今年8月、世田谷パブリックシアターにて劇作家・童話作家の別役実さんが生み出した傑作童話を原作にした、音楽あり、サーカスありの新作音楽劇『空中ブランコのりのキキ』が上演されます。原作は、中学校の国語の教科書にも掲載されていた「空中ブランコのりのキキ」、童話集「山猫理髪店」より「愛のサーカス」などサーカスをテーマにした作品数本や「丘の上の人殺しの家」といった、不条理でどこか不思議な作品たち。それらを北川陽子さんが一本の音楽劇として再構築し、野上絹代さんが構成・演出を、音楽はオオルタイチさんが手掛けます! 空中ブランコ乗りの少女・キキを演じる咲妃みゆさんにお話を伺いました。ビジュアル撮影を終えたばかりとのことで、まずはこの話題から!
──ビジュアル撮影の様子からお聞かせください。どのような時間でしたか。いよいよ『空中ブランコのりのキキ』が始まる!という喜びとドキドキが詰まった時間でした。撮影は、スタジオに吊られたブランコに座った状態で進みました。宙に浮いているので、スタッフのみなさんは「(一本の棒の上で)姿勢をキープするのは大変でしょう」ととても気遣ってくださいましたが、私はそこから見る景色にワクワクしていましたのでまったく苦になりませんでした。もっと乗っていたかったくらいです(笑)。色とりどりで素材の異なる生地を重ねて作られているお衣裳は、とても可愛らしく、それと同時にこの作品のもつ多面的な魅力を表現していると感じました。
──咲妃さんご自身はどのようなイメージでカメラの前に立たれましたか。「アルプスの少女ハイジ」のような弾けた笑顔やキリッとすました表情、グッと大人びた表情など、アドバイスを受けながらいろいろなカットを撮影しました。きっとそのどれもが劇中でキキが見せる表情なのでしょう。キキを演じる上でのヒントにもなりました。ほかのキャストの方も含めて、最終的にどのカットが用いられるのか、ビジュアルの完成が楽しみです。

©︎磯部昭子
公開されたビジュアル!
──まさに『空中ブランコのりのキキ』始動の瞬間ですね。今の段階で咲妃さんが感じているキキの印象は。負けず嫌いで冒険心にあふれ、感情の起伏がはっきりとしているキキは、おこがましくも自分に似ていると思いました。直感的に、キキと仲良くなれそうだなと。自分の中に多少は残っているであろう少女性を舞台の上でどのように引き出せるかは、33歳の課題だと思いますが(笑)。
今回の作品は、別役実さんのいくつかの作品の融合。別役さんの世界を完全に理解するのはきっとご本人にしかできないことだと思いますが、北川さんや野上さんのお導きの元、原作のキキにほかのお話のエッセンスも投影していければと思っています。
──キキにとっても大きな存在となる、別のサーカス団の少年・ピピも演じるとのことです。ピピはキキとは演技の方向性が違ってくるお役になりそうです。
生易しい挑戦ではないでしょうが、同じ人が演じていたの?と思っていただけるくらい演じ分けられればと思います。頑張ります。
──物語ではキキが自分のアイデンティティや存在価値をはかるもの、拠り所として「拍手」「人気」が描かれます。半ば同業者ですので、共感できる部分があるがゆえに、悲しい気持ちになることも。人前に立つお仕事をする上で、受け取ってくださる側の反応、評価はどうしても意識してしまいます。でも、強い信念を持ちながら向き合うキキ、彼女の生い立ちにも思いを馳せながら一緒に葛藤したいと思います。
──本作は音楽・サーカス・ダンス・アクロバットなど多彩な顔ぶれの座組です。なかなか出会うことのできない各分野のプロフェッショナルな方々とご一緒させていただけることがとても楽しみです。きっと表現者としての私の凝り固まった考えを解きほぐしてくださるのでは?と秘かに期待しています。お互いに影響を与え合えるような座組になったらいいなと思っています。
──素敵な出会いにあふれる現場になりそうですね。続いては、咲妃さんの活動について伺います。ここ数年、唐十郎さんの『少女都市からの呼び声』のようないわゆる“アングラ”作品や『カム フロム アウェイ』のようなミュージカル、そしてこの音楽劇など多様な作品にご出演されています。俳優として感じる喜び、活動の原動力となるものは何でしょうか。「挑戦し続けたい」、これは所属事務所の方々に常日頃からお伝えし、汲み取っていただいていることです。お陰様で、特にこの数年は、本当に素晴らしい出会いにあふれています。挑戦することによって壁にぶつかることも多々あります。その瞬間は自分の至らなさにショックを受けますが、徐々に自分の中に「この壁を乗り越えたい!」という気持ちがメラメラと燃え上がってきます。そのメラメラを好きになってしまったのでしょうね。咲妃みゆという俳優は“苦労してこそ先に進める”と思っています! 不安になることもありますが、不安と楽しさは紙一重、不安を糧に、これからも舞台に立ち続けていきます。『空中ブランコのりのキキ』との出会いにも感謝しながら、全力で挑みます。
──本作は「せたがやアートファーム」の一環として上演されます。素敵な試みに参加できることを光栄に思います。様々な形で「芸術にただふれ合ってみてください。いつもあなたの身近にあります」というような温かいメッセージを発信し続ける世田谷パブリックシアターさん。私もその思いをしっかりと自分の胸に刻み、一人でも多くの方に芸術にふれる機会をお届けしたいと思います。このような挑戦の場をいただけて、俳優として、表現者としてこんなに嬉しいことはありません。
──はじめて立つ世田谷パブリックシアターの舞台、はじめて咲妃さんのお芝居をご覧になるお客様との出会いもあるでしょう。そうですよね! キキは、街から街へと移動するサーカス団の一員としてはじめての場所でも立派にパフォーマンスを届けている少女です。私も、キキとしてしっかりと「地」に足をつけてお届けしたいと思います!「空中」ブランコ乗りですが(笑)!
【少女時代】
──夏休み期間でお子さんも、多数、ご観劇されるかと思います。咲妃さんはどんなお子さんでしたか。私は宮崎出身なのですが、山、川、海、すべての自然とふれ合った少女時代でした!
とくに夏休みは朝から晩まで外で遊んで、怪我だらけ(笑)。妹と二人で、仲良く遊んでいるかと思えば、一瞬にして喧嘩が始まったり、にぎやかな毎日でした。歌うことも、おままごとのようなごっこ遊びも大好きでした。あの頃から、演じ、歌いたかったのでしょうね。あまりに活発なこどもでしたので、幼少期を知る人は私が宝塚歌劇団に入団し、娘役としてドレスを着るようになるとは、と大変驚いていました。
ヘアメイク:千葉万理子
スタイリスト:國本幸江
おけぴ取材班:chiaki(撮影・文)監修:おけぴ管理人