新国立劇場『楽園』豊原江理佳さんインタビュー



同時代を生きる日本の劇作家の書き下ろし新作を上演する新国立劇場のシリーズ企画「未来につなぐもの」。第3弾として上演されるのは作家・山田佳奈さんによる『楽園』。山田さんが描く “日本のどこかの島”を舞台に繰り広げられる、女たちの物語を演出家・眞鍋卓嗣さんが7名のキャストとともに舞台に立ち上げます。キャストのお一人、外部からの移住者「若い子」を演じる豊原江理佳さんのインタビューをお届けします。本作についてはもちろん、豊原さんが抜擢された実写版『リトル・マーメイド』のアリエル役(吹替版声優)についてなどたっぷりとお話を伺いました。



──最初に『楽園』の戯曲を読んだときの印象をお聞かせください。

『楽園』は、山田佳奈さんが実際に沖縄県の離島で取材されたことを題材に創作された架空の島の物語です。山田さんの目線で見たその土地に暮らす女性たちの群像劇でもあり、それと同時に今の日本が抱える問題も描き出しているという印象をもちました。

あらすじ
日本のどこかの島の拝所(うがみじょ)。年に一度の神事の日。折しも村長選挙と重なり、その演説が風に乗って聞こえている。
世話役の「おばさん」と「娘」(最近、嫁ぎ先から離婚して島に戻ってきた)が準備に明け暮れている。そこに「村長の娘」が加わって、あれこれと差配を始める。さらに外部からの移住者「若い子」が現れる。
準備が進むなか、「区長の嫁」が、神事の取材を希望するテレビ局の「東京の人」を連れてくるが、そのことが新たな火種となる。
そうこうするうちに、神職の「司さま」が登場。次々に準備の不手際を指摘し、一同、慌てふためいて準備を整え、なんとか神事が始まるのだが......。



──そこで豊原さんが演じられるのが「若い子」という役です。本作では登場人物は名前でなく立場がその呼び名となっています。

「役名:若い子」については面白いなと思いました。抽象的なようでいて、名前がないことでいつもとちがう想像力が刺激されるような。「若い子」はざっくりと言うと、都会から移住してきて島の人と結婚、その夫には連れ子がいるという状況に置かれています。そこから、最初は物事に対する自分の考えをしっかりともった人という人物像を思い浮かべました。ただ稽古で「こういうことを言うから、きっとこういう人なんだろう」という先入観を捨ててあらゆる可能性を探っていくことで、彼女のいろんな面を発見しています。まるで役を顕微鏡でのぞいて見ていくような感覚。それによって稽古序盤と今では役の捉え方もだいぶ変わってきています。

──稽古の中で新たに見えてきたものとは?

彼女の未熟さや弱さでしょうか。いろいろと見えているようで全然見えていなかったり、無意識のうちに外から聞いた意見を自分の意見にすり替えていたり。そういった不完全なところが人間らしさでもあり、この作品のテーマにもつながるところだと感じています。

──「不完全」というのは確かに作品のキーワードです。

私が器の大きな人だと思うのは、人はそれぞれ違うということを受け入れ、相手の価値観や正しさを認められる人。そこからも私が演じる「若い子」が正論をかざして、自分の価値観だけでしゃべってしまうところに彼女の幼さを感じます。

──ご自身と照らし合わせてみるといかがですか。

私は人と衝突するのが好きではなく、どちらかというと言葉を選んでコミュニケーションをはかるタイプなので、最初は「若い子」と自分自身にギャップを感じました。でもその奥にある心情を考えていくと似ている部分も出てきて。それによって少しずつ戯曲に書かれている台詞が自分の言葉になってきていると感じます。

これからもお稽古が進むとまた新しい解釈が生まれるかもしれませんし、まだまだ迷うこともありますが、それを経てはじめて私自身が「若い子」というひとりの人間として舞台に立てる。そのために眞鍋さんや共演者のみなさんと一緒にそれぞれの役や作品と日々向き合っています。



──稽古場はどんな雰囲気でしょうか。

すごいです! まず、このキャストのみなさんと一緒にお芝居ができることの幸せを毎日噛みしめています。戯曲、言葉への向き合い方、掘り下げ方が深く、小さな矛盾や疑問があればそれを流さない。“なんとなくしゃべらない人たち”の集まりです。私が特に刺激を受けるのが、長いキャリアがあるみなさんの“常に自分の芝居を疑う姿勢”です。当然のことなのかもしれませんが、ときにそれが疎かになってしまうことのある私はみなさんのお芝居を見て、もっと頑張ろうと思うんです。それは変なプレッシャーではなく、お芝居ってもっともっと可能性があるんだと思える、とても楽しい刺激です。

