こまつ座第129回公演『日の浦姫物語』通し稽古レポート~この物語の正体は……~

★9/22スペシャルトークショー追加開催決定★
9月22日(日)13時公演後:鵜山仁・朝海ひかる・平埜生成・他

詳細はレポ最後に!




 初演は1978年、井上ひさしさんが文学座と女優・杉村春子さんのために書き下ろした『日の浦姫物語』。グレゴリオ聖歌の制定者である教皇グレゴリウス一世の聖人伝をもとに、舞台を日本に置き換えて書き上げた本作。“近親相姦”をキーワードに数奇な運命をたどる日の浦姫を15歳から53歳まで一人の女性が演じきる、もうひとつの“女の一生”の物語とも言えるのです。※1





 こうやって文章で読むと、さぞかしドロドロとした陰鬱な展開かと思われるかもしれませんが、そこは井上流!肩肘張る必要はございません。ユーモア満載、歌に踊りといった音楽劇的要素も相まって、物語の力に揺られてあっという間に思いもよらないところまでたどり着くような印象です。演出は鵜山仁さん。文学座所属の鵜山さんが満を持して2019年、「井上ひさしメモリアル10」(井上ひさし没後10年目を記念した企画)の1作品として立ち上げる『日の浦姫物語』。今回、この日の浦姫という大役に挑むのは朝海ひかるさん、そして日の浦姫の兄と、息子の二役には平埜生成さんという顔合わせもワクワクします。




 通し稽古を前にした稽古場には独特の緊張感と活気が漂います。それぞれが身体をほぐしたり、稽古着を整えたり、小道具の確認をしたり……そこに響き渡る声と三味線の音色。ひときわ大きなよく通る声の主は辻萬長さん、稽古場の片隅で三味線を弾くのは毬谷友子さん。このお二人の語りで物語は始まり、進むのです。さらにそれだけでなく物語の登場人物にも扮する大活躍のお二人はほぼ出ずっぱり!辻さん毬谷さんのパワー、凄まじいです。※2




 まず、舞台に登場するのは薄汚い説教聖(辻萬長さん)と赤子を背負った三味線弾きの女(毬谷友子さん)。彼らは人々に話を聞かせ、その晩の木賃宿の宿代を恵んでもらう旅をしている。彼らが語るのが「日の浦姫物語」。

 説教聖が話しだすとそこにいる人々が次第に物語に惹きつけられていく。名調子、張りのある声に絶妙な合いの手となる三味線の音、芝居の中だけでなく観ているこちらも気づけばこれから始まる「日の浦姫物語」にワクワクドキドキ。まるで浪曲のような義太夫節のような節回しには不思議なくらいテンションが上がります。で、続きはどうなるの!えーっ!と笑ったり嘆いたり涙したりを繰り返しながら、物語は思いもよらぬ結末へ。

 こうして始まった、日の浦姫が辿る数奇な運命をテンポよく軽やかに、そしてドラマティックに描くこまつ座『日の浦姫物語』通し稽古の様子をレポートいたします。

 時は平安時代、奥州・岩城国の米田庄。母の命と引き換えに双子の稲若と日の浦が生まれた。15年の年月が経ち、その地を治める父・藤原成親が亡くなった日に、仲の良い兄と妹は禁忌を犯し、日の浦は兄の子を宿す。そしてその一度の過ちが兄妹の永遠の別れを招く。




 日の浦姫を演じる朝海ひかるさん、登場シーンでは少女の無邪気さと美しさを持ちあわせた15歳の姫そのものです。凛々しくもまだ幼さの残る稲若は平埜生成さん。兄妹の間には禁じられた恋に思い悩むというシリアスさはなく、麝香のかおりに誘われて……ふわりと兄妹愛と性愛の一線を越えてしまったというどちらかというとライトな展開。でも、どこか日の浦が誘っているよね……という気も。そんな秘められた女の妖しさもチラリと感じさせ、それがその後の日の浦の波乱の人生を予感させます。



 ここでご紹介したいのが両親なきこの兄妹を支える叔父・宗親、演じるのはたかお鷹さん。二人から事実を打ち明けられ、次第にキャパシティーオーバーになっていく宗親のコミカルさに思わず笑いが。でも、二人のことと米田庄を考えての差配は的確!

 兄の稲若は都へ上がる途中で落命、叔父叔母の支えで美しい男児を出産した日の浦だがその子を待ち受けていたのは……。この時点でかなり波乱の展開ですが、さらに物語は続くのです。




 芝居のほうはというと、一転、ここでの宗親は厳しく強い口調で日の浦を諭します。そして生まれた男児は鏡と手紙とともに小舟に乗せられ海へ流されるのです。いわゆる子別れの場面となるこちらはたっぷりと見せる芝居。朝海さん演じる日の浦から無邪気さは消え、母の情愛と強さをもつ一人の女性へと変貌を遂げています。ちなみにここは音楽もどこか大衆演劇調のやや大仰な盛り上がりで幕。そうそう、この後続く第二幕も含めて本作には緩急の効いた様々なタイプの芝居が登場するのも見どころです。





