PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『ラビット・ホール』開幕レポート

PARCO劇場にて上演中の『ラビット・ホール』。
2007年にピュリツァー賞を受賞、傷ついた心が再生に至る道筋を、家族間の日常的な会話を通して繊細に描いたデヴィッド・リンゼイ=アベアーによる傑作戯曲「ラビット・ホール」(Rabbit Hole)。家族の間の悲しみへの向き合い方、再生への道筋や時間のかけ方の差異といった繊細な心を描写した戯曲を、演出の藤田俊太郎さんのもと、言葉を十分に咀嚼し、身体や心に落とし込んだカンパニーが届ける。その身体や心もまた、ひとところに留まるものではないからこそ、そこで生まれる感情も“生もの”であり続ける。それを実感する舞台の様子と初日前会見のコメントをご紹介いたします。記事中、青字のコメントはおけぴ会員の皆様にお寄せいただいた感想です。

STORY
ニューヨーク郊外の関静な街に暮らす、妻ベッカと夫ハウイーのコーベット夫妻。
彼らの4歳の一人息子ダニーは、8か月前、飼い犬を追いかけて道路に飛び出し、交通事故で亡くなっていた。息子を忍びつつ前に進もうとするハウイーと、息子の思い出に触れることもできないベッカ。彼女は妹のイジーや母ナットの言動にもイライラし、深く傷つく。
そんなある日、ダニーの事故の車を運転していた高校生・ジェイソンから手紙が届く。
それを読んだベッカは…





◆社会派、会話劇、そんな言葉に躊躇っている方は是非、観劇をオススメしたいです。自分も初めは構えていたのですが、その場に居合わせたような不思議な感覚でした。物語に没入できたのは、5人の俳優陣の何かを伝えたい!という熱量のおかげだと思います。上質な舞台、観れて良かったです。主人公達のような経験はありませんが自分の過去に起きた出来事を思い出していました。何か、一石投じられた舞台でした。

◆なんでもないように見える会話を重ねていくと家族に起きたこと、それぞれの痛みが見えてくる。スリリングな演劇体験でした。お互いに理解し合えないかもしれないと思いながらも、今目の前にいる人と言葉を重ねていこうとする家族の物語には希望も見えました。

◆オーディエンスが飽きる間合いを想定し次々とショウアップを計算されたプログラムや、140文字に圧縮された文章の連なりに慣れ、それが現在のコミュニケーションだと思い込んでいる我々。しかし噛み合わず、飲み込めずとも、言葉を繰り返し丹念に交換していく営み=対話によってしか、やはり人は深く深く結び合うことは難しいのではないか。誰も脅かさない、無理に癒やしを押し付けない、静かでリアルな稀有なる会話劇。








◆事故死した幼児の喪失、というとても壮大で困難な問題からどう再生していくのか。逃れようのない哀しみから立ち直る為に必要なのは「時間」と「会話」に有るのだな、と気付かされてくれた重厚な会話劇でした。加害者の少年の邪気の無い純粋さ。自由奔放に振る舞い快活で歯に衣着せぬ性格の妹。主人公夫婦よりも若いふたり。そのふたりとの会話がトリガーになって展開して行く心模様と物語にグッと来ました。

◆耐え難い悲しみの中にいるとき、その苦しみを共有できるはずの夫婦や家族にすら心を閉じてしまうことがあるんだと心がしめつけられました。この演劇から受け取ったのは、取り返しのつかない不幸な出来事に遭遇したときも、わたしたちできることは、いま目の前にいる人とともに今を生きるしかできない…そんなメッセージです。

◆リアルすぎる会話劇で、お芝居を見ているというよりも、自分もその一人になったような気持ちになりました。絶望の日々から少しの希望が見えて本当に良かったと思いました。





“人間の器”とひと言で言っても、そこには悲しみ、怒り、恐れ、理性、衝動……いくつもの入れ物があり、そのキャパシティは人それぞれ。大丈夫/大丈夫じゃない の2つには収まることのない感情。そういった複雑な人間の心理を描く演劇は、とても分かりにくいように思われますが、そんなこともなく。 理性を保ち強そうに見えた人ですら、ふとした瞬間に崩れるような脆さを併せ持つ。日常の隣にある出来事に観ている側も気持ちがあちらに行ったり、こちらに行ったりと揺れます。

この作品に登場するのは、特別な誰かでないからこそずしりと響く悲しみ。象徴していると感じたのは劇中で登場人物が口にする「キツい」という台詞、確かに「キツい」。そこから時間と愛情と悲しみとやるせなさを共有することで、やがて見える光(その道のりは険しいものの)。その不確かさも含めてとても生々しい手触りのある観劇体験でした。 そしてベッカ、ハウイー、イジー、ジェイソン、ナットだけでなく、姿は見えないイジーのお腹の子の父親オーギーやベッカとハウイーの亡くなった息子ダニー、ベッカとイジーの兄アーサーの存在までもが心に刻まれる不思議。ぜひ劇場で味わってください。


【会見レポート】




仲の良さ、お稽古の充実が伝わるみなさんのやりとり


ベッカ:宮澤エマさん
私は2013年に初舞台を踏み、今年で丸10年になります。そのタイミングで舞台初主演を務められるということ、この作品に巡りあえたこと、素晴らしいカンパニーで初主演を務められることがどれだけしあわせなことかを日々感じています。

