ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』東京・東京国際フォーラム ホールCにて開幕!本作は、脚本・作詞トム・アイン、音楽ヘンリー・クリーガー、マイケル・ベネットが生前最後に演出と振付を手掛け、1981 年にブロードウェイで初演、翌年のトニー賞では、ミュージカル脚本賞や振付賞を始めとする6部門を受賞した大ヒットブロードウェイ・ミュージカルです。2006年公開(日本公開2007年)のビヨンセ主演の映画版でご存じの方もいらっしゃるでしょう。そんな『ドリームガールズ』のはじめてとなる日本版キャスト、新演出公演(演出:眞鍋卓嗣さん)です! かなり期待してまいりましたが、その期待を軽く飛び越えてきました! そんな『ドリームガールズ』GP(エフィ:村川絵梨さんバージョン)をレポートいたします。
左から)福原みほ 望海風斗 sara/撮影:岩村美佳
左から)sara 望海風斗 村川絵梨/撮影:吉原朱美
圧倒的な楽曲に乗せて夢(ドリーム)を多面的に描く。
1960年代のアメリカを舞台にスターを夢見る女性ボーカルグループの栄光と挫折。ショービジネスのきらびやかな世界の物語にわくわくして客席に座ると、まず目に飛び込むのは「I HAVE A DREAM」の言葉。1963年のキング牧師の演説にあるこのフレーズによって人種差別や公民権運動という作品の舞台となる時代や社会が印象付けられるとともに、黒人社会を中心にした物語であることもしっかりと観客に受け渡されます。音楽業界、ショービジネスにおける成功、スターになるということだけじゃない夢という言葉の響き。
くさびのように打ち込まれるその言葉が一瞬、心に暗い影を落とすも、ステージは色あせるどころか、輝きや内なる熱を増すようにすら感じられます。それは業界で、社会で不利な扱いを受けていた当時の黒人アーティストたちの反骨精神の表れなのかもしれません。
開演前の舞台上は、センターに盆、周囲にはスポットライトにぼんやりと浮かび上がる倒れた椅子やテーブル……この景色は華やかなショーの前のようでもあり、後のようでもある。そんなことにも思いを巡らせながら開演の時を待つ。
左から)内海啓貴 sara 望海風斗 村川絵梨 岡田浩暉 spi 駒田/撮影:吉原朱美
左から)望海風斗 sara 福原みほ 駒田一/撮影:岩村美佳
物語の始まりは、スターへの入口となるコンテスト、NYアポロシアターのアマチュア・ナイト。シカゴからやってきたコーラスグループ「ザ・ドリーメッツ」のディーナ(望海風斗)、エフィ(福原みほ/村川絵梨)、ローレル(sara)の3人。そこでディーナは中古車販売員カーティス(spi)から声をかけられる、「お嬢さん、実にきれいだ」と。コンテストでは残念な結果となった3人にカーティスは「ザ・ドリーメッツ」のマネージャーになることを申し出、人気ソウルシンガーのジェームズ(岡田浩暉)のマネージャー、マーティ(駒田一)を説得し、3人はジェームズのバックコーラスを務めることになる。
ジェームズのツアーに帯同し、やがて彼女たちのショーが用意されることになる。するとグループはエフィの弟で才能豊かなC.C.ホワイト(内海啓貴)の生み出す楽曲とともに大ヒットを飛ばし、一躍スターに! ついに「ザ・ドリームズ」としてソロデビューが決まったものの、そこでカーティスが告げたのは「リードシンガーは最も美しいディーナでいく」ということ。いわゆるデビュー戦略。常にその歌唱力でグループをけん引してきたエフィは納得がいかず、次第に自分本位な行動が目立つようになり、脱退。その穴を埋めるべく、新メンバーミシェル(なかねかな)を周到に用意するカーティス。果たして彼女たちがたどり着くのは。
左から)spi 内海啓貴 駒田一 村川絵梨 望海風斗 sara 岡田浩暉/撮影:吉原朱美
序盤はグループをまとめる気質は持ち合わせているものの、フロントに立つのは歌唱力に秀でたエフィだと一歩引いているディーナ、リードシンガーとしてステージを務めるうちに持ち前のスター性を花開かせる。望海さんが普通の女の子から自信にあふれたスターへの変貌をさなぎから蝶が羽ばたくかのように鮮やかに見せます。さらに、本当にやりたいことに気づいたとき、ディーナとしての人間力を一段階も二段階も上げてくる。それでいて母親や仲間を思う気持ちの強さなど本質的なところはブレナイ。真の美しさを魅せる望海ディーナです。
