バレエ、そして舞台芸術の素晴らしさに触れていただきたい! これまでにも新国立劇場バレエ団が取り組んできた「こどものためのバレエ劇場」ですが、今年はひと味違います。エデュケーショナル・プログラム『白鳥の湖』と題し、マイムやストーリー展開、音楽などの解説を交えながら総合芸術としてのバレエに親しんでいただく企画がついにお目見え。オリジナル・プロダクションはバーミンガム・ロイヤル・バレエ「First Steps:Swan Lake」、先日まで全幕上演されていた『白鳥の湖』第三幕を中心に作品の、バレエの魅力を凝縮した、お子様はもちろん、初心者の大人の皆様にもお楽しみいただける公演です。
この公演で、オデット/オディール役を務める新国立劇場バレエ団プリンシパルの木村優里さん、指揮者の冨田実里さんの取材会の様子をレポートいたします。
【はじめに】
エデュケーショナル・プログラムは吉田都芸術監督が就任以来、意欲的に準備を進めてきた企画です。昨年の2月に「エデュケーショナル・プログラム vol.1ようこそ『シンデレラ』のお城へ!」が予定されていたのですが残念ながら中止となり、今回ようやく実現します。
バーミンガム・ロイヤル・バレエ「First Steps:Swan Lake」を日本向けにアレンジしたプログラムは、第三幕の踊りを中心に、ナレーターの俳優さんのリードで凝縮された『白鳥の湖』をお楽しみいただける内容となっています。
【取材会】
──エデュケーショナル・プログラムについて。冨田さん)エデュケーショナル・プログラムは、文字通り教育的な取り組みとなります。チーフプロデューサーの言葉を借りれば「10年後のお客様を育てること」、そのためにまず小さなお子さんでも楽しめるということが大切なポイントになります。その子たちが大人になったときにまたバレエを観に行きたいと思うようなひとつのきっかけになればと捉えています。
今回は『白鳥の湖』を題材としますが、全幕での上演は休憩も含め3時間ほどの公演です。それを、解説も含めて休憩なしの1時間の公演としてお届けします。魅力がギュギュッと濃縮された1時間になることでしょう。もしかしたら、これまで何度も『白鳥の湖』をご覧になっている方にとっても新たな発見があるかもしれません!
また、今回、生のオーケストラの演奏が入るというのがこれまでの「こどものためのバレエ劇場」と大きく違うところです。音楽や楽器の紹介もありますので、バレエ音楽がどう舞台と融合するのか、総合芸術としての『白鳥の湖』という世界を作り出すために様々な専門職、プロフェッショナルの仕事が結集しているということも伝わるかと思います。
実は、バーミンガム・ロイヤル・バレエに客演指揮に行った際に、「First Steps」シリーズを観客として拝見しています。そのときの演目は『コッペリア』。客席でこどもたちがわいわい騒いでいる中で演奏が始まり、ナレーターの方がそんなこどもたちをぐいぐい惹きつけ、巻き込んでいく、観客は自然にバレエの世界へ引き込まれ楽しんでいたことを覚えています。それを日本のお客様向けにアレンジした企画を実現できることは素晴らしいことだと思います。
──木村さんは、そこで『白鳥の湖』オデット/オディールを踊ります。木村さん)今、冨田さんのお話を伺っていて改めてとても充実したプログラムになると私自身も楽しみになりました。『白鳥の湖』は古典バレエの代表的な作品です。ただどうしても遠い世界の夢物語のように感じられるところもあります。でも、今回の台本を読むと、王子の心境をわかりやすく伝える仕掛けや、またそれを表現するためのマイムの解説など物語やキャラクターに親近感がわくような作りになっています。
──王子の心境がクリアーに伝わると物語への入り込み方が変わりますね。木村さん)もちろん私もしっかりと準備をしなければなりませんが、王子役のダンサーは、踊りも台詞もあるのでとても大変そうです(笑)。このプログラムを観た、感受性豊かなこどもたちがどんな反応をするのか楽しみです。
──お二人は、こどものころは『白鳥の湖』にどのような印象をもっていましたか?冨田さん)バレエ漫画の「SWAN-白鳥-」(有吉京子・作 集英社)で知りました!32回転グランフェッテも! その後、全幕バレエで『白鳥の湖』を観たときは「あ、これが“SWAN”で見たアレか!」と(笑)。
<耳寄り情報>実はバーミンガム~のオリジナルでは登場しないのですが、新国立劇場バレエ団バージョンにはオディールの32回転グランフェッテもあります!!
