音楽の悪魔と契約したヴァイオリニストの生涯を描くオリジナルミュージカル『CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~』。劇作家・藤沢文翁さんが東宝初の朗読劇として2012年にシアタークリエで上演した『CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~』が満を持してミュージカル化されたのが2022年のこと。あれから2年の時を経て再演される本作で、音楽の悪魔、アムドゥスキアス役の
中川晃教さん、ニコロ・パガニーニ役をWキャストで演じる
相葉裕樹さんと
木内健人さんの取材会が行われました。中川さん、相葉さんは初演から続投、木内さんは新パガニーニとしてご出演されます。
──中川さん、相葉さんは再演が決定した時の、木内さんは出演が決まった時のお気持ちからお聞かせください。中川さん)前回はオリジナルミュージカルを立ち上げるための力、瞬発力と持久力で言うと瞬発力、“若さの勢い”で取り組んだ初演でした。ただ、やはり瞬発力で乗り越えられるものには限りがあり、ここからはじっくりとその作品に向き合っていく持久力が問われると思っています。年齢的にも瞬発力より持久力にね(笑)。
アムドゥスキアス役については、悪魔というのは誰の心にも潜んでいるものと捉え、怖いだけでなくユーモアもある憎めない存在として物語の中に居ました。ひとつ筋の通った悪魔像であるこの役を、もう一度演じることができることを嬉しく思っています。
相葉さん)まず、朗読劇だった『CROSS ROAD』がミュージカル化される、その初演でパガニーニ役に抜擢していただいたこと、こうして再演でも同役を演じられることを光栄に思います。僕自身、この作品もパガニーニというキャラクターも大切に育てていきたいという思いをずっと持ち続けているので、2年という短いサイクルでの再演も嬉しいです。この2年間の経験を糧に、藤沢文翁さんの脚本をさらに読み解き、理解を深め、藤沢さんや今回の演出末永陽一さんが思い描く理想の形に近づけたいと思っています。
木内さん)出演が決まった時は、純粋に嬉しかったです。僕自身、いつか音楽家を演じてみたかったのですが、同時にそこには縁がないだろうとも思っていました。音楽的知識もあまりないので自分のなかで処理しきれないところも多々あると思いますが、みなさんのお力も借りながら体当たりでパガニーニに取り組みます!再演からの参加だからこその新鮮な気持ちで頑張りたいと思います。
──2022年のミュージカル版初演の手応えは。中川さん)満を持してのミュージカル化、そこには作者である藤沢文翁さんの“思いの種”がたくさん詰まっていました。初演では、その種を芽吹かせていく作業を重ねました。また、楽曲について言えば、朗読劇のころからの楽曲に加えてミュージカル化のために新たに追加された楽曲も数多くありました。それらの楽曲を並べた時、ミュージカル『CROSS ROAD』の屋台骨が見えてきました。そこにまず手応えを感じました。それをミュージカルに仕上げるのが僕らの仕事。
ちなみに音楽の村中さんとは以前からの知り合いでしたが、こうしてオリジナルミュージカルの創作現場で再会できたことにご縁を感じます。藤沢さんもそうですが、才能豊かなクリエイターであるとともにミュージカルに対してとても柔軟な方々だと感じました。
相葉さん)初演の時にまず感じたのは、いただいた楽曲が難曲ぞろいだということ。まず楽曲を自分のものにすることに時間と労力を費やしました。その上で、ミュージカル作品として成立させることに必死で取り組みました。稽古が進むにつれて、キャスト・スタッフの中に「この作品をしっかりとお客様に届ける」という確固たる意志、強いエネルギーが生まれていたのでこのカンパニーならいいものを届けられるだろうと感じていました。でも、オリジナル作品の初演ですから、お客様がどう受け止め、どう評価してくれるのだろうかという思いも持っていました。ですので、実感として手応えを掴んだのは、幕が開いて客席のお客様が物語に引き込まれていく様子を目の当たりにした時です。再演では、そこに初演の経験を踏まえて自分たちの意見も出し合って、前回以上に“伝わる作品”にしたいと思っています。
