1965年11月9日に実際に北アメリカとカナダを中心に起こった大停電(ニューヨーク大停電)をモチーフに創作された
ミュージカル『Fly By Night~君がいた』。作品の魅力を7名のキャスト&日本語上演台本・訳詞・演出の板垣恭一さんの言葉でご紹介!
Story
1964年11月9日。母の葬儀を終えたハロルド(内藤大希さん)とその父・マックラム(福井晶一さん)。ハロルドは遺品の中にギターを見つけ、形見として持ち帰ることにする。一方マックラムは、妻が大好きだった「椿姫」のレコードを聞きながら毎日を無為に過ごすようになる。
ちょうど同じ頃、田舎町サウス・ダコタで暮らしていたダフネ(青野紗穂さん)は、女優を目指してニューヨークに行くことを決意。姉のミリアム(万里紗さん)に一人では心もとないからと泣きつき、母を説得。姉妹は一緒にニューヨークで暮らすことになる。
ニューヨーク。
ダフネは彼女が働く洋服店の近くのサンドイッチ屋で働いていたハロルドと出会い恋に落ちる。しかしオーディション会場で若手劇作家のジョーイ(遠山裕介さん)に見初められ、新作ミュージカルの主役に抜擢されたことをきっかけにハロルドとすれ違い始める。
ミリアムは突然現れた占い師(原田優一さん)に未来を予言されるが、その中に出てきた恋人の条件に合致するのはなんとハロルド。
サンドイッチ屋のオーナー・クラブル(内田紳一郎さん)は今日も、優柔不断なハロルドに発破をかけている。
その頃、孤独を募らせたマックラムはある決心をする。
そして 1965年11月9日、ニューヨーク大停電が起きた。
【役どころと作品の魅力】
──みなさんの役どころと作品の魅力は。青野紗穂さん、内藤大希さん
内藤さん) ハロルドはいろんなものを与えてもらっているにもかかわらず、それに気づくことができない青年。彼なりにもがいています。作品の魅力はキャッチーな楽曲!つい口ずさんでしまうワクワクする音楽なので、生バンドによる演奏も楽しんでいただけると思います。
青野さん) ダフネはミュージカル女優を目指してニューヨークに来て、自分が憧れていたものに触れていく中で何か物足りなさを感じている。その“何か”を見つけたいと思いつつ、強がってしまう女の子です。作品の魅力は、いい具合にすれ違っていく人間関係です。
万里紗さん、青野紗穂さん
万里紗さん) 田舎でウエイトレスをしている生活をとても楽しんできたミリアム。彼女の人生はニューヨークに来てハロルドと出会うことでかき乱されていきます。この作品の魅力は、ものすごく劇的なシーンではない何気ないところでグッと心を持っていかれるような瞬間がたくさんあるところです。
遠山裕介さん、青野紗穂さん
遠山さん) 成功した芸術家揃いの家族の中で自分だけ成功に至っていない若手脚本家のジョーイ・ストームズを演じます。周りからのプレッシャー、本当にこの道でいいのか…と葛藤している役です。この作品に登場するキャラクターたちが抱えているもの、家族愛や仕事に対してのプレッシャーなど、見ている方が共感できるところがたくさんあるのが魅力だと思います。
内藤大希さん、内田紳一郎さん
内田さん) グラブルはハロルドが働いているサンドイッチ屋の親父。第二次世界大戦という戦争体験に引きずられながら、サンドイッチを毎日毎日一生懸命作っている。そんな人が停電の夜にもう一つ夢を見たというような役どころです。この作品は恋愛の話でもあり、親子の問題の話でもあり…、それぞれが抱えている問題がちゃんと観客から見える。そして全て終わった時に、夜空は相変わらず輝いていて、永遠に、まだ続く。そんなことを思う作品です。
福井晶一さん、内藤大希さん
福井さん) ハロルドの父親ミスター・マックラム役を演じます。描かれるのは最愛の妻を亡くしてからの一年間、自分の拠り所を失い孤独になっていった父と息子の物語。とにかくそれぞれのキャラクターがほんとうに魅力的で、(配役も)ぴったりだと稽古場で感じています。
万里紗さん、原田優一さん
原田さん) 物語を進めていくナレーターのほかにも姉妹のパパ、ママ、ジプシー、МC、チケット売りなどいろんな役で登場します。キャラクターの運命の分かれ道で影響を与えるひと言を残す役回りもあるので、キャラ濃く、印象に残るように頑張りたいと思います。作品の魅力は、展開の早さ。キャストが自分たちでセットを動かしていくスタイルの中で、役に入る/役を離れる瞬間を感じることでお客様の想像力を掻き立てる。板垣さんならではの演出です。そして最後には語り部としての私の格言の連続が…、板垣節の数々をしっかりとお伝えしたいと思っております。