──眞鍋さんの演出を受けるのは、はじめてですか。

以前「W FACE(ダブルフェイス)」というミュージカルコンサートでご一緒したことがありましたが、演劇作品で演出を受けるのははじめてです。眞鍋さんは俳優の声に耳を傾けてくださいます。私たちの疑問やここを変えたいという意見に対して、まずは話を聞き、一度トライさせてくれる。そして俳優の思いと戯曲に描かれていることの両方を尊重にして的確にジャッジをされる。こんな言い方はおこがましいかもしれませんが、そのバランスが素晴らしいなと思います。

──山田さんの戯曲と眞鍋さんの演出、キャストのみなさんのお芝居でどんな『楽園』が立ち上がるのか楽しみです。ざっくりとした聞き方になってしまいますが、今の段階でどのような作品になりそうですか。

まだ断言はできませんが、私が今感じていることをお話すると。これまで携わってきた作品は愛や夢など、私たちが理想とする美しいものを描く作品、そこに向かっていく作品が多かったのですが、この作品は人間の情けないところや弱いところを生々しく描いています。そこで感じるのは、きっと誰もが自分でも嫌だなと思うようなところを抱えながら、それでも自分の正しさに向かって必死に生きているんだということ。みんな必死。でも、だからと言ってみんなが仲良く手を繋げるわけでもない……。そんな生きていくうえで心がチクッと痛むような人間のリアルを感じていただけるのではないかと思います。あと、本当の悪人はいないんじゃないかという気もしているんです。ハッピーエンドでもバッドエンドでもない、むしろ何も解決しないというところも山田さんが意識して書かれたことなのかなって。そしてそれが問題提起に繋がると。

──立場や年齢などが異なる登場人物、誰の視点に寄り添うかでも受け止め方は変わってきますよね。本番を拝見して自分が何を感じるのか、楽しみです。

しっかりと戯曲を体現できるように、がんばります!



──ここからは豊原さんご自身について伺います。同じ舞台芸術ですが、演劇とミュージカルを自在に行き来されていらっしゃいます。歌うことと(台詞を)しゃべること、豊原さんの中で意識の違いはありますか。

私の中ではどちらも“心を表現する”ということ。そこに違いはありません。もちろん技術的な違いはありますが、歌でもお芝居でも結局は役として自分の心がどう動くか、それをどう伝えるかだと思っています。

──パワフルで伸びやかな表現が印象的。そしてそれが作品を拝見するたびに磨き上げられているように感じます。

基礎となる技術的なトレーニングによって自由に表現できるようになったことと、経験を重ねることによって舞台で自分を開放できるようになったことが大きいと思います。その意味で、2020年に新国立劇場で上演された『ピーター&ザ・スターキャッチャー』も大きな転機になる作品でした。あの頃から、私自身が何をどう表現したいのか、自分のことがわかってきたような気がします。



──歌と台詞に境目がない、ご自身の中から溢れる思い“心”を表現する。お話を伺っていて頭に浮かんだのは、日本語吹替版声優として豊原さんが歌う映画『リトル・マーメイド』の楽曲「パート・オブ・ユア・ワールド」です。まさに歌と台詞がシームレスで、心地よく、ずっと聴いていたくなります。
(YouTube、その他でご視聴いただけます: 豊原江理佳 - パート・オブ・ユア・ワールド (From 『リトル・マーメイド』/日本語版)

ありがとうございます。アリエルは歌うようにしゃべるというト書きがあり、台詞も歌うようにということを意識してレコーディングしました。アリエル役を演じるハリー・ベイリーさんもそのような歌唱をされているので、日本語吹替版でもその良さをしっかりと引き継ぐことにこだわりをもって、チームのみなさんとともに取り組みました。

──その成果が見事に表れていました! 話が前後しますが、日本語版のアリエル役に決定した瞬間の映像も拝見しましたが、あのときの気持ちを、今、言語化するとしたら?