──木内さんは現時点で藤沢作品や『CROSS ROAD』についてどのような印象をお持ちですか。木内さん)藤沢さんの作品は、昨年の『スプーンの盾』を拝見しましたが、とても言葉を大切にされている方だという印象を受けました。もちろん朗読劇だからというのもあると思うのですが、『CROSS ROAD』の台本を読んだ時も実は同じことを感じたんです。また、物語の展開だけでなく、「こういうミュージカルを作りたい」という思い、藤沢さんの中でのミュージカルの定義が込められた台本だと思うんです。そこで提示されたものに対して、僕たち役者が新たな提示をしていけば面白くなると僕自身も期待しています。
──再演の演出については。中川さん)まだ稽古が始まっていないので、具体的な変更点は言えないのですが、今、再演に向けてクリエイターのみなさんが深めてくださっているとのことです。現時点でお話しできることはアムドゥスキアスの新曲があるということ。ナポレオンの妹エリザとの場面で1曲増えます。
──パガニーニを演じるお二人から見た中川晃教さんの印象は。相葉さん)アッキーさんに出会った頃は、「やっぱりこの方は天才なんだな」と思いました。天賦の才で、何でもできると。でも、お仕事をご一緒する中でわかったのは、その裏にはたゆまぬ努力があるということ。持って生まれたものももちろんあると思うのですが、実は血のにじむような、それこそ血反吐を吐くような努力をされている。それを知ったとき、アッキーさんがこんなに努力されているなら凡人の僕はもっともっと努力しないといけないと思いました。
中川さん)なんか嬉しい。
相葉さん)ミュージカルをやっていくからには、努力を続けないとお客様にもアッキーさんをはじめとする共演者のみなさんにも失礼にあたる。アッキーさんにもみなさんにも信頼される俳優になりたいと思っています。
中川さん)ばっち(相葉さん)との出会いは2010年の『SAMURAI 7』だよね。あの頃は「次の目標は大きなステージに立つこと。帝国劇場を目指したい」と話していて、その後、しっかりと実現させています。そのために重ねた努力がパガニーニ役からも伝わってきました。健人くんともいくつもの作品でご一緒してきました。近いところでは昨夏に『SHINE SHOW!』でも共演しましたね(含み笑)。
木内さん)アッキーさんは、いつも僕にちょっかいを出してくるんです、もうっ(笑)!
(気を取り直して)僕はアッキーさんのことを“なんでなんでマン”と呼んでいるんです。なんでそうなるの? なんでそうなの?と常に問う。僕はそれをすごく大事なことだと思っています。俳優は台本を100%信用し、同時に100%疑えと言われます。その言葉で最初に思い浮かぶのがアッキーさん。それを自然にやっているんです。だからこそ、“中川晃教先輩”は今ここにいらっしゃるんだなって、僕は思っています。
──初演の幕が上がるまで、観客の関心を集めたものの一つに超絶技巧と言われるパガニーニのヴァイオリン演奏をどのように表現するのかということがありました。演奏シーン誕生のいきさつは。相葉さん)僕はこの役を演じるためにヴァイオリンを弾く練習をして、基本のフォームやゆっくりとですが「きらきら星」を弾くぐらいの技術は身につけましたが、当然パガニーニのように演奏することはできません。僕自身も演奏シーンをどうやるのだろうと思っていたのですが、ある日、稽古場で文翁さんが「もうヴァイオリンを消してしまえばいいんじゃないか」と。文翁さんのひらめきで、ダンスで表現することになりました。劇中ではパガニーニの演奏に懸ける思いを、ダンスパフォーマンスで表現しました。
