何だかこれまでのPatchとはちがう雰囲気…?
そのワケはインタビューで!
(写真左から:松井勇歩さん、三好大貴さん)
「大阪から日本を元気にしたい!」
演劇に軸足を置きながら、バラエティ豊かな活動を続ける若手俳優集団・劇団Patch。
そんな彼らが、8カ月連続で8人の劇作家と8本の演劇を上演する企画。
それが、
『Patch8番勝負!!(パッチパチバンショウブ)』です。
9月公演に登場するのは、企画内唯一の女性作家・演出家である伏兵コードの稲田真理さん。
人間の暗く、格好悪い部分を徹底的に暴き出す稲田作品と、元気でヤンチャなPatchメンバーがコラボレーション!?
密かに、この企画のおけぴスタッフ的・最注目カードだった組み合わせです。
「出演者は5人。初めて劇団内でのオーディションが行われた」
「オーディションの内容は、稲田さんとのマンツーマン面接1時間」
「Patchの公演とはいえ、作品の内容はいつもの稲田ワールド全開」
「稽古を見学した他のメンバーは、異口同音に、“やばい…”と言って帰っていく」
こんな情報を聞いた、おけぴスタッフ。これはもう稽古場に突撃するしかありません!
ひたすらに話し合い、追い詰め合う、緊迫した稽古場にて、Patchメンバーの松井勇歩さん&三好大貴さん、そして作・演出の稲田真理さんにお話を聞いてまいりました!
濃密すぎる稽古内容に、撮影しながらも息が苦しくなりました…。
作品の舞台は、海の近くの寂れた町。
かつてこの町を離れた主人公の男・越智(松井勇歩さん)が、ある想いを胸に抱き帰郷することから物語は始まります。
かつての同級生、山を見続ける町民、役場の職員…。
町で出会う人々と男との会話はどこまでもリアルで、緊迫しているようで、でもどこか不思議な滑稽さが。
重い設定の主人公を演じる松井勇歩さんと、その同級生を演じる三好大貴さんに、稽古場での率直な思いをお聞きしました。
稽古写真、そしておふたりとは別にお話を聞いた稲田さんのコメントと併せてお届けいたします!
おけぴ:出演メンバーが決まってから書き下ろされたという今回の台本。読んでまずどう思われましたか?松井:
正直に言うと…なんでこれをやらないけないんやろう、と思いました。
これまで表に出さないようにしてきた“自分”が、台本にそのまま書かれているような気がして。これって、自分が隠してきた部分やで? って(苦笑)。
三好:
僕は台本を読んで、まず最初に“地味やな”と思いました。
起承転結とか、劇的な展開とか、クライマックスとか、普通の芝居にあるものを全部無視している台本だったので。
でも稽古をしていくうちに、これまで知らなかった表現の良さや難しさがわかってきて、今では“この地味さがいい”と感じています。
お客さんにも僕らが演じる役の“地味な日常”を見てほしいなと思っています。
【稲田さんコメント】
劇団Patchは、イケメン…容姿の良い男性たちの集団ということで(笑)、お話を頂いて最初は正直「私にできるかな? 」と思いました。容姿の華やかさなどをあまり気にしていないのが、伏兵コードの作品ですので。
それに伏兵コードでは、まずやりたいテーマがあり、それに合う役者さんに声をかけているんです。今回はまずPatchの公演ということだけが決まっていたので、戸惑いはありましたね。
出演者が5人というのは、私が少人数の芝居しか書けないからです。人の心の機微を書きたいので、これ以上の人数は書けない。しかも今回は上演時間が60分ということで、キャスト5人とさせていただきました。
面談ではそれぞれの生い立ちや、劣等感・コンプレックスを持っていること、それから東北の震災のことやテレビで見るニュースについてどう思っているかなど、演劇のことだけではなくて、日常をどう生きていますか? ということについて質問しました。その上で「人間の心の暗い部分」に踏み込んで一緒に作品を作れそうだなと感じたメンバーに出演してもらうことになりました。
おけぴ:確かに派手な作品ではありませんが、かなり衝撃的な展開もありますし、特に松井さんが演じる役はいろいろな意味でヘヴィーだなと思います。なぜ自分がこの役に選ばれたのだと思いますか?松井:
なんで僕がこの役なのか、なんで僕のこの部分を(台本に)出したのか…。
まだ怖くて稲田さんに聞けていないんですよね。
俳優としても、人間としても乗り越えないといけないことなのかもしれないんですけど、なんで選ばれたのか…。難しいなあ。謎です。
【稲田さんコメント】
私が書きたいテーマというのは、弱者側の人間から見た世界や日常。人間の暗い部分に踏み込みたいと思っているんです。今回の出演者全員がそうだというわけではないんですけれど、やはりこれまで苦労してきた人の方がシンパシーを感じるんですよね。