<板垣さんコメント> 役者が転換をするというのは、最初に思いついた演出プランです。それによって二つの階層ができます。役者のみなさんには、オープニングで語り部の原田さんに呼び込まれた時は、半分本人でもいいよと伝えています。ある時は横に座って見ているし、またある時は転換をしている。で、次の瞬間、装置を手放した瞬間に役に入る。そんな虚実綯い交ぜの状態を作り出す。人間って、実はそんな風に立ち位置や役割を切り替えて演じながら生きているんじゃないかな。
【時間軸が行ったり来たりすることで生まれるもの】
──「時間軸が行ったり来たりする」というのがこのお芝居の仕掛けの一つ。その効果と演じる上での難しさなど。板垣さん) 僕は『Fly by Night』というタイトルを「刹那」「束の間」と解釈しています。そんなある種の儚さが本作のテーマ。僕らはそういった断片的なものをかき集めて一つの人格として生きているような気がするんです。
──バラバラなピースを集めることで見えてくるものというところを時系列の入れ替えでより際立たせるのですね。実際に演じるのは。内藤さん) 最初は「次はなんだったかな?」という戸惑いがありましたが、今はそれも解消されました。
青野さん) はじめは時間軸がすんなり進まないので、自分の中で(芝居が)ぶれるような気がしていました。そこを自分の中で編集し繋げていくのは大変なことですが、同時に、いろんな場所に行けるし、いろんな時間帯にトリップできることに楽しさも感じています。
万里紗さん) すごく楽しいです。描かれる季節感や場所の異なる物語をそれぞれのキャラクターが板の上に乗せていくことで、ラストシーンでの舞台上に渦巻くエネルギーがものすごいことになっています。
遠山さん) 役者としては覚えるのがものすごく大変です。でも、(時間や場所が)飛ぶことに意味がある、そこに大切なものがある。「どうしてそれが起きたのか」とか、そういうことを大事にしながら稽古をしています。
内田さん) 役に入り込んでじっくりと詰めていくタイプの芝居と、その瞬間にパッと切り替えて潔く演技をしていくタイプの芝居があります。この作品は後者。それがテンポにもなるので、なるべく先のことはわからないようにやろうと思うと失敗がいっぱいで(笑)。ちゃんと覚えろよということで四苦八苦しております。はい。
福井さん) 「このセリフがここに繋がるんだ!」、時間軸がずれることが台本の読み解きの助けにもなっています。ちなみに一幕では僕と遠山君はずっと転換をしています…、それもものすごい集中力で(笑)。面白いのが、そうやって(転換で)参加していた物語の後半で、その集中力が舞台の圧になっているということ。(いろんな仕掛けが)いい方向に作用していると思います。
板垣さん) 福井さん情報を少々。後半にものすごいビッグナンバーがあります。とてもいい曲なのでお楽しみに。
原田さん) この時間軸がずれたり移動したりすることに一番翻弄されているのは私かなと(笑)。ただそういったエピソードの入れ替わりによって、人間同士の繋がり、関係性がより濃くはっきりと浮かび上がるようになっています。一度、作品を頭から最後まで通して、再び最初に戻ってみると「実はこのシーンではあの人は…、そういうことか!」という気づきが我々にもあります。これは何が言いたいのかと言いますと、二回目三回目も楽しめますよということです(笑)。
【配信という新しい形~配信でご覧になるみなさんへ~】
──劇場に足を運ぶことのできない方へ、9/1(火)~22(祝)の全20公演、生配信も行われます。板垣さん) この何か月かで、演劇は劇場で見るのが最良だけど、それだけではないということがわかりました。生配信やリモートでの取材なども新しいコミュニケーションの形です。疑似体験として映像で演劇をご覧いただくことも素晴らしいことですので、配信もぜひ楽しんでください。そして、また安全な状態になりましたら劇場にお越しください!
【停電というメタファー】
板垣さん) 本作は1964年11月9日から停電があった1965年の11月9日までのアメリカ、ニューヨークの話。この時代を少しひも解くと、1963年にケネディ大統領が暗殺され、64年から65年にはアメリカは本格的にベトナム戦争に参戦した時期です。
また、このお芝居が初演されたのが2009年。その前年の2008年に起きたのがリーマン・ショック。作者、本作にもそれは大きく影響し、その上で「停電」を扱いたかったのではないかと感じています。
そんな作品のバックグラウンドと我々が現在、世界的なパンデミックの最中にこの作品を上演するということが、とてもリンクしていると思いながら演出をしている次第です。
素材提供:conSept
おけぴ取材班:chiaki(記事編集) 監修:おけぴ管理人