新国立劇場オペラパレスにてバレエ『アラジン』が開幕!本作は、2008 年にビントレー元芸術監督が新国立劇場バレエ団のために振り付けたバレエ作品。タイトルロール、アラジンの成長譚、プリンセスとのロマンスを軸に、おなじみの空飛ぶじゅうたんやランプの精ジーンとの友情など見どころ満載の人気演目です。
開幕を前に行われた最終舞台稽古、まずポール・マーフィーさん指揮で、東京フィルハーモニー交響楽団のみなさんが奏でる音楽が観客をめくるめく冒険の世界へ誘(いざな)います。幕が開くと、そこは昔むかしのアラビアの市場。

アラジン:福田圭吾
撮影:鹿摩隆司

アラジン:福田圭吾 プリンセス:池田理沙子
撮影:鹿摩隆司
キャストはアラジン:福田圭吾さん、プリンセス:池田理沙子さん、ランプの精ジーン:木下嘉人さんという本公演ではない組み合わせ。
福田さんの軽快な足さばきが的確に音を捉え、ちょっとヤンチャで憎めないアラジンの人物像をくっきりと描き出します。注視するとものすごく複雑なステップだとわかるのですが、アラジンの日常という表現にまで高められているので軽々と動いているように見えるのが素晴らしい! また表情も豊かで、アラジンを見ているとこちらも思わず笑顔に! そして池田さん演じるプリンセスの流麗な踊りはアラジンならずとも自然と目と心が釘付けに。プリンセスは柔らかく上品なたたずまいの中にも好奇心旺盛で芯のあるしっかり者。3幕で、とある計画を実行する際にもたつく(⁉)アラジンをプリンセスがリードする場面に、ふたりのこの先の関係性が象徴されるようです(笑)。
視線の交わりや身振りの軽快なやり取りからパ・ドゥ・ドゥまで、身分違いを乗り越えて恋に落ちる二人という物語の説得力十分です。

ランプの精ジーン:木下嘉人
撮影:鹿摩隆司
ランプの精ジーンの登場は、何度見ても息をのみます。まさに舞台の魔法……もといジーンの魔法さく裂です。さらに登場の華やかさに負けない木下さんのダイナミックな踊り。見ていると、「ジーンはなんでもできるんだな」と素直に思え、思いっきりショーアップされたジーンが率いるゴージャスな群舞のシーンは心躍ります! ただ、ご主人様にひれ伏すポーズの美しさは“忠実なジーン”を印象付けるとともに、彼もまた囚われの身であることを伝えます。
また、久しぶりに観た『アラジン』。やっぱり洞窟のシーンのセットが好きだと再認識。美女の幻影(池田さん)に吸い寄せられ、やがて洞窟へ降りていく──そのトンネル状の道が想像力を心地よく刺激する見事なデザイン。天井からつるされた無数の棒状のライトの色が変わることできらびやかな世界が作られる。大変雄弁なセットです。
その空間をまさに綺羅星のごとく輝かせるのが色彩豊かな宝石たち。木村優里さんのサファイアのたっぷりとした踊り、奥田花純さんと渡邊拓朗さんのルビーは登場からしっかりとした押し出しの強さで魅了します。最後は山本涼杏さん演じるダイヤモンドの輝きを頂点とした全員集合で、目の前に眩し過ぎる景色が広がります!! そしてその中でも宝石たちの舞に瞳をキラキラと輝かせ、そうかと思えば軽快な動きで宝石をゲットしていくアラジンからも目が離せない! その濁りのない瞳、心からきっとお母さんを楽にさせてあげたい、その思いで宝石を集めているのだろうと思えるアラジンです。結果、目がいくつあっても足りません。
一方で、いわゆる敵役を一手に引き受けるのが魔術師マグリブ人、中島駿野さんが演じます。プロローグで魔法のランプを心の底から欲する姿から、執念という名の妖気が漂います。その妖気は留まるところを知らず、手を動かせば手のひらから何か出ているような気もしてきますし、歩くだけでもどす黒いオーラが残り香のように広がるような印象。
対照的に益田裕子さん演じるアラジンの母と小柴富久修さん演じる国王サルタン(プリンセスの父)はほっこりする愛すべきキャラクター。いつもアラジンを心配する母、娘のしあわせを喜びつつも一抹の寂しさを覚える父。地位は大きく違うのですが、同じように微笑ましいママ&パパです。益田さんの小気味よい踊りはどこかアラジンと通じるところもあり、この親にしてこの子ありです。

プリンセス:池田理沙子 アラジン:福田圭吾
撮影:鹿摩隆司

プリンセス:池田理沙子 アラジン:福田圭吾
撮影:鹿摩隆司
また、「これがビントレー節か」と実感する場面も随所に。ダンサーのみなさんはそれを魅力であり大変だとお話されることもあるのですが、ハードのひと言では言い表せないこれでもかと積み上げられる表現には……観客の立場からはワクワクしかございません。(もちろんそれを表現にまで高める皆様への敬意は溢れます)観ていて、心の中で何度も「楽しい」と叫んでいました。
そして今シーズンをもって新国立劇場バレエ団を退団される福田圭吾さん、全幕主役デビューとなった『アラジン』タイトルロールはやっぱりピッタリ! カーテンコールでは惜しみない拍手が送られていました。と言っても、本番はこれから! 宣伝云々ではなく、本当に全ペアおすすめですが、福田さん&池田さんペアは6月16日(日)14:00公演、6月22日(土)18:30公演に登場!初バレエの方にも、バレエ好きの方にも全方位的におすすめの『アラジン』をお見逃しなく!
上演前には、吉田 都芸術監督からのご挨拶がありました。
英国バーミンガム・ロイヤルバレエや米国ヒューストン・バレエなどでも上演され、国際的にも高い評価を得ている『アラジン』。各カンパニーを観てきたビントレーさんから「『アラジン』はやっぱり新国立劇場バレエ団の作品だね」との言葉があったとのこと。そのことを嬉しく思うとともに、オリジナル作品を持つことの価値を改めて感じたというお話が印象的でした。まさに財産。
そしてバレエ団は次に貝川鐵夫さん振付の「こどものためのバレエ劇場2024『人魚姫』」が控えます。全幕バレエの新作誕生への期待も膨らみます。
★プチ解説★
アラビアンナイトの原作では中国が舞台の『アラジン』。このプロダクションではその要素も取り入れられていて、ライオンダンスやドラゴンダンスも登場します。また、ミュージカル版との違いは、なんとアラジンはお母さんと暮しています。当日配布のプログラムにあらすじなども紹介されていますのでお初の皆様はチェック!
舞台写真提供:新国立劇場バレエ団
おけぴ取材班:chiaki(文)監修:おけぴ管理人