あの瞬間は、夢のような出来事にフワフワしていましたが、心の中ではじわじわと「やったー!ようやく掴んだんだ!」という思いがわいていました。本当にやりたかったんです! なので、決まったことを一度私自身が受け止めてからは「嬉しさに浮足立ってはいられない!」と気持ちを引き締め、地に足をつけて「一人でも多くの方にご覧いただきたい。そのためにしっかりとこの大役を務めよう」という思いでいっぱいでした。

──喜びとともに責任も感じられたのですね。また、お客様の前で本番を重ねていくという舞台作品の届け方と映画とでは違うところもありますが、その辺りはいかがですか。

映画の吹替ではレコーディングが終わると、編集などは専門の方にお任せする。自分の表現を人に委ねるということを経験しました。舞台とはちょっと違う形ですが、でも自分ができることを精一杯務めて、あとは信じて委ねるという映像には映像の“みんなで作っている感覚”があることを学びました。

──出来上がった作品をご自身でもお客様と同じ目線で観られるというのも違いですよね。

先日、サウンドトラックを聴かせていただきましたが、自分の曲になるとやはり「ここの音はこうなって」とか「自分の声はどうかな」とかいろいろと気になってしまい全然客観的に聴くことはできなかったんです。ちゃんと仕上げてくださっているものを聴いているのに(笑)。少し落ち着いてから映画を観て、自分がどういう気持ちになるのか、私自身もとても楽しみです。


──さて『楽園』で演じる「若い子」も、アリエルも、新しい世界へ飛び込んでいくキャラクターです。豊原さんもミュージカルや演劇、声優と様々なジャンルへ挑戦されていますが、新しい環境へ飛び込むとき大切にされるのは。

“勢い”かな(笑)。 考えすぎると恐怖心も芽生えますし、やめた方がいい理由を探してしまいがちなんです、私。だから思い立ったら気が変わる前に即、行動です!



──では、これから挑戦したいと心に秘めていることは。

こどもの頃から何歳までに何をして……という計画を立てるのが好きだったんです。でも、その通りになったことがあまりない!!(笑) 今の状況、『リトル・マーメイド』もそうですし、ミュージカル『ファンタスティックス』も『ピーター&ザ・スターキャッチャー』などこれまで出演した作品は、どれも思いもよらなかった素晴らしい出会いです。そして、『楽園』でこうしてまた新国立劇場の舞台に立てることも。そこから学んだのは、遠くにある何かのためにではなく、目の前にあることに向き合い、今を誠実に生きることが大切だということ。その結果、次の素敵な出会いに繋がるのだと思っています。私の場合は!


──最後に、『楽園』の魅力を豊原さんと同世代の方に伝えるとしたら、どんな言葉が浮かびますか。

インターネットやSNS、今は私たちの周りにたくさんの情報があふれています。そして、そこで見聞きしたことで自分が経験していなくても何かをわかった気になってしまう。そんなふうに偏った情報で正しさを論じてしまうというのは、私が演じる役もそうですし、現代社会の傾向でもあると感じます。でも、世の中にはこの作品で描かれるような島もあって、私たちとはまったく違う価値観で暮らしている人もたくさんいる。あと戯曲に向き合っていると、人間は誰もが完全ではない、自分も含めてそこを少し許してあげようと思えるんです。今いる場所では生きづらくても、どこから違う場所に行けば、そこが自分にとって居心地のいい場所かもしれない。世界は広いんだよ! いろんな価値観があるんだよ! この作品が、いろんな可能性を考えるきっかけになったら嬉しいです。

──ありがとうございます! 世代を超えて多くの方に響く素敵な言葉です。



【おまけ:新国立劇場での創作について】

──新国立劇場の稽古場では、バレエや演劇、オペラなど多様な芸術が生み出されています。2度目となる新国立劇場での創作について。

この環境にいると、ニューヨークでお芝居のクラスやダンスレッスン、ボイストレーニングなどを受けていたアメリカ留学時代のことを思い出します。ニューヨークにはパフォーミングアーツの大学が多くあり、そこを巡っているとバレエダンサーを目指している人、俳優を目指している人などがたくさんいたので、すごく懐かしくて! それもあって新国立劇場の稽古場に通うのはとっても楽しいです!!


【公演情報】
新国立劇場 2022/2023シーズン 演劇『楽園』
2023年6月8日(木)~25日(日)@新国立劇場 小劇場


作:山田佳奈
演出:眞鍋卓嗣
キャスト:豊原江理佳 土居志央梨 西尾まり 清水直子 深谷美歩 中原三千代 増子倭文江

https://www.nntt.jac.go.jp/play/blissful-land/

おけぴ取材班:chiaki(インタビュー・文・撮影)監修:おけぴ管理人

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