2014/01/19 ピースピットVol.18『れみぜやん』稽古場レポ&末満健一さんインタビュー

おけぴ関西スタッフがおくる『カンサイ えんげき 探訪』第二弾!

今回は注目の演劇クリエイター・末満健一さん主宰のピースピットにクローズアップ!
第18回公演『れみぜやん』稽古場の模様をレポートいたします。


関西演劇界の実力派キャストが集結!

劇作家そして演出家、俳優として各方面から熱い注目を集める末満健一さん。
『有毒少年』『TRUMP』など、独特の世界観を持つ作品の数々に心をつかまれた演劇ファンも多いはず。
その創作の秘密の一端が覗けるかもしれない♪ と、うきうきと取材日を心待ちにしていたおけぴスタッフ、そこに飛び込んできたのは「ピースピット一時活動休止」というニュースでした……。
活動休止?なぜ?その真意は?と混乱しつつ向かった稽古場で見たのは、真摯に演劇創作に向き合う末満さん、そしてキャスト、スタッフの姿。
活動休止前ラスト作品にして “新たな挑戦” となる『れみぜやん』の稽古場レポート、末満さんご自身の言葉とあわせてお届けいたします!


演劇ユニット・ピースピット主宰の末満健一さん


もともと大阪を舞台にしたラジオドラマ用の企画だったという本作『れみぜやん』は、なんとあの文豪ヴィクトル・ユゴーの名作を、昭和30年代の大阪に移し再構築する、ピースピット版『レ・ミゼラブル』・・・そう、レミゼです!

一切れのパンを盗んだ罪で牢獄に繋がれたジャン・ヴァルジャンと、彼を追い続けるジャベール警部、そしてファンティーヌ、コゼット、エポニーヌ・・・。
魅力的な登場人物が紡ぎだす、あまりにも有名な物語を題材にした本作は、これまでのダークファンタジー色の強いピースピットワールドとは一味違う、真正面から“演劇”に向き合った力強い人間賛歌!


コゼットとエポニーヌ、そして琴子と笑美。
2人の少女の運命が絡みあい、そして…
(写真左から 辻裕美さん、橋爪未萠里さん、植田順平さん)

原作ものでありながら、大胆に置き換えられた設定、
同時にヴィクトル・ユゴーの原作への愛を感じる劇作。
ダークファンタジー色の強い作品で人気を集めてきたピースピットが、活動休止前最後となる作品で、これまでの作品とは少し違う新しい挑戦を選択したその理由とは…?


稽古取材後、末満さんにお話を伺いました。


「これまでに手がけた原作もの( 『ステーシーズ』『千年女優』 )は、できるだけ原作に忠実に作っていたんです。特に『千年女優』では元の映画(2002年に製作された今敏監督のアニメ作品)の流れをほとんど変えずに作りました。というのは、自分自身が原作ファンとして映画なりドラマなりを観た時に、結末が違っていたりすると嫌だなと思うので(笑)。でも今監督とお話をさせていただいた時に「なんでここまで忠実にやるの?自分だったら絶対に変える」と言われて・・・。
その言葉がずっと残っていて、それで今回レ・ミゼラブルという題材は原作を再構築するという手法に合うなと思ったんです。レミゼの世界を大阪に置き換えてプロットをたてた時にすごく面白くて。でも実際にやってみたら、難しかった(笑)。原作に忠実というのは、ある意味楽だったんだなと思いました。“昭和の時代性”、“大阪”、“レ・ミゼラブル”という縛りの中で好きにやってみようと自分で決めた企画ですが、やってみたらこんなに大変だったのかと(笑)。でもだからこそ “原作を変換して、分解して、解体して、再構築する” という作業は、強い作家性が試されるアプローチだなと思いました。今監督の言葉の真意がそこにあったかどうかはわからないですけれど」



その言葉のとおり、レ・ミゼラブルのストーリーを単純に大阪に移し替えただけではなく、ユゴーの描いた18世紀のフランスと、昭和30年代の大阪、架空のドヤ街・浪花坂とを自由に行き来しながら描かれる『れみぜやん』の世界。
「いま登場人物たちはどの世界にいるのか?」
観ているうちにわからなくなりそうな演劇的混乱が気持ちがいい!
こてこての大阪弁を操るジャン・ヴァルジャンとジャベール、そして “ヴィクトル・ユゴーの小説『レ・ミゼラブル』の本” まで存在する浪花坂の世界にぐいっと引きこまれていきます。

もちろん今回もピースピット名物の「リバースキャストシステム」を採用。
劇中で対の立場になる役を、2人の役者が交互に演じるという特殊なダブルキャストシステムは、観客の楽しみを2倍にしてくれる仕掛けです(そしてキャストへのプレッシャーも2倍?いやそれ以上!?)。


TRUTHバージョンで番場伴(=ジャン・ヴァルジャン)を演じる山浦徹さん


そして番場を執拗に追いかける刑事・佐平(石原正一さん)。
REVERSEバージョンでは2人の立場が反対に!


