【音楽はいつでも僕らのそばにある】cube 25th presents音楽劇『夜来香ラプソディ』開幕レポート

 2022年3月13日、音楽劇『魔都夜曲』から5年、魔都・上海を舞台にしたcube presentsの新たな音楽劇『夜来香ラプソディ』の幕が上がった。公開ゲネプロ(一幕)のレポートと初日コメント、会見ダイジェスト映像(おけぴ編集)をお届けします。



 物語は第二次世界大戦末期の魔都・上海。そこでは嵐の中の台風の目のようにぽっかりと晴天が覗き、文化が育まれ、日本軍の支配下にも関わらず“租界”という名の治外法権が存在していた。

 主人公は「蘇州夜曲」「別れのブルース」などを作曲した(当時)新進気鋭の作曲家・指揮者の服部良一(松下洸平)。服部は、上海の地で「夜来香」の作曲家・黎錦光(れいきんこう/白洲迅)や、絶世の歌姫・李香蘭(りこうらん/木下晴香)と出会い音楽を通じた友情を育む。そして、とある人のはからいで、服部らを中心とした人種やイデオロギーの壁を乗り越えた大規模な西洋式のコンサートを開催しようとするが──。日本軍や中国国内の政治勢力、さらには上海の裏社会の思惑が絡み合う魔都・上海を舞台に繰り広げられる夢と友情、葛藤の物語。



黎錦光(白洲迅)と服部良一(松下洸平)


李香蘭(木下晴香)

 開演が近づくと、劇場内を軍服に身を包んだ憲兵たちが練り歩く。どこかピリッとした空気のなか、舞台『夜来香ラプソディ』/コンサート「夜来香ラプソディ」の幕が上がる。そこに登場するのは、松下洸平さん演じる服部良一。指揮棒を振り下ろすと豊かな音楽が奏でられ、その瞬間に服部の全身から喜びが溢れ出す。こうして舞台の観客はいつの間にか、このコンサートの観客になっているのです。そこで語られる、今日この日を迎えるまでの物語。時折、「今=コンサート」に戻りながら、あの時代を生きた人々のドラマへといざなわれます。



酒を飲み、夢を語らう若き音楽家たち
そんな当たり前の景色も日本から来た服部にとっては特別なものだった


 ジャズを愛し、音楽こそ自由と高らかに叫ぶ!喜怒哀楽、感情表現が豊かで、無邪気! 松下さんはすでに才能を認められた音楽家“服部良一”を等身大の青年として舞台に立ち上げます。服部さんはこういう方だったのだろうなと自然に思え、見ていると思わず笑顔なります。ただ、そんな服部にも戦争は深い影を落とし、劇中、葛藤しもがく場面では心を締め付けられる。感情の振れ幅が大きい役どころにしっかりと一貫性を持たせ、舞台上で思い切り服部を生きています。

 「夜来香」の作曲家で、音楽家として服部を慕う黎錦光には白洲迅さん。服部をフープーと呼ぶ人懐っこさにその人柄が表れています。はじめて会った時の興奮(その後、服部からは興奮返しも!)が物語るのは、黎の音楽に誠実な姿勢。音楽への情熱も服部に負けず劣らず持っていながら、どこか冷静な一面も。

 李香蘭の木下晴香さんは持ち前の歌唱力で劇場空間を支配します。当時の人々が魅力されていたことがよーくわかります。またあの時代の歌のもつ独特の雰囲気を表現する木下さんの歌声は新鮮でもあります。そして舞台上での華やかな“スター”としての姿とともに一人の人間として彼女が抱える葛藤が色濃く描かれますが、どんな時でも凛とした強さを持つ李香蘭です。

 服部と黎がはじめて会ったとき、服部が思わず歌い出す「夜来香」に合わせて“ご本人登場”とばかりに李香蘭が歌いながら現れるシーンがとても印象的。“生”李香蘭に驚きながらも「一緒にどうぞ」の声に乗せられ夢のデュエットをし、なんならちょっとハモっちゃう服部がおちゃめ過ぎる!そんな夢の競演を笑顔で見つめ、素直に喜びを爆発させる黎も真っ直ぐで素敵!



 服部を上海へ呼び寄せ、コンサートを企画した張本人・山家亨には山内圭哉さん。音楽に興じる人々に対し、浮かれるな!と厳しさを見せる憲兵隊隊長 長谷部弘一には山西惇さん。両ベテランも存在感抜群!



陸軍報道班少佐・山家亨(山内圭哉)


憲兵隊隊長 長谷部弘一(山西惇)

 ともに軍人ながら対極とも言えるキャラクターを演じる山内さんと山西さんが舞台を力強く支えます。羽振りがよくて文化芸術を愛する、中国名も持ち、裏社会にも通じているというミステリアスな山家を山内さんが軽妙に演じます。彼に仕える中川牧三を演じる上山竜治さんとのやり取りにはどこか朗らかささえ漂う。そんな中川はピリついた空気をほっと和ませるとてもいいキャラクター。彼に幸あれ!と思わせる、陰ひなたに最善を尽くす男です。ちなみに中川はイタリアで声楽を学んだというバックグラウンドを持つ人物です!

 山西さん演じる終始苦虫を嚙み潰したような表情で現れる長谷部は、この時の戦況を象徴するような存在。山西さんがあまりに長谷部で、松下さんがあまりに服部なのでうっかり(⁉)していましたが、かつて(「木の上の軍隊」)は上官と新兵だったと物語の中盤で思い出しました。


 ほかにも、魔都・上海には魅力的な人々がたくさん!『魔都夜曲』に引き続き、男装の麗人と呼ばれた川島芳子を演じるのは壮一帆さん、服部たちが出入りするナイトクラブの人気ダンサー・マヌエラには夢咲ねねさん、物語のカギを握るリュバ・グリーネッツ(ほか2役)を演じるのは仙名彩世さん。



マヌエラ(夢咲ねね)


川島芳子(壮一帆)


リュバ・グリーネッツ(仙名彩世)

 夢咲さんのダンス(強気の芝居も)、壮さんの凛々しいお姿とお芝居(歌も!)、仙名さんのパンチの効いた歌声(タイプの違う歌声を見事に歌い分ける!)……それぞれの魅力が活かされた配役に拍手!