 18年の月日が流れ。颯爽と登場するのは日本昔話に登場しそうな魚名(うおな)太郎!腰蓑を付けた浦島太郎のような その青年こそ18歳に成長した日の浦の息子なのです。「人に優しく生きよ」と自らが“罪の子”であることを添えられた手紙で知り、その上で償いの人生を生きようとする魚名を平埜さんがイキイキと演じます。そして魚名は自分自身を探す旅に出ます。旅の途中、横暴な金勢資永(かなせのすけなが)に苦しめられている米田庄とその領主となった日の浦のピンチを救う魚名。若く凛々しく心優しい、過酷な宿命を背負って生まれたけれどどこまでも好男子な魚名なのです。こうして母子と知らずに再会を果たす二人は……。この先は、ぜひ劇場で。


 鵜山版『日の浦姫物語』のもうひとつの魅力は音楽。宇野誠一郎さんの音楽を吉田さとるさんが大胆にアレンジした劇中音楽の一部はこちら(YouTubeこまつ座チャンネル)で公開されていますが聴いてビックリ“ロック調”!平安絵巻にロック?!これがハマるんです。芝居のアンサンブルのみならず、文学座の実力派のみなさんが歌い踊るシーンもお楽しみに!もちろん平埜さんもキレキレダンスです。また、朝海さんと毬谷さんシーンではチラッと♪すみれの花~もあるなど、ちょっとしたくすぐりやもっともっと滑稽なダジャレや「え!そこで笑いに振り切れるのですか!」という展開も。そこも芸達者なみなさんの芝居でガッツリ笑える仕上がりになっているのはさすがです。





 こうして盛りだくさんであっという間に展開する説教聖が語り聞かせる「日の浦姫物語」。しかしそこで終わらないのがこまつ座『日の浦姫物語』なのです。うすうす感じていた“あること”が“ある人物”が発する1ワードでズドーンと突き刺さる、あの瞬間にはっきりと見えるこの物語のもうひとつの顔。欲望と理性の狭間で揺れ動く日の浦姫を主人公とした平安絵巻、説教聖の語り、現代の観客に届くメッセージ、この物語の正体はいったい……。その答えは劇場にあります!

※1 女の一生:森本薫作、杉村春子の代表作として知られる文学座の財産演目。
※2 辻萬長さんの「辻」は一点しんにょうが正式表記です。




<スペシャルトークショー開催>

9月9日(月)13時公演後:鵜山仁(演出家)
9月13日(金)13時公演後:朝海ひかる・平埜生成
9月19日(水)13時公演後:辻萬長・毬谷友子・たかお鷹
★追加★9月22日(日)13時公演後:鵜山仁・朝海ひかる・平埜生成・他
※アフタートークショーは、開催日以外の『日の浦姫物語』のチケットをお持ちの方でもご入場いただけます。ただし、満席になり次第ご入場を締めきらせていただくことがございます。
※出演者は都合により変更の可能性がございます。




とても印象的なチラシビジュアル!!
【公演情報】
こまつ座第129回公演『日の浦姫物語』
2019年9月6日(金)〜23日(月・祝)@紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA

<スタッフ>
作:井上ひさし
演出:鵜山仁

<出演>
朝海ひかる/平埜生成/
石川武/沢田冬樹/櫻井章喜/粟野史浩/
木津誠之/川辺邦弘/宮澤和之/越塚学/
赤司まり子/名越志保/岡本温子/
たかお鷹/毬谷友子/辻萬長

辻萬長さんの「辻」は一点しんにょうが正式表記です。

公演HPはこちら

写真提供:こまつ座
おけぴ取材班:chiaki(取材・文) 監修:おけぴ管理人

おすすめ PICK UP

ミュージカル『CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~』初日前会見レポート

「M's MUSICAL MUSEUM Vol.6」藤岡正明さんインタビュー

こまつ座『夢の泪』秋山菜津子さんインタビュー

新国立劇場バレエ団『ラ・バヤデール』ニキヤ役:廣川みくりさん、ガムザッティ役:直塚美穂さん対談

【井上ひさし生誕90年 第1弾】こまつ座 第149回公演『夢の泪』観劇レポート~2024年に響く!~

【公演NEWS】『デカローグ 1~4』開幕!各話の舞台写真&ノゾエ征爾・高橋惠子、千葉哲也・小島聖、前田亜季・益岡徹、近藤芳正・夏子からのコメントが届きました。

“明太コーチ”が“メンタルコーチ”に!?『新生!熱血ブラバン少女。』囲み取材&公開ゲネプロレポート

JBB 中川晃教さんインタビュー~『JBB Concert Tour 2024』、ライブCD、JBB 1st デジタルSGを語る~

新国立劇場バレエ団『ラ・バヤデール』速水渉悟さんインタビュー

【おけぴ観劇会】『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』おけぴ観劇会開催決定!

【おけぴ観劇会】ミュージカル『ナビレラ』おけぴ観劇会6/1(土)昼シアタークリエにて開催決定

【おけぴ観劇会】ミュージカル「この世界の片隅に」おけぴ観劇会 5/19(日)昼開催決定@日生劇場

おけぴスタッフTwitter

おけぴネット チケット掲示板

おけぴネット 託しますサービス

ページトップへ