テナルディエ夫妻を思わせる黒蔦家夫妻を演じるのは
緒方晋さん(写真左)と美津乃あわさん(写真右)。



「なんじゃボケェ!」とすごい迫力の美津乃さん。
REVERSEバージョンではなんとファンティーヌにあたる千寿役を演じます。どちらも観たい!


ということは、TRUTHバージョンの千寿役・三谷恭子さんもREVERSEでは大暴れ!?
原作の持つ力強い人物造形を壊さずに、舞台の上で実際に呼吸をしているような登場人物たちの描写が非常に魅力的。
時代設定なども相当リアルに作りこんでいる印象ですが・・・?

「これまでは実際にありえないような登場人物や会話を散りばめることで作品にエンターテイメント性を持たせていましが、今回はそういうものを排除して小細工のない役者と役者のやりとりができたらいいなと思って作っています。ケレン味のある演出や、アクロバティックな会話で勝負していたところを、本当に単純に会話、セリフでみせていきたい。
出演者にもテキストにしっかり向き合ってほしくて、語尾から何からこまかく注文をつけています。関西の演劇界で長く活動されてきた方々は、これまでのキャリアでどうすればお客さんが笑ってくれるか、喜んでくれるかというそれぞれのやり方をお持ちだと思うんですけど、今回はその武器、得意ワザも使わずに演じてください、とお願いしています。ベテランの方は勢いや流れでそれなりにできてしまうんですよね。でも今回はテキストを一言一句おろそかにせず、やってほしいなと。だからみなさん苦戦されていると思います(笑)。
関西って良い意味でも悪い意味でもガラパゴス的。面白い役者もたくさんいるし、関西だけにとどめておくのはもったいないような人もいる。でもちょっとシビアになりきれないという環境があるかな。せっかく僕が東京や、商業演劇と小劇場とのボーダーのないところで活動できているので、そこで得たものをこういった現場で少しでもフィードバックしていきたいという思いがあります」


ベテランだけでなく、注目の若手キャストも出演。
こちらはエポニーヌにあたる笑美を演じる橋爪未萠里さん。
目が強い!


琴子(コゼット)を演じる辻裕美さんとの競演は必見です。
おふたりとも存在感が強い、そしてもちろんキュート!



今回の取材では拝見できませんでしたが、後半では学生たちのレジスタンス、
そして二人の少女の恋をガッツリと描くとのこと。
写真中央は大塚宣幸さん(アンジョルラス♪)


劇団Patchの竹下健人さんと大塚さんは
Reversedでマリウスとアンジョルラス(にあたる麻里尾と安生)を演じます。

この日の取材で拝見したのは、ジャン・ヴァルジャンとコゼット(にあたる番場と琴子)が出会うまでの前半部分。
ピースピットらしい演劇的遊びも随所に取り入れつつ、ユゴーと末満ワールドが絶妙に入り交じるレミゼストーリーが圧倒的密度で展開します。
これぞ名作の持つ力、そして劇作の力!
めちゃくちゃ気持ちのいい大阪弁(昭和のこてこて大阪弁は関西出身の方にも難しいとのこと)で喋りたおすレミゼキャラたちに、違和感ゼロ。いやむしろもっともっとこの世界に浸っていたい、そう思わせるほどに魅力的な浪花坂の人々。
演じるキャスト陣も関西小劇場界、名うての俳優たちが集まっています。


末満さんご自身も俳優として出演。
まさかあの役が、あの設定になるとは…(笑)
劇場でお確かめくださいませ!
最後に、やっぱり気になるピースピット活動休止の理由をお聞きしました。

「本当はもっとしれっと休むつもりだったんです(笑)。僕あと12年で50歳になるんですけど、演劇創作をいつまで続けられるかな、と考えた時に、50歳まではやれるだろうと思って、そうすると今ちょうど折り返し地点にいるな、と。これまでピースピットを12年やって来て、これからの12年を考えた時に、ハードワークでスケジュールに追われて作るのではなくて、もうちょっと落ち着いて創作していきたいなと思ったんですね。やっぱり一緒に作っている人たちも歳を取ってくるし、あまり歳のことばかり言いたくないですけど(笑)、それを考えたら1本1本大事に作りたいなと思いまして。で、この先新作を3本、旧作の再演を3本やって…となると、3~5年くらいはピースピットとしての公演は打てないなと思い、一応ここで一時活動休止という形になりました。演劇活動を休むわけではなくて、これから先への準備期間、ですね」

『れみぜやん』の企画を決めた時には、まだ活動休止については考えていなかったという末満さん。これという具体的なきっかけがあったわけではないとのことですが、これまで以上に1本1本の作品を大事に作っていくため、さらに演劇的高みを目指すための休止とのこと。
これで我々観客も一安心です!