 結果、冒頭のシーンにもあるようにコンサートは開催されるのですが、お客様を迎え幕が上がったときの服部と黎の言葉、ほかにも劇中で語られるそれぞれの登場人物たちの言葉、語られなくとも目を背けることはできない大きな時代の影……。今の私たちを取り巻く状況と重なる場面がいくつもあります。辛いとき、心の拠り所になる音楽のちからを知っているからこそ、それがプロパガンダに使われることへの嫌悪など、今も尚、考え続けなくはいけないことも。ただ、たくさんの葛藤を抱えながらも必死で幕を上げようとする人々の心意気は尊く、エンターテイメントのエネルギーは舞台上と客席で分かち合うことができる。それはいつの世も変わらない。そんなことも改めて実感しました。

 虚実織り交ぜられた物語ですが、登場人物のほとんどが実在の人物。あの時代のあの土地で本当にあったかもしれないと思わせる、体温のあるドラマと夢のようなきらびやかなショーシーンが心を掴む音楽劇『夜来香ラプソディ』は27日まで渋谷Bunkamura シアターコクーンにて、その後、名古屋、大阪、長岡にて上演されます。

 歌は世につれ世は歌につれ「蘇州夜曲」「夜来香」「チャイナタンゴ」など数々の流行歌はどこか懐かしく、幕開きに歌われるオリジナルテーマ曲「希望の音」(作詞:岩里祐穂 作曲:本間昭光)はドラマティック。音楽に彩られた本作のタイトル『夜来香ラプソディ』に込められた思いもグッときますよ!


【コメント映像】



【初日コメント】



<松下洸平:服部良一役>

 まずは、こうして無事に初日を迎えられることをありがたく思います。我々はしっかり感染予防対策をして、お客様に楽しんで頂けるよう最善を尽くしていきたいと思います。
 舞台は1945年6月。輝かしい経歴をお持ちの音楽家・指揮者の服部良一さんが上海で音楽の可能性を求めて黎錦光や李香蘭たちと共に、時世と戦い駆け抜けていく物語です。我々自身も色々なものと戦いながら演劇を続けている最中、「今」とリンクする部分も多いので、初日を迎えた時に、お客様そして我々がどう感じるのかとても楽しみです。
 たくさんの登場人物それぞれにすごく濃い物語が詰まっています。そして生バンドで素晴らしい演奏で届けられるジャズやみなさんもよくご存じの歌謡曲もたくさん出てきます。笑って泣いて、芝居と音楽を楽しんで頂けたら嬉しいです。


<白洲迅:黎錦光役>

 劇中のセリフにもある「いよいよ始まるな」という気持ちです。この“有事”に行われる舞台、どうしても今と重ねてしまう部分もありますが、そこはプラスに捉えて作品によい作用をもたらせるようにという気持ちで臨みます。それをお客様にも楽しんで頂けたらと思います。僕自身は稽古場で黎さんが作曲した繊細で儚く、そして懐かしさがある「夜来香」を頼りに黎錦光という人物像を創ってきました。あの曲の持つ繊細さは黎さんの人となりによるものだと思えるのです。
 服部、黎、李香蘭の3人で屋台で飲むシーンの稽古の時、休憩に入ってもそのままそこで話し続けていたあの瞬間が、僕らと役が一気にリンクした瞬間だったなと思い出します。すごく心地よくて楽しかったんです。あの大変な時代に生きていたことを、いかに僕らが熱量高く演じられるか、それを大事にして演じていきたいと思います。


<木下晴香:李香蘭>

 李香蘭さんは映像や音源が多く残っている方ですが、今回の舞台ではステージに立っていないオフの彼女の姿を描く部分も多いので、あまりイメージにとらわれすぎず、この舞台ならではの李香蘭を創っていきたいと思っています。台本を読み進めていく中で強く感じたことは、彼女の核になっているものは本当に「歌」なんだということ。彼女にとって歌うこととはどんなことなのか、それを大切に演じていきたいと思っています。
 (初日を目前に控えた今)千穐楽まで、よりよい舞台を日々お届けできるように精一杯頑張ろうと気合を入れ直しています。それぞれの登場人物の生き様が濃く深く描かれ、それが音楽と融合することで今の時代のみなさんにも響く作品となっています。ぜひご期待ください。


【公演情報】
cube 25th presents音楽劇「夜来香ラプソディ」
【東京公演】2022年3月12日(土)~27日(日)@Bunkamura シアターコクーン
【名古屋公演】2022年4月3日(日)@日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
【大阪公演】2022年4月7日(木)~10日(日)@サンケイホールブリーゼ
【長岡公演】2022年4月16日(土)@長岡市立劇場 大ホール

松下洸平 白洲迅 木下晴香 壮 一帆 上山竜治 夢咲ねね 仙名彩世 
前田悟 森下じんせい 川原田樹 神谷直樹 吉岡麻由子 遠藤令 松崎莉沙
岩橋大 長南洸生 村上貴亮 木村風太 川崎愛香里 川原琴響
山内圭哉 山西 惇

作:入江おろぱ
演出:河原雅彦
音楽:本間昭光

公演HPはこちら


コメント映像提供:キューブ
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人

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