劇中、もっともドラマティックな道を歩むのはエフィ。シンガーとしてのプライド、それは決して悪いものではない。譲れないもの、誰にも渡したくないもの、その思いをぶつける、作品を代表する楽曲「One Night Only」の絶唱をはじめとし村川さんの新境地を見た気がします。少し影のある声にも引き込まれます。Wキャストのシンガーソングライターでもある福原みほさんがどんなエフィとしてステージに立たれるのかも興味津々です。
もう一人のメンバー、ローレルを演じるのはsaraさん。グループの末っ子ローレルがどんどん大人になっていく過程がジェームズとの関係を通して描かれます。そして成長に伴って、ステージパフォーマンスも磨きがかかり魅力を増していく様子は誰の目にも明らか。新メンバーとなるミシェルのなかねかなさんは、加入時のいざこざを目にしたときの巻き込まれるのはまっぴらというドライなところから、やがてメンバーの一人として存在感を示す、それは劇中では短時間ながらしっかりと変化を体現。
夢を追うのは女性たちだけではありません。
白人が支配するメジャーな音楽業界、歌を武器にそれを変えてやる! カーティスがいよいよ仕掛けていこうというシーンでspiさん、岡田さん、駒田さん、ウェイン役の遠山裕介さんの4人の歌唱で始める『Steppin' to the Bad Side』のパフォーマンスのカッコよさはしびれます。売り込み戦略は正攻法ばかりでなく──。
左から)望海風斗 sara 村川絵梨 spi/撮影:吉原朱美
カーティスを演じるspiさんの求心力が印象的。クレバーなやり手マネージャー、野心をむき出しにする様は男性としても魅力にあふれる。ディーナとの出会いでかけた言葉、序盤から「バックコーラスはやらない」「ソウルがないと意味がない」と主張していたエフィやジェームズを切り捨てるという冷酷さ、後になって思えばすべてカーティスの筋書き通りにことが運んでいたのかもしれません。その時までは。そんな物語を支配するパワーを感じます。
スター歌手のジェームズを演じる岡田浩暉さんは歌いまくりの踊りまくりで、こんな岡田さん見たことない!の驚きすら与えます。パフォーマンスはエネルギッシュな一方で、スポットライトの中にいる華やかさと本当の自分との乖離、その虚しさや悲哀もにじませる芝居も人物像に奥行きを与えます。ジェームズを支えてきたマネージャー、マーティンには駒田一さん。同じ夢を抱いているものの、既存の常識を疑い壊していこうという新時代に向けて動くカーティスとの対比はくっきり。そしてなんと言っても駒田さんならではの情を感じさせる芝居がいい。 酸いも甘いも知り尽くしてきた年輪を感じさせるマーティンも作品のかなめです。内海啓貴さんは音楽への純粋な情熱に突き動かされるC.C.ホワイトを好演。若さを感じさせながらも、歌い出すとまったく引けを取らない強さがある。そこがC.C.の才能とリンクし、説得力を生み出します!
ほかにもソロシンガーやグループとしてショーシーンでの迫力ある歌唱やダンスを披露し、そうかと思えばディーナたちを囲むマスコミやテレビクルーなどにも扮する。時代の空気を作り出すアンサンブルのみなさんも大活躍です。
左から)sara 望海風斗 福原みほ なかねかな/撮影:岩村美佳
左から)sara 望海風斗 村川絵梨 なかねかな/撮影吉原朱美
そして、最後になりましたが度肝を抜かれたのが有村淳さん(宝塚歌劇団)による衣裳です。次々に形を変えていく早替わりの仕掛を施された衣裳は、思わず「うわぁ!!」と心の中で叫んでしまうほどの素晴らしさ。『ドリームガールズ』を象徴するようなマーメイドラインのドレスを纏った3人の姿には、「そう、これこれ」と大興奮でした。
盆の回転で変化していく位置関係(=人間関係)などシンプルな舞台上で色濃く浮き上がるのは夢に生かされる人間たち。楽曲のパワーも余すところなく表現し、骨太なドラマにも仕上げる。一人ひとりを丁寧に描いているからこそ、群像劇としての面白さもある。眞鍋さんの演出が冴えわたります。
この物語の終わりは夢の終わりではない。人生まだまだここからだ!そんな力強いエールをもらえるような『ドリームガールズ』。東京公演を皮切りに、大阪・梅田芸術劇場メインホール、福岡・博多座、愛知・御園座にて上演されます。おすすめです。
おけぴ取材班:chiaki(取材・文)監修:おけぴ管理人