中川さん)パガニーニは悪魔的と称されるほどの演奏技術を持った音楽家、いわゆる「ヴィルトゥオーゾ」と呼ばれる人です。実は稽古場で「悪魔的な技術と言われるなら、悪魔が演奏すればいいんじゃない」という流れになりかけた時もあったんです。危なかった(笑)。それくらい演奏シーンの表現はギリギリまで考え続けていました。お客様もどうするんだろうと期待してくださっていたところでもあり、そこにダンスという文翁さんのアイデアでナルホドと唸らせる。さらにその横に悪魔が操るような動きをする、超絶技巧が内なる衝動なのか、操られているのか……聴覚(音楽)的にも視覚的にも、もちろん物語としてもパガニーニと悪魔の関係を示す藤沢演出の粋がそこにあると思います。物語、音楽、照明、そして演出がピタッとハマることで、演奏のシーンはとても完成度の高いシーンとなりました。
※ヴィルトゥオーゾ:優れた技巧や能力を持つ、きわめて高度な演奏技術をもつ演奏家──では最後に、こうして始動した『CROSS ROAD』再演。みなさんが、今、楽しみにされていることは。木内さん)僕、お稽古が大好きなんです。特に演出家のプランを共有する前の、俳優が独自で解釈して、その人の感性でアプローチして台本を読む本読みが好きです! 作り込みの度合いが人それぞれなのも楽しいんです。それを起点にして、稽古で紆余曲折を経て舞台上に上がるまで、そのすべてにワクワクします。今回、続投されるみなさんがどう臨まれるのか、初参加のキャストがどう食らいつくのかも含めてまずは稽古のスタートが楽しみです!
中川さん)歌も台詞も非常にボリュームのあるエンターテインメント性の高い作品ですが、そこからの問いかけはシンプルでもある。まさに『CROSS ROAD』、十字路というタイトル通り、誰にも訪れる“人生の十字路”で何と引き換えに何を手にするか。パガニーニという音楽家を通してそんな人生哲学を問うているような作品でもあるんです。再演ではお客様をどんな世界に誘えるのか。初演とはまた違う感覚もわき上がりそうなので、今回のメンバーで改めて作品を突き詰めていくことが楽しみです。もちろん新曲も楽しみですよ。
相葉さん)初演として一度完成させたものを、こうして短いスパンで改めて検証できることはとてもありがたいことです。まだまだ余白がある作品、それをどう埋めるのか、逆にそぎ落としてシンプルにしていくのか。文翁さんが立ち上げた世界を踏襲しながら、初演では演出助手として携わり作品を熟知されている末永さんとともに作品をより良くしていけたらと思います。そして作品の成長とともに、自分自身がパガニーニとしてどこまで到達できるのか、そこでどんな景色が見られるのかも楽しみです。
あと、実は……。『SAMURAI7』でのアッキーさんの歌声、今のような天から降り注ぐような天使の歌声とはまた違う、リミッターをかけない魂を込めたドーンとくるパワフルな歌声に衝撃を受けたんです。僕がこんなことを言うのもおこがましいのですが、アムドゥスキアスのすべての曲であの歌い方をしたら大変なことになると思うのですが、どこかであの表現を入れたら面白いんじゃないかと思うんです。単に、僕があの歌声を聴きたいというのもあるのですが(笑)。
中川さん)おこがましいなんてことはないよ! 確かに幅が出て面白いかもね。参考にするよ。そういうアイデアを共有できるのも再演の良さだよね。
木内さん)稽古がますます楽しみになってきました!
──こちらは再演の開幕がますます楽しみになりました! ワクワクするお話をありがとうございました。ひとりの音楽家の人生の十字路での出会い、選択の物語を通して届けられるのは──ミュージカル『CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~』再演の幕が上がるのは4月! 皆様、お楽しみに!
<中川晃教>
ヘアメイク:松本ミキ
スタイリスト:Kazu(TEN10)
<相葉裕樹>
ヘアメイク:成田幸代(&'s management)
スタイリスト:吉田ナオキ
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人