ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』観劇レポート

いよいよツアー公演が始まるミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』。原作は言わずと知れた荒木飛呂彦氏による大人気コミックシリーズ。テーマ、ストーリー、キャラクター、さらにはユニークでインパクトのある台詞回しと擬音の数々などが生み出す唯一無二の世界は、日本のみならず、世界中で熱狂的支持を集めています。その始まりの物語、第1部「ファントムブラッド」の初の舞台化、ミュージカル化がついに実現。演出は長谷川寧さん、音楽にはフランスを代表するミュージカル作曲家のドーヴ・アチアさん、共同作曲者としてロッド・ジャノワさん、脚本・歌詞に元吉庸泰さんを迎えたクリエイター陣、ジョナサン・ジョースター、通称“ジョジョ”役に松下優也さんと有澤樟太郎さん(Wキャスト)、宿命のライバル、ディオ・ブランドー役に宮野真守さんほか豪華キャストが揃いました。

<謎の石仮面>にまつわる、二人の青年の数奇な運命を追う冒険譚。本作では父子関係をより色濃く描き、生まれながらの持てる者と持たざる者という対照的な境遇が根底にある物語としての印象を強く残します。そんな二人、“ジョジョ”の痛みを勇気に変えて、一歩一歩、強く大きく成長する姿、好敵手ディオの選んだ道、そうせざるを得なかったディオの哀しみを紡ぐ人間ドラマは、“奇妙な物語”の中にある「実」を届けます。そんな3時間強、観客の心を捉えて離さない求心力のある新作ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』の公演レポートをお届けします。(Wキャストはジョナサン・ジョースター:松下優也さん、ウィル・A・ツェペリ:廣瀬友祐さん)
※以下、舞台の内容・演出に触れます



まず登場するのは一人の老人──彼は本作の語り部スピードワゴン。
19世紀のイギリス、古代メキシコ、客席に居ながらにして時空を超えた物語を旅するような観劇体験が始まります。

メディアを媒介して届く過去からの声、物語の発端となる13世紀メキシコでの<謎の石仮面>にまつわる出来事、そしてジョナサン・ジョースター通称“ジョジョ”とディオ・ブランドー、2人の青年の数奇な運命の物語の胎動を感じさせるオーバーチュア。足を大きく広げ膝を直角に曲げたスタイルで一糸乱れぬ動き、儀式を執り行うアステカの部族の肉体と声が生み出す迫力、雨の降る夜、馬車事故が起きたロンドン郊外の色彩、スピードワゴンが“ジョジョ”と出会った若き日の姿へと観客の目の前で時を遡る演出により観客は一気に〈“ジョジョ”の世界〉へ引き込まれます。



こうして始まる『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』、アンサンブルキャストとともにYOUNG DAISさん演じるスピードワゴンがラップで届ける疾走感あふれるナンバー「光と闇」は壮大な物語の幕開けにふさわしいオープニング!


【“ジョジョ”とディオの声】


続いて、後に出会う宿命のライバル、貴族階級の一人息子として父ジョースター卿の愛を受けて育った“ジョジョ”と商売に失敗し自堕落な生活の果てに病に倒れた父ダリオ・ブランドーと暮すディオ・ブランドー、生まれながらの持てる者と持たざる者、対照的な二人の生い立ちが語られます。そしてダリオがかつてジョースター卿の命を救ったことから、ダリオの死後、ディオはジョースター家に養子として迎え入れら、遂に二人は対面する。

序盤の二人は、“ジョジョ”を演じる松下優也さんは天真爛漫な声、ディオを演じる宮野真守さんもまたソロ曲「ディオ」では繊細で切ない歌声を聴かせます。この後の二人の声の変化が、この物語が冒険譚、成長物語であることを象徴します。また、対“ジョジョ”、対ジョースター卿で態度を変えるディオが自在に声色をも変える、その鮮やかな変化も彼の二面性をより強く印象づけます。そして、ともに歌手活動もするお二人ということもあり本作音楽のドーヴ・アチアさんのポップス、ロック調の楽曲との相性も良く、そこにキャラクター像、心情をも投影した歌唱はミュージカルである意義を十二分に感じさせます。


【父子の関係】



製作:東宝 ©荒木飛呂彦/集英社



製作:東宝 ©荒木飛呂彦/集英社

“ジョジョ”とディオ、それぞれの心に去来する父の姿が要所要所で描かれることで、本舞台では、二組の父子関係がより強調されます。「“本当の紳士”に」、父の教えを心の拠り所とする“ジョジョ”、まるで呪いのように父の声に縛られるディオ、こちらも対照的なシーンであり、受け継がれる血、断ち切りたい呪縛、それぞれの強い思いが本作の核を形成します。何度もこだまする“ダリオがディオを呼ぶ声”が、ディオの“ジョジョ”への執着の理由を観客の心に楔のように打ち込む。観客の耳からあの声が離れないように、ディオの心をも支配していたのでしょう。



