こまつ座『私はだれでしょう』が開幕いたしました! 戦後のラジオ番組「尋ね人」の制作現場、日本放送協会の一室を舞台に繰り広げられる誇り高き市井の人々の物語。「ラジオで私を探してほしい」、記憶をなくした一人の青年・山田太郎?の自分探しを軸に、そこに集う人々の人生が描かれます。

左より、吉田栄作、朝海ひかる、尾上寛之、平埜生成、枝元萌、八幡みゆき、大鷹明良
ものがたり(HPより抜粋)
敗戦直後の昭和21年7月。
日本放送協会の一室からラジオ番組「尋ね人」は始まった。
脚本班分室長である元アナウンサー川北京子をはじめとする三人の女性分室員は
占領下日本の放送を監督するCIE(民間情報教育局)の事前検閲を受けながらも
番組制作にひたむきに取り組んでいる。
そこへ日系二世のフランク馬場がCIEのラジオ担当官として着任。
そんなある日、彼らの元に一人の男が現れた。
自称・山田太郎と名乗るその男は言う。
「ラジオで私を探してほしい」。
次々と騒動が巻き起こる中、自分自身がわからない男の記憶が
ひとつひとつ明らかになっていく――。
観劇されたおけぴ会員のみなさんの感想を舞台写真を交えてご紹介いたします。
◆終戦直後のお話でラジオの表現検閲の件がありますが、どうにも最近見たことがあるような聞いたことがあるような話にみえて、2020年の観客がそんなふうに思って観劇していることを井上先生は予見していたかしら…などと考えました。されていたかもしれませんね。井上先生の本が、後世の私たちへの警告であり、励ましであると感じることが増えてきました。
◆役者陣の役のはまり具合と、舞台での一体感と言ったらいいのか連帯感が感じられたというか、とにかく見ていて素直に胸に染み込んでいく感じがとても気持ちよかったです。3時間でも全然疲れない、それどころか気分あげあげで劇場をあとにしました。
◆単なるハッピーエンドで終わらせない、鋭い視点の井上ひさしのこの作品を、個性的で温かいこまつ座のメンバーが演じます。すばらしかったです。あれほど暑かった夏もすでに懐かしく思う雨の日の秋、この上演に接することができて大感激です。
◆戦後のGHQの管理下にある日本のNHKラジオ放送の話。
かなり重いテーマと思いきや、コメディ要素がたくさん散りばめられているので、重くならずに観劇できました。記憶を失った男性の身元を探しながら、当時の日本の混沌とした状況が見えてきます。矛盾、貧困、怒り。そんな中でも生きていかなければならないさだめに、苦痛と希望の両極端の感情が沸いてきました。
◆「終戦から二年で、また元に戻るの?」今、この言葉はひたすら重く響いてくる。
◆朴さんのピアノに役者さん達の熱演、この芝居にかける情熱が伝わってきました。スマホを片時も手放なせず、情報に流される日々の中で、もうだれもラジオだけが頼りだった混乱の戦後の日々のことなんて考えないでしょうが、私達は過去から学べることはたくさんある。ふと、立ち止まって考えるきっかけをいつも与えてくれるこまつ座さんに感謝しております。これからも良心ある舞台を続けていただきたいです。
◆3時間の芝居は普段なら疲れたり、集中力が途切れてしまうのですが、最後まで楽しく見られました。この作品の持つ力だよなあ。広島長崎について報道してはいけなかったとは知りませんでした。辛い目にあっても、またそれを言うことすら命がけにならざるを得ない状況…そして今でも被害者が声を上げたら叩かれる状況がありますよね。放置していていいのか?と考えてしまいます。
◆辛い時代、辛い過去を持つ人たちが、明るく笑って歌って生きる道を探していく姿を、微笑みながら観られる舞台でした。そして自分がどう生きていくのかも考えなければいけないと思いました。くすっと笑えるセリフがたくさん散りばめられていて、特に枝元萌さん最高に面白かったです。

朴勝哲
◆朝海ひかるさんが、哀しみを抱えながらも気丈に振る舞い、自分が何をすべきなのかを掴んでゆく女性を素敵に演じていらっしゃいます。ばさばさと男前にツッコミをいれつつも、はしゃぐときは少女のように可愛らしく、所作は優雅で美しくとても魅力的です。平埜さんの身体能力が素晴らしい!武道・ダンス・アクロバット・歌と何でも出来て、山田太郎(?)の設定に説得力がありました。
◆戦後アメリカによる報道統制の歴史を通じて、報道の公正と公共性の必要性をシリアスにグイグイと迫りくる。そして、戦後の人々の心の深い傷跡を描きながらも、人々は不思議と明るい希望に満ちており幸福感と元気を与えてくれる。それは根底に人間愛が溢れているから。出演者の迫り来る熱演と観客を楽しませる見事なエンターテインメントは、とても素敵で貴重な時間を共有できた。
◆自粛期間中、普段はほぼ聞かないラジオをずっと聞いていたことがあり、作中の人々が、終戦後のなにもかもが空っぽの時代、ラジオに耳を傾けた気持ちが、ほんの少しだけ分かるような気がした。朴さんのピアノの音は物語に優しく、時に軽快に寄り添い、芸達者なキャストの安定感は素晴らしかった。「わたしはだれであるべきでしょう」の言葉は常に自らに問いかけてくる言葉と感じた。平埜生成さんの七変化は拍手でした。
◆ひとりひとりの人間が生きているという当たり前のことを思い出させてくれる。庶民のレジスタンスの物語。からっとおもしろおかしく、悲哀がある安定の井上作品です。
◆ 劇中を生きる人々が発する言葉、戯曲のセリフが胸を打つだけでなく、お芝居を見ていると心に刺さる瞬間がたびたび訪れます。太郎の言葉を目を真っ赤にして聞いている高梨の姿、皆が歌う様子を目に涙を浮かべて見つめる馬場の姿、「ぶつかって行くだけ」を歌う佐久間の全身から伝わる怒り……。そんな一人ひとりの感情が観劇の記憶になります。空っぽの財布やお腹を満たすことはできないかもしれないけれど、心を満たすことのできる演劇を実感しました。
公演は22日(木)まで、紀伊国屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて!
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舞台写真提供:こまつ座 感想寄稿:おけぴ会員のみなさん
おけぴ取材班:chiaki(編集) 監修:おけぴ管理人