たちコンビみたいだね」と。
動きのあるポーズを求められた際に「森崎さんはそのままで大丈夫です」と言われる一幕も(笑)。とてもチャーミングなお二人です!
最後に、演出補メーロン・クルーゼさんのコメントをご紹介いたします。
「『ピピン』は劇中劇、物語の中にピピンの物語が組み込まれて、それをサーカス一座が展開していきます。ピピンという人生の意味を見つけたい若者が人生の象徴的な試練を経て大人になる──たぐいまれ、ずば抜けた(extraordinary)物語をリアルにご覧いただきます。Please Join Us! 大いに盛り上がって、ご参加ください!」公演は9月19日(月)まで東急シアターオーブにて、9月23日(金)~27日(火)までオリックス劇場にて!ぜひ、劇場で特別な体験を!
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人