今回面談させていただいたメンバー全員、出演していない方も含めて、みなさんいろいろな事情を抱えながらこれまでの人生を生きてきて、それが人格形成に影響して、いまの彼らになっているわけです。
その中でも特に(松井)勇歩くんはとてもよく人を見ているな、と感じました。自分以外の他者をよく見ている、しかもだいぶ距離をとって見ているなと。人と自分との距離をはかりながら、試行錯誤して生きてきたのだろうなと思ったんです。でも彼がPatchの中で演じる役割は、明るくて元気で、ヤンチャで…というものが多い。私自身も、伏兵コードをはじめる前は俳優として天真爛漫な役柄をいただくことが多かった。実は生い立ちも複雑で、重い体験もしてきたんですけど、悩みがないだろうと言われることが多くて、そのことにズレを感じていたんです。勇歩くんにも同じような何かを感じたので、ぜひ彼に出演してもらいたい! と思いました。
おけぴ:個人的には松井さんのキャスティングが一番の驚きでした。Patchメンバーの中でもどちらかというとノリが良くて元気、いわゆる“クラスのモテる男子! ”というイメージでしたので。松井:
出演が決まる前に稲田さんと1時間の面談があったんです。その時には「あ、自分は選ばれないな」と思いました。あまりにも稲田さんと話が合わなくて(笑)。
これまでの僕の人生のこととか、生い立ちとか、そういうことを聞かれて。境遇的には、僕と稲田さんの人生に共通するような部分もあったんですけど、でも、なんか合わない、と感じたんですよ。
僕はいつもテンションが高くて、元気で明るくて、というキャラクターだし、他の部分は出さないようにしていたので、稲田さんの作品に選ばれることはないだろう、と。
だから9月はスケジュールが空きそうだし、ほかのメンバーとなにか寸劇みたいなのをやりたい、と、マネージャーさんに企画を出そうとしていたくらいなんです。
三好:
僕も面談の時に「稲田さんのこと嫌いです」って言ったんですよ(笑)。
だから選ばれないやろうと思っていた。
面談の最初に、「嘘を付かないで欲しい」「言葉を選んで良いようにみせるような格好良さは、今回の芝居ではいらない。あなたの全部を見せて欲しい」と言われて。
普通は初対面の女性に、自分の内面やら過去やら見せられないじゃないですか! でも稲田さんも自分のことをいろいろと話してくれたんですよね。つらかった過去の経験とか。それでなんか僕も嬉しくなっちゃって、知らん間にPatchのメンバーにも話していないようなことを喋っていたんです。
その見透かされている感じ、そこまで言わされちゃっている自分が怖くなって、「稲田さん嫌いです」って言っちゃった(笑)。稲田さんは、めっちゃ笑ってはりましたけど。
今思うと逆にその感じが良かったのかもしれないです。
おけぴ:なんだかカウンセリングみたいですね。稽古中もそういう話し合いが行われているんですか?松井:
僕は出演者の中でも一番、話し合いの時間を作ってもらっていますね。なにかするたびに、“話し合い”(笑)。
僕、自分で自分のことを“人が好きな人間”だと思っていたんですよ。みんなと仲良くして、打ち解けるのも得意だし、人付き合いをするのが好きな人間だと。
でも、稲田さんからすると、全然そうじゃないらしいです。「人との間に壁を作っている、どこか醒めた目で人を見ている」と。それを聞いたメンバーも「ああ、そういうところあるかも」って。
…もうね、そう言われたのが衝撃的で!
稽古場でも、まだ出し切っていない、さらけ出していない、って言われ続けていて、「いやいや、出してますがな! 」って(笑)。
おけぴ:小手先だけの演技では許してもらえない、と。三好:
これまでPatchでやってきた演劇的な常識みたいなものは、全部省かれています。
舞台の上で演じるわけですから“虚構”なんですけど、なるべく“日常”に寄せたいと稲田さんがおっしゃって。
やっぱり僕達はどうしても、自分が格好良く見えるようにとか(笑)、お客さんに声が届くようにとか意識しちゃうんですけど、そういうのは今回いらないと。
だから今みんなめっちゃ声が小さい(笑)。劇場大きかったら聞こえへんな、というくらい。
この日は、松井さんの役を中山義紘さんが演じてみるという試みが。
演じる人が変わると、役から受ける印象もまた変わります。
稽古場でひたすら追い込まれる松井さん。
ノートにはびっしりと書き込みが!
三好:
最初は稲田さんの言う方法論が全然わからなくて、出演する5人全員が動揺しましたね。
竹下(健人さん)とか、これまでPatchの中ではめっちゃ“出来る方”だったんです。発声もいいし、演出家の求めることをぱっと出来るタイプだし。でも「そういうの全部やめて」って言われていて(笑)。あいつも今回はめちゃくちゃ苦労してますよ。
稽古をじっと見つめる竹下健人さん。
『破戒ランナー』で演じたのとは全くちがう役柄です!
