2008年に新国立劇場に書き下ろされ、翌2009年の第53回岸田國士戯曲賞を受賞、2012年に同じ座組で再演された蓬莱竜太さん作の『まほろば』。
今回は、梅田芸術劇場の企画・制作で、キャスト、演出を一新し上演! 演出を手掛けるのは劇団チョコレートケーキの日澤雄介さんです
日澤雄介さん(演出)、高橋惠子さん、早霧せいなさん
初日を前に行われた会見の様子を、舞台写真を交えて(1幕1場)レポートいたします。
【旧世代の象徴的な存在ヒロコの心象が物語を通して徐々に変化し、子供たちの生き方を受け入れ、また自分も変わろうとする女のたくましさが今回のテーマです】(公演資料より)
日澤:初演から10年、再演から8年。新国立劇場で上演された初演が名作と呼ばれている『まほろば』で新しいことにチャレンジする。台本は同じですが、今までの作品のイメージの、あえて逆をいくキャスティングを目指しました。気品のある高橋惠子さんにヒロコさんを演じてもらい、華のあるカッコイイ早霧せいなさんにガサツでだらしないミドリさんを演じていただく。これまで聞いたことのないような高橋さんの声、早霧さんのコメディエンヌっぷりにご期待ください。祖母・タマエ(三田和代さん)と母・ヒロコ(高橋惠子さん)/ ヒロコは祭りの夜、宴会準備に忙しくし、苛立っている。三田さんは初演で母・ヒロコを演じていらっしゃいましたね。
──高橋さんは主役のヒロコ役ということですが。高橋:この作品に主役はないんです。一人ひとりにドラマがあって、それがちゃんと描かれているので誰か一人が主役ということではない。稽古に入って、それを感じました。家族それぞれの立場がちゃんと描かれている、そこが面白いところです。
その中で私が演じるのは母ヒロコ。今までやったことのない役なので、新しい面をご覧いただければと思っています。ちょうど平成最後の月に、時代が変わっても日本人として大事にしていきたいものが描かれている作品ができることを嬉しく思います。
でも、まぁとにかく可笑しいですよ。早霧さんのあんな姿が見られるなんて(笑)。早霧:いえいえ、そのお言葉、そのままお返しします(笑)。私は、一回一回のその瞬間の全てが勉強です。物語の中で、この家族に起きる事件、まぁ事件というか… 東京に出て、仕事を理由に結婚もしない長女ミドリ。ひどい二日酔いで登場。
たしかに…だらしない(笑)。
高橋:まぁ本当に、次から次にね(笑)。早霧:そこで生まれる温かいものがお客さんに伝わったらいいなと思います。そして、『まほろば』の舞台は長崎、長崎県出身としてはとても誇りに思います。方言も飛び出しますしね。──初ストレート・プレイ、台詞劇はいかがですか。早霧:初ストプレ、確かにそうなんですけど。やっぱり恥ずかしいじゃないですか。「私、初ストプレです!!」と見えたら(笑)。お客様には、関係ないことですし、作品に集中してご覧いただければと思います。
構えることなく『まほろば』という作品の中で、思い切り生きようと思っています。高橋さんも、三田(和代)さんも、(中村)ゆりちゃんも私も、ここまでの歩んできた経歴がまったく違う人が集まったというのが面白いですよね。稽古場で高橋さんをはじめとするキャストのみなさんの声を聞き、その中でお芝居できていることがすごく楽しいです。台詞劇を楽しんでいます。この座組で、初ストプレということをありがたいと思います。起きているのかな、寝てしまったのかな。縁側に佇むおばあちゃん。でも、すべて見て聞いているような…
次女キョウコはその昔、父親不明の娘ユリアを出産し、今もこの家に住みついている。
見知らぬ子供・マオ。どうやらキョウコがマオの父親と付き合っているらしい…。まったく頭が痛い…(byヒロコ)
高橋:私も三田さんという大先輩の演技を目の当たりにして、とても勉強になっています。ゆりさんのキョウコのあの感じもね。本当に、みんながすごく生き生きとその場で輝いているので、そこを楽しんでご覧いただきたいと思います。早霧:誰一人逃げないキャラクターたち。何事にも、自分の言葉で立ち向かっていく家族の話なんです。そこから私自身も勇気をもらっています。高橋:「まほろば」って「素晴らしい場所」という意味もあるんですよね。変に気を使い過ぎたり、遠慮し過ぎたりしない、本当に言いたいことを言い合って、それでもOKという場所。家族って、いいなと思います。結婚(出産)に向けラスト・チャンスの恋人・清水と別れたというミドリ、藤木家の末路を憂うヒロコ…
「お願い、別れんで!そして子供ば産んで!」 その後、ミドリから衝撃の告白が…
──稽古場の様子は。高橋:今回女性ばかりで大変だったと思います、日澤さんが(笑)。日澤:とても華やかな稽古場でした。高橋:でも、私、日澤さんが、「強い女性ばかりで…」と仰っていると小耳にはさみましたよ(笑)。日澤:お強かったですよ!!それこそ言いたいことをどんどん言う。それはいい稽古場には必要なことなのでありがたかったですが。もう、みんなが演出家みたいでしたね。高橋:その中で、これは生かす、これはなしとジャッジしてくださってね。──改めて見どころは。高橋:休憩なしの2時間、目の前で繰り広げられる出来事を観逃さないでくださいね。日澤:とにかく考えている暇がないくらいいろんなことが起こるんです。それに振り回されながらも必死に生きている人間、女性のおかしみや温かみが見どころになるでしょう。地方の名家、藤木家。緑に囲まれた立派な日本家屋を舞台に繰り広げられる家族の物語。
──今回の演出ポイントは。日澤:新演出では、ヒロコさんを真ん中におきました。(初演は長女のミドリの視点から物語が描かれました) 「家」を象徴的に使い、家にしがみついている。もっと言えば、古いなにかに囚われている。それでも一生懸命生きている女性像を色濃く出していければ新旧世代にわたる「女性の在り方」が浮かび上がると考えました。祖母・タマエさんから母・ヒロコさん、そこから長女・ミドリさんへ、世代を超えてバトンを渡していくということを大切に演出しました。【ストーリー】
-じゃあ教えて下さいよ、揃いも揃って殿方と上手くいかん理由を!- とある田舎町、祭囃子が聞こえる中、宴会の準備をする母・ヒロコ(高橋惠子)。長女・ミドリ(早霧せいな)は東京に出ていき仕事を理由に結婚をせず、次女・キョウコ(中村ゆり)は父親不明の娘・ユリア(生越千晴)を出産し今もこの家に住み着いている。かつて地元の名家として知られた藤木家は男の跡取りもなく、ヒロコは娘たちに苛立っていた。
そんなある日ミドリが突然帰ってくる。さらにユリアまでもが前触れもなく現れる。祖母・タマエ(三田和代)、見知らぬ近所の子供・マオ(安生悠璃菜・八代田悠花)も加わり、女たちの赤裸々な会話が進む中、ミドリから衝撃的な告白が―
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文) 監修:おけぴ管理人