木村さん)こどものころは、まずは率直に身体全体を使って「鳥」「白鳥」を表現することが面白いと思いました。腕や指先のカーブによって白鳥の羽や首に見えてくるんです。動きに白鳥の羽の質感や感情までも落とし込まれていることも衝撃を受けました。また白鳥と黒鳥を同じダンサーが踊るということは技術的にも難しいことですので、この役を踊ることができるのは限られた人なのだろうと思っていました。
──こうして今は、その「白鳥」を踊るダンサーとして舞台に立っていらっしゃる。木村さんのオデット/オディールの姿を見て、バレエという表現の奥深さを知るお子さんもいるでしょうね。【バレエ音楽】
──冨田さんが感じるバレエ音楽の魅力、また指揮者としての醍醐味は。冨田さん)常日頃から申し上げていることですが「見える音楽と聴こえるバレエが共存すること」、それが一番素敵なところだと思っています。素晴らしいアーティスト、ダンサーはこのテンポが欲しい、このような音が欲しいということを踊りで見せてくれます。そんなダンサーの音楽性からインスピレーションを得て、それが私の音楽性を広げてくれます。そうやってダンサーの表現と共鳴する音を奏でることで、極論では目をつぶっていてもその情景やキャラクターの心情が伝わる、音にはその力があると信じています。そんなダンスと音がうまく融合することでバレエという総合芸術が作られるのです。
もうひとつ、優れたバレエ音楽は譜面を見ているだけでその情景が浮かびます。それを生み出した偉大な作曲家には畏敬の念を禁じえません。「チャイコフスキー先生こんなに素敵な作品を書いてくださってありがとうございます!」という思いです。そして譜面から得たエネルギーを音に変換していくということも私たちの大事な仕事です。
──木村さんには、本番中の指揮者の存在について伺いたいと思います。どのようなコミュニケーション、コンタクトをとっているのかお聞かせください。木村さん)生の舞台には、その日の全幕を通しての流れというものがあります。それはダンサーのコンディションによっても変わってくるのですが、その流れを作り出してくれるのが音楽だと感じています。冨田さんをはじめとする指揮者の方がダンサーの呼吸を感じてオーケストラを指揮する。その音楽に委ねるというか、乗っていくようなところもあります。お互いの呼吸が合ったときに、踊りと音楽の新しい化学反応が起きることも。それは踊っていて喜びを感じる瞬間でもあります。
冨田さん)その一体感を感じられるときは、私もしあわせを感じます!
──人間同士だからこそ生まれるもの、生だから感じられること。それもまた舞台芸術の素晴らしさです。ぜひお子さんにもそれを生で味わっていただきたいですね!【見どころ、聴きどころ】
──この公演に興味を持っている方、楽しみにされている方に、「ここが見どころだよ!」というところがあれば。冨田さん)見どころ、聴きどころは逃さずナレーターが教えてくれますので、みなさんは楽しかったら笑って、悲しかったら泣いて、ぜひ自然な反応を返してください。こうしなければという堅苦しさは捨てて、スポンジのような感受性でリラックスしてご覧ください。
木村さん)今回の公演の台本にあるナレーターからの“とある投げかけ”に対してこどもたちが何を、どう感じ、どんなリアクションをするのかというところに私自身も興味をもっています。
これまでの「こどものための~」でも、思いがけないところで笑いが起きたり、『白雪姫』を上演したときには、客席から「白雪姫~!!」という声援をいただいたこともあります。また、お手紙コーナーがあったときは、それぞれの感性で物語を受け止めた感想、こどもたちの純粋でユニークな感性から私が教えられることも多々ありました。冨田さんがおっしゃったように難しく構えることなく、素直に感じてください。
冨田さん)私たちも、ここ数年の間に無観客での上演などを経験し、お客様の存在、客席からの反応があることがどれだけありがたいことかを強く感じています。この公演でも、こどもはもちろんですが、大人のみなさんも自然に、率直に反応してください!お待ちしています。
【本物を体験】
演奏会でも取り上げられるほどの名曲ぞろいの『白鳥の湖』を奏でるオーケストラ編成は、“フルオケ”! 衣裳やセットも本公演と同じものを使用した上演となります。また、ホワイエでの衣裳展示も予定されているとのこと。全幕上演ではすべて稼働している衣裳たちですが、今回は舞台上では着用しない衣裳もあるために実現した貴重な展示! 細かな刺繍やキラキラの装飾などを近くで見られるチャンスです。こうして“本物”に触れることが豊かな感受性を育み、新たな興味を抱くきっかけになることでしょう。エデュケーショナル・プログラム『白鳥の湖』をお楽しみに!
2023年7月こどものためのバレエ劇場2023
エデュケーショナル・プログラム『白鳥の湖』告知映像|新国立劇場バレエ団
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人