みなさんお気づきかと思いますが、ファミリーのように仲の良いカンパニーです。初共演の方もいらっしゃいますが、なんだか前世も一緒だったのかと思うほど(笑)。もちろん仲の良さだけではなくて、それぞれの魅力とスキルを惜しみなく注ぎ稽古を重ねてきたことを、誇りを持っています。そんな作品をこうして皆様のもとにお届けできることに対して、ワクワクしかないです。

あらすじを読むと、ものすごい悲劇だと思われるかと思いますが、悲劇を物語っているストーリーではなく、悲劇的なことが起こったのちにもなお懸命に生きようとする家族、そして加害者になってしまった青年の物語です。生きようとするからこその衝突やすれ違い、その向こう側にある分かち合い。それを体験していただける作品です。



ハウイー:成河さん
なんでしょうね。これはぜひみなさんと一緒に考えていきたいことですが、日本には本当に様々な演劇があります。それはもう世界が羨やむくらいに。様式性の高いものから非常に写実的な演劇まである中で、よく言われるのは写実的、いわゆるリアリズム演劇を日本人は不得意だということ。そこにチャレンジ作品にもなっています。

そのためにしゃべり言葉を、まるで大学のサークルかのようにみんなで時間をかけて研究してきました。そこから得たことは、しゃべり言葉から離れれば離れるほど、観客にとって演劇が身近に感じられなくなるということ。(それに抗うべく、観劇の)間口を広げたいという思いで努めてきました。その道のりは容易ではありませんでしたが、超一流のスタッフワークと、俳優のしゃべり言葉へかける労力、時間がかみ合ったときに、本当の会話劇になる。僕の中では“打倒ナショナルシアターライブ”、別に打倒する必要はないのですが(笑)。その一つの証明、足がかりになったのではないかと思っています。そしてそのような日常的な会話劇は、観客にとっても人生の支えになり、つらいときに寄り添ってくれる存在になりうる。この作品はそんな作品です。そのことをいろんな人に知ってもらいたいと思います。



イジー:土井ケイトさん
本稽古が始まる前から、みんなで会議のようにああだこうだと言いながら、言葉を一から見直してきました。私が、今、感じていることはそうやって作った舞台は生でないと成立しないということ。言葉にこだわった分、言葉(字面)に逃げられない。本当にその場で感じないとその言葉(台詞)をしゃべれない身体になってしまっています。そういう作品は稀有、このカンパニーは私の中では奇跡です。だからこそお客さんに「どう見えたのか」を伺いたい気持ちでいっぱいです。



ジェイソン:阿部顕嵐さん(Wキャスト)
本当に素敵な作品と素敵な方々に出会えてしあわせです。僕はWキャストなので、何度か客席からこの作品を見ていますが、そこで受け取った鈍くて重いような痛み、想いが自分の中で消化しきれないところがあります。何日もかけて消化していくというか。そんな風にずっと考え続けていく作品だと感じています。



ジェイソン:山﨑光さん(Wキャスト)
初日を迎えるということが本当に嬉しいです。僕はまだまだ未熟なのでこれからも改良していく必要があると自覚していますが、こんな素敵な方々と一緒にできてめちゃくちゃ嬉しいです! Wキャスト、それぞれのジェイソンを見ていただけたらと思います。



ナット:シルビア・グラブさん
みんなが言ってくださった通りです。我々はちっちゃな種から水を与え、風を、愛を与えてこの作品が成長する過程を愛情深く見守ってきました。スタッフ、キャスト、本当に素晴らしいです。最後、お客様をお迎えしてどうなるのか、早くそれを感じたい気持ちでいっぱいです。また、そこからさらに成長していく過程で、この作品がみなさんにどれだけ愛されるか、我々が愛し続けるか……そこもめちゃめちゃ楽しみです。早く明日にな~れ!


本作上演を熱望していたという演出:藤田俊太郎さんが語る作品の魅力。



演出:藤田俊太郎さん
まず戯曲がとても素晴らしい。その構造のみならず、喪失からの再生という話の内容そのものに惹かれたというのがスタート。そこから、言葉だけでなく、言葉の向こう側にあるもっと大きなものをどう伝えていくのか。稽古場で、このカンパニーで演劇の美しさについてありとあらゆる形でディスカッションできたことに意義を見出しています。演劇の形態、リアリズムについては、今、登壇している私たちだけでなくスタッフ、プランナー、プロデューサーといった作品に関わるすべての人がそのディスカッションに参加し、同等に意見を言い合えたからこそできた作品。それこそが、僕たちが作ったリアリズムの演劇だと思っています。



『ラビット・ホール』は25日までPARCO劇場にて、その後、あきた芸術劇場、キャナルシティ劇場、森ノ宮ピロティホールにて上演されます!
【公演情報】
PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『ラビット・ホール』
2023年4月9日(日) ~ 2023年4月25日(火)@PARCO劇場
2023年4⽉28日(金)@あきた芸術劇場ミルハス 中ホール
2023年5月4日(木)@キャナルシティ劇場
2023年5月13日(土) ・14日(日)@森ノ宮ピロティホール

作:デヴィッド・リンゼイ=アベアー
翻訳:小田島創志
演出:藤田俊太郎
出演:宮澤エマ 成河 土井ケイト 
阿部顕嵐/山﨑光(Wキャスト) シルビア・グラブ

公演HP

おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人

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