製作:東宝 ©荒木飛呂彦/集英社

また、“ジョジョ”の師となるウィル・A・ツェペリもまた父を語り、やがて“ジョジョ”に師弟を超えた親子の情のようなものを抱く。“ジョジョ”に勇気を説き、未来を託すツェペリ。大切な人の思いをその身に引き受けて生きる、“ジョジョ”の強さの源がそこにあることを感じさせる心震えるシーンです。

演じる俳優たちも適材適所。別所哲也さんのスケールの大きな歌声、英国紳士としての揺るぎない誇りをもった声が帝国劇場に響き渡ります。冒頭、馬車事故のシーンでコング桑田さんの軽妙な芝居が見せるダリオの小悪党ぶり、地を這うような声で「ディオ」を呼ぶ声。それは産業革命の好景気のさなかに、そこから取り残された男の苦しみ、叫びのようでもあります。一方、<謎の石仮面>の秘密を知る者としての強い使命感を抱きながらも、廣瀬さんのツェペリは洒落っ気十分。登場時のナンバーもおしゃれ! 波紋法を披露するシーンは、波紋を表現するアンサンブルキャストを従えたショーアップされたナンバーとして届けられます(カエル!!)。


【一途な愛】



製作:東宝 ©荒木飛呂彦/集英社

ジョナサンの想い人エリナ・ペンドルトンを演じる清水美依紗さんの情感豊かな歌唱シーンでは、劇場空間全体をエリナの愛が満たします。エリナと“ジョジョ”の互いに惹かれ合う思いを歌う「淡い時間」は、寄せては返す波のようなメロディも美しい名デュエット。幼き日の淡い恋の二人の伸びやかでキラキラした声も、再会の時の互いに少し大人になった二人の互いを包み込むような優しい声もどちらも魅力的♪ エリナの愛、そしてエリナへの愛も“ジョジョ”を強くするのです。そして傷ついた“ジョジョ”をエリナが看護する場面の、あの甘やかな響きがあってこそ、スピードワゴンのあの名台詞が生まれるのです。皆様、ご期待くださいませ!

また、“ジョジョ”の親友、愛犬のダニーはパペット(操るのは工藤広夢さん)で登場します。しなやかな動き、危険を察する能力の高さ、賢き愛犬が舞台上に存在します。“ジョジョ”がディオへの不信感を募らせた時、弱気な自分も包み隠さずさらけ出せるのはやはりダニーが親友だから。それだけにダニーを失うシーンは、“ジョジョ”が受けた衝撃を可視化するかのような壮絶な演出に。

そして“ジョジョ”にきらめきや安らぎ与えてくれるエリナとダニー、ディオはことごとく奪っていくのです。


【光る職人芸】



製作:東宝 ©荒木飛呂彦/集英社



製作:東宝 ©荒木飛呂彦/集英社

ロンドンの貧民街・食屍鬼街(オウガーストリート)の人々を演じる俳優も各々の強みをいかんなく発揮。“ジョジョ”の高潔な魂に触れ、貧民街の悪党から“ジョジョ”の仲間となるスピードワゴンを演じるYOUNG DAISさんは、台詞回しに情に厚い人柄を感じさせ、一方で語り部として俯瞰した視点の時は落ち着いた語り口に切り替えます。生きた言葉で物語るラップは作品に疾走感を与え、生き証人が語る言葉としての体温を感じさせます。ディオの配下となる毒薬の密売人ワンチェンの島田惇平さんは高い身体能力で緩急をつけながら暗躍し(2幕冒頭は大きな見どころ!)、河内大和さんは遠目からでもわかる眼光の鋭さで切り裂きジャックに“ディオに選ばれるべくして選ばれた男”としての説得力を持たせます。また、河内さんはジョースター家と親密なアーチャー警部も演じますが、両者の演じ分けも見事です。


【芝居する音・音楽】


劇場に入ると、舞台左右壁面の紗幕の向こうにスタンバイするバンドメンバー(アレンジメント・バンドマスターは蔡忠浩さん)が見えます。開演前のチューニングでは、オーケストラのそれとはまた違う音色にまだ見ぬ世界への期待が高まります。劇中では、音が“ジョジョ”ならではのユニークな擬音の表現を担うという仕掛けが! ほかにも高鳴る鼓動を刻むビートや張り詰めた緊張感、芝居と一体となった音の表現が楽しめます。効果的に鳴り響く「ギュイーン」の音、その瞬間に奏でられる音の、まさに音速で心に届く衝撃は劇場でこそ味わえる贅沢。