…とはいっても、やはり区切りとなる公演『れみぜやん』。
レポでもお伝えしたとおり、活動休止前ラストにして新たなステップに進もうとする末満さん入魂の新作です!
上演時間も約3時間(休憩あり)とボリューミー!
いえ、これくらいなければレミゼの世界、そしてピースピットの世界が立ち上がりません。

「ユゴーの書いたレ・ミゼラブルって、すごく時代に沿ったものだったんです。だから今回のれみぜやんは今の時代に沿わせたいなと思っています。そこは原作のスピリッツを踏襲しているかな。原作を大事にしつつ要所要所はかなり変えてあって、ミュージカル版に“なんでやねん”と突っ込んでしまった方でも楽しめる、痒いところに手が届く芝居になっているんじゃないかな…と(笑)。
とにかく役者が本当に血の通ったセリフをしゃべって温度のある人間を演じる、シンプルで人間くさい芝居になったらいいなと思うんです。ユゴーさんが観ても喜んでもらえるような作品になるようにがんばります」


緻密に練られた戯曲と、そこに真正面からぶつかっていく俳優たちの真剣勝負。
ピースピット公演『れみぜやん』は1月23日から27日まで、大阪ABCホールにて上演。
お見逃しなく!!



【末満健一(すえみつ・けんいち)】
神戸の劇団「惑星ピスタチオ」で演劇活動を開始。劇団解散後、2002年に自ら作・演出を務める演劇ユニット「ピースピット」を結成。Dステ『TRUMP』などの商業舞台での演出やメディアでの脚本執筆など、精力的な活動を展開している。

【ピースピットとは?】
俳優・脚本家・演出家として、大阪・東京にてボーダーレスに活動を行う末満健一率いる演劇ユニット。作家性と娯楽性、カルト性と大衆性が絶妙なバランスで混在する作品で熱狂的な支持を集めている。主な作品:『有毒少年』『TRUMP』『RIP』など

<公演情報>
ピースピットVOL.18『れみぜやん』

2014年1月23日(木)~27日(月) 大阪ABCホール

「君らはまるで、コゼットとエポニーヌみたいや」
そうして彼女たちに手渡されたのは、一冊の本。
フランスの文豪ヴィクトル・ユゴーが書いた『レ・ミゼラブル』だった───。
昭和37年大阪。浪花坂というドヤ街を舞台に『レ・ミゼラブル』の物語をなぞらえるようにして、激動の時代を生きる人間たちの思惑が交錯していく。
不朽の名作を愛し、破壊し、また愛しながら突き進む、ピースピットの群像人間賛歌!

<出演>
山浦徹[化石オートバイ]reversed 石原正一[石原正一ショー]
三谷恭子[売込隊ビーム]reversed 美津乃あわ
緒方晋[劇団The Stone Age]reversed 末満健一[ピースピット]
橋爪未萠里[劇団赤鬼]reversed 辻裕美
竹下健人[劇団Patch]reversed 大塚宣幸[大阪バンガー帝国]
植田順平[悪い芝居]reversed Sun!![ミジンコターボ]
田村K-1 reversed 伊藤駿九郎[神戸大学自由劇場]

<スタッフ>
原作:ヴィクトル・ユゴー
脚本・演出:末満健一
舞台監督=久保克司[スタッフステーション]
音響=児島塁[Quantum Leap*]
照明=加藤直子[DASH COMPANY]
舞台美術=佐野泰広[CQ]
演出助手=山田翠
衣裳=植田昇明[kasane]
宣伝ヘアメイク=KOMAKI[kasane]
宣伝写真・記録映像=堀川高志[kutowansstudio]
宣伝デザイン・パンフレット=北村美沙子[ドライブ]
浪速坂造形=江崎武志[木鳥works]
制作=水口美佳[LOTUS]・寺井ゆうこ[LOTUS]
企画・制作=LOTUS
主催=ピースピット

<公演スケジュール>
23日(木) 19:00 T
24日(金) 19:00 R
25日(土) 14:00 T / 19:00 R
26日(日) 12:00 M / 17:00 R
27日(月) 17:00 T
※T=トゥルースキャスト R=リバースキャスト M=マーブルキャスト

公演情報はこちら
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おけぴ取材班:mamiko(撮影/文)  監修:おけぴ管理人

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