松井:
稽古が終わるとみんな顔から生気がなくなっています。
僕ね、今日は12時間稽古なんですよ。午前中はずっと稲田さんとの“話し合い”(笑)。朝起きた時に、「稽古場、崩れへんかな」って思いましたね(笑)。
でも実際に稽古が始まると、あっという間に時間が経つんです。とにかく稽古時間の半分以上は“話し合い”ですね。
自分が越智(松井さんの役)だったらどうするか、と聞かれ
意見を述べる岩﨑真吾さん(写真右)。
全員が真剣な表情で話し合います。
ちなみに芝居している時間と話し合いの時間は、1対9くらい。
「勇歩くんの知らん勇歩くんを出してみるって感じかなあ」と三好さん。
「人間って単純な感情だけで動いているんじゃない、もっと複雑」
「ノートに書いて整理するなんて役者が家でやってくる前準備だから」
稲田さんとても穏やかな口調で話していますが、
かなり厳しい言葉も飛んでいます。
【稲田さんコメント】
これまで自分よりも年上の方と一緒に作品を作ることが多かったんです。劇作家としては賞をいただいたりしましたけれども、演出家としてはまだ未熟なので、先輩方に助けてもらいたいという無意識が作用していたのかもしれません。でも今回は10歳以上歳の離れた5人と作品作りをすることになって、私にとっても本当に良い経験になっています。5人に言っていることは全て自分に跳ね返ってくる、自分に言っているようなものだな、と思っています。
自分の劇作が「物語の全てがわかる、全てが明らかになる」というものではないと、前回の伏兵コードの公演で再認識したんです。それを踏まえて、いかに(出演者たちと)話し合って、いかに理解し合うか。それが本当に重要だと改めて感じています。
彼らはまだ若いですし、経験も少ない。知らないことが多いんですね。今回、演劇を作る上でこういう方法もあるのか、ということを初めて知って、考えるきっかけになるようなことがたくさんあったと思います。それは例えば “無意識”を意識してやることだったりとか。舞台は虚構なんですけど、虚構だからといって、人間の無意識や本能、作用をないがしろにして、舞台の上で完結している人物になってはいけないと私は思っているんです。今彼らもそれを理解して、日常で無意識に肌で感じていることや、自分が恥ずかしいと思っている部分を舞台の上でさらけ出すことの難しさを実感している。そしてそれを必死に確認しているところですね。三好:
こんなに長い時間、お互いの人間性について話しあったりとか、ダメ出しをしたりするのは初めての経験です。
台本上の役柄も演じる本人に寄せて書かれているので、なにを考えながら今のセリフを言ったのか、とか徹底的に話し合う。演じる人の心の持ちようがセリフに出るんじゃないか、とか。演技が良かったら良かったで、なんで良かったんだろうとか。本当にいろいろな角度から、全員の意見を時間をかけて聞いていくんですよね。
松井:
お客さんはお金を出して、僕たちが人に見せたくないと思っている部分を見ることになると思います。
そうさせることが出来たら、今回の挑戦は成功なんですよね。
三好:
ぜんぜん格好良くない(笑)。ダサくて、くだらなくて、汚くて…。でも人間ってそういうものやな、ってこの前、話し合っていたんです。
特に今回の台本にある、松井が演じる越智のような状況にある人はそうですよね。でも逆にそれがめちゃくちゃ人間的なんかな、と。それを見てほしい、見せたい。でもなかなか“見せたくないもの”を超えるのが難しいんです。
おけぴ:「格好良くて、楽しくて、元気なPatch!」とは、ぜんぜん違うものが見られるかもしれない、と。
どんな舞台になるのか、期待と不安でいっぱいの観客にメッセージをいただけますか。松井:
見に来てください! というよりも、見に来ないと損するよなあ、と思っています。Patchでこういう芝居をすることは滅多にないと思うので。今回見に来ないと、一生見れないかもしれません。
三好:
自分以外の出演メンバーを見ていても、今回の稽古場でものすごく成長していると思います。役者としても、人間としても底上げされているというか。自分で言うのもなんですけれど(笑)。
稽古場に見学に来たほかのメンバーも「やばい…」と言って、危機感を持って帰って行きました。
役者としてこれまでとは全くちがうスキルを身につけた僕らを見に来て欲しいですね。
劇団Patch『Patch8番勝負 其の五「逆さの鳥」』は、9月29日(月)・30日(火)それぞれ19時半から森ノ宮ピロティホールサブホールにて上演されます。
約60分の作品上演の後、出演者5人によるアフタートークも。こちらもPatchファンの方だけでなく、演劇ファンの方も見逃せない内容になりそうです。
劇団Patch? 若い男の子のアイドルグループ? なんて思っている方にこそ、観劇&衝撃を受けていただきたい本作。
ぜひ劇場で、頭をガツーン! と一発、やられてきちゃってくださいませ!!
おけぴ取材班:mamiko(文/撮影) 監修:おけぴ管理人