そしてここまでにもご紹介してきましたが、物語にドライブ感、グルーヴ感を生み出すドーヴ・アチアさんによる楽曲、観劇すると“ジョジョ”×アチアの親和性の高さは予感から確信へと変わります。舞台上に食屍鬼街の空気を作りだし、エリナの純粋さ、ツェペリの軽快さ、ダリオの呪縛、ジョースター卿のスケール感など、シーンやキャラクターの“色”を反映したナンバーは観客への浸透力抜群。高音を駆使した“ジョジョ”やディオのナンバーも若さや痛み、哀切を増幅させます。一方で、派手な音に彩られた躍動感があるからこそ、静寂の中で交わされる言葉の重みも感じます。まるで色彩豊かな世界から、モノトーンの世界へ変わるような瞬間の緊張感を生み出す音の効果も舞台の醍醐味です。

また、舞台セットもシンプルかつ雄弁。中央には回り盆、洞穴の入口のような円形の窓枠など存在感のある舞台セットながら、そこに人間が居て初めて景色が完成するような自由度もあるデザイン。それによって観客は古代メキシコ、ロンドン郊外、貴族の邸宅(ジョースター家)、ラグビー場、決戦の地ウインドナイツ・ロットへと自在に物語を旅することができるのです。


【名台詞を生きた言葉で、名シーンを生きた芝居に】


絶大な人気を誇る名台詞、名シーンがあるのも“ジョジョ”の大きな魅力。舞台ではどうなるのだろうか、そこにワクワクされている方もたくさんいらっしゃるでしょう。本作にも“あの台詞”“あのシーン”がしっかりと盛り込まれ、さすが名台詞と呼ばれるだけのことのあるインパクトに「キタ!」という独特の高揚感を覚えます。

またそれにとどまることなく、名台詞をその瞬間の真情の発露として表現し、しっかりと芝居の中で届ける俳優の力量にも唸ります。たくさんある名シーンの中から2つを紹介すると。

「二人の囚人が鉄格子の窓から外を眺めたとさ。
一人は泥を見た。一人は星を見た。」


ジョースター卿がメロディに乗せ“ジョジョ”とディオに投げかける、「牢獄から見るのは星か泥か」の問い。結果こそが大事、泥を見ただろうと答えるディオ、過程こそが大事、星を見ただろうと答える“ジョジョ”、それがこの先の二人の道を示す。物語を貫くエピソードとして観客の心の中に刻まれます。松下さんの“ジョジョ”の一点の曇りもない真っ直ぐな声、幼さや頼りなさの中にもしっかりと見て取れるジョースター家の誇りがまぶしい。そして“ジョジョ”がクリアに輝けば輝くほど、ディオの影はより一層濃くなっていくのです。ディオの立場に立ってみると、あの無邪気さは苛立つだろう。そう思わせる関係をしっかりと立ち上げるお二人です。



製作:東宝 ©荒木飛呂彦/集英社


「おれは人間をやめるぞ!ジョジョーーッ‼」

狂気と決別の強い意志をもつディオのこの台詞ですが、こんなにも痛切に響くとはというのが率直な感想です。“ジョジョ”の高潔さを前に、ディオがダリオから受け継ぐ血の呪縛から解かれるにはほかに道はなかったのではないか。宮野さんが舞台に立ち上げたディオ像を象徴するシーンです。

ほかにも、前半の“ジョジョ”とディオの青春、後半の死闘など語りどころ、見どころはまだまだたっぷりとございますが、それは見てのお楽しみということでご容赦くださいませ。

痛みを勇気に変えて誇り高く生きる人間讃歌、社会の歪が生んだ悲劇、<謎の石仮面>を巡る出会いと別れ、さまざまな角度から描かれる「生きる」ということ。最後には、正反対の方向に突っ走る“ジョジョ”とディオだが、その実、鏡写しのような二人の姿が目に焼き付く。ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』は世界中で愛される原作の強度に裏打ちされた、すそ野の広い作品となっています。

また最後になりましたが、冒頭でご紹介の通りジョナサン・ジョースターを有澤樟太郎さん、さらにウィル・A・ツェペリを東山義久さんがWキャストで演じられます。今回拝見したお二人とはまた持ち味の違う有澤さん、東山さんが作り出す“ジョジョ”の世界も楽しみです!
【今後の公演】
北海道公演(札幌文化芸術劇場hitaru 3月26日〜3月30日)
兵庫公演(兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール 4月9日〜4月14日)を予定。
4月13日(土)17:00兵庫公演、14日(日)12:00兵庫大千穐楽公演のLIVE配信を予定。
https://www.tohostage.com/jojo/stream.html


おけぴ取材班:chiaki(取材・文)監修:おけぴ管理人

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