新国立劇場 舞踊 2021/2022シーズン開幕! 1年の延期を乗り越え、ついに芸術監督吉田都さんの思い入れも深いピーター・ライト版『白鳥の湖』<新制作>が新国立劇場バレエ団のレパートリーに加わります。「英国的」「演劇的」と言われるピーター・ライト版、ついに観客の前に姿を現した『白鳥の湖』はまさに“その形容に偽りなし!”です。
撮影:鹿摩隆司
撮影:鹿摩隆司
オディールのグランフェッテ(32回転)やオデット姫と王子とのパ・ド・ドゥ、王子とベンノ、クルティザンヌによるパ・ド・カトル、4羽の白鳥……、枚挙にいとまない踊りの見せ場。先王の葬列に始まるドラマ性、深い悲しみをまとう王子の物語の細かな心理描写。その心情を豊かに表現する東京フィルハーモニー交響楽団が奏でるチャイコフスキーの音楽(指揮:ポール・マーフィー/冨田実里)。衣裳、セットの重厚感などなど、あらゆる局面で、改めてバレエって素敵だなと感じる公演の模様をレポートいたします。
【高い演劇性】
撮影:鹿摩隆司
新国立劇場バレエ団が誇る、一糸乱れぬコール・ド・バレエ(群舞)。その美しさは圧巻のひと言。特に、第 4幕の幕開けは、この世のものとは思えないほどの美しさに、心の中で「うわぁぁぁぁ!」と叫びました。また、同調性の高さと共に感じるのは、そこにいる一人ひとりが「生命」「心」をもった乙女たちだということ。第2幕の美しさと悲しみにあふれた群舞も、最終幕、その意思がひとつとなりロットバルトに立ち向かう力強さも、決して背景ではない“白鳥の乙女たち”なのです。
それは白鳥の乙女たちに限らず、宮中の人々のリアクション、葬列をなす人々の踏み出す一歩、王子にアピールする各国王女たちの熱視線、お付きの者たちの後押し……その登場人物の一人ひとりが、今風に言うところのモブキャラクターではない! そこに高い演劇性を感じます。それぞれの思惑が入り乱れる世界で繰り広げられるからこそ、オデットと王子の物語はより崇高なものになります。
【重厚感あふれる衣裳、抒情的な音楽】
1幕の城の中庭での宴、王子の友人たちの淡い色調の衣裳が目を引きます。細かな刺繍の施された女性たちの衣裳をオペラグラスでガン見! その瞬間、「写真集が欲しいです!」と思ってしまいました。ほかにも生地もたっぷりと使った重厚感あふれる、王妃をはじめとした貴族たちの衣裳、ロットバルトのロ~ングマントなど、衣裳の見どころも満載。
さらには『白鳥の湖』と言えは、チャイコフスキーのあの音楽。それを奏でるオーケストラ、ソロパートが劇場に静かに鳴り響く時、それは心にダイレクトに作用。バレエにおける音楽の饒舌さに心震えます。
【指先に宿る真実の愛】
オデット、白鳥に姿を変えられたプリンセスの儚さと強さを全身全霊で表現する米沢唯さん。脚って、こんなに動くの!!の超絶ステップ、空も飛べそうな無重力感、腕が10cm伸びましたか?という上体の使い方など、これでもかというテクニックと表現力で圧倒。
撮影:鹿摩隆司
ジークフリード王子は福岡雄大さん。父である王を亡くした憂いをまとい宮廷の庭を歩くその足の運び、宴で相手に向けて伸ばすその手の指先の美しさ。生まれながらに王になることを約束された気品にあふれる一挙手一投足が表現する“王子の心の機微”。その一点に観客の視線と心が注がれます。また、気品とともにもろさもある王子の繊細さ、一種の青さもにじませるのが印象的。
撮影:鹿摩隆司
そんな二人が出会いオデットと王子の指先と指先が触れあう瞬間、大きな力によって引き裂かれる二人の手と手が、指先と指先が、今まさに離れようとする瞬間、そこに宿る“真実の愛”の尊さに心を掴まれました。
撮影:鹿摩隆司
そして第3幕。いよいよ登場する黒鳥オディール(魔法でオデットそっくりに姿を変えたロットバルトの娘)、オデットとオディールを同じダンサーが演じるというのも大注目ポイント!
正直、あらすじを読むだけでは「オディールをオデットと間違えてしまうのは残念……」と思いがち。でも、繊細な心に大きな重責を担う不安定さ、そこで初めて出会った真実の愛、王子の未熟さがしっかりと表現されるので、その隙を突いてくるロットバルトの策略という構図が明確に伝わります。
その説得力を生み出すのはオディールの放つ抗えない魅力。踊りの見せ場の32回転も、回転の一つひとつで王子の心を引き寄せる強い生命力の現れであり、攻めのアプローチそのもの。媚びることなく、むしろ淡々と王子の心を鷲づかみ。からの3幕ラスト、オディールの“してやったり”な表情は必見。「うわぁ~」、思わず声が出そうなくらいのスゴイ表情です。そしてロットバルト男爵とオディールが立ち去った後の、絶望感たるや。王妃のよろめきで幕を閉じるドラマティックな幕切れです。
撮影:鹿摩隆司
第4幕はオープニングの幻想的な風景に始まり、そこで繰り広げられるオデットの決断、王子の決断、立ちはだかるロットバルト男爵、白鳥の乙女たち……もう、これぞクライマックス!そして忘れてはならない、王子の親友ベンノの登場。
観終わってみると、台詞のない演劇という言葉が思い浮かびます。ロミジュリ、ハムレット……、シェイクスピア的といわれるその言葉にも納得の、奥行きのあるラストシーンです。
心揺さぶられる『白鳥の湖』、公演は11月3日まで、新国立劇場オペラパレスにて。ここから始まる吉田都芸術監督の2期目となる新国立劇場バレエ団2021/2022シーズンからも目が離せません!公演情報詳細は
公式サイトや
新国立劇場バレエ団公式ツイッターにてご確認ください。
最後になりましたが、公開舞台稽古冒頭には吉田都芸術監督からのご挨拶がありました。開口一番「ようやくここまでたどり着けました」という言葉に、コロナ禍に始まった芸術監督一年目のご苦労が伝わりました。ただ、その後には「サー・ピーターにも喜んでいただける『白鳥の湖』になったと自負しております」という頼もしい言葉が続き、新制作を支えた、14日間に及ぶ隔離期間を経てリハーサルに合流した英国からのアーティスティックスタッフのみなさんへの感謝も述べられました。また、新国立劇場の2代目の舞踊芸術監督であり、新国立劇場バレエ研修所所長の牧阿佐美先生のご逝去にあたり、開幕公演を追悼公演として捧げることが発表されました。
こちらは劇中の雰囲気とは真逆の?! 朗らかな雰囲気のインタビューです。
新国立劇場『白鳥の湖』<新制作> 米沢唯さん、福岡雄大さんインタビュー
おけぴ取材班:chiaki(取材・文)監修:おけぴ管理人